2020年1月下旬(3)
(承前)
古城ミフユ
翌日夜、私は再び四人の訪問を受けて食堂へ連れて行かれた。中谷さんが再び先頭を切って話し始めた。
「古城さん。絶対に歌は上手くなる。上手くさせる事は約束する。あと古城さんの衣装は北見先輩が作ってくれるんだけど、これはバンドからのプレゼントという事で記念にもなるよ」
「衣装ってどんなのです。曲は昨夜、西田さんが送ってくれたサイトの音源聞きましたけど」
これは衣装担当だという北見先輩が答えてくれた。
「古城さん用の衣装はカッコいいユニセックスなデザインにするよ。ラフ案描いたら見せるからさ」
「私、制服もスラックス選んでますし普段着もだいたいパンツルックなんですけど」
「大丈夫。そういう要望も当然聞いて作るから」
そう北見先輩は言ってくれた。
北見先輩お手製の衣装はちょっとみてみたい気もする。それ以上に昨夜から聞き込んでいるティエンフェイの音楽がとても好きになっていた。
あんなヘヴィーローテーションするとは思わなかったし。
西田さんの歌も歌詞も好きだし、この人達の音楽も良かった。ただ自分の歌がそれに合ってると信じ込んでいる中谷さんとみんなの判断は何なのか自分には理解出来ない話だった事が躊躇の元だった。
「私、バイトをやってますけど、そちらに迷惑を掛けない範囲なら。あと私の音痴を直せるなら引き受けます」
中谷さんは満面の笑顔になった。
「ほんと?うれしい。音痴はある程度直せるから。音楽なんてさ、なんでドレミファソラシドってなってるのかって思わない?」
まあ、確かにそうかなと思いながら頷いておいた。
「実際音階が異なる音楽だってあるからね。学ぶものであって後天的なものだから。ちゃんと歌えるようになる方法はあるし、それで古城さんの音高・音階認識は対策できると思うから。信じて。歌は上手くなるよ」
身を乗り出してきた中谷さん。机が揺れた。
「そして持ち歌を古城さんが歌ったらみんな乗ってあなたの名前を連呼させて見せてあげる」
それはちょっと。
「そういう人達は苦手です」
中谷さん、地雷を踏んだと思ったらしい。すぐ切り替えてきた。
「分かった。名前は何かバンドの時のニックネームを決めよう」
私も踏ん切りがついた。
「そういう事なら引き受けます」
中谷さん、比嘉さん、北見さん、西田さんの四人はみんな大破顔した。特に西田さんが喜んでくれた。
「古城さん、ありがとう。何年か先、いい思い出になるように一緒に頑張ろうね」
この後、どんな練習が待っているか分かったらみんなの台詞に嘘がない事はよく分かったと思う。そういう私の前向きな努力の意欲を削ぐような事は言わなかったのだとは無論分かっているけど想像以上にハードだった。