表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/64

14、実は悪役令嬢でした

 乙女ゲーム『アレクシーネの魔法きせき』は魔法学園を舞台とした作品だ。


 かつてこの国は一人の魔女によって滅ぼされ、一人の魔女によって救われた。

 邪悪な魔女を退け、国を救った英雄の名はアレクシーネ。彼女によって救われた国の名をロクサーヌという。

 舞台はアレクシーネの活躍から三百年の時が流れた世界。

 主人公はロクサーヌに暮らす平凡な少女で、物語は彼女が事件に巻き込まれ、魔法の才能を開花させる場面から始まる。

 アレクシーネ王立魔法学園へ特別入学を認められた主人公は、立派な魔女になることを決意し勉強に励む。

 学園生活の中で様々なキャラクターたちと出会い、魔法の腕を磨き成長していく。そして魅力的な攻略対象と恋に落ちるのだ。


 それはいいのだが。一度選択肢を間違えるとあっさりバッドエンドを迎えてしまう緊張感が付きまとう作品だ。それも大体が死を迎える結末である。


(魔法学園ものなのに夢も希望もないわね。ファンの間では暗い魔法学園ものと話題になっていたし)


 主人公の目指す先に幸せなエンディングは存在するが、どこかほの暗さを拭いきれない世界観だった。


(しかも私の名前、カルミアって! 自分が悪役令嬢なんて聞いてないわよ……)


 またしても人生十七年目にして衝撃の事実が判明する。どうやら自分は悪役令嬢だったらしい。ゲームではただカルミアとだけ表記されていたため、彼女の家名を知ったのは初めてだ。

 確かキャラクターの紹介文にはこう書かれていた。


『名家の出身だが実家は没落。プライド高く横暴な上級生』

 

 もとは名家の出身であり、彼女は魔法に興味がなかった。けれど実家に居場所はなく、追いやられるように学園への入学が決まる。

 そのため常に不満が付き纏い、不機嫌そうな態度ばかり取っていた。加えて名家に生まれたというプライドは強く、横暴に振る舞うのだ。

 当て馬となり、幸せな光景を見せつけられることも多数。そんな彼女がたどる末路はとことん主人公に巻き込まれてのリタイアである。

 自分より目立つ主人公のことが気に入らず、でしゃばり続けた結果、主人公より先に退場……すなわち死亡する。


(私はカルミア、確かにカルミアだけど。十七年間ゲームの運命から逃れてきたっていうのに、どうして今更ここにいるの!? まさか、一向に学園に現れない悪役令嬢わたしに痺れを切らしてリシャール自ら迎えに!?)


 決して可愛い制服につられてですとは言いたくないカルミアであった。


(おそらくゲームの運命的な何かでしょうね。ええ、きっと。私には抗いようのない力が働いているんだわ。でも主人公にかかわらず生活していれば問題ないわよね。ゲームのシナリオにはかかわらないようにして、そっと仕事を終えて消えれば問題ないはずよ。そうしましょうって……あ、え?)


『名家の出身だが実家は没落。プライド高く横暴な上級生』


 自分の紹介文がリフレインすると、急速に背筋が冷えていった。


(その時、私は重大なことに気付いてしまったのです)


 思わずナレーション口調にもなるだろう、衝撃的な事実に。


(うち没落するの?)


 今度はだらだらと汗が背中を伝う。


(そんなの阻止に決まっているわ! ゲームのシナリオなんて知らないわよ! うちがどれほどロクサーヌの経済動かしていると思って!? うちが没落したらロクサーヌだって衰退するわよ!)


 早すぎる前言撤回。カルミアはゲームにかかわり自分の設定を完膚なきまでに破壊すことを決めた。


(けどうちは没落していない……ということは、まだゲームは始まっていない?)


 はたして今はいつなのだろう。まずは没落回避のためにもじっくり調べて回る必要がありそうだ。

 ショックに打ちひしがれていたカルミアだが、光明が見えたことで元気を取り戻す。むしろ未来を知っているからこそ、実家を救うことが出来るかもしれない。


(出来ることならゲームには関わらずにいたかったけれど……)


 しかしカルミアはリシャールと出会い、ゲームの舞台へと足を踏み入れてしまった。同じ立場の登場人物同士、引き合うものがあったのだろうか。


(そうよ……そもそもリシャールの密偵って何! どんな設定!? 危険しか感じないわよ!)


 リシャール・ブラウリーもまた、攻略対象ではないがゲームにとって重要な登場人物である。


(どうして顔を合わせた時に思い出せなかったの? というかリシャールさんて、本当にあのリシャール……よね?)


 ゲームのリシャールを知っていても気付かなかったのではないか。そう思わせるほど、カルミアの前に現れたリシャールは別人だった。

 優しさの滲む瞳で穏やかに笑い。流暢に会話を重ねる。惜しげもなくカルミアを称え、学園の未来を守ろうとさえしている。


(だってリシャールは、あんなに優しそうな人だった?)


 ゲームでは冷たそうな印象ばかり受けていたと思う。


「カルミアさん、カルミアさん!」


(そうよ。こんな風にカルミアの名前を呼ぶこともなかった……って、私を呼んで?)


 どうして自分の名前が呼ばれているのだろう。


「カルミアさん!」


 思わず返事をしてカルミアは飛び起きた。すると目に見えて安堵するリシャールの顔が見える。


「ああ、良かった。目が覚めたんですね」


「私……」


「大丈夫ですか? 校門で急に倒れたんですよ。覚えていますか?」


 心配そうにのぞき込まれたカルミアはすべてを思い出す。


「頭をぶつけたそうですが、意識ははっきりしていますか? 随分と魘されていたようですが、どこか苦しいのですか?」


(そうよね。私が知ってるリシャールという人は、こんな風に優しく誰かを気遣うような人じゃなかったわ)


 他者を寄せ付けず、孤高の存在として君臨する姿は校長というよりも学園の支配者に近いだろう。その正体は――


(この人ラスボスなのよねえ……)


 何故ラスボスが自ら学校の危機を救ってほしいと頼むのか。むしろ学園を危機に陥れるのはリシャールの仕事だ。

 それにしても……。

 本性を知ると、無害そうに感じていたリシャールの笑顔に寒気を感じる。裏があるのではと勘ぐってしまうのも無理はないだろう。

実は悪役令嬢だったカルミア。

そしてラスボスだったリシャール。

やっとここまできましたね!

あとタイトルにあって登場していない残る要素は『学食』のみ!

そんなわけで、続きも本日更新予定です。

お気に入りに評価ありがとうございました。面白いのか悩みながら書いていたので、励みになりました!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ