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私達の最良の時/私達は幸いなる少数  作者: MV E.Satow maru
第1章 私達の最良の時
31/79

2020年5月23日土曜日 深江キャンパス音楽祭(2)

三重陽子みえようこ


 ティエンフェイの歌とギターやドラムの鳴り響く中で横でミアキちゃんが「やっぱりだ」と叫んでいる。

幸い舞台から遠い席しか取れてなかった。おかげで舞台上の冬ちゃんは私達には気付いてない。

肘で肇くんをそっとつついた。


「冬ちゃんって高校時代は『Around the World』以外の曲だとちょっと音程狂ってたけど」


はじめくんはさらりと分析してくれた。


「本人の努力もあったんだろうけどバンドの人達が練習法工夫してくれたんだろうね。実際、曲も合ってると思うし」


マミさんは何回か聞いているそうなので声援を送っていた。

こちらをチラッと見るとミアキちゃんと私達二人に謝って来た。


「冬ちゃんが歌ってるところライブハウスでたまたま見たのよ。その後、あの子からは口止めされてたから何も言えなくて」


 ミアキちゃんはマミさんに

「お姉ちゃんがいけないから。マミさんのせいじゃないです」

と力説していた。



古城こじょうミアキ


 お姉ちゃん、ずるい。やっぱり家族に報告すべきだよ。お父さんやお母さんだってこんなすごいお姉ちゃん見たら喜ぶのに。周りだってみんなお姉ちゃんの歌声聞き惚れてるし。



チセ


 さあ、きっかけになった私の好きな歌、『Around the World』バンドバージョンだ。

この曲は原曲のやさしさをそのまま編曲してくれていてキーボードのふーちゃんとベースの北見先輩がメロディを奏でてそれをギターの摩耶マーヤが優しく寄り添う演奏になっていた。


倫敦ロンドンから アメリカ 日本 中国と

 船に乗り 万里波濤 越えていく……」


 この曲は「バードさんの日本旅行記」というアニメ映画の主題歌だった。イザベラ・バードさんが明治初頭の日本を彼女と通訳の二人で旅をした事を映画化しているけど、彼女自身はアメリカや中国、朝鮮半島などいろんな世界を旅して記録を残した。その記録をつけるきっかけになったのは彼女の病弱な妹の存在だった。この歌はそんなバードさんの妹を思う気持ちも歌い込まれている。うちの妹は元気だし生意気だしって感じで本当に良かったわと思う瞬間でもある。


こうしてまた一曲歌い終わった。


 音楽を聴いてくれた観客の余韻を見計らって摩耶マーヤがMCを入れた。


「……はーい。『バードさんの日本旅行記』の主題歌、『Around the World』でした。チーちゃんが手を貸してくれる事になったきっかけの曲なんだよね」


頷く私。


「私が高校生の時に封切られた映画でしたけど、とっても好きで何回か見に行ってこの曲だけは自分で歌えるようになりたいと頑張ったら、カラオケ大会でドラムの中谷ちゅうやちゃんに目を付けられちゃいました」


後ろでドラムが早打ちして最後にシンバルが鳴った。振り返ると中谷ちゅうやちゃんが手を上げて笑ってるし。つられて観客席からも笑い声が上がった。


 場内が鎮まると摩耶マーヤが告げた。


「じゃあ、最後の曲になります」


「えー」という声が上がるのはうれしいな。


「チーちゃん」


そう摩耶マーヤが私に声をかけてくると左拳を軽く突き出してきたので、右拳で応えて軽くぶつけ合う。


私が後を引き取った。


「じゃあ、行くよ!『Finest hour in my life』」

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