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元英雄で、今はヒモ~最強の勇者がブラック人類から離脱してホワイト魔王軍で幸せになる話~【Web版】  作者: 御鷹穂積
第二章◇ヒモになってから

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43◇五人目の七人組




 その日、俺はエレノアに頼まれてある場所へと来ていた。

 場所は極秘らしく、彼女の『空間転移』で移動。


 飛んだのは、建物内のホール。


 白衣を来た魔族たちが、忙しなく移動している。

 何かしらの研究機関だろうか。


 突然現れた俺とエレノア――とミカ――にみんな一瞬目を向けたが、すぐに逸らす。


「興味はあるのでしょうが、みな忙しいので」


 今日は付け角を装着していない。

 この国で人間は俺だけで、その俺は【勇者】なわけだから、普通なら注目を集めてしまう。


『ここってあれ? 魔道技師がいるっていう』


 ミカの言葉に、先導するエレノアが頷く。

 幅の広い、無機質な白い廊下を進んでいく。


「えぇ、レイン様とお逢いする準備が整ったようです。本来ならば彼女の方から出向くべきところなのですが、自分を知ってもらうならば職場が良いと言って聞かず……」


『あんたがレインより、別の誰かの事情を優先するなんて珍しいわね』


 ミカに言われて、エレノアはうっと唸る。


「これには事情がありまして……。レイン様には、ご足労おかけすることになってしまい……」


「いや、これぐらいいいよ。エレノアには普段から世話になっているし」


「レイン様……!」


 落ち込んだ様子のエレノアは一転、表情を輝かせる。


『ちょろすぎでしょ……。ていうか、事情って?』


 エレノアは口ごもる。


「……以前、レインさまにお渡ししたカチューシャがあったかと思うのですが」


『あんたが自分の角を模した飾りつけたやつね』


 俺が人間であるとバレにくくするための魔道具をもらったのだ。


「そ、それです……そのことが、カチューシャの製作者である彼女に知られてしまい……」


『レインのために作った道具で、あんたが自分の欲求を満たしていたと知ったら、普通怒るわよね』


 付け角は、エレノアのそれにそっくりだったのだ。

 何故かあのあと、魔法教師のルート、情報官のヴィヴィ、メイドのレジー、それぞれの角を模した付け角別バージョンが届いた。


「うぅっ……。そういった事情もあり、彼女の頼みを断りづらく……」


「俺は気にしてないから。魔道技師は人類領でも珍しいし、興味あるよ」


「ありがとうございますレイン様。彼女も喜びます」


 やがて、ある扉の前に到着。


「この向こうで彼女が待っています」


「エレノアは来ないのか」


「……い、行きたいのですが」


『あー、レインと二人きりで逢わせるところまでが、許す条件なのね』


「くっ。しかしレイン様がどうしてもと仰られるのであれば、このエレノア、友との約定よりも――」


「いや、大丈夫。そういうことなら、俺とミカで行くよ」


 エレノアは安堵したような、それでいてがっかりしたような複雑な表情になって、頷いた。


「では、こちらでお待ちしておりますね。何かありましたら、お呼びください」


 俺は扉を開けて、中に足を踏み入れる。


 なんとなく、何かしらの研究機関のような印象を受けていたが、この部屋はどちらかというと――工房を思わせるものだった。


 壁には様々な道具がぶら下がっており、無数の棚にはカゴがびっしり詰まっている。作業台と思しきものも沢山あり、それぞれ卓上の機材が異なる。


 部屋の一角には、丸められた寝袋が寄せられているのが見えた。

 ここで寝起きすることもあるようだ。


 しかし、肝心の部屋の主がいない。


 いや、いる。

 隠れているだけだ。


 ある作業台の下。車輪付きの椅子が置かれた奥に、誰かの気配がする。


「れ、レインくんかい?」


 聞こえてきたのは、震えた声。


「あぁ、君とは、逢ったことがあるんだよな?」


 あんたとかお前とか言わなかったのは、声の主を怯えさせないため。

 緊張か警戒か、とにかく不安な様子。落ち着かせようと思ったのだ。


「う、うん。ほ、ほんとにレインくんなんだね」


「そうだよ。えぇと、久しぶり」


「久しぶり。本当に。逢えて嬉しいよ。ほんとうは、もっと早く顔を出せたらよかったんだけど、その、色々あってさ」


『まず言っておくと、あんたはまだ顔を出してないわよ』


「ゔぇっ!? だ、誰……!? あ、あぁ……そうだ、そうだった……レインくんは聖剣持ちなんだった」


 机の下でビクッと震えたのも一瞬、すぐに納得する声の主。


「あ、あの、その、ボクも、面と向かって再会を喜びたいんだ。でも、その、怖くて」


『何がよ』


「エレノア、ルート、ヴィヴィ、レジー。この四人にはもう逢ったんだよね?」


「あぁ」


「そっか……。その、彼女たちはスタイルもよくて、美人だろう? そのあとにボクが出ていっても、見劣りするというか。なんていうか、君にがっかりされたくないんだ……」


 しょぼん……と落ち込んだ声。


「人の見た目にがっかりしたことなんてないよ」


「……そうだね、君は優しいから。ボクがボクに自信がないんだな」


 ふむ……。


 折角来たのだ。ちゃんと話をしたいが、無理やり机の下から連れ出すなんてダメだ。

 しかし、安易な励ましが届くとも思えなかった。


「……あー、と。俺は十五歳らしいんだけど、年齢の割には小柄だと思う。英雄以外と組んで戦う時なんか、最初は絶対チビとかガキとか言われてさ。君も変だと思うか?」


「まさか!」


「ありがとう。なら、俺も絶対に君を変と思わない。約束だ」


 言葉が返ってくるまでには、だいぶ時間が掛かった。

 それでも俺は待った。彼女が答えを出そうとしているのが分かったからだ。


 やがて、彼女が机の下から出てくる。


 小柄な魔人の少女だ。俺と同年代か少し下くらいに見える。

 青い髪は肩に触れるか触れないかくらい。つぶらな瞳は不安そうに揺れている。

 ワンピースの下部分をズボンに替えたような、青い服を着ている。

 その上に袖の長い白衣をまとっていた。


「へ、変だろう? エレノアたちと同い年なんだけど……ボク、体があんまり大きくならなくてさ」


 それだけならば、俺と同じ。

 年の割に小柄。珍しくはないが、本人にとって大きな悩みでもおかしくない。


 だが、おそらく。

 彼女の悩みはそこだけではないと思う。


『でっか……』


「うぅ……」


 ミカが思わず漏らした言葉に、彼女は涙目になってしまう。


『あっ、違うのよ? 何も悪くないわ? そんなもの、人それぞれだもの』


 彼女の胸は、大きかった。

 それこそ、エレノアやルートに負けないくらい。


「顔を見て思い出した。確かに、あの時に逢ってたな。久しぶり」


 五年前に俺が助けた魔族の少女は全部で七人。

 再会した順で言うと、彼女は五人目となる。


 俺が笑うと、彼女は顔を真っ赤にした。


「ひ、久しぶり、レインくん。あの時は、助けてくれて本当にありがとう」


「どういたしまして。それで、えぇと、君」


「な、なにかな? や、やっぱり変!? おっきすぎ!?」


「そうじゃなくて……その、ごめん。名前を聞いてもいいか?」


 俺がそう言うと、彼女はポカンとした顔になり、そのあと綻ぶように笑った。


「あはは、名乗ってなかったね。ごめんごめん」


 彼女は先程までの不安そうな様子が嘘かのように、自信を漲らせて言う。


「ボクはモナナ。この国一の魔道技師だよ」


 あぁ、自分の仕事に誇りを持っているのだな、と伝わってきた。


「よろしく、モナナ」


 こうして俺は、モナナと再会を果たしたのだった。



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