2020年冬
古城ミフユ
8月は映画の音楽収録で終わった。東京から神戸に戻ると9月から学校再開。その合間を縫ってブラス・フリートとの新曲をビデオミーティングでやり取りしたりお互いの地元ライブに一部メンバーを交互交流で客演させたりし合った。
秋の連休、ホーちゃんとコメット・ストリングスの第1ヴァイオリンでバンドマスターの薫子ちゃんが神戸に遊びにやって来た時はティエンフェイのライブに出てもらったりした。この時はスケジュールの都合がついた私と摩耶が翌日2人の神戸観光を案内して回った。
「ほえー。練習船なんて持ってるんだ」
「しかも専用港だって」
深江キャンパスの港を見てホーちゃんと薫子ちゃんが目を見開いていた。ホーちゃんが海を指差して言った。
「で、飛行艇まであるの?すごいねえ」
摩耶は手を振って否定した。
「飛行艇の工場が隣にあるからだよ。あれはうちのキャンパスじゃないから」
薫子ちゃんは手元のスマフォで波を蹴立てて航行中の飛行艇を撮っていた。エンジンの轟音が響いていた。
「こんな学校があるなんて知らなかったな」
スマフォで撮った写真をチェックしながら薫子ちゃんが言った。
ちょっと得意げな摩耶と私。摩耶が東京の学校との違いを説明した。
「東京だって海事大学があるよ。あちらも商船大学と水産大学が合併してできた学校なんだけどいわば双子の姉妹。大学施設として港もあったはず。悔しいけど船の数は東京の方が多くて水産学とか含めたら4隻体制だったかな」
続けて私が付け加えた。
「うちは深江丸だけだからさ。最近はあまり港にいないんだけど、5月の大学祭ならまず確実に体験航海やってるからその時期来てくれたら楽しめると思うよ。船長もめっちゃ面白い人だからさ」
大学キャンパスを出ると借りておいたレンタカーで六甲山へ案内した。私が運転して芦有ドライブウェイ経由で東六甲展望台へと着いた。ちょうど夕暮れ時だった。4人で車を降りて展望台からの美しい神戸の町並みと瀬戸内海の光景を楽しんだ。
「呉に似てるんだよね」
ふと、そんな言葉が口に出た。すぐ3人が食いついてきた。
「冬ちゃんのお祖母ちゃんの家があるんだったっけ、呉」
「人口は神戸の何分の一かしかない街だけどその分密度が濃いかな。あと山が神戸以上に近いし」
「へー。そういう所ならブラスとうちのストリングスのみんなで遊びに行きたいねえ」
「いや、そういう事なら広島でティエンフェイも入れて合同ライブやろうよ。あの仕事の行く末、案外わかんないよ?」
強気のホーちゃん。いや、それってチケット売れるあてはなさそうだからちょっと無理じゃないかな。
山を降りるとレンタカー屋さんに車を返して阪神電車で元町へ向かった。朱里先輩が夜にバイト先の中華料理店に来たら安くしてあげると言ってくれていたのだ。中谷ちゃん達もそこで合流する予定だった。
次の行き先を告げた時、朱里先輩と仲良くしていた薫子ちゃんは目をキラキラさせて言った。
「ねえ、ねえ。それってひょっとして朱里ちゃんの仕事着がチャイナドレスとか?」
朱里先輩の言われたお店はそういう高級かつ何か間違えた方向性のお店ではなく普通にきちんとした中華レストランだった。お店に入るとサッと黒蝶ネクタイの男装の麗人がやってきた。朱里先輩だった。
「いらっしゃいませ。ああ、君たちか。取ってある個室に案内するよ。もう他のみんなも来ているから」
朱里先輩も1時間ほどでバイトを終わって宴会に合流してティエンフェイの面々でホーちゃんと薫子ちゃんと大宴会となった。珍しく摩耶もはしゃいで盛り上がった。
この最中にふーちゃんのスマフォが鳴った。ほろ酔い加減のふーちゃん、大慌てでスマフォをバッグから取りだした。
「はーい。比嘉です……あ、ご無沙汰してます。今、ホーレイシアさんと薫子さんがこっちに来ていて」
中谷ちゃんが絡み酒。
「ふーちゃん、誰なのよ、ねえ、誰?」
ふーちゃんはスマフォのマイク部分を手で押さえた。
「うるさい、中谷ちゃん。琴乃さんからの電話なんだからちょっと待って」
一同、この一言で静かになった。
「はい。すいません。ちょうど食事会していて……」
1分ほどふーちゃんは琴乃さんの話を聞いていた。
「分かりました。……はい。なるべく早く返事はします。それでは失礼します」
ふーちゃんはスマフォの電話切断を確認するとバッグに戻した。
電話中、聞くのを我慢していた中谷ちゃんが聞いた。
「で、ふーちゃん。一体何なの?」
「えーとね。琴乃さんが2月からライブで全国回るんだって。で、3月に神戸でやるけどティエンフェイで出ない?って話。日程とか確認しないとダメだから詳細はメールしてもらえるから内容確認して受けるか返事しますって話なんだけど」
中谷ちゃん、グラスのビールを飲み干すとグラスを机に置いた。
「そりゃ、前向き検討一択!」
「だよねえ、中谷ちゃん。他のみんなはどう?」
「その方針で良いよ。日程さえ合えば出ようよ」
朱里先輩の一言でティエンフェイはまとまった。
今、思えば最良の時だったと思う。




