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私達の最良の時/私達は幸いなる少数  作者: MV E.Satow maru
第3章 私達は幸いなる少数
58/79

2021年8月(2)

古城こじょうミフユ


 お盆明け早々、呉から直接神戸に戻った。


「ティエンフェイのみんなでもう一度話し合う事になったから」


 そういう話を居間で家族に言ったらミアキが「その方がいい!」なんて言ってくれた。


「私のアドバイスのおかげだよね!お姉ちゃん」


というのは蛇足だったけど。


 みんな、同じ気持ちだったらしく23日月曜日には神戸に揃っていた。


 18時、カラオケ居酒屋に集合、そう朱里しゅり先輩からメッセで連絡が回ってきた。中谷ちゅうやちゃんやふーちゃん、私が先に到着。朱里しゅり先輩が予約してくれていた個室で待っていると意外な人が最後にやって来た。


朱里しゅりさんからみんな集まるって聞いて、顔出してもいい?って聞いたらどうぞって言われたから」


 それは琴乃さんだった。朱里しゅり先輩はみんなからの視線から目を逸らしていた。この策士な先輩が琴乃さんに連絡してきてもらったとしても驚かない。

 中谷ちゅうやちゃんが言った。


「琴乃さん、ごめんなさい。とりあえず私達で話し合いたいんですけど」


 朱里しゅり先輩はみんなを見渡していった。


「私達がもし集まる機会があるならその時、少し状況説明したいって言われたから。ね、話を聞こうよ」


私達はみんな顔を見合わせた。朱里しゅり先輩の言う通り、頭ごなしに拒否するような事ではなかった。


 琴乃さんは口元を少し緩めた。


「私が今日来たのはみんなに関わってもらった映画について報告と話したい事があったから。少しだけ時間頂戴。終わったら席は外しますから」


そして琴乃さんの話から始まった。


「映画はロングランの大ヒットになりそう。これはみんなの音楽があったから。あと一番大きかったのは『 Finest hour in my life』のおかげ。摩耶まーやさんの曲と歌詞の力です。感謝してます」


琴乃さんは私達一人一人を見回した。


「その上でお願いがあるの。『Sync.Thread』は音楽に支えられた映画だって新山監督は言ってくれている。その事もあっての話なんだけど、シネマ・コンサートって知ってる?」


私は知らなかったので、他のメンバーの方を見たら、ふーちゃんが右手を少し上げた。


「映画を上映しながら音楽はその場で演奏する奴でしたっけ?」


頷く琴乃さん。


「ご名答。だいたいはそんな感じ。『Sync.Thread』でもそういう上映会を出来ないかって話があって、オーケストラの人達も乗り気。ホーちゃんたちブラス・フリートとコメット・ストリングスの子達も同様だったから企画調整している」


事情は飲み込めた。朱里しゅり先輩は強い目線で琴乃さん見つめた。


「映画の契約にコンサート関係の条項があったと思いますが、私達ティエンフェイが出られない場合はそちらが別のバンドを立てて演奏できる事になっていたと思いますけど」


琴乃さんは頷くと朱里しゅり先輩の目を見返した。


「そうね。確かにそういう条項はあるし。でもね、映画の主演声優の子達は自分の役の歌をカラオケで歌っているみたいだったから、ひょっとして彼女達で歌うつもりがあるのかって話になったんだけど、そうしたらあの子達はまずティエンフェイの人達に聞いてるんですよね?って言うのよね。あれは摩耶まーやさんとティエンフェイの音楽だから、それを無視して人前で歌う気はないって言われた」


去年8月の録音は作画前に行われた。声の録音は今年2月から3月にかけてされたそうなので私達は声優の子達とは会っていない。


「シネマ・コンサートはやると言っても早くて12月になる。出てくれるなら私はティエンフェイをバックアップするから」


朱里しゅり先輩が代表して聞いてくれた。


「なんで、そこまでしてくれるんですか?」

「それは摩耶まーやさんの『Finest hour』への羨望からかな。私はあの歌が大好き。仮歌でビデオコンテに入っていてもうそのままで行きたいから交渉しましょうって監督にも言った。映画音楽の作曲家としてはある意味負けだよね。でも映画にあまりにもピッタリだった。何故私の所に降りてきてくれなかったのかと妬むぐらいにね」


琴乃さんは私達1人1人を見回して言った。


「私は世の中に知られるべき仕事ってあると信じている。そういう人や作品を檜舞台に上げるプロデューサーの仕事も嫌いじゃない。あなた達は今後どの道を行くか分からないけど、ティエンフェイに関してはもうアマチュアではなくプロフェッショナルの音楽家だと思ってます。そして摩耶まーやさんの仕事を世に知ってもらうための演奏が出来るのは彼女をよく知っているあなた達しかいない」


私は自分の手を見ていた。下を見ていちゃいけない。そう思って琴乃さんの方を向いて彼女の目を見つめた。


「私達が断ったらどうします?」


琴乃さんはちょっと苦いものを飲み込んだように見えた。


「その場合、シネマ・コンサートの企画で代役を立てるか、あなた達の歌だけ音源再生するか、それとも中止にするかというような事は検討すると思う。私としてはあなた方が出演してくれたら嬉しい。でもその決断はあくまであなた方のものでそれは尊重します」


琴乃さんは言いたい事は言ったらしく、もう一部屋借りて歌ってるから結論出たら呼んでと部屋を出て行った。


 ドアが閉まると私達は顔を見合わせた。朱里しゅり先輩が切り出した。


「まず、方向性確認しておこうか。みんな、摩耶まーやの音楽をやりたいんだよね?」


頷く私達。


「コンサートの話は摩耶まーやの曲を広く知ってもらういい機会になると思うけど、この点に異議はあるかな?」


私達全員が首を横に振った。


「じゃあ、コンサートの話をやるという前提で検討でいい?」


私達はみんな首を縦に振った。


 とはいえ問題は少なからずある。だから朱里しゅり先輩は「検討」と言ったのだ。例えばギター。摩耶まーやは上手かった。摩耶まーやが喉の手術で歌えず私が代理ヴォーカルで入った時もギター奏者としてステージに立ち続けた。ギターで代役を立てた事はないのだ。


ふーちゃんが言う。


「ソロ組合のメンバーをリクルートする?ギター出来る人はうちがサポート奏者で他のバンド手伝った時に何人か一緒に演奏もしてきたけどちょっと物足りないかな」

「それじゃダメじゃん」


容赦なくツッコむ私。

すると朱里しゅり先輩がいきなりトートバックからノートを取り出した。どうやらメモを取っていた事があったらしく、それを見たかったらしい。


「あー。それねえ。琴乃さんから提案は受けてる」

『えー』


先輩、それは先に言おうよ。


「ごめん、ごめん。言うタイミング今までなかったし。ほら、メッセでやり取りした日、たまたま琴乃さんから連絡をもらって少しやり取りしていた時に主演声優の子の一人、カラオケで歌ってるって子ね、がギターも練習してるから、もし候補がいないならセッティングは出来るって言われて、で、集まる話をしたら行くからねって」


今日のハプニングゲスト琴乃さんっていうのはそういう流れだったのか。時間も限られているし、映画の声優の子だったら当てにしてもいいような気もするので、問題点だけはっきりさせなきゃ。


「声優の子のマネジメント関係は気になるけど、このあたりは琴乃さんとレコード会社に頼るしか無くなるけど、朱里しゅり先輩はそのあたり聞いてます?」

「練習はコンサートまではやりくり付けさせる算段は出来るみたい。あと契約条件は交渉が必要できちんとした形にはまだなってない。ただどちらにせよオーディションはしてくれって向こうから条件が付いてる。要するに私達と会って演奏できるかどうかは確認して欲しいって本人から要望は出てる」


朱里しゅり先輩は最後のボールを投げた。


「で、どうする。一応問題になりそうな点は埋まってると思うけど、GOかNO GOか言って。北見朱里きたみあかりは勿論、GO」

「比嘉ふみよ、GOだよ」

「古城ミフユ、GO。私は摩耶まーやの曲を歌いたい」

「……ええい、夢にまで出てきてあいつに説教されたくないから、中谷皆美なかたにみなみ、GO」


「……GO!とっとと行け!ティエンフェイ」


 中谷ちゅうやちゃんが「GO」と言った直後に誰かにそう言われた気がして思わず見回してしまった。他の3人もやはり部屋を見回した。

 あの子は、あの子と同じ時間を過ごしてきた幸いなる少数である私達1人1人の中にいる。多分そう信じたいだけなんだろうけど、そう信じる。


 納得いく結果を朱里しゅり先輩は得られたらしい。心なしかきがはれたかのような明るさで「琴乃さんを呼んでくるわ」と言って部屋を出て行った。


 戻ってきた琴乃さんは私達の顔を見た。そして微笑んだ。


「私も精一杯手伝わせてもらうから。また、よろしく」


みんな一斉に力強く答えた。


『はい』


 そしてギターの子のオーディションの話を進めてもらうようにお願いした。


 琴乃さんから最後に一つだけ要望が出た。


「コンサートの最後の曲としてティエンフェイの新曲を書いて欲しい。『Finest hour in my life』に対するアンサーソングを作って欲しい」


中谷ちゅうやちゃんが急に立ち上がった。机が揺れる。机の上のお酒とか飲み物が少しこぼれた。


「私が詞を書きたい」


摩耶まーやに対してまず語るべき言葉を持っているのは姉妹同然に育った中谷ちゅうやちゃんしかいないと思う。当然、みんな賛成した。


「じゃ、曲はまず私が書く。摩耶まーやに負けないアンサーソングを書くよ」


そう宣言したのはふーちゃんだった。

こうしてティエンフェイは再び走り出した。


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