2021年3月20日土曜日 10時50分
西田摩耶
ふーちゃんにも言ったけど私の実家は阪神電車で御影駅から2駅ほど三ノ宮よりの所にあった。駅を出て北へ20分ほど歩くと実家のあるマンションに着いた。六甲キャンパスにほど近い。実家に帰る時は山登り、出る時は結構早歩きで降りていける。
見通しの悪い場所にある信号のない横断歩道にさしかかった。「危険」とか看板出ているけど、片側一車線道路で飛ばして通っていく車は多い。冬ちゃんはこういうのはしっかり守っていて安心だけど世の中、冬ちゃんのような運転する人ばかりではないのだ。
左右確認してさっさと渡って少し歩くとマンションに着いた。
鍵は持っているけど両親が驚くと困るのでチャイムを鳴らした。
「はーい。どなた?」
お母さんだった。
「摩耶です。鍵は持っているからいいよ」
鍵を開けて玄関から入って自分の部屋へ向かうと母が「あらら」と私の様子を見に廊下に出て来てくれていた。
「急に帰ってきてどうかしたの?」
「うん。今日、公会堂でライブ出演するんだけど付けようと思っていたアクセサリーを部屋に置いたままにしてたから」
「お昼、食べていける?」
「ごめん。もう引き返さないと。あっちで弁当出るしリハもあるから」
「慌ただしいわねえ。また皆美ちゃんとかバンドの子を連れて来なさい。ご馳走したいし」
「分かった。また連絡するし。ごめんね」
アクセサリーは姿見の脇に置いているアクセサリー入れに入っていた。それをさっと身につけると母に見送られて家を出た私はライブ会場へと引き返した。
中谷ちゃんは幼馴染みでご近所さんだった。母にとって私の交友関係で一番なじみのある子なんだよね。
駅まで20分、電車10分で着くから40分見ておけば大丈夫なはず。そんな事を思いながら見通しの悪い信号のない交差点に差し掛かった。
左右見て車が来ない事を確認して渡った。渡り切ったところでふと予備のギターのピックを家に置いていたのを思い出し、念のため持っていこうかなともう一度左右を確認してマンションに引き返そうと渡り始めた。
すると見通しの悪いカーブから猛スピードの車が走って来た。私は目を見開いた。逃げようにも車が早すぎた。間に合わない事だけは直感で分かった。急ブレーキ音が聞こえた。
「こういう時は何も出来ないんだな。中谷ちゃん」




