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35、悪役は学食に集う

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カルミアの口調を修正いたしました。

 見た目は明らかにドローナの方が若いが、精霊の外見というのはどうやら当てにならないらしい。

 そのドローナは無邪気な子どものようにカルミアを急かしている。


「カルミア、早く早く!」


「それじゃあ、野菜を切るところから始めますね。まずは洗って……そうだ、料理をする時は指輪は外した方がいいですよ。傷がついてもいけないので」


 カルミアは親切で告げたつもりだった。しかしドローナはきょとんとしている。


「何言ってるの? 私、指輪なんてしていないわよ」


 確かに広げられている美しい手に装飾品の類は見当たらない。では何故カルミアはそこに指輪があると思いこんでいたのか。


(ゲームだとルビーの指輪をはめていたのよ。指輪はリシャールの耳飾りと共鳴していて、指輪を通してドローナはリシャールを操って……あ、れ? そういえばリシャールさんも耳飾りをしていない……?)


「カルミアったら、難しい顔してどうしたの?」


 難しい顔の元凶であるドローナは不思議がっている。そこでカルミアは少しだけ踏み込んでみることにした。


「あの、ドローナは校長先生のことをどう思う?」


「どうって、特に何も」


「それだけ?」


「まあ、これまでたくさんの人間を見てきた立場から言わせてもらうのなら、そこそこ優秀な校長ってところね」


 返ってきたものはあくまで一般的な評価のみである。


(つまり、あのリシャールさんは操られてはいない?)


 しかしカルミアにとってもリシャールは掴みどころのない存在であり判断は難しい。


(私はリシャールさんのことを知らなすぎる。といっても校長先生にまで学食で働いてもらうわけにはいかないし、このところゆっくり話す機会もないしね……)


 ロシュから注文の連絡が入ったのはそんな時だった。時間からしてリシャールだろうか。


「ごめんドローナ、注文が!」


 カルミアは料理を手にフロアに向かう。するとリシャールは、すでに提供台まで料理を取りにきていた。

 待ちきれないほど空腹だったのか、カルミアの姿に気付くと嬉しそうに微笑んでいた。

 さらりと流れる髪から覗く耳には、やはり飾りがない。


「あの、リシャールさん」


「ちょっとカルミア!」


 料理を置くと、体当たりのような勢いで背後からドローナに抱きつかれてしまう。


「運び終わったのなら早く教えてちょうだい!」


 するとカルミア同様驚きに目を見張るリシャールは、ドローナへと話しかけていた。


「これはドローナ先生。学食で働き始めたと伺いましたが、本当だったのですね」


 揃いの制服に身を包んだドローナは、見せつけるようにカルミアの腕へと絡み付く。


「そうよ! 私はこれからカルミアに料理を教わるの。忙しいのよ、校長先生。ねえ、カルミア!」


「う、うん……?」


 ぐいぐいとドローナに引っ張られながら、カルミアは厨房へと連行されていった。

 前にはリシャール、後ろにはドローナ。悪役たちに挟まれた悪役令嬢はされるがままである。


(ゲームでは交流のなかった悪役(わたし)たちが顔を揃えるなんて不思議ね。ゲームを知っている人が見たら何か悪巧みでもしていると勘違いされそうだわ)


 それほどまでに悪役が勢揃いしてしまった。

 悪役たちは何故か学食に集まるようだ。


(でもこのドローナは、悪役になったりしないと思う。そう思いたいだけかもしれないけど、やっぱり信じていたいわ。だってもう、同じ学食で働く仲間なんだから)


 カルミアはいざとなれば自分が阻止する覚悟でドローナを受け入れている。

 これでひとまずドローナの問題はクリアしたと言えるだろう。となれば次はリシャールの動向が気にかかるところだ。


 ドローナを仲間に引き込めたおかげでいくらか落ち着いてリシャールの顔を見られるようになったカルミアだが、今後の方針についてどうしたものかと考え込んでいると、いつの間にか寮までたどり着いていた。

 寮の前には見慣れた人の姿がある。


「オランヌ?」


 カルミアが呼びかけるとオランヌは嬉しそうに手を上げる。彼もここの住人だ。ちょうど帰宅したところだろうか。


「ああ、良かった! カルミアってば部屋にいないんだもの。会えなかったらどうしようかと思ったわ。ちょっとあたしの部屋まで付き合ってくれない? お願い、助けて!」


「はい?」


 わけがわからないまま連行され、彼が部屋の扉を開くとリンゴの香りが広がった。

 オランヌ越しに見えるのは木箱に詰まった大量のリンゴだ。


「市場に行ったらね。当たっちゃったのよ」


「これは……大当たりですね」


「そうそう、そうなの……って一人で食べるには限界があるでしょう!?」


 それはそうだろう。背後に見えるリンゴは店の在庫ほどある。


「あたしを助けると思って半分ほど引き取ってもらえない?」


「喜んで」


「いいの!?」


「もちろん。リンゴは好きだし、料理にも使えるんですよ。そのまま食べても美味しいけど、お菓子はもちろんサラダにしたり、ジャムにするのもいいかな」


「ジャム! それはいい考えね」


「良かったらオランヌも食べる?」


「本当!?」


「たくさんあるし、もとはオランヌのリンゴじゃない。出来たら部屋に持って行くわ」


「ありがとう! ジャムか……ヨーグルトに入れても美味しそうだし、パンも買っておいて良かった!」


 そこまで喜んでもらえるのなら作り甲斐があるというものだ。


(リンゴはたくさんあるし、リシャールさんにも持っていこうかな)


 また美味しいと言ってくれるだろうか。

 無意識のうちに期待が膨らんでいた。いつだってリシャールの喜ぶ顔はカルミアを励ましてくれる。また見たいと、いつしかそう願うようになっていた。


(会いに行くってことは、進展していない仕事のほうも報告しないとなんだけどね……)


 そちらについては憂鬱なカルミアであった。

閲覧ありがとうございます!

学食も随分と賑やかになってまいりましたね。

それでは、また次のお話もお付き合いいただけましたら嬉しいです!

お気に入り、そして評価、とても励みになりました。とても励まされました!

ありがとうございます。

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