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私達の最良の時/私達は幸いなる少数  作者: MV E.Satow maru
第3章 私達は幸いなる少数
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2021年12月(2)

古城こじょうミフユ


 翌日は10時から全体リハーサルだったので9時30分には楽屋に入った。昨夜は三宮のホテルが手配されていた智絵美ちえみちゃんを除くティエンフェイのメンバーは8時に寮のエントランスに集合した。外へ出ると雲一つない快晴。気温は零下近くまで下がったようで寒さはあったけど清々しかった。そんな青空の下を私達は歩いて阪神電車の駅に向かった。


 いつもなら高校生でいっぱいになっている狭いホーム。日曜日の朝なので閑散としていた。中谷ちゅうやちゃんとふーちゃんが何か話をしているのを横目に私は朱里しゅり先輩を見た。メンバー唯一の先輩ながらいつも1つ下のメンバーに合わせてくれている。


朱里しゅり先輩、昨日は寝れました?」

「ん。緊張ならしてるけど寝た。緊張でリハの演奏の集中力半端なかったから疲れてたんだなあって起きた時に思った」

「先輩、昨日だっていつもの通りに見えてましたけど」

「表向きはね。そういう冬ちゃんだってそうだったんじゃないの?」


それは図星だった。


「ええ、まあ、そんな感じですね」


 そこに中谷ちゅうやちゃんとふーちゃんが顔をツッコんで来た。中谷ちゅうやちゃんは威張っている風に笑いながら言った。


「なら、みんな、今日は大丈夫だよ」

中谷ちゅうやちゃん、その根拠なき自信は少し分けて欲しいな」


朱里しゅり先輩がそう言って苦笑するとそれがきっかけでみんなで笑った。


 全体リハは各曲の入りの確認と昨夕の通しリハで指摘や変更があった点をさらって1時間ほどで終えた。楽屋に戻りケータリングのお弁当を食べた。


 衣装着替えとメイクは14時から掛かる予定だったので少し時間が空いた。

 智絵美ちえみちゃんは何か思い詰めた表情をしていた。そして立ち上がると中谷ちゅうやちゃんに近寄って何か相談していた。中谷ちゅうやちゃんは最初ヘラヘラしていたけど途中からそんな態度を打ち消して真剣な表情で智絵美ちえみちゃんに頷くとみんなに向かって言った。


智絵美ちえみちゃんが遠くないなら行きたい所があるというんだけどみんなで行かない?みんな早食いだからさ、タクシーで行けば往復する時間はあるし」


朱里しゅり先輩が慌てて言った。


「ちょい待ち。行きたい所ってあの子の所だよね。みんなで行くのはいいけど、ちゃんと琴乃さんやスタッフには居所は伝えておかないと」


朱里しゅり先輩はスマフォで琴乃さんを呼び出して事情を伝えた。


「……はい。遅くとも14時には戻ります。タクシーで移動しますから。……ええ、あの子には必ず伝えます」


朱里しゅり先輩はスマフォの電話を切った。


「琴乃さんも了解って。全員スマフォは忘れず持っているよね?じゃ、駅でタクシー2台捕まえて行きましょう」


 三宮駅のタクシー乗り場で2台のタクシーに分乗した。先頭は中谷ちゅうやちゃん、ふーちゃん、朱里しゅり先輩、2台目に私と智絵美ちえみちゃんが乗った。

地元の子である中谷ちゅうやちゃんの先導でタクシー2台は阪神高速神戸線経由で芦屋の山の方にある公園のような場所に到着した。

 タクシーが門近くで一度止まるとふーちゃんと中谷ちゅうやちゃんが降りて売店で花を買ってすぐ車内に戻るとタクシーは急傾斜の狭い道を登って行った。


「こんな山の中なんですか」


智絵美ちえみちゃんが驚いていた。


「春は桜がきれいだし素晴らしい風景はいつでも見られる場所。今の時期だとどこまでも遠くが見える。だからあいつも私達の事を見ていると思う、そう思う事にしてるけど」

「けど?」

摩耶まーやが作った『Finest hour in my life』のモチーフになった映画って死自体には意味はない、それに意味を持たせて見せるのが映画であり、だから人は熱狂するんだってそんな事を登場人物が言うのよね」

「そういう事ですか」

「私自身、摩耶まーやがいなくなった事をどこかで受け入れてないんだなあって思う。そして今回のシネマ・コンサートでそれを他の人達にも広げる事になるのかな」

「でも、それって良い事ですよね?」

「そうね。残された私達に出来る事はいなくなってしまった人の事を忘れない事なんだなって思う。その事自体に躊躇はないから」


智絵美ちえみちゃんは安堵の表情をしていた。


 タクシーはちょっとした広場兼駐車場になっている所に入って停車した。そこには私達のタクシーの他に乗用車がステーションワゴン車が一台停まっていた。


 私達は車を降りると備え付けのバケツに水を汲んで目的の場所へ向かった。そこには先客の50代ぐらいのご夫婦がいて花が生けられたお墓の前で手を合わせていた。摩耶まーやのご両親だった。

摩耶まーやのお母さんが私達の来訪に気が付いた。


皆美みなみちゃん、ティエンフェイの皆さんで来てくれたのね」

「はい。智絵美ちえみちゃんが公演前にお参りしたいって言うので案内してみんなで来ました」

「ありがとね。あの子も喜んでいると思うわ」


摩耶まーやのお父さんも隣で頷かれていた。


 私達が持って来た花を供えていると摩耶まーやのお母さんが中谷ちゅうやちゃんを呼んだ。

摩耶まーやのお母さんは手元のハンドバッグからビロード地の装飾具ケースを取りだした。


「これ、あの子があの日に身に付けていたんだけど、皆美みなみちゃん、嫌じゃなければポケットに入れてくれたらうれしい。あの子、これを付けて歌うつもりだったと思うから。あなたが代わりに持っていてくれる?」


 摩耶のお母さんはそっとケースを開けた。それは摩耶まーやの四分音符のネックレスだった。


「おばさん、身につけて行きますから私の首に付けてくれますか?」

「いいの?」

「もちろんです」


 中谷ちゅうやちゃんが後ろを向くと摩耶のお母さんが彼女にそっとネックレスを付けた。

中谷ちゅうやちゃんは摩耶まーやのご両親の方へと向くと言った。


「このネックレスで、摩耶と一緒にってきますから客席から摩耶を応援してあげて下さい」

「ありがとう。皆美みなみちゃん。観に行くから頑張ってね」

「はい」


ご両親は私達の方を向いて挨拶されると静かに二人肩を寄せ合って車を停めている広場の方へと戻って行かれたのを見送った。


 私はちょっとした事を思いついた。


「ねえ、帰る前に円陣組もうよ」

「あ、ナイス・アイデア」と朱里しゅり先輩。

「やろうよ」とふーちゃん。

「それは私が言いたかったわ」と中谷ちゅうやちゃん。


そう言い合うと私達は円を組んだ。

智絵美ちえみちゃんはそこに入っていいのか迷っているみたいだった。

朱里しゅり先輩がそんな智絵美ちゃんに声を掛けた。


智絵美ちえみちゃんはもうティエンフェイの正式メンバーに決まってるじゃない。それとも嫌?」


智絵美ちえみちゃんは全力で首を横に振った。


「そんな事ないです」


そういうと彼女も円陣に加わった。私、智絵美ちゃん、朱里しゅり先輩、ふーちゃん、中谷ちゅうやちゃん。そして私と中谷ちゅうやちゃんの間は空けた。これは言うまでもなく摩耶まーやの場所だった。


「言い出しっぺの冬ちゃん、号令を」


朱里しゅり先輩は珍しく先輩として指示を出してきた。


「はい、朱里しゅり先輩。……みんな、右手を出して重ねて。我ら、ティエンフェイ、オーって感じで手を跳ねあげて下さい」

『了解』


私は深呼吸して叫んだ。


「我ら、ティエンフェイ」

『オー!』


みんなの右手が高く空に舞った。見上げた空にあった太陽が眩しかった。

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