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24、学園捜査

 学食での仕事を終えたカルミアは職員寮に戻ると密かに部下と連絡を取る。

 明日の対決に備えて必要な物の調達を頼むと、カルミアは再び校舎へと戻った。手には持ち主に置いていかれた本を抱えている。


(密偵なんだから、学園の様子を探っておかないとね。まずは少しでも情報を集めないと)


 表向きは本の落とし主を探すと言う名目で堂々と校内を見て回る。そして陰では学園を乗っ取ろうとしている人物の噂を集めるのだ。


(ゲームのマップが頭にあるから敷地内で迷うことはなさそうね)


 やりこんでおいてよかったと思うカルミアであった。


 一通り校内を歩きながら、すれ違う学生や教師に声をかける。するとみな快く挨拶に応じてくれた。


(なんだか私がプレイしたゲームよりも平和な学園という印象ね。本当に学園乗っ取りなんて事件が起こるのかしら……)


 学生たちはカルミアが笑顔で話しかけるとまるで友達のように接してくれた。まるでというより同じ年頃の学生が多いため友達と言えるだろう。

 そして学食で働くことになったと告げれば、もれなくなんともいえない顔をされたが。しかしカルミアはめげずに宣伝活動にも励んでいた。


 一通り校内を回ったカルミアは中庭に出てみる。

 放課後の中庭は閑散としていたが、一人だけ女生徒がいるようだ。

 長い三つ編みに眼鏡をかけた容姿には見覚えがあり、彼女はここでも本に夢中だった。


「こんにちは。レインさん」


 本から視線を上げたレインは声もなく驚き、目一杯後退りを繰り返す。


「こちらを忘れていたので届けにきました!」


 安心させようと、カルミアは急いで本を掲げる。おかげで今回は逃亡を防ぐことが出来たようだ。警戒していたレインも目的がわかれば少し肩の力が抜けたように見える。


「わ、わざわざすみません。私が本を忘れたばかりに、手を煩わせて……。それに、食堂ではその、騒いでしまって……」


 だんだんと俯いていくレインを止めようと、カルミアは明るく話しかける。


「いいえ。学食は本来は賑やかなものですから。私、静かすぎると思っていたんです。私たちこそ騒いでしまって、驚かせてしまいましたよね」


「いえ! ただ私が、人が苦手で、びっくりしてしまって。私が意気地なしなだけでなんです! もう嫌……私、どうしてアレクシーネに来てしまったんだろう……。貴女もどうせ私なんて場違いだって思いますよね!?」


「そうは思いません」


「え?」


「レインさんは立派なアレクシーネの生徒ですよ」


「どうしてそんなことがわかるんですか!? 私、とてもついていけないんです。本当に、どうしてこんなところにいるのかわからない……」


 いっそ否定してほしいのだろうか。けれどカルミアは自分の考えが間違っているとは思えなかった。オズだって彼女の実力を認めていたのだから。


「えっと、レインさんよね。レインさんはどうしてアレクシーネに?」


 この世界では、もちろん優れた魔女になる以外にも生きる道はある。けれどレインは魔女になる道を選んだからこそ、難関であるアレクシーネに入学したのだろう。

 レインは言葉に迷いながらもぽつぽつと語り始めた。


「私が生まれたのは小さな村で、村では私が一番の魔女でした。父も母も、これはアレクシーネに入るしかないと言い出して……。村からアレクシーネの生徒が出るのは初めてだって、みんなが喜んでくれて、とうとう断れなくなって……」


 周囲の期待は時に残酷なものだ。一歩間違えれば自分もそうなっていたかもしれないと思うと、他人事とは思えなかった。


「私は、こんなことを言ったら故郷のみんなに怒られてしまうけど、ここには来たくなかったんです。本当に、私なんか場違いで……」


 想いを打ち明け、俯いていたレインははっと顔を上げる。


「ごめんなさい! 貴女にこんなことを言っても仕方がないのに」


「いいえ。友達同士なら、相談にのるものよね」


「友達……?」


「そ、友達。何度も言うけど、私はレインさんの考えには頷けないわ。だってレインさん、勉強熱心じゃない。とても優秀だって、オズも貴女を認めていたわよ」


「オズさんが、私を!?」


「ええ。そうだ! 明日なんだけど、よければ学食に来てみない? 新しいメニューを始める予定なの。よければ食べに来て!」


「あの、でも私……」


「アレクシーネに来てよかったって、少しでも思ってもらえるように、私は学食を通じて頑張るから! それじゃあ、また明日」


 抜かりなく宣伝も行ったカルミアは引き続き学園の調査に戻った。


 とはいえそう簡単に情報が転がっているわけもない。あちこち見て回るうちに、すっかり日が暮れてしまった。こんな時はむだに広い学園の敷地が恨めしい。

 カルミアはもう一度寮に戻り、制服のエプロンを脱くと大急ぎで街へ向かう。寮生活が自炊であることを思い出したはいいが、現在の食材はゼロである。

 そこから買い物を終える頃には夜も深まり、学園から人の姿は消えていた。


(長い一日だったわね。でもさすがはロクサーヌの王都。夜なのに明るいわ。それに人の気配がたくさん。お店も遅くまで開いているし助かるわね)


 魔法の発達とともに夜は闇ではなくなった。とくに王都では常に明かりが街を照らしている。それは月の光も霞むほど眩いものだ。


(月も星も遠く感じるわね。波の音が聞こえないことも不思議。ここは私が生きてきた世界とは違うのね。何もかも……)


 真っ暗な空に浮かぶ月とは違う。そこにあるのかも不安になってしまう。


(それに賑やかだけど、リデロたちはいないのよね)


 まるで、というより完全にホームシックである。どうしても何かが足りないと感じている自分がいた。

 肌寒さに、カルミアは腕をさする。


(さすがに夜は少し冷えるわね)


 じっとしていると、じわじわと寒さが這いあがる。考えてみれば制服は半袖だ。動き回ったり日差しがあれば問題ないが、夜は肌寒く感じてしまう。こんな時はベルネのデザインが羨ましくなった。


(でも海の上はもっと寒かった。ちゃんと温かくしろって、いつもみんなに心配されて。こんなことじゃ、また口うるさく言われるわね)


 しかしカルミアの名を呼んだのは家族ではなかった。


「カルミアさん?」


 振り返るとリシャールが佇んでいる。カルミアをこの生活に引き込んだ元凶が。

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