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31、生まれ変わった学食

 翌朝カルミアは巨大な袋を担ぎながら学食までの道のりを歩いていた。リシャールが見たのならすかさず奪われるような、重さを感じさせる包みだ。

 そして厨房に顔を出したカルミアは目を見張る。

 どさりと荷物を下ろしてから表情を和らげた。


「おはようございます。早いんですね」


「あんたが遅いんじゃないのかい。小娘」


 すでにベルネは彼女の特等席を陣取っていた。

 時計を見るが、伝えていた時間にはたっぷりと余裕がある。カルミアが嬉しそうに微笑むと、ベルネは居心地が悪そうに腕を組み直していた。

 二人が顔を見合わせていると、もう一人の仲間も出勤してきたようだ。


「あ! 二人とも早いですね! 僕も待ちきれなくて来ちゃいました」


 ロシュの発言にカルミアは吹き出し、ベルネはこいつという顔で睨んでいる。


「みんな早い、ということでいいですよね。今日はやる事がたくさんありますし」


 はやる気持ちはみな同じらしい。カルミアは嬉しそうに二人の顔を見比べる。ベルネは不機嫌そうにしているが、やる気がなければ姿を現すはずがないとわかっている。ロシュの明るい笑顔からは、訊くまでもなくやる気が溢れ出ていた。

 いよいよ学食は新たな一歩を踏み出す。まずはそのためのミーティングだ。


「先日の一件で学食が変わったことは学園中に周知されたはず。先生方や生徒のみなさんにも宣伝を頼んでいるから、今日からはお客様が増えると思って間違いありません」


「おおっ! なんだか忙しくなりそうですね!」


「あんたが言うと、どうも緊張感にかけるねえ」


「えー、ベルネさんてば酷いですって!」


 ベルネはそう言うが、ロシュの空気は場を和ませてくれる大切な存在だ。カルミアとベルネだけでは喧嘩しているようにしか見えないだろう。


「まずは作業分担の確認からですね。ベルネさんは調理担当。ロシュは会計担当。私は調理と料理の提供を兼任します」


「僕、会計専門なんですか?」


 これまで注文を取って料理を運び、会計をまでを担当していたロシュはさっそく疑問を抱く。


「三人で多くのお客様に対応するのなら、学食のシステム自体を変える必要があるわ。そう、支払いはすべて先払いとします!」


「今までは後払いでしたよね」


「先に会計をしてしまえば、その時点で注文がわかるでしょう? メニューは前に張り出して、事前に注文を決めてから入店してもらう。注文を受けたら――はい、ロシュにはこれを渡しておくわ」


 カルミアが手渡したのは耳に装着する魔法具だ。


「片方は私がつけておくから、注文が入った段階ですぐに連絡を入れてね」


「なるほど! そうすれば料理の提供も早くなりますね!」


 その通りだとカルミアは頷く。


「注文を受けたら私とベルネさんが盛り付けて、ここからも変更なんだけど、お客様の席までじゃなくて、フロアに設けた提供台まで料理を運ぶことにするわ」


「えっと、つまり料理が出来たら自分で取に行くってことですか? でもそれだと、いつ料理が出来たのか、誰が何を頼んだかわからなくなりませんか?」


 そこで登場するのがカルミアの秘密兵器、もといリデロが大至急運ばされたものである。袋から顔を出したのは小さな共鳴を放つ石たちだ。


「そこでこの石の出番よ。会計時にお客様に片割れを渡し、もう半分を料理のプレートに載せておく。厨房からフロアに近づけば反応するってわけね。ロシュには会計が終わったお客様に番号を振ったプレートと、この石をセットで渡してほしいの」


「なるほど! でもこんなにたくさん、どうしたんですか?」


「これは加工の段階でどうしても余ってしまう部分で、不要な業者から譲ってもらったのよ。この大きさだと通信出来る範囲も狭いし、使い勝手が難しいみたいでね。快く譲ってもらえたわ」


 経緯は本当だが、そのつてはカルミアの人脈によるものである。しかしそこまで説明する必要もないだろう。ここからはいよいよメニューの説明に入る。


「本日のメニューはカレーと、もう一品別の料理を考えているわ。まずカレーについてだけど、もうベルネさんも作り方はわかりますよね?」


「あれだけ作らされて覚えないとは、あたしを舐めてるのかい小娘。だいたい小娘に出来るんだ。あたしに出来ないはずないだろう」


 つまり出来ると言いたいようだ。


「ではカレーはベルネさんにお任せして、これからどんどん仕込んでいきましょう」


「それでカルミアさん。もう一品てなんですか!?」


 ロシュが待ちきれないと、期待の眼差しを向けてくる。


「パスタよ」


「おおっ! 学食でパスタが食べられるんですか!? 僕、パスタ大好きですよ!」


「それは良かったわ」


 カレーのように目新しい品ではないが、馴染みのある食べ物も必要だと思う。そこで目を付けたのがカルミアの前世でも人気を誇っていたパスタだ。


「この世界、じゃなくてこの国。パスタは一般的な食べ物だけど、学食で安く食べられたら嬉しいじゃない? 学食の魅力って、やっぱり安くて美味しいことだと思うのよね。業者から大量に仕入れているから、その分値引きをさせて、安く提供することも可能になったわ」


「やったー! 安さ大歓迎です! カルミアさん、仕入れのことまで考えてるんですか!?」


「当然よ。これまで食材の仕入れは決まった量を一定に業者が納品していたようだけど、それでは使用量と比例しません。勝手で申し訳ないけれど、これから仕入れの管理は私がさせてもらいます」


「カルミアさん、そんなことまで出来るんですか!?」


「得意分野よ」


 これでもラクレット家の特別顧問。仕入れの仕組みが理解出来ないでは話にならないと、厳しく仕込まれている。


「最も安く美味しく仕入れるルートを確保すると校長にも報告済みよ」


「小娘の癖に、可愛げがないほど隙がないねえ」


 ベルネの小言には「制服が可愛いからいいんですー!」という自分でも訳の分からない理屈で応戦をしていた。


「ではこれより本日の営業に向けて動き出しましょう。ロシュはフロアの掃除をお願い。私とベルネさんは調理に取り掛かります。それと、私たちが連携して働くのは今日が初めてよね。一日も早くチームワークを獲得して、より良い学食を目指しましょう」


 カルミアが指揮を執れば気だるそうな返事と快活とした返事が重なった。


「なんだか燃えてきますね!」


「あんたはまたそう言う……」


 しかしベルネは全てを告げることを諦める。口にしたところで労力の無駄だと感じたのだろう。ロシュはベルネさえ呆れさせるほどの力があるらしい。さすが攻略対象である。


(攻略対象の食生活を守るためにも、一日も早く理想の学食に近づけないとね!)


 カルミアもまた静かに闘志を燃やしていた。

昨年は作品を読んで下さり、まことにありがとうございました!

読んでいただけて、お気に入り、そして評価、感想……皆様の存在に励まされる毎日でした。

心から感謝申し上げます。

今年も多くの物語を紡げるよう頑張りますのでよろしくお願い致します!

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