シネマ・コンサート神戸公演台本 F PART
F PART「ENIGMA」
陽一:
夜、小火のあった旧部活センター棟前に戻っていた。
玄関は規制用テープが張り巡らされている。
(MUSIC)OST:REIKA’S ENIGMA,II
教師と私服刑事が話をしながら旧部活センター棟の方へ来るのが見えた。
教師:
「伊那澤、とっくに下校時間は過ぎているだろうが早く帰りなさい」
陽一:
「すいません、先生。警察の人から事情聴取があると思ったので」
私服刑事:
(怪訝そうに手帳を手繰った)「伊那澤くん?特に名前は出てないけど警察官に言われたのかい?」
陽一:
「あ、そうなんですか。友達にそう言われたんですが何かかつがれたのかもしれません。失礼しました」
私服刑事:
「何か気になる事があったら連絡して。もう今日は遅いから帰りなさい」
陽一:
「はい。それでは失礼します」
(MUSIC)C/O
<バイク置き場>
玲佳:
(MUSIC)OST:PRESENTIMENT
制服姿。顔色は良いとは言えない。心配していたらしい。
「無事で良かった。ねえ。バイクで送ってくれる?少し話したい事もあるし」
陽一:
バイクからヘルメットを手にすると玲佳に渡した。
バイクのメーターの表示をタッチしてナビゲーションモードにした。目的地入力状態にする。
「玲佳ちゃんの自宅の住所をこいつに言って」
玲佳:
「三重県鈴鹿市桜桃台……」
陽一:
バイクのディスプレイ「目的地設定しました。距離……推定到着時間…」と表示が出た。
バイクにまたがる。
玲佳:
バイクの後ろにまたがると陽一の腰にしがみついた。
陽一:
バイクをゆっくりと走らせた。
(MUSIC)F/O
<2車線道路>
警察官:
(左側1車線塞いで検問。陽一に停まるように合図した)
(MUSIC)OST:YOUTH STORY
「エンジン止めて。君たち、どこの学校?」
(注:電動バイクなのでエンジン音不要)
陽一:
(環境音)ボタンを押す音。エンジン停止のチャイム音。
バイクのヘッドライトやディスプレイは点いたまま。
「鈴鹿中央です。すいません。学校で火事があって遅くなって危ないなと思って。この子を家に送りたかったんです」
警察官:
微笑む(青春だな)。
「あの学校の生徒さんか。学校で火事だなんて大変だったね。今回は見逃す。ちゃんと彼女を家まで送ってやれよ。あと普段はやっちゃダメだぞ」
陽一、玲佳:
(見逃してくれた)
『はい。もちろんしません』
(環境音)ボタンを押す音。
(MUSIC)F/O
警察官:
車が来ないのを確認すると行くように手で合図。
(効果音)陽一のバイクの風切り音
<玲佳のマンションの前>
陽一:
バイクを止める。玲佳が降りる。
バイク電源ボタンを押してシャットダウン。
(環境音)ボタン音
ヘッドライト、ディスプレイも消える。
(MUSIC)OST:SO LONG,SO LONG
ヘルメットを脱いだ玲佳がそれを陽一に返した。
サイドミラーに被せる陽一。
玲佳:
陽一を見つめる。
「陽一くん、送ってくれてありがとう。私、実はしばらく遠くに行くから会えないのよね」
陽一:
「転校?」
玲佳:
(自分を納得させるように)
「うん。そう、転校」
「きっと、陽一くんは私の事を忘れちゃうと思うのよね」
陽一:
(怒り、笑い?)
「そんな訳がない。図書室であれだけ怒られたのに忘れられる訳がない」
玲佳:
(笑う)
「それ言う?ま、あんたらしくていいや。何年先になるか分からないけどまた逢えるとしたら逢ってくれる?」
陽一:
(不安感が出てくる)
「もちろんだよ。でも普段でもメールやメッセなりやりとりできるよね?」
玲佳:
(言いづらそうに)
「ちょっとそういうのができないんだよね。オフラインになるような外国に母さんがいて、そこに帰らないといけないから」
陽一:
(考えを深めつつ言葉を慎重に選ぶように)
「それは香久耶さんや理里香さんたちと似たようなもの?警察官の人とのやり取り、知り合いのように聞えたけど。しかも君の方が立場は上に聞えた」
玲佳:
「香久耶さんや理里香さんとの出会いは夢のような出来事だけど現実。でも夢のようなもの。私と君の事も現実だけど、これはこれで違った意味で夢。今はまだそう。警察官の人は他の仕事している人。悪い人じゃない。正義側にいる人だけど詳しい事は言えない」
陽一に近付くとそっとキスをした。
「陽一くんの質問には答えたいけど、私が知っている全ての事を説明しようとすると」
何か言おうとするがえずくようにストップが掛かる。何回も。
陽一:
「無理しないで、玲佳。いいんだ、いいんだよ。何も言わなくても」
玲佳:
無理して微笑む。
「……いつになるか分からないけど、ここに戻ってくるから。そして君の世界にずっといるから。また会う日まで元気でいて。戻ったらスマフォに連絡する。その時は、そうねえ『麗しの図書委員より』と書いて送るから。これでいたずらじゃないって分かるでしょ?」
陽一:
足元に水滴が落ちて染みができる一方で笑っている。
「また会える日まで玲佳も元気で。さよならは言わない」
玲佳:
「うん。男の子らしくていいね。じゃあ、またね」
笑ってマンションの自動ドアの奥へと入って行った。
(MUSIC)F/O
陽一:
振り返らない玲佳の姿を見送ると天を仰いだ。
しばらくしてヘルメットをかぶりバイクの電源を入れてヘッドライト、ディスプレイが点灯すると去って行った。
玲佳:
エレベーターの中で涙を流している。エレベーターが止まりそうになった時涙を拭って一歩を踏み出した。




