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2◇オーク退治かと思えば、白銀の髪をした美女と遭遇




 その日、俺は人生で初めての単独任務にあたっていた。

 これまではお目付け役ということか、英雄の誰かが最低一人はついてきたのだ。


 任務は――違法奴隷の取引を行っている魔族組織の壊滅。


『また汚いものを斬らされてしまったわ……』


「剣のくせに血がついたくらいで文句を言うな」


 魔族領、森。

 このあたりは瘴気が漂い、植生も人間領――といっても様々な国があるが――とはまったく異なる。


 触手みたいな枝を生やした木や、口笛のような音を鳴らす歯のついた花、沸騰したみたいにボコボコと動く土など、異様な光景が広がっている。


 花びらのついた中心部分が口みたいになっている花が、茎をグッと伸ばして周辺に転がる死体に噛み付いた。バクバクと元気よく咀嚼している。


『聖剣差別よ! 剣が綺麗好きじゃいけないわけ!?』


「……汚れたくないなら、王宮の宝物庫とかに置いてもらえるよう頼んでやるって」


 俺の周囲には、魔物の死体が散らばっている。

 魔族と言っても人間みたいなのから山みたいにデカいドラゴンまで様々だが、今回は豚のような顔をしたオークだ。


『あたしは聖剣よ? 勇者と共に在るに決まってるじゃない』


「じゃあどうしろって言うんだよ」


 突き止めた敵の根城に向かう途中、一味と思われる集団に遭遇。

 降伏を勧めたが聞き入れてもらえず、戦闘に発展。


 で、敵は全滅。


『後で綺麗に磨いてやるからなって優しく声を掛けなさいよ』


「……手入れはちゃんとするよ。お前みたいなのでも相棒なんだから」


『ふっ、それでいいのよ……いいのかしら、なんか聞き捨てならないフレーズがあったような』


 六英雄は、体のどこかに紋章が浮かぶ。

 年齢は関係ないらしく、鍛え抜いた武人に浮かぶこともあれば、赤子に浮かぶ可能性もあるようだ。


 赤子の場合可能性、と表現するのは実例がないから。

 今のところ、五歳で勇者の紋が浮かんだ俺が最年少らしい。


 なるべく死体を踏まないよう気をつけながら、敵のアジトに向かっていく。


「お前って、なんか偉そうだよな」


『だって、あたしには歴代勇者の力が宿っているのよ? あたしを握れるのは勇者だけ。あたしを使ってる限り勇者は戦場で……ほぼ……敵なし! 人間はありがたがって当然じゃないの?』


「ふぅん……まぁ、良い剣ではあるよな」


 時折襲ってくる木の枝を切り落としながら進んでいくと、視界が開けた。


 目的の洞窟だ。

 捕縛した敵の協力者から【軍神】が聞き出したところによると、ここが拠点らしい。


「でも歴代勇者ね……十五人だっけ? それにしてはお前……」


 聖剣は剣としては申し分ない。振るっても壊れないのが特に良い。

 歴代勇者の力というのも、分からなくはない。魔力も魔法も宿っているし、勇者なら自由に使える。


 しかし……別になくても大丈夫だけどなぁ、というのが本音だ。


『……それはレイン、あんたが強すぎるのよ。歴代最強どころか……歴代全員束になっても勝てないくらいにね』


「前の十五人は、五歳から十年も他の英雄に鍛えられたり、してないんだろ」


 それまでは、六英雄は基本対等だったらしい。

 しかし今回は俺が五歳という若さで選ばれたこともあり、色々あって既に実力をつけていた他の五人が俺を育てることになったのだとか。


 孤児院での生活が幸せだったとは思わないが、勇者への道は嫌になるぐらい険しかった。


『そうだけど……っていうか今、あたしのこと要らないとか考えた? あんたそんなの……そんなの、ちょっと、やめてよね?』


 聖剣がちょっと泣きそうな声になる。


「思ってない思ってない」


『ほんとよね? そこらへんに捨てたりしたら魔剣堕ちしてやるからね』


 脅しっぽい感じで言う聖剣を適当にあしらいながら、特に警戒もせず進んでいく。


 やっぱり投降しなかった入り口の見張りを斬り伏せ、洞窟に侵入。

 にわかに洞窟内が騒がしくなり、俺に向かってオークが殺到する。


『武器を捨てて降伏したやつは殺しはしないわ!』


 俺の代わりに聖剣が叫んだ。

 洞窟内に聖剣の声が響き渡るが、従う者はゼロ。


 仕方ないので、近寄ってくる者は聖剣で斬り裂き、魔法使いは魔法で作った風の矢で貫いていく。


「なんだかなぁ……もう少し、話の通じるやつがいてもいいと思うんだけど」


『あんた見た目はか弱い美少年だから、舐められてるのよきっと』


 こっちの魔力とかである程度実力を計る魔族もいるが、オークはそこらへん鈍いようだ。

 それからも出会うオークを全員倒し、一番強そうなやつの気配を辿って奥へ進んでいく。


 【剣聖】に教わった、気とかいうやつだ。

 あんまり遠いと掴めなくなるが、洞窟内くらいならば感じ取れる。


 そんなわけで、物陰に隠れたり死角を突こうと知恵を働かせた数少ないオークも、作戦虚しく聖剣に刻まれた。


「…………」


『もうすぐよ』


「分かってる」


 慣れたというか……慣れるしかなかったというか。

 人に害為す魔物とはいえ、投降を拒否して襲いかかってきたとはいえ、死体を見るのはあまりいい気分じゃない。


 別に善悪うんぬんではなくて。

 そもそも命を奪う感覚そのものが好きではないのだ。


 風の気持ちいい草原で昼寝したり、運動して腹が減ったところで食べる温かい飯だったり、風呂でさっぱりしてからぽかぽかした感覚のまま眠りについたり。

 そういうのが好きだ。


「強いのが二体いるな……」


 片方はここの首領だろう。

 これまで倒してきたオークより数段強い。


 そしてもう一体は――かなり強い。

 もしかすると、六英雄に匹敵するかもしれない。


 ――違法奴隷取引は、一部の知恵のついたオーク集団の仕業って話だったが……。


 六英雄クラスの魔族が関わっているなら、背後にもっと大きな組織が隠れているのかもしれない。

 こういう場合は生きて捕らえた方がいいのだが、殺さず捕らえるのは殺すよりずっと大変だったりする。


 ――まぁ、少なくとも一体は殺さずに済むんだから、それはきっと良いことだ。


 俺の気持ち的に。

 首領の部屋と思しき空間に踏み入った俺は――首を傾げた。


「……そう、本当に貴方達だけでやったのね? 分かったわ」


 そう言って、かなり強い方が持っていた剣でオークの首領の首を刎ねたのだ。


「人間側の戦士ね、安心して。私は魔族側の違法奴隷を保護しに来ただけだから」


 こちらを見もせずに言う。

 俺にも気づいていたらしい。


 かなり強い魔物は、女だった。

 白銀の長髪に青い瞳をした、夢か幻みたいに綺麗な女性。


 これだけの魔力を持ったやつは、そうそういない。

 俺の周囲だと【賢者】か【聖女】くらいか。

 たまに人類が遭遇する魔物で言うと、四天王とか将軍とか十二衆とか、そんな感じの地位にいるやつらだ。


 今のところ敵意はないようだが。

 うぅん、どうしたものか。



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