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02

 何となく察していると思うが、私は前世の記憶というものがある。

 いや、前世というか、結構いろんな記憶がある。

 多分前世はどこかの貴族のお屋敷のメイドをしていた。酷い貴族で多分折檻された後殺された。殺された近辺の記憶はかなりあいまいだけれど、あの貴族の表情やその前の同僚の事から私もそうやって殺されたんだろうと推測する。

 一番覚えているのはメイドの時の記憶だけれど、印象的なのは電気が魔法の役割をしていた世界だ。

 その他にも、人間ではなく動物だった時の記憶もうっすらある。どれも完全には覚えておらず、なんとなく覚えている程度だ。

 メイドしてたなー、酷い職場ったなー、電気あったなー、便利だったなー……みたいなざっくりとした記憶。その時の自分の名前や容姿、家族なども覚えてない。正直、現実味がなさ過ぎて夢なのかもと思うぐらい。

 これは多分脳の防衛本能だと思う。身の丈に合わない情報量なので、すべて思い出して知識としたら私は廃人になっている。

 思い出したのは、私が五歳の時で、姉ちゃんに拾われたときだ。

 情緒も何もかもが不安定で、泣いたり、叫んだり、暴れたりしていたので、それで親に捨てられたのかもしれない。

 五歳より前の記憶はすべてなくなっているので、両親はおろか自分の名前すらわからなかった。前世を思い出した反動なんだと思う。

 私を拾った姉ちゃんは兄ちゃんと一緒に私が落ち着くまで面倒を見てくれて、自分たちの兄弟にしてくれた。

 そんな私なので、子供にしては結構生意気……聡い子だったと思う。前の時の文字と今の文字は全然違ったので、文字覚えるのめちゃくちゃ時間かかったけど。――姉ちゃんが何度かさじを投げようとしてたし……。最初は兄ちゃんに教わってたんだけど、兄ちゃんは早々にさじを投げた。


 私はリュウという名前を姉ちゃんにつけてもらった。

 この国には戸籍というものがない。貴族には貴族録?っていうのがあるのだけれど、庶民にはそういったものはない。なので私はどこの誰なのかわからないのだ。

 庶民が自分の身分を証明するには、冒険者になるか、お店を開くか、働いているところのお店で身分証をもらう形になる。

 冒険者は冒険者カードが身分証となり、その他の人は身分証になる小さな魔石をネックレスや腕輪にして持っている。

 お店をやめるときには身分証を返さないといけない。返さなくても仕事をクビになったりした場合は身分証が無効になり、魔石が真っ黒になる。

 身分証はなくても生きていけるんだけど、行ける場所が限られたり、無実の罪をかぶらせられちゃうことも少なくない。身分証は保険のようなものなのだ。


 お店を出すときには領主へ申請が必要。それなりに調査が入る。表側にあるお店はちゃんと許可を得て、身分を保証してもらっている。その分、売り上げの何割かを領主へ献上する。

 裏通りでは領主に申請しない闇業が沢山あるけど、結構黙認されていることも多い。時々取締りが行われているが、減ることはないようだ。


 租税云々の話になっていくと、現在働いてない私はもちろん、お兄ちゃんやお姉ちゃんも租税を払うことはない。

 お店でまとめて払っているからだ。つまり、租税を払う対象の人だけ国や領主が管理している感じ。

 租税を払う対象の人が人を雇える。


 闇業の人は租税を払っていない。じゃぁ、闇業すれば租税を払わない分儲かるかと言えばそうもいかない。

 ばれた闇業は現在ある売り上げをごっそり持っていかれるし、店も潰されるし、牢屋行だ。また、自然災害や人災でお店が壊れたりした場合、届け出があるお店であれば領主から立て直しの費用などが出るが、闇業には一切出ない。

 その他にもいろいろあるみたいだけど、これ以上は詳しくない。


 冒険者は冒険者ギルドの方で管理してるし、その他に商人組合、魔法協会などがあってその三つは国にを跨いでそれぞれ独自に管理している。その中でその国の支店が国にあったものを献上しているらしい。

 国もその三つには手出ししないように他の国と協定を組んでいる。

 ちなみにすべて、姉ちゃんと兄ちゃん、近所の人たちからの受け売りの知識です。


 洗濯ものを洗い終わり、洗濯物を干す。

 今日はいい天気なのですぐに乾きそうだ。


 私が住んでいるのは、団地のようなところ。共同スペースの広場の周りに同じ建物がいくつも立っている。

 パッと見コンテナのような長四角の建物。煉瓦造りの家だ。

 ダイニングキッチンと一部屋、トイレ付風呂なし。お風呂は近所の大工さんが作ってくれた簡易的なお風呂か、近くの銭湯、もしくは歩いて三十分ぐらいのところに川がある。後は自分の家で水拭き。

 あまり湿気がなくからっとしている気候なので、二、三日入らなくてもあまり臭くはならない。毎日お風呂に入るのは貴族でもまれだ。

 私は毎日入りたいと思っているので、団地の中でも綺麗好きのレッテルが張られている。姉ちゃんと兄ちゃんと弟は私にあわせて入ってくれる。


 簡易お風呂は十家族の共同。時間も決まっているので、その時間にしか使えない。水しか出ないので、お湯にするには魔法を使うしかない。

 お湯にする用の魔石が置いてあるので、その魔石に魔力を込めるのだ。魔石に込める魔力は属性は関係ないみたい。


 魔石ではなく、魔法を使える人は割と多いのだが、しっかりとした魔法を使える人は一握りだ。

 魔法を使うといっても、そよ風を少しだけ吹かせるとか、地面をぽこっと少しだけ盛り上がらせるとか、ちょっとの間だけ明るくさせるとかその程度が多い。

 私は、ちょっとの間だけ明るく照らすことができる。

 ちょっとの間はちょっとの間だ。調子がいいと一時間。調子が悪いと十秒。なんか、使えるんだか使えないんだかわからない魔法。

 前世の記憶持ってるし、大きな魔法使えるかも!と思っていたけど、そううまくはいかないらしい。

 三年に一度魔力鑑定が行われており、その魔力鑑定で基準値以上の魔力を有している人は国の管理する学校にはいることになる。これが庶民でも学校に通うことができる特別な人。

 この場合、学費は一旦国がすべて持つ。

 昔、魔力が暴走して、一つの町を壊滅させ、その街の住人ほとんどは死亡し、今でもその場所には草も木も生えないという。魔法の暴走を食い止めるために魔力の使い方学ぶ学校に通わせる。

 その後、国が管理するところに就職すれば学費は免除。冒険者などになる場合は学費が借金となる。

 国の管理するところで高給取りになるか、冒険者として借金を抱えながらも自由を得るかはその人によって選ぶことができる。

 まぁ、ほとんどは高給取りになるみたいだけど。

 私も弟も小さな魔力しかなったので、近くの教会でおじいちゃん先生から魔力の使い方を一時間教えてもらって終了だ。


 この魔力鑑定、突然魔力が開花することもあるらしく、大体十年前後で鑑定を受けに行かなければならない。

 兄ちゃんは次の魔力鑑定にはいかなきゃなーって言ってた。

 姉ちゃんはわからない。


 そうそう、ちらっと先にも言ったけど、うちの家族は今んとこ四人(+一人)だ。

 カッコ内は姉ちゃんの何してるかわからない旦那さん。そういえば名前も知らない。

 姉ちゃんの名前は、ライ。年齢はわからないし、仕事も何をしているのかわからない。でも、博識で厳しくて優しい。そして男前。

 淡いクリーム色のストレートな髪に碧の瞳のかなりの美人だ。身長はちょっと小さめですらりとしている。でも、筋肉は凄い。腹筋われてる。

 兄ちゃんの名前は、リャウ。年齢は多分二十歳だと言ってた。姉ちゃんに拾われて名前を付けてもらったんだって。今は食堂でコックさんとして七歳から十三年働いている。

 紺色の髪を短く切りそろえていて、ちょっときつい目も紺色。身長も高くて、二メートルぐらいありそう。体格もいいので初対面の人はちょっとビビる。

 弟の名前は、リョウ。年齢は今年七歳になった。リョウが二歳の時に姉ちゃんがどこからかリョウを拾ってきた。ちょっとだけ体調を崩しやすい。今日は兄ちゃんの職場で働けるかどうか、兄ちゃんと仕事に行った。

 ふわふわの茶色の髪にくりくりの緑のような青のような目。光によってどちらにも見える不思議な綺麗な目だ。贔屓目なしに可愛くて、将来は姉ちゃんに負けないぐらいの美人さんになりそう。

 私はリュウ。五歳の時に姉ちゃんに拾われて家族になった。年齢は十五歳。

 七歳になって果物屋で働いていたのだが、リョウを姉ちゃんが拾ってきたので、家族会議をして、私のお給料がスズメの涙ほどだったので果物屋をやめてリョウの世話をしていた。

 今は姉ちゃんと兄ちゃんに養ってもらっている。

 兄ちゃんと同じ紺色の髪に、姉ちゃんと同じ碧の瞳。ごくごく普通の容姿。愛嬌はあるって言われた。姉ちゃんに。

 そんなちょっとでこぼこの兄弟四人で暮らしています。


 洗濯ものを干し終わると、隣の家のおばちゃんが卵を分けてくれた。

 隣のおばちゃんは実家の養鶏場を手伝っている。売り物にならない卵を近所の人に分けてくれるのだ。

 うちは時々兄ちゃんが職場の余った食材で料理を作って分けていたり、私は弟の世話と一緒に近くの子たちの面倒を見たり。

 大工さんは直せるものは直してくれるし、パン屋さんは売れ残ったパンを分けてくれたりする。

 助け合いって大事。

 みんな自分でお店は持っていなくて、勤め人だけど。


 家に戻って時計を見ると十一時。

 もらった卵を具にサンドイッチを作り、その場ですぐに食べる。姉ちゃんのサンドイッチは机の上に置いて、布をかぶせておいた。

 小さな黒板に『昼食 サンドイッチ 職探しに行ってきます。姉ちゃんも気を付けて行ってきてね』と書いて一緒に置いておく。

 十二時の鐘の音と共に私は外に出た。


 近所で子守をしていた人の家に行き、弟も仕事をする歳になり、自分も仕事をしに行かなければならないので子守ができない旨を伝える。

 残念がっていたけれど、頑張ってねと見送ってもらえた。

 私はひとまず、以前働いていた果物屋に向かった。


 この街は周りをぐるっと壁がかこってあり、壁は上の部分を人が歩けるようになっている。壁はかなり厚い防壁で、そこは常に警備の騎士が巡回し、外からの敵や魔物を警戒している。

 防壁には東西南北にそれぞれ入口がある。ほとんどの人は南から入ってくる。

 北は常に閉じたまま。西と東はその区域に住んでいる人と冒険者が行き来できる。

 この街の身分証を持っていると通行料は無料だ。

 冒険者や商人は通行料があったりなかったりするみたいだけど、通行料が発生するときはどんな時かはわからない。

 私は防壁を超えたことがない。外には主に農場が広がっているらしい。近所の養鶏場のおばちゃんは養鶏場が防壁の外にあるので常に行き来している。

 外に農場が広がっているが、ほとんどの人は家は防壁の中にある。


 この街はざっくりと分けて、東西南北、中央の五つのエリアに分かれてる。

 私が住んでいるのは東側。東エリアは団地が多く、比較的治安がいい。

 北エリアは闇業とかが盛んで浮浪者も多く、治安が悪い。この街の闇の区域。犯罪者とかも多い。

 西エリアは貴族などが住んでいる区域で、北西には区切るように大きな塀がある。

 南エリアと中央はお店が多い。一番活気があるのは中央だが、南エリアも活気がある。この街の玄関だ。商人の区画になっている。

 南東にはちょっと裕福な人の住宅街があり、そこにいるほとんどの子供は学校に通えるぐらい裕福。

 南西から西は貴族やとても裕福な人たちの居住が多く、それぞれの家で騎士を雇えるほどの裕福な家が多いので、治安もいい。

 空島は西エリアからさらに西に行ったところに浮かんでいる。

 空島に行くためのロープウエイは南西にある。

 西に近づくにつれて高級品を扱う店が多く、東に向かうにつれて庶民的なお店が多くなる。


 東エリアから橋を渡り、大きな時計塔がある中央エリアにはいる。

 大きな時計塔はこの街のシンボル。とても綺麗な時計塔で、建物の陰にならない限りどこからでも時計塔を見ることができる。時計塔の下は公堂となっており、半年に一度無料で簡単な文字を習えたり、偉い人たちの会議が行われたり、何かあった際の避難所となっている。

 学校に行けない人が多いのに、文字が読める人が半数いるのは時計台で文字を教えてくれるから。無料だけど、いかない人も多い。これも領主さまがやってくれていること。

 学ぶ機会は結構この街にはあるのだ。

 時計塔の周りはちょっとした公園で緑も多く噴水もある。何となく空気が綺麗な感じだ。

 時計塔の鐘は毎時間鳴るのではなく、朝の六時、九時、十二時、三時、夕方六時、夜九時の六回、それぞれの時間の回数分鐘がなり、深夜零時には一回だけ鐘が鳴る。


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