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第73話 フェリナスの森

 今朝もごく普通に起きる。

 ファイガたちには、もう少し寝ていていいよ、と言えば可愛い寝返りを打ってそのままに。

 部屋を出て食堂に行き、ケフィルさんに挨拶してからカウンター上の料理を見ると、ボアの焼肉のタレ炒めがあった。

 お、この料理も俺流が出来る、とケフィルさんに生卵を二個貰ってテーブル席に座る。

 ケフィルさんからは、本当に生卵でいいのか? いいのか? と、二回繰り返されてしまったけれど、お願いしてもらった。

 そして厨房カウンターと逆向きに座る。

 特に見せびらかすつもりもないし、俺流なんて少し恥ずかしい気もするからね。

 生卵を持ち、殻を皿の角で軽く叩き、下から開くように割って皿に入れかき混ぜる。

 肉のタレ炒めを、皿の生卵にたっぷり絡めて口に入れれば。

 うん! 美味い! 濃い甘辛で炒めてあるタレ味の肉に生卵の新鮮な味が絡まって、箸が進んだ。

 それはもう卵に絡めて口へ運び、食べている途中で既に卵の中に肉を絡めていて、飲み込むとすぐに口に放り込み、と至福の時を過ごす。

 すると、ガタン、と椅子が倒れる音がして、その方向を見ると、ケフィルさんが中腰で食い入るように覗き込んでいる。

 それも可愛い耳を、ピコピコさせて、その上尻尾も大きく膨らませ、何やら鼻息も荒かった。

 興奮しているようなケフィルさんは、俺の食べ方が気になって仕方が無かったのだろう。

 でも納得したのか、頷きながら厨房に入って行く。

 もしかしたら、今夜はこの食べ方で行くのかな。

 仕事熱心なケフィルさんだな、と感心してしまったよ。

 俺も美味しく食べ終えて部屋に戻り、ファイガたちに朝食を食べさせてから出発の準備をする。

 下に降りて、ケフィルさんに挨拶してからガイルの宿を出る。

 朝の街並みを眺めながらガンドの店に行くと早朝だが開いていた。

 ファイガたちは、何も言わずとも自然に入口の外で伏せて待っている。

 店の中に入るとガンドさんが机の横に立っていた。


「おはようございます」

「ミツヒか。早いな。鞘は出来上っているよ。これだ」


 机の上に置いてあったスロウソード用の鞘は、腰から下げ鞘の先端に付いた皮の紐で、腿に結び動かないように納まる仕組みで、持ちて部分はすぐに取り出せる仕様になっていた。

 一方、魔剣ギーマサンカは、背中で斜めに背負うように出来上がっている。

 うん、これなら邪魔にならないし安定するな。

 流石、鍛冶師ガンドさんは、よく考え付いたものだ。

 そしてガンドさんが説明してくれる。


「まず、両方の鞘に埋め込まれている魔石に指を触れて見な。これは持ち主である一種の契約だよ。これはミツヒだけが簡単に脱着しやすいように作ってある」


 スロウソード用の魔石に触れてから鞘を装着し、剣を鞘に納めると、パチンと納まる。

 俺が剣を握ると、音も無く鞘から剣が外れる。

 次に魔剣ギーマサンカ用の魔石にも触れて、剣を鞘に納めてから背負い、握り手に手を触れると同時に留め具が外れ、簡単に抜ける。

 そして背中に戻すと、留め具がカチリ、と閉まり自然に納まる。

 両方ともとても抜き差しがしやすく、まるで以前から普通に使用している感じで違和感も無く感動した。


「これは使いやすいですね、ありがとうございます、ガンドさん」

「いいさ、報酬は貰っているからな。それとミツヒ、悪いと思ったが、その魔剣の事を俺なりに調べさせてもらった。この魔剣は、何処とは言わないが、ダンジョンの深階層で相当強い魔物を倒した時に得た魔具だろう」


 流石武具に長けているのは伊達じゃないな。

 悪い人でもないみたいだから少しは教えてもいいかな。


「詳しくはお答えできませんが、そうです」

「それは聞かないさ。俺が言いたいのは、ミツヒがその魔物を倒したって事は、他にも強い魔石を持っていないか聞きたかったんだ。それとも、もう売ってしまったか?」

「それはどうしてですか? ガンドさん」

「売られてしまったら、まず俺たちのようなドワーフには強い魔石は回ってこない。貴重なものだからな。

でも強い魔石なら強い武器が出来るんだ。そして俺も強い魔石を使って作ってみたいんだよ。ギルドに頼んでもありふれた魔石しか出回ら無いし、俺たちの所に回って来るのも低位の魔石だけなのが現状だ。

もしも、まだあるなら一つでいいから、少しずつ支払ってでも買いたい。無論誰にも言わないし、ドワーフの誇りに掛けた約束をする。頼む、あるなら売ってくれ、ミツヒ」


 頭を下げるガンドさん。


【どうするか、大丈夫かな、ハネカ】

【大丈夫でしょう、ミツヒ様。真実で話をしています】


 一寸待っててください、と一度店を出て魔法収納から魔石を袋に入れ替えて店に戻る。


「いいですよ、ガンドさん、魔石です。本当に魔物の名前の詮索は無し、ですよ」


 深層部の魔物の魔石を、袋から六つ取り出してガンドさんに見せると、眼の色が変わり、興奮し始め震える手で魔石を持てば、狂喜乱舞するほど一人大騒ぎする。


「おお! 凄い、凄いぞ! どれも貴重な魔石だ! お、俺には今、一つしか買えないが、少しずつ支払うから二つ売ってくれ、ミツヒ」

「いえ、いいですよ差し上げます、ガンドさん。口止め料ってことで」

「それはだめだ、出来ない。この中で一番安い魔石一つで、どう安く見ても金貨一〇〇〇枚以上にはなる代物だぞ」


 興奮しているが、ガンドさんなので落ち着くように冷静に対処しよう。


「それは凄いですね、でもいいですよ、差し上げます。面倒事になるのは嫌なので、何処にも売る気はありませんでしたから」

「そ、そうなのか?」

「はい。ガンドさんに貰っていただかないと、半永久的にお蔵入りです」


 それを聞いて考え込んでいたガンドさんだったが、落ち着きを取り戻し、何やら閃いたのか俺を見る。


「よし、この中の安い魔石二個を貰おう。その代り残りの四個でミツヒに合う俺の最高の武器を作る約束をする」

「ええ、構いません、それでお願いします」

「ますミツヒの武器を先に作るから、出来上がりは三日後としよう」

「はい、よろしくお願いします、ガンドさん」


 また魔石を持ち、再び興奮し始めているガンドさんは、そっとしておこう。

 静かにガンドの店を出て、布で巻いた魔剣は装備しないで魔法収納に入れた。

 まだ当面は必要ないと考えて、そして自分の剣の装備に戻す。


 俺はファイガたちと、ターナの町の検問所に向かい、門番に証明書を見せ町の外に出る。

 しばらく東に向かってユキナたちと歩いていたが、影に入れて走り出す。

 青い空に白い雲がふわふわと浮かぶいい天気の中、軽快に爽快に風を切って気分よく走り、昼過ぎにはフェリナスの森の入口付近に到着する。

 小さいファイガとユキナを影から出して辺りを見回す。


【ハネカ、道はここで行き止まりだな】

【はい。これから先がフェリナスの森です、ミツヒ様】


 ファイガたちは、元の大きさに戻ったら背中を低く体を伸ばし、欠伸をしている。

 本当に君たちは緊張感が無いね。

 まあそれだけ強いのだから仕方がない、と言えばそうなのだけれど。

 鬱蒼と茂る密林の中に入り、周囲感知しながらハネカの方向指示で進んで行く。

 やはり徐々に霧が出始め、濃さが深くなって周囲が何も見えなくなる。

 さらに奥に進んで行くと、すぐ後ろにを歩いているファイガ達も見えなくなりそうだ。

 そのファイガたちなんだけれど、密集した雑草をいとも簡単に歩いて来る様は、とても優雅で堂々としている。

 流石だよ君たちは。

 不安でもあるか聞こうとした俺が浅はかだった、とすぐに気が付いた。

 前を向いて進もう。


【しかし、これは確かに感覚がマヒするよ。事実そう感じているしさ。何処をどう歩いているのかまったくわからないな。でもエルフの里に行った時のユエルの森と同じだから懐かしくも感じるよ】

【周囲は敵、魔物も無く、問題ありません。まだしばらく先ですが順調に進んでいます】

【よろしく。ハネカに任せていれば安心だよ】

【畏まりました。そこを右へ曲がってそのまま直進です】


 前に伸ばした手の平くらいの距離以外はもう何も見えないけど、しばらくハネカの指示で進む。

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