18◇勇者、魔法学院に?
本日複数更新です。
こちら2話めです。
「あれ」
食堂に入ると、先客がいた。
「おはよう、レイン」
「おはよー、ゆうしゃくん、ミカちゃん」
「あぁ、おはようフリップ、ミュリ。……俺部屋間違えた?」
これまでは一人だったりエレノアが一緒だったり、あとは最近だとチビ集団と共にすることも多い食事の時間だが、王族兄妹と一緒になるのは初めてだ。
「いいや、可能なら食事の時間を使って話でも、と思ってね」
ちなみに俺とフリップは友人になるということで、距離感をちょっと変えた。
……俺は元々こんな感じなので、砕けた口調に変わったのはフリップの方だけだけど。
「そうか、うん、じゃあそうしよう」
「良かった。それにしても……愉快な光景だな」
まず、ウサミミのキャロが背中にひっついている。更に片腕に一人ずつ抱えており、少しすると交代の時間だと順番待ちの子供が騒ぐ。
という状態だった。
エレノアにも懐いているが、彼女は四天王というだけあって忙しい。
それでも可能な限り顔を出そうとしてくれているのか、話す機会はそう減っていなかった。
しかし子供たちからすれば寂しいのだろう。
ミュリと子供たちが笑顔で挨拶を交わし、全員が席につく。
元々広いテーブルだったし、椅子も用意されていた。
「おっさ……魔王さまは?」
おっさん本人は気にしていなかったが、父親にして偉大なる王をおっさん呼ばわりは気分がよくないかもしれない。
一般的に、親は子を、子は親を大事に思うようだから。
これが絶対の感情だったら、俺が捨てられることもなかったのだろうか。
「ははっ、いや、気を遣わずともいいよ。父上の性格は子である我々も良く分かっている。さすがに他国の者がいるような時にはお願いしたいが」
「分かった。そうするよ」
「ちなみに父上は塔にこもっている」
その言葉で充分。
結界維持の作業があるのだろう。
ほどなくして朝食が運ばれてくる。
「ふふ、ゆうしゃくん嬉しそう」
「ん? そうかな」
『えぇ、笑ってる』
ミュリに続き、ミカまでそんなことを言う。
「いや、飯って栄養補給というか、任務中なんかは腹に入ればそれでいいって感じだったんだけどさ、美味い飯ってこう……『美味い!』ってなるだろ? あの感じが楽しいのかもしれない」
「ふむ……レインの感覚を完全に分かってやることは出来ないが……そうだな、美食に感動することはある。何もおかしくはないよ」
「そうだよな……! やっぱこれも『普通』のことなんだな」
「ミュリもお肉の時はうれしいよ。おやさいの時はしょんぼりする」
「え、キャロやさい好き……」
キャロは特にサラダを好む。
チビ達も次々に好物や苦手な食べ物を上げるようになった。
俺はちらりと、ある童女に目を向けた。
狐耳をした子で、ショックからか口を利かず、子供たちの遊びにも加わらない。
公園の時もいなかった。
しかし気づけば近くにいて、昨日も寝る時にはベッドの中にいた。
他の子同様、助けてくれたエレノアと俺の近くだと安心するのかもしれない。
「にぃに、今日もがっこう?」
「ん、あぁそうだよ。戻ったら時間を作るから、待っててくれるか?」
「うん……! ミュリまてるよ」
どうやら兄妹仲は良好のようだ。
「魔法学院かぁ、そういえばどんな感じなんだ? 俺は学校に通ったことがないんだ」
「どんな……か。どう説明すればいいのだろう、同じ年頃の男女が集まり、同じ空間で授業を受けるんだ。基本は勉学の場だが、学生同士の交流も推奨されている。友人や、時に恋人を作る者もいるね。その他にも同好の者を集めて『会』を作ったりもあったかな」
「へぇ……楽しそうだな」
俺がそう言うと、フリップは目を輝かせた。
「ほ、本当かい? それならば是非一度顔を出してくれ、みんなも喜ぶ……あとうちの担任が君と友人になったことを知ってからうるさいんだ……」
『学院にも確か、七人組の一人がいるのよね』
俺が五年前助けた七人か……。
一人が四天王エレノア、一人がミュリの護衛である黒髪メイドのレジー、更に三人がこの前の『裂け目』対策会議にいて、残りは二人。
その内の一人はフリップの担任……担当教官のようなものらしい。
しかし言ってみるものだ。
こんな簡単に話が通るとは。
「じゃあ今日でもいいか?」
「あぁ、それじゃあ少し早めに出ようか。普通はそうはいかないが、君ならば話は別だろう。許可もすぐに下りると思う」
「そうか、助かるよ」
「しかし嬉しいな。まさか勇者が――」
「ちょっと楽しみだな。まさか俺が――」
「教師を務めてくれるなんて!」
「学生を体験出来るなんて!」
俺とフリップの言葉は重なった。
しかし、お互いしっかり相手の言葉は聞こえていたようだ。
「え?」
「ん?」
「せ、生徒……? 君にものを教えられる人間が、学院にいるとは思えないのだが……」
「きょ、教師? 俺は魔法を教わったことはあっても人に教えたことなんてないぞ?」
というか教師では同年代の生徒と友人になれないではないか。
あと恋人という響きも若干気になる。
一瞬エレノアの笑顔が浮かんだが、イメージの中のエレノアは直後に鼻血を出しながら気絶した。
「レイン……君は学生がやりたいのか?」
「どんなもんか知ってみたいんだ。一日でいいから……って思ったんだけど」
難しいのだろうか。
「……先生が狂喜乱舞しそうだな」
「フリップ? どうした?」
「あ、あぁ。ではこういうのはどうだろう? 一日、体験入学という形で君を生徒扱いとしてもらえるよう頼む。代わりと言ってはなんだが、希望者に魔法を教える時間を作ってほしいのだ」
なるほど、俺の望みとフリップの希望どちらも叶えてしまえる名案ではないか。
「うん、それで構わない」
「そうか! ありがとう。……しかしいいのか? 君が我々を信頼してくれているのは嬉しいが、魔族に魔法を教えるなんて」
「別に。万が一にもそいつが魔法を悪用しようとすれば、誰かが止めるだろ。この国には優秀なやつが多いし。それが無理そうなら、今は俺がいるから問題ない」
それに、一日で【賢者】の魔法が使えるようになるものか。
【勇者】の俺ですら地獄の訓練の果てに習得したのだ。
精々がちょっとしたアドバイスをするくらいで終わるだろう。そのくらい、なんてことはない。
「えー、ゆうしゃくんだけずるいなー」
「キャロも学校行きたい!」
俺たちは騒ぎ出す子供たちを宥め、食事を済ませる。
学校かぁ、どんな感じなんだろうな。
『もちろん、あたしは連れてくわよね!』
そんなアピールしなくても、もう置いていかないさ。
◇
学校、実技の授業。
「さぁ勇者、アタシと――決闘しなさい!」
ふむふむ。
学校では決闘を申し込まれることがあるのか。
「……いやレイン、それは『普通』じゃない」
フリップの訂正がなければ勘違いするところだった。
じゃあこいつはなんなのだろう。
そもそも何故こんなことになったかというと――。
学園編に突入とかではなく、一日体験入学のエピソードとなります。
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明日も複数更新できればと思います。 ではではm(_ _)m




