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42、優しさに触れて

「カルミア? 今日は学食休みよね。こんなところでどうしたの?」


 カルミアに気付いたオランヌは声を掛けてくれる。いつもと変わらず話しかけてくれたおかげで少しだけ元気が戻っていた。


「えっと……」


 しかしどう答えるべきか、カルミアは珍しく言葉に詰まる。


「何かあった?」


 真剣な眼差しに見つめられたカルミアはとっさに笑顔を張り付ける。


「何もないわ! あの、えっと……ピクニック!」


「なんて?」


 あまりの言い訳に、二人から意味がわからないという顔を向けられた。


「天気も良いし、ピクニックでもしようかなって、お弁当を作って来たの。二人は!?」


 早急に話題を逸らし、逃げ切るのが得策だろう。

 カルミアの疑問にはオズが答えてくれた。


「オランヌ先生に休日返上で仕事を手伝わされてたんだよ」


「ありがとねー。またお願い」


 疲弊するオズは苦い笑いを零すのみだ。そんなオズを鼓舞するようにオランヌは高らかに宣言する。


「お礼になんでも好きな物食べさせてあげるわよ! そうだ。これから食事に行くんだけど、カルミアも行かない?」


「私は……」


 カルミアは手にしていたバスケットを握りしめる。自分ひとりで食べきるよりも、誰かに食べてもらえた方が供養にもなるだろう。


「良かったら、これを一緒に食べてくれない?」


 そう告げた瞬間、オランヌの目がきらりと光った。


「いいの!?」


 オズも負けじと手を上げる。


「俺も俺も! カルミアの料理、好きなんだ。なんならこれから三人でピクニックなんてどうだろう」


「それいいわね!」


 オズの思い付きから中庭に移動し、三人でテーブルを囲んで食事をすることになった。とっさに出た言い訳ではあるが、結果としては良かったのかもしれない。


「凄いじゃない、随分気合の入ったお弁当ね。あ、卵焼き! いただきまーす」


 オランヌはまず卵焼きに手を伸ばす。卵を三個ほど使ったボリュームたっぷりの卵焼きは、リシャールの好みがわからなかったため塩と砂糖の無難な味付けとなっている。


「さすがカルミア。美味しいわ!」


「じゃあ俺は、から揚げを貰おうかな」


 衣サクサクのから揚げはカルミアの好物でもあり自信作だ。


「うん。美味い」


「良かった!」


(でも私は……)


 笑顔で答えつつも、本当は別のことを思う自分がいた。

 みんなが褒めてくれるのに、何かが足りないと感じている。


(私、いつのまにかリシャールさんに美味しいと言ってもらえることが楽しみになっていたのね)


 一番美味しいと言ってほしい人に拒絶されたことが苦しくてたまらない。

 これまで料理をする時は、かつて不出来な物を食べさせてしまったあの子のことを考えていたのに。それはいつしかリシャールの姿へと代わっていたことに気付かされる。

 そんなカルミアの偽りは見透かされていた。


「良くないわよ」


 オランヌはカルミアの言葉を否定する。唇を尖らせ、不満そうに言った。


「ちょっとカルミア。美味しい料理を囲んでるわりに表情暗くない?」


「そんなこと……」


 違うと言えば、オズからも追撃された。


「先生もそう思いますか? ですよね。いつものカルミアとなんか違うなって、俺も思ってたところ」


「そう、かな……」


 カルミアの視線が下がる一方でオズとオランヌは顔を見合わせている。

 やがてオランヌは神妙な顔つきで核心へと迫った。


「成程、リシャールか」


 意中の人物の名が飛び出したことでカルミアは驚きに顔を上げる。その先でオランヌは満足そうに唇を吊り上げていた。


「ちょっと話してごらんなさいよ。これでもあいつの友達なんだから、何かあるなら相談にのるわ」


「俺も君の力になりたいと思う。悩み事があるのなら話してほしいな」


 この二人はリシャールにとって疑わしい人物なのかもしれない。けれどカルミアにとっては信頼のおける人物だと思えた。


「リシャールさん、ちゃんとご飯を食べているのかなって」


「リシャール? リシャールなら、出張から戻って来たはずだけど」


「うん。それでお弁当を届けに行ったんだけど、食事はいらないって」


「はあ!? 何よそれ! あたしちょっと殴りに行ってくる!」


 席を立つオランヌは放っておけば本当にやりかねないと、カルミアは全力で押し留めていた。


「だめよオランヌ! リシャールさん忙しいみたいだから! それに乱暴は良くないわ。私のタイミングが悪かったの!」


「止めないでカルミア!」


「もちろん止めるわよ! オズ、オランヌを止めるの手伝って!」


「いやいや。俺はオランヌ先生を支持するよ。カルミアの料理を無下にするような行為は見過ごせない」


「オズ!?」


「よく言ったわ。一緒に殴り込みね!」


「はい、先生!」


「待って待って! 本当にいいの。私、気にしてないから!」


「嘘つくんじゃないわよ」


 オランヌは憤りを抑えてカルミアの瞳を覗く。そして頬に手を当てると、優しく語りかけた。


「そんなに悲しそうな顔して、大丈夫なわけないでしょ」


 カルミアが目を見開く。


「可愛い顔が台無しだよ」


 オズからも同意されると、もはやどんな表情を浮かべているのか自信がなくなってくる。オズはまるで自分の分まで笑おうとしてくれているみたいだ。


「あれ?」


 そんなオズの視線がカルミアを通り越し背後へと向く。


「どうしたの?」


「いや、そこに誰かいた気がしたんだけど……俺の見間違いかな?」


 カルミアも振り返るが、誰もいないようだ。

 そこでオランヌは空気を換えるように両手を打った。


「わかった。明日はあたしが引っ張ってでも学食に連れて行く」


「そこまで強要するのはちょっと……」


 オランヌの思考はドローナと同じだった。


「いいえ、これは正当な行為よ。人間誰しも食事は必要不可欠。その手伝いですもの。カルミアはいつも通り学食で待っていなさい。必ずリシャールを連れて行くから」


「美味しいところはオランヌ先生に取られてしまったけど、俺も手伝うから安心して、カルミア」


 オズも安心させるように笑ってくれた。彼の笑みにはゲームでも何度も勇気づけられたが、こうして現実で見ると頼もしさが増していた。


「ありがとう、二人とも」


 二人の優しさにカルミアは笑顔で答える。そうすることで少しでも二人に感謝を伝えたかった。


「そうね……学食の営業中だとゆっくり話せないし、営業が終わってから連れて行くわ」


「でも、それだと食事は出来ないんじゃ……」


「だからお弁当! ちゃんと作ってきなさいよ。昼過ぎならお腹もすいてるはずだし、今度は絶対食べてくれるわ」


「名案です、オランヌ先生。本来食べるべきだった人間を差し置いて、俺たちばかりが美味しい思いをしたというのも後味が悪いですからね」


「そういうことよ!」


 思い切り背中を叩かれたオズは苦痛の表情を浮かべていた。

閲覧ありがとうございました。

今回はカルミアと、攻略対象であるオズとオランヌのお話でした。

本日中にもう少し更新出来ればと思いますので、またお付き合いいただけましたら幸いです。

誤字報告下さいました方、ありがとうございました。

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