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39、職員会議に参加します

 校内を歩いていると、外のベンチにレインの姿を見つけた。このところ縁があるのか、不思議と遭遇する機会が多いようだ。

 今度こそ驚かせてしまわないように、カルミアは前方からわざと派手な足音を立てながら近づく。

 カルミアの姿に気付いたレインは本を閉じ、諦めたようにその場で待ち構えていた。


「こんにちは」


 話しかけると、やはり不審がられていることは明白だ。出来るだけ手短に済ませようと、カルミアはさっそく本題に入ることにした。


「突然なんですが、レインさんの好きな食べ物を教えてくれませんか?」


「なんですか、本当に急に……」


 この質問のせいでより不信度が増したようだ。


「学食の新メニューに悩んでいて、調査をして回っているんです。せっかくならみんなが食べたい物を提供したいですから。レインさんも、学食で出たら嬉しい食べ物ってありますか?」


「私が学食に行くことはありません。私の答えなんて聞くだけ無駄ですよ」


「なら、純粋にレインさんの好きな食べ物が知りたいわ」


 カルミアが笑顔を添えて問えば盛大な呆れを感じた。初めて怯え以外の感情を返してくれたことは嬉しいが、やや複雑ではある。


「無理ですよ」


 しばらく待ってもレインは短く答えるだけだった。


「もしかして、作るのが難しいんですか?」


 レインは頑なに名称を告げようとしない。答えるつもりがないのか、期待をしていないのか。分かりかねたカルミアは慎重に反応を窺う。

 やがて根負けしたのはレインの方だった。


「……そうです。カルミアさんには無理だと思います」


「そうかしら。これでも食には通じているのよ」


「なら言いますけど。私が食べたいのは――――」


 レインはついに望みを口にした。答えなければこの時間がいつまでも続くと思ったのだろう。早急に解放されたいという意思の表れだった。

 どうせ無理だろうと諦めていることは表情を見ればわかる。けれどその名を聞いたカルミアは、馴染みの食べ物であることに驚かされていた。

 ただしレインはそれを無知と解釈したようだ。


「ほら、どんな食べ物かもわからないですよね。最初から期待もしていません。だからもう私には関わらないで下さい。失礼します」


 きっぱりと拒絶を示したレインは校舎の方へ歩いて行く。

 取り残されたカルミアは一人立ち尽くすが、その表情は闘志に燃えていた。


「レインさんて、あれが好きなんだ……」


 拒絶されたにもかかわらずカルミアからは笑みが零れていた。


(なーんだ、私と一緒じゃない。それにあんな顔で言われたら、意地でも食べさせてあげたくなったわ)


 期待してはいないと告げながら、レインはカルミアの表情を見て落胆していた。それは心のどこかで期待をしていたからだと思う。


(よっぽど好きなのね。私も久しぶりに食べたくなったし、学食で振る舞ってみるのもいいかもしれない)


 レインからもしっかりとヒントを得たカルミアである。

 そうと決まればリデロに連絡だ。幸い頼れる部下は父の使いで例のもが流通している地域にいたと記憶している。


(期待していなさい。私に手に入らない物はないのよ)


 レインはカルミアの本当の名前を知らない。カルミアの一族が、手に入れられない物はないとまで言わしめる存在であることを。

 準備が整えばレインを学食に招待するとカルミアは決めていた。

 しかしまずは職員会議を乗り越えることが先決だ。


 会議の日取りを聞いてから、決戦の日が来るのは早かった。

 学食の勤務を終えたカルミアは、会議の前に教師たち全員と個人的に挨拶を交わす。


「学食で働かせていただいています。カルミアと申します」


 カルミアがそう挨拶をすれば、たいていの人間はカレーが美味しかったと友好的に接してくれる。

 中にはどうして学食の人間がいるのかと不審な眼差しも混ざっていたが、決して悪意と呼べるほどのものではなかった。


 会議は円滑に進行し、そして終了する。


 何事も問題は無く。


 円滑にである。


(満場一致で学食の費用を増やしてもらえるのは嬉しいんだけど、私が徹夜で作った学食予算の必要性資料が活躍する隙もなかった……)


 頭の固い大人たちを納得させるための資料を用意していたのだが。


(みんな物わかり良すぎ! 学食どころか、学園運営に関する不満もないじゃない!)


 リシャールの意見に反論をする人間さえいないのはどういうことだ。

 今回の成果といえば、すべての教師と面識を持てたことだろう。直接話せたことで印象が変わることもある。しかし怪しい人物がいなさすぎるというのは困りものだ。

 会議から解放されたカルミアは拭えない疲れを引きずりながら寮へ戻ろうとしていた。ところがオランヌに腕を掴まれたことで阻止されてしまう。


「ちょっと、どこ行こうとしてるの!? ほら、カルミアも行くわよ!」


「へ? あの、行くってどこへ!?」


「飲み会に決まってるでしょ!」


 会議のあとは職員たちの懇親会が開かれるらしい。そういうところは前世に近いものを感じる。


「……て、私も!?」


「あたしたち一緒に会議を乗り切った仲でしょう。そしてこの学園をより良くしていく仲間。そうよね?」


 オランヌはリシャールに問いかけている。この場において決定権を持つのはリシャールということだろう。


「その通りですよ。カルミアさん」


 どの口がとカルミアは思った。


(一度リシャールさんに釘を刺されたんですけど……)


 容疑者たちと親睦を深めに行くのは問題なのではと思うカルミアであった。

 するといつまでも迷うカルミアにオランヌが内緒話をもちかける。


「この人、カルミアがこないと行かないっていうのよ! ただでさえリシャールは飲み会を断る常習犯なの。それがカルミアがいるなら来るっていうのよ。いい? これ凄い事。みんなびっくりしてるんだから! ね、お願い。あたしたちを助けると思って一緒に来て!?」


 必死に拝まれると、次第に断るのが申し訳なくなってくる。そういうことならと了承するが、そもそも何故自分がいなければリシャールは参加しないなどと言い出したのか……。


(はっ! そういうこと……。わかりました、リシャールさん。貴方の狙いが。つまり教師たちを酔わせて本音を引き出せということですね!)


 情報を得るのなら酒の席でということだ。

 リシャールはまるでそうだと言わんばかりに微笑んでいる。

 カルミアはリシャールに向けて一つ頷いて見せた。すると彼もまた頷き返してくれたので、つまりはそういうことなのだろう。

飲み会の模様も本日中に更新予定です。

お楽しみいただけましたら幸いです!

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