オオカミの牙
むかしむかし、あるところに
綺麗な毛並みのオオカミが、暮らしていた。
毎日毎日、レンガの煙突の上から、あるモノを探して、周囲を見回していた。
オオカミは、いつだって腹ぺこだった。
彼女の主食はなんだと思う?
小さな女の子さ。
頭の上から、丸呑みにするのが、それはそれは大好きだった。
彼女は綺麗でいたいから、綺麗なものしか食べなかった。
男はだめだ、老人はだめだ。
太っているニンゲンなんて論外だ。
ブタを食べるのも吐き気がする。
だから、彼女が座ってるレンガの家から、
子ブタが出てきたって関係ないのだ。
オオカミは準備に余念がなかった。
女の子を騙すのは大変だ。
ニンゲンの服を着て、ニンゲンの声で話すのだ。
オオカミは変装の達人だった。
村人にも、領主にも、牧師にも
宇宙飛行士にも、バニーガールにも、世界を救うスーパーマンにだってなれた。
ただ、大きな口に並んだ、鋭い牙だけは隠せなかった。
煙突の上で、オオカミはじっと待っていた。
いつか、玉のような女の子が、彼女の目にとまるのを。
でも待っても待っても、女の子はこなかった。
それでもオオカミは待った。
空腹を、腕を噛んでごまかして。
いつかすっかり毛並みも衰えたある日、
お腹を空かせたオオカミは、目眩がして、うっかり足を滑らせた。
煙突の上で転んだオオカミは、そのまま暖炉の釜の中へ。
ドボンと落ちたスープを、味わうことはなかった。
そのまま溶けて、あとにはただ牙が残った。
美しくて、変装の達人だったオオカミの白い牙は
最後まで、血に塗れることがなかった。