世界のゴミ問題
これを読んで、少しでもゴミ問題のことについて考えてくれると嬉しいです。
初めて小説を書いたので、至らぬ点も多々あるかと思いますが寛大な心で許して下さい。
九月某日、セミの大合唱とうだるような暑さに僕は辟易していた。
ボタンを3個ほど外し団扇であおいでも大した成果を上げられず、汗が流れ落ちる不快感だけが増していく。
立秋がきたからもう秋だという暴論によってこの探偵事務所の冷房は切られていた。
その結果がこの耐え難い暑さだ。
「恭平!うちは接客業なんだからもっと、こう、ビシッとしろ!」
エアコンを切った張本人兼探偵事務所所長の呉満が僕、田折恭平のいまの恰好を非難してくる。
「そうして欲しけりゃエアコンつけてくださーい。それに接客業といっても来客なんてここ最近いないじゃないですか」
呉満なんて読み方変えたらゴミ散るじゃないか、そう言いかけたが止めた。以前それを言ってかなり面倒くさいことになったのだ。
「来客はいないが、依頼は来てるぞ。最近はインターネットとかでの依頼が多いんだ。」
そうですか。
「俺はこれから外出するから、留守番よろしく。」
そういっていくつか指示を出した後、服装を整えておくこと!と言い残して出て行った。
呉さんが外出したからエアコンをつけてもバレないのでつけてもいいのだがそれはしない。
あの暴論は建前で、他につけない理由があるからだ。
それは単にこの探偵事務所にお金が無いというくだらない理由だ。
先月は猛暑のために冷房をつけていたがそのせいで電気代がいつもより高くなったのだ。
そのしわ寄せが僕のバイト代の削減という形できてしまった。
バイト変えようかな?
そんな事を考えてたら依頼のFaxが来た。
内容は、私たちの仲間が最近不可解な死を遂げています。その犯人と原因を突き止めてください
要約すればこんな感じだった。
差出人の名前は加藤五味という人からだった。
名前や電話番号の項目を適当に目を通していたが、ある一点に僕の目はくぎ付けになった。
依頼料の額が恐ろしいほどに高額なのだ。
しかも前払いという破格の条件だ。
「ただいま。子供の送迎なんて探偵の仕事じゃないぞ…」
「所長‼大変ですこれ見てください!」
「ん?なんだこの物凄く胡散臭い依頼は。十中八九暴力団とかが絡んでるだろ。」
「依頼料をみてください!」
その金額を見て彼が依頼を受けるか受けないかは決まったようだ。
次の日、僕は呉さんからの電話によって日の出の直前にたたき起こされた。
昨日は、あの後呉さんが今までにないくらいのやる気を見せこの依頼を受けますという旨の返信をし、正式に依頼を受けることになった。振り込まれた金額を見て呉さんがニヤニヤしていたのがとても気持ち悪かった。
昨日のことを振り返りつつ未だに眠い頭で探偵事務所に向かっていた。
探偵事務所に着くと呉さんは既に外出の準備を終わらせていた。
「こんな早朝からどこに行くんですか?」
「昨日、お前が帰ってから依頼主から連絡があったんだ。朝5時30分に砂浜にまで来いとさ」
「随分とアバウトな指示ですね。砂浜のどこなんですか?」
「行ったらわかるらしい。取り敢えず、ここから一番近いところに行くぞ」
今はその連絡どうりに行動するしかないらしく、もしもの時のためにと護身用にいくつかの防犯グッズを渡された。
多少の会話をしつつ砂浜に到着した僕らを待っていたのは、耐え難いほどの異臭。
この異臭の原因は何なのか?
腐乱死体という4文字が頭に思い浮かんだ。
恐る恐る誰もいない早朝の砂浜を歩く探偵と助手。
そんな僕らをまっていたのは、やはり腐乱死体だった。
ただし人ではなくクジラの。
「あのクジラの死体を見せるために僕たちをあそこまで呼び出したんですかね?」
「それ以外に考えられることが無いから、そういう事だろ。」
「じゃ、不可解な死を遂げているのはあのクジラってことになりますよ」
「いや、依頼主は複数形を使ってるからあのクジラだけではないだろう、死んでるのは。多分…海洋生物全体で何らかの要因により大量死が起きているとみるべきだろう。」
「赤潮でも発生したとか?」
「そこら辺はよくわからない。がそれを調査するのが今回の依頼だろ?ま、犯人がいるかどうかは、怪しいところだがな。」
そう言いながら缶コーヒーを渡してきた。そして最後に朝早くから呼び出してすまんなと言って、午後からやることをまとめ、それを二人で分担した
僕のやることはこの街近海で変わったことがないかの調査。
具体的には赤潮、船舶事故などの発生の有無。
呉さんは、今日入っている依頼をすませた後、もう一度砂浜まで行き現地調査をするらしい。
呉さんが出かけた後早速自分も仕事に取りかかる。
探偵事務所には一応備品としてパソコンが置いてある。
それを使って調べてもいいのだが、もうそろそろ正午になる頃である。
気温はグングン上がり大陽は今日も手加減をしてくれないらしい。
出来れば涼しいところで、やりたい。
大学行くか。
僕が通っている大学は偏差値そこそこ建物ボロボロな大学だ。
しかし、最近改築が行われて綺麗になっている建物が増えている。
今から調べ物をするこの図書館も改築により、綺麗になっている。
とりあえず席を確保し、本と最近の新聞を机の上に置く。
持参したお下がりの少し古いノートパソコンの電源を入れて準備完了。
wordを開き、呉さんからもらった缶コーヒーを警備員にバレないようにチビチビのみながらクジラの死因として考えられる事柄を打ち込んでいく。
一通り調べ終わった後、いくつかの本を借り図書館を後にする。
帰り道の途中でスーパーに寄り、両手にレジ袋を引っさげながら探偵事務所までの道を一人歩く。
暫く歩くと事務所に到着した。
ドアノブに多少苦労しやっとの事で開いた少しの間に身体を滑り込ませる。
「一回、荷物おけよ。」
どうやら呉さんはすでに帰ってきているようだ。
「食べ物を地べたに置くのはなんか、抵抗があるじゃないですか。」
「俺はそんな事気にしないけどな。それにしてもかなりの量買ったな~お前。」
「当分の食料です。」
そうかいと適当に返され
「で、なにか収穫はあったか?」
と本題に入った。
口を開きかけたとき、彼がポケットから煙草を取り出した。
あからさまにいやな顔をしてやるが、そんな事は全く意に返さずさっさと火を点けてしまった。
「はぁ……。クジラの死因についてはある程度の目星がつきました。まだ憶測の域ですが。聞きます?」
「頼む」
と言って紫煙を吐き出した。
「一番可能性が高いのはプラゴミを食べたことによって窒息死したか衰弱死したかですね。赤潮と船舶事故はこの近辺では起こったことがまず無いですね。体が小さいことからまだ子供のクジラらしいので、何かに襲われた可能性もありますが外傷が少ないので考えにくいでしょう。」
実はニュースの内容から浜辺に打ち上げられたのが子供のクジラという情報は昼頃にはもう出てたのだ。
種族名は知らない。もう忘れた。
「なぜプラゴミが海に?そしてクジラはなんでプラゴミを食べたんだ?」
「ポイ捨てされたプラゴミの大半が最終的に海に流れ出ているみたいです。ま、ほとんどが中国やアフリカから出たゴミなんですがね。他にも災害、津波などですね。によりプラゴミが海に流出してるらしいですよ。」
一呼吸置いて、
「クジラがプラゴミを食べる理由は、プラゴミをエサと間違えるからだそうです。」
調べたことを報告し終わりwordで書いた文書から呉さんに目線を移動させると、二本目の煙草を吸おうとしていた。
さすがに待ったをかける。
「煙草はやめてください!。何回も嫌いだって言ったでしょ!!。それに煙草を我慢したらどれだけのお金が浮くか考えてください!」
「俺の楽しみと言ったらコレと釣りぐらいなんだ。久しぶりに金が入ったから少しくらい吸ってもいいだろ!?。それに先月はほとんど吸ってないんだよ!」
「あ~もう最悪。報告終わったのでもう帰りますね」
「ちょっと待て。これ、今日採ってきた海の水だ。お前確か化学専攻だろ?分析頼む。後、クジラの死体からしばらく歩いたところに水鳥の死体も見つかった。後で写真と場所送っとくわ。じゃまた明日」
差し出された海水入りのペットボトルを受け取り、探偵事務所をあとにした。
翌日、講義が始まる30分早く大学に行き、海水を分析にかけた。
講義が終わる頃には結果が出るだろう。
分析が終わる時間帯を大体予想をつけて、講義に出席した。
睡魔と戦う90分を過ごしたあと、再び実験室を訪れた。
分析結果は予想通りで、すでにでていた。
結果を印刷したあと、乱雑にカバンの中に入れて探偵事務所に向かった。
「結果出ましたよ」
着いて早々に印刷された数枚の紙を差し出す。
「こんな専門的なことが書かれたモノ渡されても俺にはわからないのだが」
「ちょっと見せて下さい。」
結果を確認せずに印刷し持ってきたため一回じっくり見せてもらった。
表示されていたのは以下のものだった。(水・濃度・化学式は省略)
ナトリウムイオン
マグネシウムイオン
カルシウムイオン
カリウムイオン
ストロンチウムイオン
塩化物イオン
硫酸イオン
臭化物イオン
炭酸水素イオン
フッ化物イオン
ホウ酸
DDT
ポリ塩化ビフェニル(PCB)
ダイオキシン
「なにか変わったものはあるか?」
「ありますね。」
呉さんに紙を返す。
「下の3つを見てください。どれもPOPsに指定されてる奴です。」
POPs(残留性有機汚染物質)とは自然に分解されにくく生物濃縮によって人体や生態系に害をおよぼす有機物のことだ。
「濃度を見る限りヒトに影響が出る程のものじゃないですね。何でこんなものが海水に混じってるかは、謎ですが。」
「マイクロプラスチックのせいじゃないか?」
唐突に聞いたこともない用語が呉さんの口から発せられる。
「なんですか、それ。」
「これ見て見ろよ。」
そう言って、パソコンの画面を指差す。
そこに表示されていたのはプラゴミに関する記事だった。
「あの後俺もある程度プラゴミについて調べたんだよ。」
「へぇ~。で、なにかわかりましたか?」
「お前、昨日送った水鳥の写真みたか?」
「はい。一応」
「死因は一目瞭然だよな。漁網に絡まって溺死した。ああいった廃棄されたプラスチック製の漁網による被害が頻発してるらしい。」
これは後で知ったことなのだが廃棄された漁網のことをゴーストネットと言うらしい。
「他にもプラごみによる様々な問題が発生している。その一つがマイクロプラスチックだ。これは自然界で長期間紫外線にさらされた結果、プラスチックが小さくバラバラになったものをさすらしい。で、このマイクロプラスチックが化学物質を吸着してしまうんだとさ。」
確かにこの記事に今回検出された有害物質の名が載っている。
「でもそこまで問題視するほどの濃度じゃないですよ。昨日打ち上げられたクジラとの関係性はあまりなさそうですしね。」
「そうかもしれないが生物濃縮が起きる可能性がある。今は何ともないかもしれんがな。」
生物濃縮とは、ある種の化学物質が生態系での食物連鎖を経て生物体内に濃縮されてゆく現象のことを言う。
「そこら辺は、科学者が考えることであって僕たちには関係ないでしょう。」
「それもそーだな。」
そう言って暫く考えた後呉さんは唐突にでは問題ですと、得意げに話し始めた。
「プラごみにより命を落としたクジラ
廃棄されたプラスチック製の漁網に絡まり溺死した水鳥
マイクロプラスチックによる海洋汚染と起こるかもしれない生物への悪影響
ここまで情報があれば何が原因で生物が死んでしまったのか、わかるかな、ワトソン君?」
何かわかったのならさっさと言ってほしいのだが、それを言うと不機嫌になってしまうことは今までの経験によってわかっているので仕方なく答えてやる。
「プラごみ…ですかね?」
「じゃあ、その犯人は?」
「……犯人とかいるんですか?プラごみを捨てた人なんて特定できないじゃないですか。」
「人間だよ人間。おいそんな変な顔するなよ。こっちだってちゃんと考えて発言してるんだぞ。要するにだこの海の惨状を作ったのは俺たち人間だろ?」
「僕はプラごみをそこら辺に捨てたりしてませんよ。」
「自分はポイ捨てしてないから大丈夫とか言ってあまりこのゴミの問題について考えなかったり、見て見ぬふりをしていた人達も同罪なんじゃないかな。ほら、よく、見て見ぬふりはいけませんっていうじゃねぇか。」
「それも確かに一理ありますね。犯人と原因が分かったのでこれでこの依頼は終わりですね。」
こくん呉さんが頷く。
晴れてこの依頼は解決したわけだ。
今日は入ってる依頼もないのでもう帰っていいといわれたので荷物をまとめて探偵事務所を後にする。
おっと、その前に言っておくことがあった。
「今月のバイト代、期待しておきますからね!」
呉さんの苦い顔を横目に事務所の扉を閉めた。
恭平は依頼が完了したことに満足して帰っていったが、最大の謎がまだ残っている。
先日買ったばかりの煙草に火をつけながらその謎について考える。
それは加藤五味という人が何者か?ということだ。
依頼の「私たちの仲間」という表現。
これは、ヒトも魚類も同じ地球に住む生き物だ仲間だという意味を込めてあえて使ったと考えることができる。
だが、まだ不可解な点がある。
それは、クジラの死体が打ち上げられることを予言したことだ。
あの砂浜に来いという指令が来たのは午後5時半頃。
今の時期からすると日の入りの直前という時間帯なのだ。
それに現地調査をしに行っている時、何時までここには人がいるのかと聞いたところ八時ぐらいまでは確実に人がいるらしい。
あの異臭だ。
指令が来た時にすでに打ち上げられてたか近くにいたら、第一発見者は俺たちではなくなっているだろう。
つまり、深夜のうちか俺たちがくる少し前に打ち上げられたとみるべきだろう。
そうすると、なぜ五味はあれを予知できたのか。
これを説明できるとしたら馬鹿げているが、あれしかない。
本人に聞くのが一番早いと結論づける。
幸い五味とは連絡ができる状態だ。
早速聞くとしよう。
五味さん。あなたは未来を知ってるんですか?
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