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第39話 エントアの町

よろしくお願いします。

 凛々しく入って来た女性は、腰まである青髪を三つ編みにしている青眼、健康そうな浅黒い肌を露出した、チェーンアーマーを装備している。

 身長一六〇㎝程の筋肉質だが、顔立ちの整った綺麗な人だった。

 そしてリーザさんの隣に座り相対すると、直径二〇㎝程の水晶をテーブルに乗せたリーザさんが紹介してくれた。


「この方はギルドマスターのドミニクさんです。エルフのステータスを確認するので、責任者として立ち会ってもらいました」

「ミツヒです。よろしくお願いします、ドミニクさん」

「ドミニクだ、よろしくミツヒ」

「ではエルフのてのひらをこの水晶に触れてください」


 俺がエリセの左手を添えて水晶に触らせると、リーザさんとドミニクさんが確認するのだろう、水晶を覗き込んだ。

 すぐに理解したようなリーザさんが顔を上げ、俺に説明するように話し出す。


「やはり。彼女は奴隷でしたが、既に放棄の手続きがしてあります。怪我が酷くて足手まといになる彼女を置いて来たのでしょう。それに、つれて帰って来ても、その傷を治すのに大変な金額がかかりますから、新しい奴隷を購入した方が安いのでしょう」


 隣のドミニクさんも顔を上げて俺を見る。


「で、この子の今後はどうする? 奴隷放棄を確認しているからミツヒの所有物に変更も出来るし、奴隷市場に売ることも出来る。ただ、その傷では何とも言えないがな……」

「ドミニクさん。この奴隷の首輪は外せないのでしょうか」

「外せるには外せるが、一度ミツヒの奴隷にして、それからミツヒが奴隷解放を申請すればいい。ただし購入とは違うので、奴隷所有権取得で金貨五枚、奴隷放棄ではなく、奴隷解放で首輪を外すのに金貨二〇枚必要になる。もちろん証明書はギルドで発行する」

「払います、ドミニクさん」

「そうか、わかった。リーザ、あれを」


 即答した俺に反応するように、ドミニクさんはリーザさんに何かを指示した。

 リーザさんが部屋を出て行き、さっきとは違う水晶を持って来たので、手続きだと感じ、俺は腰袋から取り出した金貨二五枚を支払う。


「ここでは奴隷の購入は出来ませんが、所有者の変更などの手続きは、この水晶を使用してギルドで出来ます。では、ミツヒさんとエルフの掌をこの水晶に触れてください」


 俺とエリセの掌を水晶に触れる。

 するとリーザさんが、水晶の上で何かを書いているように見える。


「はい、これでミツヒさんがこのエルフの所有者になりました。ミツヒさんのステータスウインドウで確認して下さい」


 自分のステータスウインドウを見ると、固有スキルの下の欄に《 エリセの所有者 》と書かれていた。


「はい、確かに所有者になっています」

「はい。では続けます」


 またリーザさんが、水晶の上で何かを書いているように見える。

 何かの詠唱を書いているのだろうか。

 俺には理解できないけれど、手続きが行われているのは確かだ。

 ドミニクさんは、両腕を組んで足も組み、背もたれに寄り掛かってリーザさんの作業を見ている。

 エリセは俺の指示通り、うつむいたまま素直にずっと黙っている。

 そして詠唱を書き終えたのか、リーザさんはその人差し指をエリセに近づけたら、奴隷の首輪が音も無く床に落ちた。

 俺はステータスウインドウを見て 《 エリセの所有者 》が消えているのを確認してリーザさんに伝えた。


「これでそちらのエルフは自由になりました。あとで証明書を発行します」


 安心した俺とエリセを見るドミニクさん。


「で? 今後はどうするんだ、ミツヒ」

「このエルフを故郷に帰すため連れて行こうと思っています」

「そうか。ミツヒがそうしたいならすればいい。しかしエルフの里に行くのは大変だぞ」

「何とかしてみますよ、ドミニクさん」

「なら教えよう。この町の南の検問所を出たら、南西に真っすぐ続く街道がある。その道を二日ほど行くとニド村がある。ニド村から西に続く小道があり、行くとミツヒの目指す、ノエルの森がある。その奥地の何処かにエルフの里の入口があるらしいが、人が来るのを嫌うので見つけることは無理に近い。それでも行くのか」

「ノエルの森、ですか。はい、行ってみます」

「そうか。ミツヒのする事に、私はもう何も言わないが気を付けてな」


 リーザさんも、補足して説明してくれた。


「広大なノエルの森は、迷いの森、とも言いまして、奥地に行ってしまうと方向感覚がおかしくなって、真っ直ぐに入った帰り道でも迷う程なので、年に十数人もの不明者が出る森です。遺体も含めて今現在、行方不明者は一人も見つかっていません。なので、森に入る場合は一〇人以上のパーティで、お互いが視認できる距離を保ち、等間隔で離れて同じ方向に進み入るような森ですから、一人で入るのはお勧めしません。金額はかかりますがギルドに依頼して人を募集し、急がずに人が集まってからにしたほうが良いかと思います」

「わかりました、リーザさん。検討します。一つ聞いてもいいですか? 迷いの森なのに、わざわざ人が入って行くのは何故ですか」


 するとドミニクさんが足を組み直し、申し訳なさそうにエリセを見る。


「それは言いづらいが、このエルフが答えだよ、ミツヒ。エルフの奴隷狩りだ。その為に奥地に入って森にいるエルフをさらってくるのだろう。リスクは高いがいい金になるらしい、下衆どものやることだ。需要があるので領主や貴族が賛同しているから、ギルドでは見て見ぬふりをしているのが現状だよ。可愛そうだがな」

「そうですか、わかりました。ありがとうございました」


 水晶を持って先に出て行くリーザさんに言われ、少し待ってから立ち上がった俺は、エリセに優しくフードを被せて、抱き起すように立ち上がらせて入って来た扉から出る。

 既にリーザさんは証明書を作るべく出て行ったので、受付を通る時に発行してもらった。

 さすが仕事の早いリーザさんは、出来る人だった。

 証明書を手にして、うつむいているエリセの手を引いてギルドを出る。

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