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元英雄で、今はヒモ~最強の勇者がブラック人類から離脱してホワイト魔王軍で幸せになる話~【Web版】  作者: 御鷹穂積
第二章◇ヒモになってから

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58◇レインの想い




 英雄を辞めていいだなんて、考えたこともなかった。

 今のような楽しい生活を、『普通』を目指す日常を送ることが出来るだなんて、思わなかった。


「レイン様……」


 彼女の瞳が水気を帯びる。


「みんなを助けたのが俺だって言うならさ。あの日俺を助けたのは、エレノアだろ? 俺だって、エレノアにすごく恩義を感じてるんだ」


 ぽろぽろと、エレノアが涙をこぼす。


「勝ちとか負けとかはわからないけどさ、そんなふうに落ち込んでほしくないって思うよ。エレノアが悲しいと、俺も辛い」


「レイン様、レイン様……」


 エレノアは繰り返し俺の名前を呼ぶ。


「あぁ」


「……触れても、よいでしょうか」


 俺が頷くと、彼女の白魚の手が、俺の頬に伸びる。


 すべやかだが、剣ダコも出来ている。

 彼女の研鑽と、その上で手入れを怠らない女性らしさの両方を感じた。


「私、思いもしませんでした。自分が、レイン様にとって、重要な人物になっているなどとは……」


「最近、ミカともすれ違いがあってさ。だからその、もうそういうことがないように、大事なら大事って伝えようと思ったんだ」


「……れ、レイン様は、私のことが、だ、だ、大事、ですか?」


 エレノアの顔は赤く染まり、強張っている。

 俺の返事が期待と違うものだったらどうしようと、怯えているみたいだった。


 俺の頬を撫でるエレノアの手に、自分の手を重ねる。

 彼女の空のように青い瞳を見つめる。


「そうだな、エレノアは大事な人だよ」


 その言葉を聞いて。

 エレノアは、再会して以来、もっとも美しく可憐な笑顔を見せてくれた。


「嬉しいです、とっても」


 その表情に、俺は胸が高鳴るのを感じた。


「そ、そっか」


「レイン様」


「うん」


「は、ハグ、してもよいでしょうか」


「え、あ、あぁ。マリーがよくやるやつか?」


「そ、それです。その、親愛を込めて! あくまで、はい! 邪な感情などはなく!」


 エレノアは動転している。

 俺は彼女を迎えるように、腕を広げる。


「! ~~~~っ。で、では、失礼しまして」


 エレノアが、そっと俺の背中に腕を回す。

 彼女の胸が俺の顔にあたって形を変え、俺は彼女の温もりに包まれた。


「す~~~~~~、は~~。す~~~~~~」


「え、エレノア?」


 なんか吸われてる?


「はっ、すみません! あまりに幸せな匂いがして」


「い、いや、いいけどさ」


 彼女の胸に半ば埋まりながら、俺は彼女と視線を合わせる。


「俺は、エレノアに逢えてよかったと思ってるよ」


「レイン様……! その、今、そんなことを言われては!」


 彼女が、俺に顔を近づけてくる。


「エレノア?」


 淡桃色のつやめいた唇が、俺の唇に触れる寸前まで接近。

 俺は、避けることができなかった。


 あるいは、避けないことを選んだのか。

 そして、エレノアと俺の唇同士が触れ合う――直前。


「ふしゅう……」


 エレノアの体から力が抜けた。


「大丈夫か!?」


 床に倒れそうになる彼女を、なんとか抱きとめる。

 彼女は幸せそうな顔で、鼻血を垂らしていた。


「そういえば俺、今角付けてないんだった」


 そう考えると、エレノアはかなり耐えられた方なのではないか。


 俺は彼女をベッドまで運び、鼻血を拭いてやる。

 そして、彼女の寝顔を眺めた。


 もし、あと数秒エレノアが意識を保っていたら、どうなっていたのだろう。

 わからない。


 ただ、胸の高鳴りだけは、しばらく経っても収まってくれなかった。


 後日、エレノアとフローレンスの間に話し合いが持たれ、他の『七人組』同様に俺の部屋に通されるようになった。

 仲直りできたようでよかったと俺は安心したのだが……。


 みんなから「エレノアから謎の余裕を感じるようになった」との声が続出。


 俺は、余裕の正体を探るべくみんなから質問攻めに遭うのだった。




来週も更新されます

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