信州
信州、国道148号線を大町から北に向かうと、
JR大糸線に沿ってすばらしい山々と湖、スイス
のアルプスと見まごうばかりの白馬の山なみに、
誰人も感動する。5月の頃はまだ残雪も多く、夏
のシーズン前で村人は田植えに忙しい。
青木湖のトンネルを抜けて五竜岳、遠見岳、白馬岳
を望みながら山麓の村神城、飯森
を通り、白馬八方の麓、岩岳、森上
へと向かう。
その昔、塩の道と呼ばれた街道だ。村の焼却場の手前に
白馬台高校がある。オリンピック選手を多く生んだ
名門校である。
いつもは静かな学校が今日は何かとあわただしい。
校門を入った所に長野県警のパトカーが1台止まっていて、
もう1台灰色の県警の大型バンが奥のほうに止まっている。
なにやら学校で事件があったみたいだ。廊下を行くと
理科室の手前から『立ち入り禁止』と書かれた県警の
黄色いロープが張ってあり、理科室内があわただしい。
長野県警のベテラン田中刑事が教頭から事情聴取をしている。
鑑識が数人作業をしている。
「盗まれたものはシアン化カリウムとナトリウム
の二瓶だけですな?」
「そうです。この二瓶だけがなくなっています」
教頭は毒物薬品棚の二瓶ぶん空いたスペースを指差しながら
他の毒物の濃い茶色瓶を確認した。
鑑識の山本が田中刑事に近づいて鎖の切り口を手にとって見せながら、
「皮手袋をはめての犯行のようです。鉄製の鎖を番線カッターで
一発で切っています。用意周到な力持ちのプロと考えられます」
「ふむ、プロ?・・・・・・かもな」
と言って田中は手帳にメモをした。
山本は、足跡の測定をした後田中に聞いた。
「この村で事件が起きますかね?」
「さあ、わからん」
田中刑事はぶっきらぼうに答えた。
それから数日後事件は起きた。青木湖の湖底から高級乗用車が引き上
げられたのだ。死亡した運転者は信濃森上の大地主、塩山家の次男坊
塩山清二35才。深夜に湖の崖の急カーブを曲がりきれずに、
ガードレールの間から猛スピードで湖にダイブしたものと思われた。
運転ミスによる事故死。だが、解剖の結果胃の中からシアン化合物
による薬物反応が出て、死因は服毒死と判明した。
という事は、自殺、他殺の可能性も出てきたのだ。
鑑識の山本は気色ばんだ。
「よし、この事件俺が解決してやる」