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98◇勇者の一撃

本日複数更新

こちら4話め

 



 みんなの返事は、聞くまでもなかった。


「当然です! わたくしのレインちゃんが負けるわけがありません!」


 マリーに後ろから抱きしめられる。


「ちょっとマリーサマ!? そんな密着する必要はないでしょう!」


 エレノアが怒った。

 いつもの空気に俺は苦笑しつつ、ミカに手を伸ばす。


「今日はバラバラに戦ったけど、大事な時はお前がいないとな」


「……あったりまえでしょ! あたし以外の剣なんか、握らせないんだから!」


 ミカが光に包まれ、聖剣の姿を取り戻す。

 みんながミカに魔力を流してくれる。


 『白銀の跳躍者エレノア』が、『殲滅兵器レジー』が、『聖結界のルート』が、『天網のヴィヴィ』が、『稀代の魔道技師モナナ』が『完全無欠のフローレンス』が『静かなる暗殺者マッジ』が、『幻惑の魔女』メイジが。

 【聖女】マリーが、【賢者】アルケミが、【魔弾】シュツが。


「みんなに比べれば少ないけど、ぼくの魔力も使って。スワロウの仇を討とう!」


 シュツが言う。


「いや死んでねぇよ」


 徒歩で戻ってきたのか、スワロウの姿があった。

 彼のことだから無事だとは思っていたが、魔剣が半ばから折れている。


 どうやら衝撃を殺しきれずに破壊されてしまったようだ。

 女神の一撃は、魔剣の紙にも届くらしい。


『……大丈夫。あたしは不滅の聖剣。レインがあたしをぶっ壊すわけない』


 ミカが不安を掻き消すように呟いている。

 魔剣を壊せるなら、技術的には聖剣も壊せる。


「安心しろ聖剣。前にも言ったが、魔剣を直す魔法を編み出した」


「なぁ姐さん、じゃあ俺の魔剣もちゃちゃっと直してくれよ」


「今は忙しい」


「……そうみたいだなぁ。ちっ、坊主が羨ましいぜ」


「代わるか?」


「ははっ。お前さんにしか出来ねぇよ。敵の斬り方は分かるな?」


「あぁ、ちゃらんぽらんな【剣聖】に教わった」


「なら安心だ。敵を斬ることについて、そのちゃらんぽらんより優れたヤツはいねぇ」


「知ってる」


 スワロウがへらへらと笑う。


「……『万有属性』を叩き込んだのは自分だ」


「あ、アルケミ? 何故ここでスワロウに張り合うような真似を? まさか――っ。わ、わたくしがお教えした体術も思い出すんですレインちゃん! 拳を放つ時はこう全身を連動させて――」


「なんで【聖女】の教えが治癒魔法じゃなくて拳の打ち方なのさ……。そもそもこれから敵を斬ろうって時に役に立たないでしょ」


「シュツの教えよりはマシです。ウサギの狩り方などここでは役に立ちません」


「あっ、【魔弾】を馬鹿にしたなっ?」


 英雄たちは、こんなに騒がしかっただろうか。


「レインさま」


 エレノアが俺を見ている。

 俺もエレノアを見た。 


「私は、明日も明後日もずっと先も、貴方におこづかいを差し上げたいです」


「あぁ、そのつもりだ」


『……やっぱヒモが絡むと感動シーンにならないわね』


 ミカが小声で言った。

 女神は俺をジロリと眺めたまま、邪魔するでもなく立っている。


「まだ、弱い。弱い。もう少し? 足りない。弱い。遊べない? 遊べる?」


 ――みんなの魔力が集まるのを、待っているのか?


 この女神も、基本的には悪しき魔族たちと同じなのだ。

 戦いこそが幸福。


 だが、その戦いで無敵かつ最強に到達してしまったら?

 戦いが一切成立しなくなってしまう。


 だから、女神はかつて人間界に侵出しようとし、あまりの存在の強さから指だけしか出られず、そこで【勇者】に出会った。


 無敵の自分に、微かではあるが傷をつけられる存在が、人間界にはいる。

 女神は人間界への『裂け目』を求め、彼女を信奉する魔族たちはその為に動いた。


 あの男は、数百年規模の作戦を完遂したのだ。


『レイン……ッ! いくらあたしのサポートがあっても、これ以上の魔力を一度に扱うのは無理よ!』


「まだだ! まだ足りない! みんな、全ての魔力を出し切ってくれ!」


「ご褒美とかあります? わたくしとしては子作――は将来の夢にとっておくとしてー。そうですね、まずは七乙女ちゃんみたいに、デートを重ねて仲良くなってみますか」


 メイジの余裕の態度は、ある意味すごい。


「なんでもいい! それで魔力が絞り出せるなら!」


「だめですよレインちゃん! そもそもでぇととか聞き捨てならない言葉がありましたがあとで追及いたしますからね! それはそれとしておねえちゃんは『マッサージし合いっこ、添い寝を添えて』でお願いしますね」


 マリーの言葉にエレノアが反発し、『七人組』の面々によるご褒美の要求が始まる。


 アルケミは「のちほど検討する。権利だけは貰っておく」と言い、シュツは「デート要求……この子たち強いなぁ……。あ、ぼくも保留で!」と言った。


 大地が揺れ、割れていく。

 木々がざわめき、軋みを上げる。

 聖剣が光を放つ。


『レイン!』


「あぁ!」


 一歩踏み出す。

 女神が俺を見た。


 彼女の出てきた『裂け目』から漏れた瘴気によって、周辺は既に汚染されている。

 ここで俺が彼女に負けて、殺されたら。


 この『女神』は倒した俺の魂を吸収して更に強化され、人間界は終わるだろう。

 だというのに、足は止まらない。


 恐ろしくないのではなく、負けるわけがないと思っているのだ。

 女神が俺に右手を向ける。


「勇者」


「勇者だよ」


 透明の紙を、何百枚、何千枚、何万枚も重ねた先に。

 彼女の存在を見つける。


 これだけ遠くに生じてしまったなら、他の生き物のことを理解するのは難しかっただろう。

 幽霊は、元は生きていた存在だ。変質してしまっただけで、普通の生き物として他者と触れ合った記憶や過去がある。


 けれどこの女神は、生まれた瞬間からあまりに格が違い過ぎて。

 世界を『自分』と『弱き命』で二分してしまうくらいに強くて。


「遊ぼう」


 初代勇者に傷をつけられた時、もしかするとそれが、彼女が初めて喜びを知った瞬間なのかもしれない。

 自分は、世界で一人きりではないのだと思えた瞬間なのかもしれない。


「これは遊びじゃないよ」


 もし、誰とも触れ合えない孤独が女神を歪めてしまったなら。

 『普通』に生きられれば、違った道もあったのだろうか。


 そんなことを思った。

 俺はミカを上段に構え、振り下ろす。

 斬撃は光の奔流となり、女神の身を呑み込んだ。


 ――届いた。


 彼女を斬った感触があった。


 人類終焉の危機は、ここに討伐されたのだ。





書籍版3巻発売まであと1日!

書き下ろし番外編も収録なので是非!


そして、最終話まであと1話となります!


次回、22日0時に更新予定です。

ではでは!

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