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第15話 スマルクの町

よろしくお願いします。

 まだ日も昇らない翌日早朝だけれど、辺りは薄明るくなっている。


 裏庭で息を切らせながら、黙々と激しい素振りをする。

 最近の素振り用の剣は、店の裏にある倉庫に眠っていた鍛錬用の剣で、ゴルドアさんから、好きに使え、と譲り受けた剣だ。

 この剣をタモンの村で鍛錬用に使っていた剣と同じように重くしている。

 しかも、タモンの村にある剣よりも、更に重くしてあるので、息も切れ、手に豆が出来ては潰れ、潰れては固くなり、と結構厳しく苦しい。

 でもとてもいい鍛錬になると感じている。

 額の汗を拭い一息ついている時に、カルティさんがうつむき加減で額に手を当てながら通りかかったので、自然と声を掛ける。


「おはようございます、カルティさん。昨日は沢山飲んでいましたね」

「やあ、おはようミツヒ。エフィル姐さん達と会うのは久しぶりだったからね、酒の勢いもあってか、酔いに任せて楽しんだよ。だが飲み過ぎたのは確かなだな。二日酔いでまだ体がだるい。ん? ミツヒはこんなに朝早くから何しているんだ?」


 俺が持っている剣に眼が行く。


「ああ、素振りか」

「ええ、まあ日課なので」

「へぇー、ミツヒも剣士を目指すのか?」

「いえ、そういう訳ではありませんよ、これは単なる鍛錬です。今現在も冒険者にも登録してませんから」


 夢があるって言って、聞かれるのも嫌だし……黙っていよう。


「そうか、もったいないな。ん? ちょっとその素振している剣が気になるな。ちょっと見せてくれないか」

「いいですよ。重いので気を付けてください。どうぞ」


 握り手の方をカルティさんに向けて渡す。


「うわっ、お、重い。これを振っているのか、ミツヒ」


 片手で受け取ったカルティさんが、慌てて両手持ちに切り替えた。

 そして力を入れたのか、上に向けて眺めている。


「はい、毎朝夕にしています」

「その腕の太さに似合わず腕力はあるのだな。確かにミツヒは筋肉質に見えるが、だがそんな力があるようにも見えない。んー、よし、私が相手をしてあげよう」

「いえ、やめておきましょう。手合せ用の剣もありませんから。それにまだ、カルティさんは二日酔いの状態で体調が良くないでしょうから」


 剣を下し、少し怒った表情で俺に返して来た。


「何だ、ミツヒ、逃げるのか? 女相手に逃げるのか? 練習用の刃引きの剣なら納屋にある。私たちが昔使わせてもらった剣がある」

「そうですか。わかりました、では相手をしてください。でも今日の夕方にしましょう。カルティさんが体調を整えてからのほうがいいでしょうから」

「よし、わかった、ミツヒ、夕方にここだな。了解した、では」


 カルティさんは、踵を返して食堂へ歩いて行った。


「父さん以外と手合せなんてした事も無いけど……大丈夫かな」


 朝日が眩しくなる頃に、俺も素振りを終わらせ水栓で体を洗ってから部屋に戻る。

 部屋に入り棚を開き、薬草採取で集めた資金を見ると、金貨銀貨が無造作に敷き詰められている。

 貼ってある一枚の紙には、金貨1040枚、銀貨264枚と忘れないように書いてある。

 勿論使った時、増えた時の増減は書き直している。

 そしてもう一つの問題が。

 一段下の棚の中には、やはり放り込んだように無造作に入れてある魔石がぎっしりと、今にも溢れんばかりに入っている。

 ざっ、と見て少なくても四〇〇個は下らないだろう。

 しかしこれが問題だった。

 こうなると入るところが無くなってきたぞ。


 この魔石を一度に売ったら大騒ぎになるのかな。さて、どうするか。


【大きい町で売るのが最適です】


大きい町? あー、南にある王都エヴァンか。

 あそこならたくさんの冒険者が買取りしている、とミレアさんから聞いたことがあるから、これくらいなら大丈夫か。

 立ち寄るのはギルドだけだから、走って行けば夕方までに帰ってこられるなしね。


【問題ありません】


 よし、行くか。

 これで一つの問題が解決したので、下に降りて朝食を食べる。

 果実で作ったジャムを挟んだパンとミルク。

 住込みなので、エフィルさんに迷惑掛けられないし、これくらいなら毎朝自身で作るようにしている。ていうか当たり前の事だけどさ。

 柔らかいパンに甘酸っぱいジャムがとても合っていて美味しい。

 食べ終えて一度部屋に戻り、棚から取り出した魔石を背負い袋に入れる。

 ちょっとした人作業で入れられるところに、無理やり押し込めるように入れると袋が、悲鳴を上げているかのように膨らんだ。

 一度背負って見たら、ちょっと重いけど大丈夫だな、と確認する。

 一通りの装備をして、背負い袋を背負って店を出る。

 歩いて見れば、差ほど重さも気にならなかったので、南の検問所に走って向かうと、門では出て行く人が順番を待って並んでいる。

 当たり前のように最後尾に並べば、少し待って順番が来て証明書を見せ、王都エヴァンに向かうことを門番に告げて通過する。


 町の外に出て、そして力強く走り出す。

 王都エヴァンまでの道のりは、歩いて二日、馬車なら半日ちょっとの距離らしい。

 今、疾風のごとく人や馬車を避けながら走っている。背負っているのにも関わらず、更に速くなっている、と感じる。

 すれ違う人も、注意して見ていないと俺に気が付かない程になっているみたいだ。


俺って、何かおかしいのかな。

【正常です】

でも、こんなに速いよ。確かに全力だけど速すぎないかこれ。それに息切れもしていないなんてさ。

【正常です】

わかった。なら休憩無しで行こうか。

【……】


 結局、休憩無しが功を奏したのだろう、昼になるよりも早くに王都エヴァンに到着した。

 検問所に行けば中途半端な時間なのか、入口には順番を待つ人が誰もいないので、門番に証明書を見せて中に入る。

 ギルドの場所を聞き、しばらくまっすぐに行けば右側に看板が出ているとの事。

 今回の目的はギルドで換金するだけなので、周囲の街並みはほとんど見ないで、小走りにギルドに向かうと看板があった。

 スマルクの町より、かなり大きく黒っぽい重厚そうな建物で、威圧感たっぷりだと感じた。

 ゆっくり確かめるように、静かに中に入るとやはり、とても広い広間になっている。

 普通に五〇人くらいは楽に入れそうだ。

 ギルド内も、まだ昼前なので誰もいなかった。

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