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元英雄で、今はヒモ~最強の勇者がブラック人類から離脱してホワイト魔王軍で幸せになる話~【Web版】  作者: 御鷹穂積
第二章◇ヒモになってから

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46◇七人組パジャマパーティー・中編

 



 夜、俺の元へやってきた『七人組』の五人。


 五人はチビたちが俺の布団に潜り込んでいることを聞きつけ、『幼女になれば一緒に寝ていいのでは?』という謎理論を展開。


 俺は勢いに逆らえず、かくして子供になった彼女たちと一緒に寝ることになったのであった。

 改めて状況を確認してみても、やはりよく分からない。


 とにかく、魔法剣士のエレノア、魔法学院の教師ルート、魔王軍筆頭情報官のヴィヴィ、護衛メイドのレジー、魔道技師のモナナの五人は俺の部屋にやってきた。

 メイドのフェリスも一緒にいるが、絵面を見るにまるで保護者だ。


 五人の童女は今、ベッドの前で言い争っていた。


「やはりここは、レインさまと最も親しい私が、最も近い位置に寝るべきでしょうね」


 ちびエレノアがふふんっと胸を張る。

 彼女の豊満な胸部は、若返りに伴い平坦なそれへと変わっていた。戻っている、と言うべきなのだろうか。


「聞き捨てならないわね、エレノア。勇者レインを保護した功績は認めるけれど、それだけで最も親しいということにはならないのだわ」


 ちびヴィヴィが、ちびエレノアに鋭い視線を向ける。


 いつもなら魔獣も縮み上がる眼光といえるのだが、なにぶん幼女なので拗ねているようにしか見えない。


「睡眠時に求められるものと言えば癒やしだと思うんです~。そうなると必然、私が相応しいのではないかな~と」


 そう言い出したのはちびルートだ。

 弧を描く目、おっとりした雰囲気、柔らかそうな茶色の髪。


 癒やしというのはピンとこないが、彼女といると落ち着くのは確かだ。

 ただし、暴走していない時の彼女に限るが。


「くっ、自分を癒やし系だと言い切るとは……ルート、強い……ッ! ボクにそんな強みは……でも、レインくんの隣は譲らないよ!」


 ちびモナナが悔しそうな顔をしたあと、決意を滲ませて言う。


 彼女は自分の容姿に自信がないようだが、俺から見れば可憐な女の子だ。

 特に今は、普段の彼女が気にしている体格面の差もない。


「みんな隣がいいなら、譲るね。代わりにその、わたしはれいんさまの膝の間に……ふふふ……」


「無人島に飛ばしますよ?」


 ちびレジーがにまにま笑う横で、ちびエレノアが低い声を出す。

 膝の間って……全身布団の中に入るってことか? 寝苦しそうだが……。


「今のエレノアちゃんは子供だよ? そんな魔力はないよね?」


「くっ、この子、状況を的確に読んだ上で……!? 小さくなっても暴走力はそのまま……ここは――フェリス!」


「はい、エレノア様」


「貴女の妹がまた暴走していますよ。なんとかしてくれる?」


「エレノアちゃん、それはずるいよ!」


「レジー?」


「おねえちゃんっ!? 違うからね? 違うんだよわたしは純粋にみんなにれいんさまの隣を譲るという優しさを発揮したまでであって何かいやらしい魂胆があるとかそういうことはまったくなくてね!?」


「我々は魔人なのよ? 勇者様のお膝の間に貴女が寝たら、角が刺さってしまいかねないのではないかしら?」


「がーん! た、たしかに……れいんさまを傷つけるなんてことは万が一にもあってはならない……じゃあ、わたしの作戦は失敗……?」


「この子ついに作戦だと白状しましたね」


 五人の争いは更に続いた。


 俺はそろそろ眠くなってきたので、声を掛ける。


「その、話し合いで決められないなら、じゃんけんとかで決めたらどうだ?」


 【剣聖】は、よくやりたくない任務を割り振られた時、じゃんけんやコイントスを持ちかけて他の英雄に押し付けようとしていた。

 大体無視されるか、応じてもらった上で負けていたが。


 言葉だけじゃ解決しない問題があったなら、言葉以外で落とし所を見つければいい。

 それが平和な方法なら、言うことなしではないだろうか。


 全員の瞳がギロリと光った――ように見えた。


「こんなこともあろうかと、くじを用意しておきました」


 フェリスが取り出したのは、五本の木の棒だ。


「番号が振ってありますので、数字が若い順に寝る際の場所を決められる、というのはいかがでしょう」


 これならば完全な運だ。

 しかしちびヴィヴィが異議を唱えた。


「待って頂戴。フェリス、貴女のことは信頼しているけれど、くじを引くメンバーには妹であるレジーが含まれているわ。貴女も魔人の子なのだから、家族を愛する気持ちはあるでしょう。万が一にも不正はないと言い切れる?」


 フェリスに限ってそんなことはないと思うが、レジーを大切に思っているのも確か。

 勝負に懸ける思いが真剣だからこそ、疑いの余地はなくしたいというヴィヴィの話は理解できる。


 熱い思いを懸けて争っているのが、俺の隣に寝るのは誰かって点なのがいまいちついていけないのだが。


「レジーには最後に残ったものを引いてもらうつもりです」


「確かに、それならば不正のしようはないですね~」


 ちびルートがこくりと頷く。


 予想される不正は、『1』あるいは『2』と書かれたくじを妹に知らせること。

 俺の隣は右と左があるので、彼女たちにとっての『あたり』はその二つなわけだ。


「そもそもレジーは隣に固執しているわけではなかったから、不正をする意味も薄いしね」


 ちびモナナも納得したようだ。


「膝の間という選択肢を失った以上は、隣を狙うと考えるべきでしょう」


 ちびエレノアはそう言ったが、くじ自体には反対ではないらしい。


「そう、分かったわフェリス。疑うようなことを言って申し訳なかったのだわ」


「いいえヴィヴィ様、よいのです。レジーも、これでいいかしら?」


「うん……でも、一つ気になることがあって」


「どんなこと?」


「両隣と、その更に隣までは分かるよ? でも『5』を引いちゃったら、れいんさまとの間に二人もいるって状態で寝ることになるでしょ? それはあまりに……あまりに不幸だよ……」


 全員がその可能性に思い至ったのか、悔しそうな顔をする。

 一緒に寝る、という彼女たちとの目的から考えると、距離が二人分も開くのは辛いようだ。


「勇者様、一つご提案してもよろしいでしょうか」


 フェリスが俺を見た。


「ん? あぁ、なんだ?」


「わたしは毎朝、勇者様のお部屋を訪ねており、子供たちが勇者様のベッドで寝ている姿を拝見することも多いのですが、気づいたことがありまして」


「うん」


「子供たちの中には、朝、勇者様の胸の上で寝息を立てる子もおりますね?」


 五人が、全身に衝撃が走ったみたいに体を震わせる。


「あー、確かに。キャロとかウルとかな」


 うさ耳のキャロ、狐耳のウルあたりがよくやるのだ。


「一等二本かと思いきや……ここに来て特賞の存在が明らかに……!?」


 ちびエレノアの叫びに、全員の闘気が一段階上がる。


「この戦い、負けられないのだわ!」


 ついに戦いとか言い出すヴィヴィ。


「少し、本気を出さねばなりませんね~」


 いつも糸目のルートが、開眼した。


「れいんさまの胸の上……そんなの実質……」


 レジーはぶつぶつ言っている。


「ただでさえ出遅れているんだ……ここで一気に……!」


 モナナは闘志を燃やしていた。


 かくして、くじの結果は――。




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