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私達の最良の時/私達は幸いなる少数  作者: MV E.Satow maru
第2章 千切れる糸
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2020年8月(4)

古城こじょうミフユ


 お盆の間は川崎の実家で過ごした。呉のお祖母ちゃんが私達の顔を見たいと上京して来てくれて一緒に過ごす事が出来た。

 高校の同級生からは陽子ちゃんや司くんから「(音痴なのに)奇跡の歌声」という評判を聞いていてこっちでライブしないの?と聞かれた。無論しないよって言いたかったけどお祖母ちゃんには一度聞いて欲しいなと思ったのでメッセで摩耶まーやを呼び出した。


ミフユ:ちょっと相談に乗って欲しいんだけどいいかな?

摩耶:どうかした?

ミフユ:お祖母ちゃんが上京して来てくれたんだけど一度歌を聞いてもらいたいなあって思ったんだけど

摩耶:で、どうしたい?

ミフユ:みんな実家に戻っているしどうしたらいいかなって

摩耶:うーん。練習用のカラオケ音源を使うか誰かサポート演奏頼むか、かな

ミフユ:だよね。うちの高校、軽音楽部なんてなかったし。

摩耶:ブラス・フリートの人に相談したら?そっちの人達でしょ。ロハではいかないだろうけどさ。誰か紹介してくれるんじゃない?で、ライブハウスか貸しスタジオでやればいいんじゃないかな。

ミフユ:ナイス・アイデア。ありがとう、摩耶。

摩耶:どういたしまして。じゃあね。


 ホーちゃんに相談してみたら二つ返事だった。


「私達がよく出ている貸しスタジオ、休みなしだから使えるかな。楽器演奏?私はキーボードが出来るからそれでギターパートの代わりをして後は光にベースを持たせて、うちで頼んでいるドラマーの子が空いていたらやって貰えばいけるんじゃないかな。楽譜あるんだよね?……え、休み?良かったねえ。遊びに行く予定吹っ飛んだから練習しようっと思ってたし面白そうだからるよ」


 こうしてお盆休みに私の高校時代の友人とお祖母ちゃんたち家族を招待したミニコンサートを開く事になった。幸いホーちゃんに達の使っている貸しスタジオは小田急線の沿線にあったので川崎市在住の友人達も行きやすかったの有り難かった。


 朝一番、招待した人達が来る前に普段はトランペット吹きだけど私との演奏ではキーボードのホーちゃんと普段はトロンボーンだけどエレキベースの光さん、そしてブラス・フリートのサポートドラム奏者の平河野梨花ひらかわのりかさんと私はスタジオに入ってリハーサル。

 三人が初めてる曲は1曲だけだったのでそこを重点に練習。プロを自任する人達なので最初から完成度の高い演奏をしてくる。二人は普段の楽器じゃないのにこれだものスゴイ。


 昼過ぎ。開場時刻になった。三々五々招待した陽子ちゃんや肇くんたちがやってきた。勿論、お祖母ちゃんもお父さん、お母さんとミアキと一緒に来てくれた。もう良い年齢だけどまだまだ余裕矍鑠。


「さてさて、冬ちゃんの歌はとってもたのしみやねえ」

「ははは。期待に添えていたら良いけど」

「冬ちゃんなら大丈夫」


 そう言ってお祖母ちゃんは微笑んだ。


 さあ、いよいよ本番。マイクスタンドの前にはお婆ちゃん達や陽子ちゃん、肇くんら友達がパイプ椅子に腰掛けていて一瞬緊張。


「お姉ちゃん、お姉ちゃん。リラックマ」

「それ何よ、ミアキ?」


ニッコリ笑ってミアキが叫んだ。


「あ、違った。リラックスだった」


スタジオの中はみんなの笑い声で包まれた。私も緊張が解けた。


「ありがと、ミアキ」


ようやく自然な表情でみんなを見る事が出来た。


「……今日は私の拙い演奏会に来て頂いてありがとうございます。大学1年生の冬にふとした縁でティエンフェイに参加する事になりました。2年生になってホーレイシアさん達とも一緒に演奏する機会があって今日は演奏で来てくれてます。ホーちゃん達は学生とプロ演奏家という二つの顔を持っていてブラス・フリートという金管クインテットをやってます。私の歌の後でホーちゃん達の音楽も聞けますから楽しんでいって下さい。じゃあ、まずは私から。ティエンフェイらしい一曲、Polar Star、行くね」


 私がホーちゃん達に向かって頷くとドラムの野梨花のりかさんがスティックとペダルが奏でるリズムが響き始めた。そこにホーレイシアのキーボードがギター代わりに加わり、エレキベースを普段はトロンボーン吹きの光さんがメロディーを奏で始めた。私はスッと息を吸い込んで歌い始めた。


『Polar Star』、『天妃ティエンフェイ』、『U・W』、『Around the World』と四曲続けて歌い終わるとみんな拍手してくれた。私は足下のペットボトルの水を一口飲んだ。


「ありがとう。みんな。じゃあ、改めて今日のメンバー紹介します。ドラム、平川野梨花ひらかわのりか


 野梨花のりかさん、盛大なドラムの乱れ打ちで応じて観客に軽く会釈した。彼女はホーちゃんと同じ大学の学生でブラス・フリートでパーカッションパートが必要な時、サポート奏者として入っているドラムの手練れの人だ。


「ベースは普段はトロンボーン吹きなんだけど今日は特別に楽器を持ち替えてくれた井上光さん、フロム、ブラス・フリート」


 光さんはブラス・フリートのマネジメント面を支えている中核人物の一人。彼とホーちゃんが大学入学した長後、光さんがトロンボーンを練習していてホーちゃんがトランペット片手に演奏勝負を挑んで(なんで?)、お互いに罵倒し合って、そして大笑いしながら手を結んだのがブラス・フリートのおこりらしい。熱いねえ。光さんの見事なベース即興演奏の弦さばきを聞きながらそんな事を考えた。


「そしてトランペットを置いてキーボードを弾いてくれているのはホーレイシア・コリングウッドことホーちゃん、フロム、ブラス・フリート」


 ホーちゃんの左右の指がキーボードを跳ね回り超絶技巧を見せてくれた。うへえ。この人、トランペットだけじゃないのかって感じで思いっきり見とれてしまった。


 おっと、そんな事している場合じゃなかった。


「さあ、私の歌はラスト1曲。摩耶まーやが作った最高傑作。私の大好きなFinest hour in my life、いっけー」


 始まったキーボードとエレキベース、ドラムの合奏の奔流に私も歌で流れ込んだ。


 Finest hourの演奏が終わるとみんな大拍手。その中でもお祖母ちゃんはとっても喜んでくれていたのはその表情で分かった。とってもうれしかった。


 この後、ホーちゃんと光さんはそれぞれトランペットとトロンボーンに持ち替えてドラムの野梨花のりかさんの三重奏でブラス・フリートの楽曲を3曲ほど披露してくれた。メインの楽器だと二人とももっと凄かった。


 演奏会が終わると持ち込みのソフトドリンク類(大人の麦茶もあったかな)と簡単な軽食で立食パーティーになった。

 妹はホーちゃんにトランペットのマウスピースで音の出し方を教わっていた。

ホーちゃんと光さんから「ミアキちゃん、筋いいねえ」と褒められているけど、あの子、姉の私と違って音感はある子だから案外才能があるのかも知れない。


 陽子ちゃんや司くんから話を聞いて半信半疑だった友人たちはようやく二人が嘘を言ってない事を信じてくれた。いや、ほんと私は音痴だけど何もそこまで……。1年下で私の後の生徒自治会長になってくれた加美洋子ちゃんなんかは


「古城先輩はとても大好きで尊敬もしてました。でも高校時代のAround the World以外の歌はちょっとって思ってたのです。先輩、どういう魔法を使ったのですか?」


と真顔で言いだすし、何よ、もうって思ってしまったのはみんなには内緒だ。



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