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19、学食の現状

「いいかい、小娘。あいつに免じて今回だけは見逃してやる。けどね、二度はないよ。もう一度あたしの料理を不味いと言ってごらん。ここから追い出してやる」


「そんなの横暴です!」


「横暴? 作ってもらっておいて、不味いと言う方が悪いんだよ!」


「はい!?」


「こっちは頼まれたから作ってやってるんだよ」


「頼まれた?」


「そうさ」


 それまで怒り任せに捲し立てていたベルネは得意げに語り始めた。


「昔、あたしは傷ついた人間たちを癒やすため、人のふりをして料理を振る舞ってやった。人間たちはたいそう喜んだよ。あんたみたいに失礼な態度は取らなかったね。だからあたしは今もここに残って、人間に力を貸してやってる。それを不味いだなんて言う奴が悪いんだよ」


「それは、たとえそうだとしても横暴だと!」


「黙りな」


 ベルネはぴしゃりと遮った。カルミアの意見など最初から聞く気はないのだろう。


「ここはあたしの楽園。あたしが法律だ」


(横暴!)


 未来では横暴とキャラクター紹介に書かれるカルミアであったが、こういう人こそが横暴なのではと思わずにはいられない。


「アレクシーネは人に寄り添い生きろと言った。自分がいなくなった後も人の世を守ってほしいとね。だからあたしは、いや。あたしだけじゃないね。みんなあいつが愛した人の子ってやつに寄り添い生きているのさ」


 アレクシーネは邪悪な魔女に勝利こそしたが、全ての力を使い果たしてし、この地で眠りについている。アレクシーネがもたらした平和は、彼女の犠牲と引き換えに得たものだ。

 世界が平和になり、彼女を愛する人々はこの地に残った。彼女を称える人々もまたこの地に集い、荒廃していた国は再び活気を取り戻す。

 やがてアレクシーネへの感謝と、彼女の偉大な功績を忘れぬよう、彼女の名前を冠した学園が造られた。


(けど実際は、アレクシーネ様はもういない。魂は転生し、膨大な魔力は国中に飛び散った。そのおかげでロクサーヌでは魔法が発展するようになったのよ)


 これは王家に連なる者と、ゲームをフルコンプした人間しか知り得ない事実。精霊たちはアレクシーネが眠りから目覚め、いつの日か復活すると信じているのだ。


(長い時が流れたことでアレクシーネ様の魂は初めて転生することが叶った。あと一月もすればアレクシーネ様と同じ魂を持つ人間が学園にやってくる。生まれ変わりである彼女、主人公がね)


 平凡だったはずの主人公は学園で才能を見出され、アレクシーネの再来と称される魔女になる。

 それはさておき……。


(歴史の影にこんな登場人物がいたなんて……ご先祖様ってばよく仲良く出来たわね!?)


「それで、どうしてベルネさんは食堂で働いているんですか?」


「アレクシーネが消えた日から、あたしはずっとここにいたんだ。それがある時、人間たちが学園を建てると言い出してね。学園を建てるからそこをどけなんて横暴な話だろ? だから正体を明かして約束させた。あたしが料理を振る舞える場所を用意しろってね。人間たちもあたしがこの地に残ることを喜んだものさ。これがあたしの寄り添い方だよ」


(それ脅してません!?)


「それなのに最近の人間は! なんだい、学食を廃止するだって? たく、精霊への感謝を忘れるなんて嘆かわしいことだよ。いや、もうあたしが精霊であることを知る人間もいないのか……」


 そう告げるベルネは寂しそうに見えた。態度や行動は横暴だが、その根底には人のためというベルネなりの思いやりがあることは確かなようだ。


(悪い人ではないと思う……思いたい、かな)


「さあ、話は済んだね。あたしは帰るから、もう二度と不味いなんて言うんじゃないよ」


 ベルネは会話を終わらせて消えようとするが、カルミアはとっさに引き止めた。


「帰るってベルネさん、仕事は終わったんですか?」


「鍋に作り置きを用意してあるからね。あたしの仕事は終わりだ。あとはロシュがよそって出せばいい。片付けば任せたよ」


 確かに客はいないが、まだ学食のピークである昼にすらなっていない。それなのにベルネは仕事を終えたと言って譲らないのだ。


「あの、本当にあの料理で……」


「なんだい。あたしに口答えしようってのか?」


「口答えではありません。まずは話を」


「違うのなら黙って従いな。そして二度と文句を言うんじゃないよ。あたしも次は許してあげられる自信がないからね」


 じりじりと、まるで決闘のようなにらみ合いが続いた。

 しかしベルネにとってはすでに決定事項であり、カルミアが反論する間もなく姿を消してしまう。

 空気に溶けるように、こうも自然に姿を消す術はさすが精霊だ。人間の言葉に耳を傾けない姿もまさに自然の化身というべきか。


(だからといって横暴にもほどがあるわ。というか、なんで私はおばあさんとにらみ合ってたのよ……)


 仮にも精霊相手に喧嘩をするのはいかがなものかという理性が働き、カルミアは大人しくフロアへ戻ることにする。ベルネの主張を認めるわけではないが、むやみに精霊の怒りを買うものではないだろう。


(けど、これじゃあ人気が無いのも頷けるわね。廃止っていうのも、まあ納得というか……ってだから私の密偵生活はどうなるの!? やっぱりあと一週間で終わらせろってこと? 無茶がすぎない!?)


 こちらは予想外の場所に配属され、混乱するところからのスタートだ。まず出だしからつまずいている。

 とにかく仕事が終われば一度リシャールと話す必要があるだろう。


 戻ったカルミアは実験も兼ねてベルネの噂話を口にする。


「ベルネさんて、とんでもないわね」


「あはは……ですよね」


 ロシュすら同意する威力がベルネにはあるらしい。

 しばらく反応を待ってから、カルミアは実験結果を検証する。


(自分の料理への不満には即座に反応するってことは、ベルネさんは常にどこかで話を聞いているのよね。つまりこの学食全体がベルネという精霊の領域……)


 しかし反応はなく、どうやら本人の噂話は見逃してもらえるらしい。あの時感じた強烈なまでの気配が襲うことはなかった。

 そんなことを考えているうちに、なんと奇跡が起こる。


「あ、カルミアさん見て下さい。お客様ですよ!」


「本当!?」


 扉が揺れる気配を察知したロシュが出迎えに向かった。


(私もご挨拶に行った方がいいわね)


 何気なくロシュについて行くカルミアだが、信じられない来客を前に声を失った。

来客の正体は次回判明!

お楽しみいただけましたら幸いです。

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