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何でも屋。  作者: 燦々sunsun3さん
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何でも屋作ったわん。

会社を立ち上げることにした。会社名は何でも屋。そうその名の通り何でもやる何でも屋さんだ。しかし、社員は少数精鋭としてやっていく為、少ない。というか社長である俺一人だ。

 だから内容にもよるが、基本値段は高い。

 会社を始めて今日が初日。さあ、一体どんな依頼が待ち受けているのだろうか。

 ピンポーン。チャイムが鳴った。

 どこにでもあるようなビルの一室が俺の会社だ。

「もしもし、しもしも。何でもやってやっていらっしゃるでしょうか」

 若い女の声だ。

「はい。今日からやっています」

「良かった。チラシを見て来たんです」

 チラシ? 作ってないぞ。まあ、世の中には不思議なことがあるし、誰かのいたずらで勝手にこの何でも屋を宣伝したのかもしれない。

「では、ただいま玄関を開けますね」

 のぞき穴から、覗くと客の女が立っていた。すらっとした体系のモデル風の女。しかし仕事は、バリバリ出来そうなキャリアウーマンの雰囲気もどこか感じさせる。

 ガチャっ。

 俺はドアを開けた。すると手には何やらビニール袋を持っていて、ビニール袋からは悪臭が漂っていた。

「な、何ですかそれは?」

「す、すいません。詳しくは中で……」

 俺は女を部屋へと入れて、ソファーに座らせ、詳しく話を聞くことにした。

 「では、相談内容をお聞きしたいと思います」

「はい。実は……」

 女はどこか申し訳なさそうに言った。

 実はさっき道を歩いている途中でゲロを吐きたくなったんです。それでですね。もっていたビニール袋にゲロをしたんです。量としては500グラムぐらいでしょうか。

「なるほど。つまりそのビニールの中身はゲロだと」

「はい」

「しかしなぜ、その自分のゲロを持ち帰らずに、ここへと持ち込んだのですか?」

「ええと、それは。道の前方に知り合いを発見してしまったからなのです。迂回するとかなりの遠回りになるし、迂回した先でも知り合いとばったり出会ってしまう可能性も否定は出来ない。そしてどこかで知り合いが通り過ぎるのを待とうと思ったのですが、知り合いは誰かと長話をしているようですし。道端にゲロを捨てるのも気が引けるし。ゴミ箱もないし、トイレも住宅街なのでなかったので、どうしようかと途方に暮れていた所、電柱に貼られている何でも屋のチラシを発見したのです。ですが手書きで汚かったので、やっているのかどうかは疑問だったのですが、チラシ通り営業していて良かったです」

「うーん。チラシは張った覚えがないのですが、まあ営業していることには変わりないのでいいとしましょう。ではそのゲロを引き取ればいいのですね」

「ええ。お願いします。まあこの部屋のトイレに流せばいいだけなので無料でいいですよ」

「そ、そんな悪いですよ。ご好意に甘えてしまうのは。一応これは依頼なので名前は分かりませんがあなた様にお任せしたいと思います」

「ああそうですか。あ、申し遅れました。私の名前は黒井のりぞうと言います。お見知りおきを」

「は、はいのりぞうさん」

「ちなみに社員は私一人だけで私は社長でもあります」

「そうなんですか」

「では依頼料を頂きましょう」

「いくらですか?」

「話を聞いた時間とかもありますから300円でいいです」

「や、安いですね。ありがとうございます」

「それでご提案なのですが」

「は、はい」

「このゲロをネットオークションに出品してもよろしいでしょうか。あなたの顔は伏せて、体だけの写真を載せて」

「えっ、私のゲロを出品ですか?」

「ええ、あなたほどの美人のゲロならば欲しがるマニアが世の中には腐るほどいらっしゃると思うのですよ。この腐った世の中には腐った人間がたくさんいるものなのですよ」

「それは流石に困ります。抵抗があります」

「お願いします。お願いします。一万円あげますから」

「えっ、どういうことですか?」

「あなたのゲロを一万円で買い取らせていただけませんか。出品の権利を付けて」

「本当におっしゃっているのですか?」

「ええ。私はいつでも本気と書いてマジです」

「……分かりました」

「契約完了ですね。では先ほどの依頼料三百円を引いて9700円あなたにお支払いします」

「わ、わーい?」

「では、体の写真を載せてもいいと言う契約書と、写真を撮りますね」

「はい」

 写真を撮り終えると依頼主は帰って行った。

 早速買い取ったゲロをネットに出品した。しかしいつまで経ってもゲロは売れることはなかった。

 この日の売り上げマイナス9700円。

 思い出したけど、チラシを電柱に貼ったのは自分だというのをおぼろげながら思い出した。そう言えば会社を始める前夜、ワインを飲んで酔って、酔った勢いでチラシを張ったような記憶が……。やっぱり会社を始める前日で緊張していたんだろうなあ。

 ピンポーン。チャイムが鳴った。まだ営業時間にはなっていない。

 覗き穴を覗くと、そこには猫の姿が。何で猫が……っていうかどうやってチャイムを鳴らした?

 しばらく覗き穴から観察していると猫がジャンプをして猫パンチでチャイムを鳴らしていた。

 一度ならば何かの偶然がある、しかし二回目ならば偶然ではなく必然。そう思った俺は玄関を開けた。

 すると猫がにゃ~んと鳴いて、ゆっくりと歩きだした。

 どうやら俺をどこかへと誘導しようとしているらしい。

 俺は猫に「ちょっと待って」と言って、部屋に入ると、『ただいま外出中』の札をドアの外に紐でぶら下げて、鍵を掛けて猫の後を付いて行った。

 猫は階段を下り、道路へ出ると、公園方向へと向かった。公園は森林が多い公園で、アスレチック系の遊び場もいくつかあり、キャンプも申請すればそこですることが出来る広い公園だ。その公園の森の一角に猫は行くと、にゃ~んと言って、今度は早歩きでどこかへと行ってしまった。そしてしばらくすると激しい鳴き声が聞こえてきた。ふんぎゃ~、ぎゃ~、どうやら喧嘩をしているらしい。そして鳴き声が収まると猫が戻ってきた。猫は顔や体の至る所を怪我していた。

「にゃ~ん」

 そうか……俺はそこでようやく悟った。この猫は苛められているのだと。だから助けて欲しいのだと。

 俺は今猫が来た方向へと向かった。するとそこには猫ではなくて、ネコ科の動物の虎がいた。虎といってもまだ幼い虎だがしかし、それでも猫が虎に勝てるわけがない。というか何で虎がこんな所に?

 はっ!

 そこで思い出した。そうだ最近ニュースで虎の子供が動物園から脱走したとか聞いたことがある。まさかこいつが? 動物園の名前は聞かなかったが、この近辺にも動物園があり、そこには虎も飼育されている。まさかそこの虎の赤ちゃんがこいつなのか? 

 さぞかし母親と父親も心配していることだろうと思った。すぐに警察に電話をして虎を引き取ってもらうことにした。

 しばらくすると、警察が来て、虎を捕まえどこかへと行ってしまった。詳しい話を聞かれたけど、任意だったので、仕事の関係上断った。なぜならばまだ売り上げがマイナスなのでこのままではまずいからだ。

 さっ、依頼は完了した。帰るとするか。あっ、依頼料は……。

「にゃ~ん」

 猫が鳴いて付いてこいというので、付いて行くと、そこは誰かの家だった。

「まあ、ゴールデンタマ。どこへ行っていたの? 帰ってきたのね。嬉しいわ。心配したわ」

 どうやらこの猫の名前はゴールデンタマというらしい金の玉略して……おっと。

「まあ、あなたがこのタマちゃんを連れて来てくれたの?」

「連れて来たと言うよりは知り合って付いて来たというだけですけど」

「それでも一緒よ。私はこのタマを探して懸賞金をかけていたのよ。捜索願を出してね」

「そうなのですか」

「ええ、そうよ。だから懸賞金をあなたにあげるわ」

 い、いえ。と言おうと思ったけど金欠なのでありがたくもらっておくことにした。

「はいどうぞ」

 ドーン! と机に置かれたのは帯封。つまり100万円。

「遠慮なくもらってね」

 何か言う前におばあさんに言われ、そのままの流れで俺はおばあさんから100万円を受け取った。

 にゃ~ん。

 猫の鳴き声はありがとうという声に聞こえた。

 この日の売り上げ100万円。

 合計プラス99万300円。

 ドンドンドン! 部屋で寝ていたらドアが叩かれる音がした。そう俺はこの何でも屋の一室で寝泊まりしているのだ。ちなみに普段は俺と言う言葉遣いだけれど、お客の前では私と言う言葉に変わる。当然だろう。それがマナーというものだ。客の前でタメ口で話す人などいない。

「はいっ、どちら様でしょうか」

「依頼をしにきました」

 どこか甲高い声。覗き穴から片目を覗いて見るとそこには少年の姿が。

「何のご用件でございましょうか」

 子どもというのは時に無邪気で可愛いが、それが天使になる場合もあるし、無自覚ゆえの悪魔になる場合もある。更にはいたずらっ子の小悪魔になる場合もある。だから子供と言えども注意は必要だ。というか昔、近所の子供にピンポンダッシュを食らった経験がある故に、その苦い経験をどうしても思い出してしまうのだ。

「依頼です。お小遣いをはたいて依頼をしに来ました」

 見るとそこには札束を握りしめた少年の姿が。まあ札束と言っても千円札だが。しかし千円札で数万円分はあるように思われる。

「三万円あります。これは偽札ではありません。どうか僕の依頼を受けて頂けないでしょうか」

「……どのような依頼でしょうか」

「僕は勇者になって、あなたが僕の旅の友をして頂きます。そして魔王をやっつけるのです」

「魔王なんていませんよ」

「……いるもん。魔王はどこかにいるもん」

 少年の瞳には涙がじわっと浮かんでいる。

 いやいや、何だよこの子。

 俺はドアを開けた。

「ありがとう。依頼を受けてくれるんですね」

「いや、まあ話だけでも聞いてやろうと思ってね」

「うわーい」

 聞くと、この少年は異世界からやってきた勇者らしい。というか勇者の見習いらしい。そしてこの地球人は才能がある人がたくさんいるから仲間を募るべくやってきたらしい。

「それで、何でまた私なんですか?」

「えっ、だって何でも屋さんなんでしょ?」

「まあ、そうですが。それにしてもあなたの言う異世界で仲間を募ればいいではないですか」

 俺は話を合わせて聞き役に徹した。

「いや、異世界の魔王を倒すにはパーティーメンバーが別世界で集めなければいけないルールーがあるのです。今まで二人集めました。犬とキジです」

 ……いやいや桃太郎かよ。ってか俺は猿役?

「はあっ」

 思わずため息が漏れた。

「あっ、疑ってますね」

 そりゃあ疑うよね。

「あなたには戦士をやってもらいます。報酬は先ほど見せた三万円です。それと期間は異世界で十年ぐらいはかかると思いますが、それでもいいですか?」

「何を言っているんだい?」

「でも大丈夫です。異世界で経った時間はこちらに戻る時にもし魔王を倒したらあなたの肉体を今の状態に細胞を戻してあげるので。もし十年経って魔王がやっつけられなかったら諦めてあなたをこの星に送り返したいと思います」

「はいはいそうですか」

 だんだんと馬鹿らしくなってきた。というか十年拘束して三万円って流石、金のことを知らない少年だな。

「っていうか三万円は安すぎるよ。だって十年拘束なんでしょ。魔王を倒すってことは殺される可能性もあるわけだよね。じゃあ最低でも日給一万円は欲しいよね。つまり一年で365万円欲しいな。それで十年だから3650万円はないと依頼は受けられないな」

「……そうですか。分かりました。では何とかしてそのお金を作り出すとします。この肉体労働で得た金を資金源にして競馬で増やしてみようと思います」

「競馬? 当たるわけないっしょ。つーか。君みたいな少年は馬券買うのも止められると思うよ」

「大丈夫です。変身アイテムがありますから。それを使えば大人になれるんです」

「あっそう」

「ちなみに今日は競馬をやっている日ですよね。じゃあさっそく一レース目はもう始まっていると思うので、メインレースを当てて資金を増やしたいと思います」

「あっそう。行ってらっしゃい。どこの競馬場に行くの?」

「中山に行こうと思っています。今日G1やるんですよ」

「ふーん。少年にしては詳しいね」

「はは。あなたには8歳ぐらいに見えるかもしれないですが僕の年は20歳を超えています。僕の世界では平均寿命は500歳なのでまだまだ若造ですけどね」

「そっか」

 それ以上は追及しなかった。なぜなら少年が「では」と言って部屋を出て行ったからだ。

 そしてその日の夕方再び少年が戻ってくることになる。紙袋に現金を入れて。

「ああ、重たい重たい。なんてね。こう見えても勇者見習いなのでこれぐらいの重さ軽いもんですよ」

「ほ、本当にこの現金は本物か? まさか強盗なんてしてないだろうな」

「あっ、そう言うと思ってまだ一つ換金していない馬券を持っているんですよ。これ単勝で50万円かけたやつなんですよね。5番人気で100円で1000円になるので、500万円になりますよ。この馬券」

 日付を確認する。今日の日付だ。何かを細工したような形跡はない。つまりこの少年の言っていることは本当と言うことなのか? まさか本当に勇者? つーか、何で勇者に競馬が当てられる?

「あー、知らないんですか? 運の強さっていうのがあるんですよ。僕は勇者だからあなたに比べて100倍以上運が良いと思います。それはこの機械を使うと分かります」

 言って、少年はポケットからメガネ系の機械を取り出した。メガネをかけてみるとそこには何やら見慣れない文字が。どこかアラビア文字のような物がメガネの内側から光で明るく浮かんでいる。

「文字を読めないのであなたは分からないと思いますが、これを使うと自分の能力値を計ることが出来るんですよ。前使った人の能力値も分かるので、あなたの能力値をちょっとチェックしてみますね。ふむむふなるほど」

 少年は一人でメガネをかけながら、ぶつぶつと何やら呟いている。

「はい。ざっとですが確認しました。あなたの運の強さは12です。僕の運の強さは実は僕レベルがこう見れて18なので運の強さは600ぐらいあります。だから100倍あると思っていましたけどあなたの運の50倍しかなかったですね。私は。あなたかなり運がいい方なのではないでしょうか? 勇者見習いの僕の50分の1もあるんですから」

「運が良い?」

 そう言われて、色々と思い返してみるとまあ宝くじに10万円以上当たったのが5回はあるし、小中高も意外と運だけで受験のマークシートも成功したし、席順も自分のなりたい席になることが多かった。他にも思い当たる節はけっこうあった。

「どうですか? 心当たりあるでしょう? あなたは運がいいんですよ。まあ僕の50分の1ですけどね」

 イラっとする言い方だったけど、当たっているからしょうがない。別に変に誘導尋問されたわけでもないし、万人に当てはまる占いとも違う気がする。

「まあね。当たっているかもね。運が良いというのは」

「そうでしょう。で、どうしますか? ここにある僕が競馬で当てた4000万円とそのあなたが今手にしている馬券500万円分、計4500万円を差し上げますから、僕の依頼を受けてもらえますか?」

「えっ、当たり前でしょ」

 契約完了。

 現ナマを受け取った俺はそれを部屋に大きめの金庫に入れた。そうこんなこともあろうかと金庫は大きいのを買っていたのだ。そしてその時あることに気付いた。

「あっ、俺の体は10年後に戻っても、この世界は10年経っているっていうこと?」

「ああ、違います。時間の流れが違うから僕達の世界で10年はこの世界ではせいぜい一か月ぐらいですね」

「そうなのか。では家賃とかもろもろは別段心配ないな。では行くとするか。依頼の魔王退治に」

「ありがとうございます」

「それにしても魔王ってどんなやつなのだろうか」

「それは僕にも分かりません。魔王と戦って生き残った人はいないので」

「えっ、何度でも再生出来るんじゃないのか?」

「そうなのですが、死んだ時魔王に記憶を消されるらしいので覚えていないらしいんですよね。勇者」

「何かないのかな、ビデオとか録音の機器とか」

「魔王と戦ってそんな物が無事であるはずがありません」

「じゃあさ、カメラマン要員を連れて行けばいいのに影からひっそりとさ」

「それは良いですね。しかし人数の関係が……」

「人数? 魔王と戦うのに人数制限があるのか? 百人、千人、一万人の勇者で総攻撃をかければいいじゃないか」

「それがそうはいかないんですよ。なぜなら魔王の館に入るには一人ずつワープをしなくてはいけなくて、四人入ると、ワープゾーンが締め切られてしまうのですよ」

「へえ。じゃあ大きな服に二人こっそり入った場合はどうなのだろうか」

「うわっ、面白いこと考えますね。どうなのですかね。体重で決めているわけではなさそうですし、ですが、もしそんな姑息なことをして魔王の怒りをかったら魔王戦の時、あるいは魔王に辿り着く前に色々更に罠をつけられそうな気がしますね」

「いやむしろ魔王にやるではないか、と買われて手下に誘われるかもしれないぞ」

「はははっ。それいいかもしれないですね。魔王の手下になってそして夜に魔王の寝首をかく」

「そうなったら魔王との知恵比べだな。悪知恵対決ってやつか」

「そうですね。じゃあ考えてみますよ。カメラマン。しかしもうあなたでメンバーは四人集まったので誰かがカメラマン役をしなくてはいけなくなりますね」

「一旦魔王の館、城に入って魔王の姿を撮影してから、一旦脱出するっていうのはどうなんだ?」

「それが難しいんですよね。簡単には城から脱出することが出来ないと思います。なぜならばそれをやった勇者パーティーは今までいないからです。ということは僕達と同じことを考えた勇者はおそらくいたはずでしょうから、脱出は一旦、館に入ったら出来ないと考えた方が無難です」

「まじでか。じゃあ本当に魔王の城は鉄壁要塞って感じなんだな」

「そうですね。というか僕、魔王城の場所も知りませんし」

「えっ?」

「いやあ、本当に謎に包まれているんですよ。殺されて再生した勇者は魔王と戦ったという記憶だけが残っていて他の記憶は一切残っていないのです」

「じゃあ魔王がわざとその自分と戦ったという記憶だけを残したんだな」

「おそらく」

「あー、死にたくねえ」

「でもやるしかないですよ。契約したんですから」

「まっ、いいか。別に死んでもこの世界に戻ってくるだけだし」

「その通りです。しかし死ぬにしても真剣にやって下さいよね。僕達の世界の命運がかかっているのですから」

「それは大丈夫だ。俺だってプロだから、依頼された案件は真剣に命がけで行うぜ」

「それならば良いです」

「じゃあさっそく行くとするか異世界に」

「はい。ああ、ちなみに魔王を倒したら世界の女からモテモテでハーレムを築くことも可能ですよ」

「いや、俺異世界の女見たことないし、ハーレムとかあまり興味ないし。まあ気が合う女がいたら考えるけど」

「そうですか。まあそんな感じでじゃあ飛びますね。異世界に」

「ああ。本当に行けるならな」

「まだ疑っているんですか?」

「おい、何急に手を繋いでいるんだよ」

「ふふっ、もう終わりました。周りを見てごらんなさい」

 言われて俺は周りを見た。それは先ほどいた何でも屋の部屋の中ではなく、見たことのない木々が所々に生えている明るい陽が降り注ぐ外だった。

 「ここが異世界か。ふうっ酸素も地球と変わらないんだな」

「いえいえ、僕が魔法をかけてこの星に適応できるようにしました」

「それはどうも」

 ありがたみよりも、ぶっちゃけ好奇心と不安の方が大きかった。

「で、レベルとかあがるの?」

「いえいえ、レベルとかは上がりませんよ。ゲームとは違います。しかし強いモンスターとかを倒すと、肉が手に入ります。肉には新陳代謝を上げる線分とかが含まれていますから、食べれば代謝は上がり、筋肉も鍛えられます。まあレベルアップみたいなもんですね」

「えっ、それは肉を食べなくてはだめなの?」

「まあ基本そうですね。地球でも食べるのが基本でしょ? 食べなければ筋肉はつかないんです。あとはそうですね。錬成されたアイテムとか、魔法アイテムなんてものもあります。武器も金があればいいのが変えますよ」

「それはやっぱどこでもそうなんだね。でも勇者には安く売ってくれるのかと思ったよ」

「そうです。勇者割引というものは確かにあります。しかし僕はまだ勇者の見習いですし、実績もあまりありません。それに勇者でも実績によって割引の額が違います。国から認定されている国宝勇者の場合には国からの補助が出るので、三分の二ぐらい割引きされます」

「そうか。で君はどれぐらい割引きされるの?」

「僕は……一パーセントぐらいですかね」

 割と言いづらそうにいったので、少しだけ可哀そうな気持ちになった。

「まあいいや。所でここどこ?」

「ここは町から少し離れた冒険初心者の道と言った所でしょうか」

「ああつまり、あれね一番弱いモンスターが出る場所ね」

「平たく言えばそうです」

「ふーん。どんなもんなのかね、モンスター。そしてどうやって出てくるのかね。まさか突然光と共に現れたりしないよな」

「それはないです。モンスターも生き物なので。そして生き物故に魔王を倒すまでは全てのモンスターを刈りつくすのを法律で禁じられています」

「どうして? モンスターは根絶した方がいいんじゃないのか?」

「それはそうなのですが、例えば弱いモンスターを根絶させたとします。そして強い勇者が死んだとします。すると新たに勇者になる僕みたいな見習いは、弱いモンスターがいないとどうなると思います?」

「ああなるほど。そういうことか。弱いモンスターがいないといきなり強いモンスターと戦わなくてはいけないのか。じゃあまだ体も鍛えられていない状態で強モンスターと当たったら死んでしまう確率の方が高いね」

「そうなのです。だから魔王を完全に根絶するまでは、どんなモンスターでも一定の数を確保するべく保護しなくてはいけないのです。しかしやはりそこはモンスター。監視係を殺したり、脱獄したりすることもしばしば起きます。なので市民からは完全に殺せとの声も多く聞かれていて、政府も悩んでいるとのことです」

「そうか。色々モンスターのいる世界も大変なんだなあ」

「ええ、そうですね」

「それにしてもこの星にはいくつの国があるんだ?」

「それが魔法が栄えている星なので詳しくはよく分かってはいないのですよ。申し訳ないのですが。山の中にある城や透明化している城などもあり、町も地下にある街もあり、海の中にある街も伝説ですが存在しているとのことです。なので僕にも分かりません」

「科学はどのぐらい発達しているのだろうか」

「僕の生まれた国は地球と同程度あります。しかしピンきりで原始人が住むような国もありますし、爬虫類人間が住む国もあります。昆虫人間が住む国や、ゾンビ国、魔法使い国、など数えればきりがありません。科学も国によって大きく違います」

「すげえな。で、この星の大きさはどのぐらいなんだ?」

「地球の300倍はあると思います」

「さ、三百倍? す、すげえ。じゃあ納得だな。どんな人間が住んでいても。そりゃあ魔王も探すの難しいわけだよ」

「分かっていただけたでしょうか。そして魔王はこの星の全ての生物の悪の頂点に君臨するのです。しかし今の所表だった行動はあまり起こしていません。数年に一度、一つの国を壊滅させるぐらいです」

「表立った行動すげえ起こしてるじゃん」

「いやいや、数年に一度だったらまだそこまでの脅威は現実的には皆あまり感じてはいません。なぜならばこの星の国は僕達の国が分かっているだけで、10万はあるのですから。なので宝くじに当たるぐらいの確率なので、そこまで市民にとっては現実味がどこか欠けているのですよ。しかし魔王がいつ本格的に活動を開始するか分かりません。なので本格的に活動を開始する前に魔王を退治したいと言うのが、この星の市民の総意だと思います」

「そうなのか? 下手に魔王を刺激して逆に魔王が切れて本格的に活動を開始するかもしれないぞ」

「いえ、昔魔王からの伝言が空から星を覆うように降ってきました。その言葉によると、『私を放っておくと、いらいらするぞ。だから定期的に勇者が私の元に来て私と戦い、私の相手をしなければならない。じゃなきゃどんどんと色んな国を壊滅させていくからな』と」

「いやいや魔王ただのかまってちゃんじゃないよな。そんな魔王嫌だわ」

「嫌でも仕方がないのです。現に魔王は存在している。生きているのです。生きている以上呑気にしているわけにはいかないのです」

「そうか。ようやく少しだけこの国の現状が分かった気がするよ」

「ありがとうございます」

「じゃあ、早速レベルアップ……はないんだっけ、でも体を鍛えるのは可能なんだろう?」

「ええ、体を鍛えて、モンスターの新鮮な肉を早いうちに食べれば……ですが」

「よし、じゃあいっちょどんどんモンスターを刈って、体を鍛えるとしますか」

「ええ。そうですね。あっと、それと紹介を忘れていたので、キジと犬を呼びたいと思います」

「そういやそんなのいるって言ってたっけ、旅の仲間が後二人ほど、いや二匹か……」

 ぴゅ~~い!!

 少年が口笛を吹くと、どこからともなく風が吹いてきて何かが近づいて来る気配を感じた。

「さっ、一人来ましたよ」

「おう、お前が俺達の最後の仲間か」

「彼は犬という名前の男で盗賊です」

「えらいごつい盗賊だな。というか犬って名前が犬なだけで人間かよ」

「当たり前だろ」

 その犬と言う名の人間は少し声に怒気を含ませて言った。

「っていうか、とてもガタイからは盗賊というのは想像出来ないよ。この人の方が戦士に向いているんじゃない? ガタイ的に」

「いえ、彼は趣味が筋トレなだけで、得意技は素早さを生かしたモンスターのアイテム盗みなんです。彼にアイテム盗みを行わせたらこの国で右に出るものはいませんよ」

「そうなの?」

「ええ、それにこのガタイはこの前倒したヒグレズリーという熊の肉を沢山食べたから筋肉がパンプアップしたのです。肉の質によって筋肉もコロコロと変化するのですよ。ただ筋肉が大きいからと言って強いとは限りませんよ。チーターイガーの肉を食べれば彼の体はしぼみ肉体は細くなるでしょう。しかし筋肉の質としてはチータイガーの方が良質ですから、そっちの方がパワー的にも素早さ的にも上がるはずです」

「そうなんだ。じゃあ見た目じゃ分からないってことなんだな」

「そうですね。まあ詳しい数値を知りたければあのメガネを使用した方がいいです」

「ってチータイガーってどんな生き物なんだ?」

「ええ、この国の統治下の外にいるめっちゃ危険でチーターとタイガーを足したような見た目の生き物です」

「ああ、なるほど容易に想像ついたよ」

「いえいえ、見た目的にチーターとタイガーに似ているってだけで、恐ろしさは地球の比ではありません」

「たぶん今のあなたなら2秒で食われますよ。いやこれマジな話です」

「実感が湧かないなあ」

「まあ、今の僕でも5秒で食われるでしょうね。それは置いておいて、もう一人のキジ中々こないなあ」

 と、勇者見習いの少年がどこかぼやくように言っていると、「来た!」少年が突然上を向いて声を上げた。

 俺はその声と視線に釣られるように空を見上げた。

 そこには空を飛んでいる人間がいた。

「彼が魔法使いのキジです」

 勇者見習い少年が言った。

 「す、すげえ。流石異世界、翼が生えた人間がいる」

「いえ、あれは人工的に作った翼です。持続性魔法を使いその翼を動かし、空を飛んでいるのです」

 少年が言った。

「じゃあ翼がなくては空を飛べないんだ?」

「いえ、空は飛ぶことが出来ますが魔法エネルギーを節約する為に翼をあえてつけているのです」

「はあ、なるほどな」

 俺と少年が話していると、空を旋回していたキジと呼ばれる人間がこちらに視線を向けた後、ゆっくりと高度を下げながら降りてきた。

 キリモミのように回転しながら降りてきた、キジは突如として叫び声を上げた。

「キャー、キャー。最高! さいっこう。空を飛ぶの、か・い・か・ん」

「えっ?」

 俺はその甲高い声の質にまさかと思い少年に聞いた。

「ねえ、もしかしてキジって女の人?」

「ええそうです。彼女はとても愉快な人ですよ」

 愉快というよりは彼女を観察していると、落ちながら上を向いたり座禅を組んだり変顔を作ったりして、ちょっとあまり近寄りたくはない人種のように俺はどこか感じた。

 そしてキジと呼ばれる女は地面へと最後はふわりと着地した。

「とうっ~着!」

 ニコッと笑顔を振りまき彼女は俺達を一瞥した。

「犬と太郎久しぶり。そして君が戦士として呼ばれた人だね」

「あ、ああ。一応な」

 というか俺を異世界に連れてきた少年、太郎っていうのか。今ようやく名前が分かったよ。って犬とキジと太郎って完全に設定桃太郎だよね。で、俺はやはり完全に猿役か。

「じゃあ、よろしくね。猿」

「いや、俺の名前猿じゃねえし」

「えっ、違うの? 太郎からはそう聞いているけれど」

「何勝手に俺の名前を猿にしているんだよ。俺にはちゃんとした花崎 楓って名前があるの!」

「へえ、じゃあお爺さんだ」

「それは花咲かじいさんだ!」

 もはや突っ込むのが面倒くさい。

「でも、君達本当に犬とかキジとか太郎って名前じゃないんでしょ。もともとは」

「うん。そうだよ」

 あっさり認めやがった。

「でもね。地球という異世界からスカウトした人が来るってことを聞いていたから、じゃあ名前を分かりやすいやつにしようってことになったんだ。もともと全員違う異世界から来て名前も皆全然発音とかもばらっばらだったから、簡単なやつがいいんじゃねって話になってね。地球の日本語に統一したんだ。日本語は綺麗だしね、細かいイントネーションも伝わるしね。だから言語習得魔法を使って日本語を覚えたんだよ。でも、簡単じゃなかったよ日本語は……」

「そうか。でもかなりペラペラだよ。というか全然違和感ないよ」

「そういってもらえると嬉しいよ!」

 キジと呼ばれる女は顔を綻ばせ喜んだ。

「でも、流石にちょいと名前変えないか? 太郎はいいとして、キジとか犬とか若干違和感あるんだけど」

「そう? じゃあ名前変えようか? 皆もそうする?」

「そうだな。俺はいいぞ」

 犬が言った。

「分かった。地球人の猿が名前を気に入らないっていうなら変えた方が良いかもしれないな」

「そうか。って猿じゃないわ」

 何度目かも分からないつっこみをした後、俺達は名前を考えるべくその場に皆座り込んだ。

 「では、名前を何にしようか」

 キジが促すように皆に言った。

「でも、全く名前を全て名前を変えたら逆に混乱するかもしれないから多少前の名前の名残みたいなのはのこしておいた方がいいかもしれない」

 俺が言うと太郎が「そうだな」と言った。

「じゅあ俺の名前は花咲が付けてくれよ。だってお前は地球人だろ? つーことは俺達よりも地球について日本について日本語について詳しいんだからさ」

「うわー、責任重大だな」

 だけど任された以上を責任を全うしなければならないと思った。まあ正確にはまだ任されてはいなけれど。でも俺は日本では一応社長をやっているし、社長としての誇りをかけて犬というなの異世界人間の名前を決めなければと責任感を強く抱いた。そして悩むこと数分、良い名前が閃いた。

「ポチで」「却下」

 まるでカウンターのように俺が言った言葉に合わせて却下のパンチが返ってきた。

「いやいや、今の返答早すぎるだろ。むしろ俺が言葉を発した瞬間に却下って言うつもりだっただろ」

「あれっ? 分かった。だってどうせ碌な名前を付けないだろうと思って……」

「じゃあ、最初から俺に任せるなよ!」

「いやいや、嘘嘘。というか最初はお前ふざけそうな気がしていたから。そして案の定ふざけたし」

「えっ、ふざけてないんですけど」

「ふざけてないのかよ。ふざけてないでそんな安直な名前を付けたのかよ。ポチとかいう犬に一番ありがちな名前を」

「日本の犬事情に詳しいじゃねえか」

「いや、資料を漁っていたらその」

「犬は犬好きなんだ」

 何だかよく分からないことを太郎が言ってきた。たぶんこの犬人間は実際のペットとしての犬が好きということなんだろう。紛らわしい。やっぱ名前変えた方が良いな。

「ポチの何が不満なんだ」

「いや、ポチって何か子犬ってイメージがどこかにあるからさ」

「ああ、まあ確かにな。君のそのガタイのいい体型にポチは似合わないかもしれないな。じゃあセガールポチは?」

 俺は適当の頭に浮かんだ強そうなセガールという名前とポチとを足した名前を彼に提供した。

「気に入った!!」 

 まるで犬がしっぽを大きく振っているかのような喜び具合で犬人間は言った。

「そうか気に入ってくれたか」

 適当に付けたけど気に入ってくれたのなら結果オーライというかむしろこれがある種の自然の摂理的な感じなのかもしれない。よく分かんないけど」

 ようやく一人目の犬人間の名前がセガールポチに決まった。

 残りの名前決め、俺も含めて三人か。

 次は勇者見習いである太郎の名前を変えることにした。

「地球じゃどんな名前が勇者っぽい? あるいはヒーローっぽい?」

 うーん。どうなんだろうか。

 ヒーロー事情に詳しくない俺は何も思い浮かばなかった。あっ、待てよ。何とかレンジャーとか、何とかマンとかはヒーローっぽいな。でも勇者っぽくはないよな。勇者って言ったら外国風の名前かな。まあ適当でいいか。武魔っていうのはどうだろうか。格闘家の名前を二つ合わせただけだけど。

「武魔っていうのはどうだ?」

「えっ、微妙~」

 キジの女が不満そうに口を少し尖らせて言った。

「でも、地球人の感性的にはその名前は良い名前なんだよね。じゃあいいんじゃない?」

 結局キジ女は納得してくれた。

 当の本人である今の名前はまだ太郎は少し考えていたが、やはりそれほど悩まず「まあいいか」と頷いた。

 とはいえ、名前を考えた俺ですらこの名前は微妙であった。名前に魔が入っているからかどこか魔族っぽい名前の気もするし、響きもイマイチだ。でも今更変えるのは皆が納得してしまったこともあり提案するのもどこか気が引けた。ということで二人目の名前も決まった。

 次はキジの名前を決めることにした。

 「私はキジって名前のまま変えなくていいわ」

 突如としてキジが言った。

「何で?」

 俺が聞くとキジは「だって名前気に入っているんだもの」と笑顔で言った。

「無理に名前を変える必要はないよ」

 今しがた名前が決まったばかりの勇者見習いの武魔が言うと、盗賊の彼も頷いた。

「そっかー。そうだよな。でもキジってカタカナでキジだろ? せめて漢字でつけたらどうかな」

「漢字? 良い漢字を? 良い感じー」

 駄洒落を言うキジに苦笑いするしか出来なかった。

 キジは魔法使いなのである種の物質召喚も出来るというのを聞いた俺は辞書を召喚してもらうことにした。

「うんたらー、かんたらー。ほいっ」

 聞きなれない言語を呟いたキジは呪文が終わると、手のひらに煙と共に辞書を召喚した。

「お、重っ。辞書ってこんなに重かったの? ちゃんと召喚する前に説明してよね、楓。これがもしダンベルとかの重さだったら、私の手地面に激突して粉砕しているかもしれないわよ。仮に傷を回復魔法で治せたとしても心の傷は治せないんだからしっかりしてよね」

「ご、ごめん。そうだった。辞書って言っても広辞苑だから結構重いんだ。今度から召喚させる前に具体的に形とか重さとかを説明するよ」

「うん。お願いね。お願いしゃーすね」

 言語習得魔法を使ったと言っても完全ではないようでキジの言葉遣いは若干おかしかった。

「あっ、今言葉おかしいと思ったでしょ。これはわざとやったんだからね。基本が出来ているからこその崩し何だからね。何も知らない所からの奇をてらったわけじゃないんだからね」

「そ、そうなんだ」

 そんな会話をした後、ようやくキジの名前の漢字を探すべく皆で広辞苑をペラペラとめくることにした。

 そして選び考えること一時間。

「そうね。それが良いわ」

 キジが喜びの声を上げた。

 キジの漢字が決まった。キは季節の季で、ジは蒔くという漢字の季蒔だ。

「良い名前ね。季節を蒔く。私のような夢を振りまく魔法使いにぴったりの漢字ね。ウフフ、ウフフフフ」

 キジは口笛を吹き、とても上機嫌な様子でその場でスキップし、はしゃいだ。

 これで、仲間全員の名前が決まった。

 俺の名前もこの異世界用に決めた方がいいのかもとか、思っていたけどやっぱ混乱しそうだったからやめた。異世界に来たら異世界に従えが本来の姿かもしれないけれど、だからと言って異世界用に変な名前をつけられたりしたらたまったもんじゃないと思ったからだ。

「これで皆オッケーだな。じゃあこれからどうするか……だな」

「何言っているんだ? 早速修行だ、修行。特にお前のな」

 武魔が腕を組んで言った。

 どうみても年下で小学2年ぐらいにしか見えないのに腕を組んでいると父性愛じゃないけど、何だか変わりらしくて、心がどこかほっこりする気がした。

「心がもっこりしたよ。あ、間違えた」

「せ、セクハラよ。あなたわざと言ったでしょ。仮にわざとではなかったとしたらそれはそれで問題ありで、あなたの人格が頭の中が常にその考えを巡っているっていうことでこれからの旅路が女一人のこの勇者パーティーとても不安だわ」

「ご、ごめんよ。わざとじゃないんだ。いいわけにしかならないけれど」

「ふんっ、あなたって突然の雷雨みたいな人ね」

 その響きに反省しなければならないと分かっていても、かっこいいとも思ってしまった。何だかいいね。昭和歌謡の歌詞みたいな響きで。

「まあまあ、痴話喧嘩はそれぐらいにしておいて……」

「痴話喧嘩の訳ないでしょ!」

 セガールポチの逆なでするような言葉に季蒔が反応し、案の定切れた。

「あ! あれは!!」

 その喧騒を切り裂くような武魔の大声に武魔以外の俺を含めた三人が武魔の方を見た。そこにはモンスターの姿があった。

「あ、あれは……チータイガー?」

 あ、あれがチーガイガーというモンスターなのか? 確かあのモンスターさっきやばいモンスターだって聞いた気がするけど……。

「チー、チー、チー、チータイガー」

 まるで自己紹介をするかのような声を発しながらチータイガーと呼ばれるモンスターは俺達の方へとにじり寄ってきた。

「や、やばいぞ。あいつはまさかこんな町の近辺に出現するなんて。あいつに襲われたら今の俺達の実力じゃ生存確率1%未満だ」

「う、嘘」

 俺は魔の抜けた声を発した。

「嘘じゃない、逃げるぞ。皆!!」

 盗賊のセガールポチが掛け声をかけたと同時に俺達は同方向へと逃げ出した。

「バラバラに散った方が良いんじゃないか?」

 俺がセガールポチに言うと、セガールポチは首を大きく横に振った。

「そんなことをしたら一人が確実にやられてしまう。俺達は四人で一体のいわば、四位一体だ。一人でも欠けたら魔王退治が出来なくなる。だから皆で逃げるのだ。それにイワシのみたいに皆で固まって大きな力強い存在だとチータイガーに思わせるのだ。だから固まって逃げるぞ」

「そ、そうか」

「チータ、チータイガー?」

 遠くで微かに聞こえるチータイガーの声に俺達は少し安心した。

「よし、大分離れたぞ。ここなら何とか逃げ切れそうだ」

「チ、チ、チ、チータイガー」

 チータイガーがどこか笑った気がした。

「逃がさないよ」

「チータイガーが喋った!?」

 特に驚いたのは俺を除いた三人だ。そりゃあそうだ。なぜならばチータイガーに俺よりも詳しいはずなのにチータイガーが喋れることを知らなかったのだから。

「マジかよ。あいつ言葉も喋れるのかよ。知能も相当ヤバそうだぞ」

「そうね。そうだ! 私の飛翔魔法でここから脱出すればいいんだ」

「な、なるほどその手があったか。どこに到着するかは分からないある種の博打だけど死ぬよりはましだ」

 何のことを言っているのか分からない俺を会話の置き去りにし、三人は希望の光が見えたかのように目を輝かせた。

「じゃあ、皆、私の体の一部に触って。あっ、胸とかお尻は許さないから!」

 季蒔に言われ、俺とセガールポチと武魔は季蒔の肉体、俺は洋服の裾に触れた。

「ようっし! じゃあ行くわよ。一か八かのギャンブルよ!『離脱!!』」

 俺達は魔法の光に包まれた。

「逃がさない!!」

 と、同時にチータイガーの声が聞こえた。

 光は天に向かって、四人を包みまるで花火のように打ちあがった後、流星のような速さで水平方向へと移動した。

 瞬間目の前にチータイガーが姿を現し、俺の右腕、武魔の左腕、季蒔の右足、ポチの左足を一瞬でかみ切った。

「「「「ぐあああああ!!」」」」

 皆痛みで悶絶の声を上げた。

 チータイガーは人蹴りで光の高速移動に追いつき俺達の肉体を噛みきったのだ。

 しかしあいつは俺達を殺すことも出来たのにわざと殺さなかった。一体何のつもりなのだろうか。

 血を流し痛みで意識を失いかけている俺はそんなことをぼんやりと思った。

 到着した先は人気のないまるでグランドキャニオンのような渓谷だった。

「ええい、えい!!」

 季蒔は真っ先に自分の傷に魔法をかけ失われた右足を再生させると、次に俺達にも再生魔法をかけた。

「はあはあっ、助かったよ、季蒔」

 セガールポチが言うが、季蒔はまだどこか放心状態だ。

 武魔もどこか遠くを見つめ目の焦点が合っていない。

「まさか……あそこまで強いとは……」

 ようやく言葉を発した武魔の声からは力強さはまるで感じられなかった。

「くそう、くそっ」

 セガールポチが拳で岩を叩いた。

 俺は現状を理解するのに精いっぱいだった。

「何も……出来なかった。チータイガーの陰毛付近の毛を一本抜くことしか……出来なかった」

 セガールポチは悔し涙を流した。

 しかし、それとは裏腹に季蒔が笑顔をパッと咲かせた。

「チータイガーの、毛を採取したの? ねえ、セガール。毛を採取したの!? それ本当? マジ? リアル? リアリティー? 仮想現実じゃなくて、本当の現実?」

 なぜかやたらと喜んでいる季蒔。一体どうしたというのだろうか。

「もしかしたら、チータイガーに勝てるかもしれない!」

 季蒔が口の端を上げて微笑んだ。

 「チータイガーに勝てる? 一体どういうことだ? 季蒔」

 セガールポチが季蒔に詰め寄るように言った。

「ちょ、ちょっと待ってよ。近い、近いからポチ。分かった。分かったから。今すぐ説明するから」

 季蒔はセガールにセガールに顔面を接近され恥ずかしいのか顔を紅潮させている。これはただ単に異性に対してそういう免疫がないからなのか、あるいは……。まあいいか。

「ポチ、ねえ脅威に対抗するにはどうすればいいと思う? 例えば大型ロボットに対抗するにはどうしたらいい?」

「そんなことが現実にあり得るとは思えないけど、まあ実際あったとしたら、映画や漫画だと同じ巨大ロボットを作ったりして対抗することがセオリーかもしれないな。作り話だけど」

 俺はそれを聞いて、なるほど確かにそうかもしれないな、と思った。巨人の話でも、結局は同じ味方巨人が出て来たし。

「そう、その通りよ。いい子ね。ポチ」

 季蒔がセガールポチの頭をイイ子、イイ子した。

「って俺は犬じゃねえや」

 セガールが季蒔の手を振り払うようにどかした。

「でも、名前のポチは犬系なんだから良いじゃない」

「まあそれは否定しないが」

「でしょでしょ」

 季蒔はどこか満足そうに微笑んだ。

「ったくしょうがねえな。季蒔は」

 これがいつもの感じなのだろうか。セガールはどこか慣れた様子で季蒔の相手をしている。

「じゃあ、どういうことなのか説明するわね。じゃじゃーん。ここに手に入れましたのはあの私達では手に負えない、あるいみ経験の浅いパーティーからすると伝説のチータイガーの毛です」

 季蒔はセガールから受け取ったチータイガーの毛を天に掲げた。

「まあ、陰毛だけどな。いや正確には陰毛かどうかも分からないし、陰毛付近だったのは間違いないけど」

「陰毛陰毛うるさいのよ!! そんなことはさして重要な要素ではないの。あのチータイガーの毛を入手したってことに意味があるのよ。特別な意味がね。スペシャルな意味がね。クリスマスよりも、もっともっと特別なレッツパーティーナイッぐらい特別な意味がね」

 季蒔が陰毛という言葉に取り乱したのか、若干意味の分からない興奮と怒りと羞恥が混ざっている。

「ってあっ!!」

 俺は大声を上げた。なぜならばその季蒔の手に握られた仮陰毛が季蒔の興奮によって手が開かれ、風に吹かれ、渓谷の下の方へ落ちてしまったからだ。

「ど、どうしたの? 楓」

 季蒔はまだ気づいている様子はない。

「いや、その仮陰毛、どっかに行っちゃったよ。風に吹かれてまるで一人旅のように」

「ちょっ!」

 季蒔は俺に言われて握っていたはずの仮陰毛を見た。「あっ」

「ちょ、ちょっとセガール! 何してんのよ!」

「って俺のせいかよ」

「そうよ。そうに決まっているじゃない! あんたが陰毛陰毛って言葉の陰毛祭りを開催するから、私が取り乱して握っていた仮陰毛を渓谷に落としてしまったじゃない!!」

「何でそんなに興奮しているんだよ。チータイガーとは言え、ただの陰毛だろ?」

「ただの陰毛な訳ないじゃない! チータイガーよ! あのチータイガーの陰毛なのよ。特別なのよ。誕生日100回分ぐらい祝わなくちゃいけないぐらい今夜は特別な夜になるつもりだったのよ!」

「何でだよ。ただのコレクションアイテムぐらいにしかならないだろ? あ……もしかして、チータイガーの毛って誰も採取したことないから、かなりのお金になる……とか?」

「とたんにセガールの顔面から血の気が失せていく」

「それはある意味では正解。でも私達はそれ以上の価値を失ったのよ。お金なら私達クラスならこれからの旅路で幸運に巡りあい手に入れることも可能だったかもしれない。でもチータイガーの毛はもう私達クラスでは入手することが不可能よ。なぜならばあのチータイガー、逃がさないと言いつつ、あえて私達を殺さなかったわ。あれはたぶんどこかで私達が復讐に来るのを待っているのよ。復讐に来た人間を待ち構えて仕留める。あれはチータイガーの言わばゲームよ。そのゲームはたぶん一回きり。次に私達があのチータイガーに出会ったら、今度こそ。瞬殺されるわ」

「そうかもしれない」

 俺はさっきのチータイガーのことを思い出して言った。

「だからさ、あいつに今後一切出会わなければいいだけの話だろ。それとその価値についてまだよく分かんないんだけどさ。お金に換金とコレクション要員以外にさ」

 セガールは答えをじらされ、どこかイライラしている様子だ。

「ねえ、さっき聞いたこと覚えている? 巨大ロボットに対抗するには巨大ロボットをという話を」

「ああ、だから何だって言うんだよ。季蒔」

「あんたも相当鈍いわね。だから女にモテナイのよ」

「今、モテルとかモテナイとかの話は関係ないだろ。それより早く言えよ」

「だから、太刀打ちできない相手にはそれと同様の、あるいは全く同じ種族を使えばいいのよ。そうチータイガーにはチータイガーをね。これで分かった?」

「チータイガーにはチータイガーを? ……ま、まさかそれって」

「そうよ。チータイガーの毛を使って、チータイガーを魔法で作り出せばいいのよ」

「そ、そうか!!」

「でももう、チータイガーの毛は仮陰毛は今頃渓谷の下よ。そして川にでも流されて、魚にでも食べられて、大腸の中ね。あるいは小腸の中ね」

 季蒔は自暴するかのような言い方で言った。

「まだ諦めるのは早いんじゃないか?」

 今まで静観していた勇者見習いの武魔が静かな声で言った。

「どういうこと? 武魔」

「まだ、諦めるのは早いんじゃないか? って話だ。お前にはまだ効果が弱いとは言え、検索魔法も使える。だから皆で手分けして、あるいは皆で協力して、チータイガーの陰毛を探そうじゃないか」

「そ、そうね。そうよ。そうよ。まだ諦めるのは早いわよね。だってまだ毛が落ちてそう時間も経っていなし。それに諦めるにはあまりに惜しい素材だわ。チータイガーの陰毛は」

 季蒔も何だかんだで、陰毛陰毛連呼しているじゃないか、と思ったけど喧嘩になりそうだったから言わなかった。

 こうして俺達は渓谷下に落ちたと思われるチータイガーの陰毛を探すことにしたのだった。

 皆で一緒に探そうと思っていたが、やはり毛という細かな物なので、ある程度の場所を検索魔法で季蒔に絞ってもらい、そこから手分けして探すことにした。

「けんさーく!」

 季蒔の魔法言葉により、季蒔の体から光が放たれまるで季蒔を中心とした波紋が広がるように光が円状に徐々に広がって行った。

「ふうっ、ふうっ」

「どうだ?」

 武魔が季蒔に聞く。

「う、うん。だいたいの場所は絞れたわ」

「ほ、本当か?」

 セガールポチが喜びの声を上げた。

「うん。この私を中心とした半径二キロ圏内にあるわね。そしてそれは今現在だから、早く探さないと風によってあるいは魚とか虫とか生き物によってどこか遠くへと運ばれてしまうかもしれないわね」

「は、半径二キロって広っ!」

 俺が思わず突っ込むと、季蒔はむっとした表情を浮かべた。

「これでも、頑張ったんだからね!」

「そ、そうだな。じゃ、じゃあここからは手分けして探そうか」

 俺が言うと皆、無言で頷いた。

 捜索は困難を極めた。ただでさえ毛という細く、地面に顔を近づけなければ、あるいは近づけても分かりづらい物なのに、更に太陽が燦々と降りつけていることもあり、太陽の光と、その反射により更に見にくくなっている。そして熱による空気のゆがみのような現象も起こっていて、更に風もたまに強く吹く、そしてやっぱり最大の難所はこの暑さだ。まるでサハラ砂漠にでもいるかのようなこの熱風、汗を大量にかき、水分を失われていることによる集中力の欠如。これは致命的ともいえる条件下での捜索だった。

「あ、あちい。だるい、だだだだるびっしゅじじじじかしぼり」

 と数年前のCMを無意識に口づさんでいると、近くにいた季蒔が「何よそれ。変な歌ね」と俺に突っ込みを入れた。いいじゃねえか。いちいち突っ込まなくても。俺だって疲れているんだよ。

 と、だんだんと皆、いつの間にか離れて行った。それにしてもここに流石にモンスターは出ないよな。俺戦士の役割で来たけどはっきりいって何もできないからな。空手もボクシングも経験ないし、あっ、中学の時必修で柔道だけはやったことあるけど、大外刈りと背負い投げぐらいしか覚えていないや。はは。

 そんなことを呑気に考えていたら、目の前に変な生物が現れた。

「あ、蟻か?」

 思わず声に出したけど、内心はかなりビビっていた。だってかなり大きさがでかいんだもん。大きさはタランチュラぐらいかもしれない。

 と、その時急にタランチュラサイズの蟻が俺に向かって飛びかかってきた。

「うわっ!」

 咄嗟にその蟻の攻撃を躱し、蟻が着地したと同時にその蟻を踏みつぶした。

「うえー、グロイ……」

 その蟻を踏みつぶすと紫色のネバネバとした液体が体内からぶちゅ、と飛び出してきた。

「お、おい! 何だ今の声は……あっ、お前そいつやっつけたのか?」

 セガールポチが驚嘆の顔を上げた。

「どうしたんだよ。そんなに驚いた顔をして」

「だってそいつ結構なレアモンスターだぜ。俺も実際には初めて見るけど」

「そうなのか? ただの蟻にしか見えないけどな」

「いやいやそいつ食えば結構いい経験値になると思うぞ。なあお前食ってみろよ」

「俺は嫌だよ。セガールが食えよ」

「いや、こいつはお前の経験値だ。お前はまだ弱いしな」

「じゃあ半分こしようぜ」

「いや、この生物の大きさじゃ二人で分けても大した経験値にはならない。経験値を得る為にはある程度の食を一人分取らなくてはいけないんだ。これを分けてももしかしたら経験値にはならないかもしれない」

「ええっ、そうなの?」

「ああ。そうだ。つべこべ言わずに食えよ。お前まだ弱いんだから」

「わ、分かったよ。でもどうやって食うの? 流石に生じゃないよね」

「毒がある奴は、解毒して食うけど、こいつは毒はない。そして焼いてから食ってもいいけど、焼くと栄養価が下がる場合もある。それに今火を使えるのはここにはいない魔法使いの季蒔だけだ。更に時間が経てば経つほど新鮮じゃなくなり、栄養価も失われて行く。つまり」

「つまり?」

「今すぐに生で食えーー!!」

 セガールポチが俺の口の中にタランチュラ蟻を生で無理やり押し込んだ。

「うぐっ、うぐっ」

 俺はそれを咀嚼する間もなく喉へと嚥下した。

 胃に食べ物と呼べるかどうかは分からないけど、それが押し込まれて僅か数分後、俺の肉体に驚くべき変化が起こった。

 それは鍛えていく過程の筋肉動画の早回しとでも呼べそうな代物だった。

 肉体が目に見えてはっきりと膨れ上がって行ったのである。

「や、やべえ。やべえよこれ。何だよこれ。ナンダヨコレ」

 何故か俺は驚きのあまり外人のように片言になってしまった。

 「ナンダヨコレ。カラダジュウニチカラガミナギッテクルヨ」

 続けて片言で言うと、セガールポチは苦笑した後、言葉を発した。

「じゃあ、試しにそこの岩を殴ってみなよ」

 セガールに言われて、どういうことかと疑問に思ったけど言われた通りにしてみることにした。なぜそうしようかと思ったのかというとなぜか、岩を殴っても痛そうな気がしなかったからだ。

 そして思いっきり殴ると、ドゴ! っていう音が響いた。ゴンとかほぼ無音で手が痛くなる感じを頭の片隅にイメージしていた俺はその音が意外だった。

 そして目を殴った場所にやると、そこには拳の跡がくっきりと残っていた。

「う、うそーん。マジかよ。俺のパンチ力ってこんなに強かったっけ。否。俺のパンチ力は昔やったパンチングマシーンで70㎏ぐらいだったからそんなはずはないよな。ってあっ、そうかここは異世界だからもしかして素材が地球よりも脆いとかそんなオチなのかな?」

「いや、違うよ。この世界は君が来た地球と脆さとか重力とかは変わらないと思うよ」

「えっ、そうなの? じゃあ」

「単純に君の能力がその蟻を食べたことによって飛躍的にアップしただけだよ。試しにジャンプしてごらん?」

「なんかありがちな試しだな。まあいいや。だまされたと思ってジャンプしてみるか」 

 俺が思いっきりジャンプをすると、まるで足にバネでも付いているかのように、びよーんてな感じで空中に飛び上がった。その高さ約5メートル。

「う、うそーん。垂直跳びで5メートルはすごくね?」

「確かにそうだな。あの一匹を食べただけでこの能力の開花。くそ、やはり俺が食っておくべきだったか」

 どこか残念そうにセガールは言った。

「だが、これで楓も毛の捜索がはかどるはずだ」

「ああそうだな。ああ、やばいようやく異世界に来たかいがあったって初めて思えたよ。でもこれ異世界から戻ったら能力も元に戻るん?」

「いや、戻らんよ。だって強くなったものはね。とは言え筋肉と同じだから使わなければ多少は弱くはなるけど、一度強くなったんだから、基本はそのままだね。でも気を付けろよ。その手にした能力を地球で使えばお前は悪魔だと思われるぞ。下手すりゃ」

「そ、そうだな。確かにこんな強い奴なかなかいないもんな。もっと強くなってそれで地球に帰って力を見せたりしたらやばいよな」

「まあ、帰れるかどうかは分からないけどな」

「不吉なことを言うなー」

 俺はセガールに冗談口調だったけど、少し本気で怒った。

 というわけでチータイガーの毛の捜索を再び俺達は開始した。

  その後、捜索をしていたら小さなモンスターがうじょうじょ出てきた。でもそれらのモンスターはさっきのよりも動きが遅く、食して経験値を仮に取ったとしても大した力にはならないと言われた。

 俺はそれでも少しでもモンスターを食べて経験値を稼ぎたいと思っていた。だからスナック菓子のように少しずつでも倒したモンスターを焼いて食べようと思っていた。でもセガールに諭された。

「なあ、もしちょくちょく経験値の浅いモンスターを食べていて、お腹いっぱいの時に超強いモンスターが出て来て、そいつを倒したらどうする? その時食べられなかったらもったいなくないか?」

 セガールの言うことは一理ある、しかしその強いモンスターが出た時に弱いままだったら倒す前にこちらがやられてしまうし、少しずつでも経験値を取得し続けた方がうさぎとカメじゃないけど、最後には勝つんじゃないかとか思っていて、それにその場で食べる暇があるとは限らないとも思っていた。そんな強いモンスターが出るなら、他にも強いモンスターが傍にいる可能性もあるし、持ち帰るにしても、保存するにしてもモンスターの肉を加工する暇はない気がするとも思っていたからだ。そして生死を賭けた戦いでは生食ですらそんな暇はないかもしれないとセガールにそう言った。

「そうか。確かにそうかもしれないな。そしてお前にはお前のやり方があるもんな。悪かったな俺の意見を押し付けようとして」

「いいんだ」

 というわけで人はそれぞれ成長の早さも違うんで、俺は俺の早さで進んで行くことにした。回り道する人、コツを掴みすいすい行く人、俺は回り道する人かもしれないな。でもわざと回り道をしているわけではない。俺は俺の信念に従って行動しているまでだ。まあ異世界に慣れているセガールの言うことを聞いた方が良い可能性もあるから、もし自分でやってみてだめそうだったらセガールの言う通りやってみようと思う。だからと言って最初からセガールの言うことを聞いていたらそれはだめだと思ったのだ。自分の体は自分が一番良く知っているので、効率だけを求めて自分自身での考えを遮断し、自分で考えなかったら今後何かあった時に自分で判断できなくなるとも思ったからだ。結局は最後は自分の判断で行動しなければいけない。そう俺は思っているからだ。

 そして仕留めた小さな親指サイズのモンスターをスナック菓子感覚でポリポリと食べながら歩いて行く。その時、季蒔の捜索していた方向から大声が聞こえた。

「あったー! あったわよ!!」

 俺達は季蒔の元へと急いで駆け付けた。

 季蒔がいたのは川が流れるすぐそばだった。

「あったわよ。小さなこの魚がチータイガーの陰毛を飲み込んでいたのね。餌だと思って」

 いや、餌だとは思わないだろう。単に飲み込んでしまったっていうだけで。でももちろんそれは口には出さない。

「やっぱ検索スキルを持っている季蒔が見つけたか」

 どこかがっかりした様子で勇者見習いの武魔が言った。

「そうよ。どう? 私を少しは尊敬した?」

「はいはい」

 セガールが受け流すように言う。

「じゃあすぐにチータイガーの分身を作るんだろう?」

 俺が言うと、季蒔が「それが出来ないのよね。私今回の検索で魔力使い果たしちゃったし」と言った。

「はああっ。またかよ。肝心な時にやっぱ上手くいかないなあ」

「しょうがないでしょ。私だってまだそんなに強くないんだから」

 少し拗ねている様子の季蒔を見て勇者が手をポンと打った。

「じゃあ少し休息するとするか。街にでも行ってさ」

「えっ? 本当? 本当にいいの?」

「ああ。でも今度こそ陰毛なくすなよ。貴重なチータイガーの」

「大丈夫。私に考えがあるから」

 そう言って、季蒔は魔法をかけた。

 季蒔の手に握られていた陰毛は季蒔の腕の中へと消えた。

「これでなくすことはないわね。腕が切られて持って行かれない限り」

「すごいことするな。って魔力使い果たしたんじゃなかったのかよ」

「私にはこれがあるから」

 言って、季蒔が頭の所に手をやり、ヘアピンを取り出した。

「これはね。常時魔力回復アイテムなの。その昔、盗賊のセガールポチが海賊船で骸骨モンスターから盗み出したものなのよ」

「そう言えば、そんなこともあったな」

 セガールは顔を上に向け、どこか懐かしそうに思いを馳せていた。

「じゃあ、しばらくしたら魔力回復してチータイガーを作り出せるんじゃないのか?」

「いや、そんなに簡単には行かないのよ。これで回復できるのは本当に少しずつなの。だから形成魔法を使うには、そしてチータイガーを生み出すには魔力が完全であっても果たして今の私では出来るかどうか。だからまずは完全に回復させてから様子をみたいわね」

「そういうことか」

 そして、更に俺が新メンバーに入ったことへのパーティーや交流を兼ねて街へと行くことになったのだった。

 「でもここから街へはどのくらいなんだろうか」

 俺が呟くと、季蒔は意外にも笑った。

「ふっふっふ。ふふふのふ。それは大丈夫よ。私がさっき一人で陰毛を探していた時に、この場所の位置を検索してみたら町までは案外近かったのよ」

「へえっ、そうなんだ。街まではどのぐらいあるの?」

「だいたい200㎞ぐらいね」

「遠っ!」

「そんなことないわよ。私達のレベルだったら走れば半日で楽につくわよ。あっ、あんたの場合はまだ実力をよく知らないから分からないけれど」

「それは大丈夫だ。さっきこいつはレアモンスターを食ったから前よりもだいぶ強くなった」

「えっ、そうなの?」

「ああ、だからと言って半日走るのはそこそこしんどいぞ。それにこれから夜になる。どこかこの辺りで野宿でもするか?」

 セガールが言う。

 すると季蒔は胸を反らし、自信気に言った。

「それは大丈夫よ。私の魔法は常に微力ながら回復しているのよ。だからたぶんあれを物質化出来るわ」

「あれ?」

 武魔が首を傾げた。若干可愛い。若干な。

「うん」

 そう言って季蒔は手を地面に向けて動かし「うんたら~、かんたら~」と言った。

 地面付近に湯気がもわもわっと上がって、そしてその湯気が一気に大きくなった直後、そこには一台の自転車が……。

「おおっ! ってか自転車かよ!」

 俺は季蒔に突っ込みを入れたけど、季蒔の反応はない。気になって季蒔の方を見てみると。

「はあっ、はあっ、はあっ。ああしんどい」

 めちゃくちゃ疲れた様子で、膝付近を両手で押さえていた。

「やっぱまだ魔力ほとんど回復していなかったかー。これじゃあ後三台分の自転車を物質化は無理ね」

 自分の魔力量ぐらい把握していろよ。とか思って俺は溜息を心の中でついた。

 というわけで結局俺達は、今夜この場所に野宿することになった。

 その夜、蒔きに点けた火の回りに寝床を取った俺達は星を眺めながら会話をした。

「ねえ。あんたのいた地球ってどんな所なの? 詳しくは知らないから教えてくれない?」

 俺は皆に地球の生物や環境、人種などについて話した。武魔は知識として知っているようだったけど、知識として知っているのと実際住んで経験したのとでは全然違うと思うから武魔にとってももしかしたら新鮮に聞こえるかもしれない。

「ふーん。地球ってのは美しい星なんだなあ」

 セガールが言うけど、季蒔は「でも生物が結構グロイの多そうで私はまだちょっとそこまで良いとは思えない」と言った。

「そうだね。僕もびっくりはしたかな。地球の生物の多様性には」

 武魔の言葉に季蒔はうんうんと頷いた。

「じゃあ、こことかはそんなに地球ほど生物が豊富ではないの?」

「いやいると思うよ。この星は地球よりもずっと大きいし。でもね。情報統制が行われていて、ましてや世界も分裂していて星の大きさ以外、他の国の情報も含めてほとんどベールに包まれているようなもんだから、どんな生物がいるのかすらも僕達にはよく分かっていないんだよ。だから地球よりももっと多様かもしれないし、そうじゃないかもしれない」

「ふーん。そうなんだ」

 俺はそう言うしかなかった。

「でも、季蒔やセガールはこの星出身じゃないんだろ? パーティーは他の星じゃなきゃ組めないとか言ってなかったっけ」

「そう。俺は荒野星から来たんだ。ほとんど荒れ果てた星だったよ。人間以外家畜も数えるほどしかないし、植物も数が限られていた。何にもない退屈な星だったよ。楽しみと言えば、酒と踊りと音楽ぐらいのものさ」

 そう言って、セガールは立ち上がるとサルサダンスのような踊りを踊った。

「オレ!」

 でも、ある意味セガールのいた星は人間の原始的な基本要素みたいな星で、そこでは現代地球のような、忙しさや小さな人間関係の悩みなどはないのかもしれない。

 俺がそのことを伝えるとセガールは「とんでもない!」と言った。

「いやいや、それぐらいしか楽しみがないから逆に本能に忠実ともいえるから、争いは絶えなかったよ。それに食料も確保するのがやっとだったし、天気には毎日操られるように過ごしていたし、病院だってないんだぜ。疫病で大量に人が死ぬ時もある。治安も悪いし。まあ時間の流れに関してはある意味で自然と共存していたとも言えたから、楓の星よりはのんびりしているのかもな」

「ふーん」

 季蒔はセガールの星についてここまで詳しく初めて聞いたのか、とても興味深そうな顔が火によって照らされた季蒔の顔から窺い知ることが出来た。

「私のいた星はね」

 今度は季蒔が語り始めた。

 「私のいた星ではね。魔法が栄えていたの。とはいえ日常的にはここと大差ないかも。移動手段に転移魔法を使ったり、職業で木を切ったりする時に、専門の魔法使いがいたりしたけど、一般人が使える魔法は大したことなくて、火とか氷を簡単に操れるぐらいね。だから上と下の差が激しかったの。上の人は優遇制度があったりして、電車も無料だったりするの。それはなぜかというと魔力が強い人は国から強制的に魔力を絞られるのよ。月一で。だからその見返りとしての無料制度だったりするのだけれど、良い気分はあまりしなかったわね。それに私達は電車を使うより転移した方が早い場合も多いしね。まあ私の場合は魔力そんなになかったから電車を使っていたけれど」

「ふーん。で、季蒔はどのぐらいの所にいたんだ? カーストで」

「私? 私は中の上ぐらいの所かな。ちょうど私の所から魔力が絞られ始めるの。だから私は中の下ぐらいが良かったなんて嘆いたりもしたわ」

「まあそりゃあそうだろうな。でも何で中の上の季蒔が魔王退治のパーティーのメンバーに選ばれたんだろう」

「そりゃあ。僕の好みだよ」

 武魔が言った。

「って、顔!?」

「というのは冗談で……。彼女には底知れぬ魔力のパワーがあるのを見つけたんだ」

 武魔は言った。

 「僕が季蒔のいる星の魔法使いを探し、路傍を歩いていた時、季蒔とすれ違ったんだ」

「そういえば、武魔とは道端で逢ったわね」

「その時、一瞬で思ったんだ。ああ、この人だと。ぴんと閃いたんだ」

「えっ! それって単なる一目ぼれ?」

「ち、違う! そうじゃない」

 武魔は必死に否定している。必死に否定している所が逆に怪しいけど。

 季蒔は何だか疑り深い目を武魔に向けている。

「そうじゃないんだ。いやそれも確かにあったけど、実はもう季蒔のいる星の魔法使いのスカウトは諦めかけていたんだ。魔法を計る機械で探し歩いていたけど、僕の思った数字に達した人はいなかった。で、季蒔、君とすれ違い君にも魔法を計る機械をかけた」

「い、いつの間に? それって犯罪にならないの?」

「ごめん。さりげなくかけたんだ。でもあれだよ。盗撮とかではないし、別に体のサイズを計っているわけでもないから。許してちょ」

「でも、魔法量を計るって、それもある意味でのプライバシーの侵害よね」

「僕は季蒔の星の法律に詳しくはないし、それに魔法使いのメンバーを集めるのに必死だったから……」

「まあ、いいわ。それに私、いた星にどうやら飽き飽きしていたし」

 季蒔は何やら考え事をした後、おもむろに口を開いた。

「実はこれ今まで誰にも言っていなかったことだけど、私捨て子だったの。そう、河原に捨てられた所を施設の住人に拾われ、育てられたの」

「えっ、季蒔。お前……」

 セガールポチは季蒔の話に真剣な顔をした。

「ごめんね。言おうかどうか迷ってはいたの。でも今が言う時なんだと私は思ったの。メンバーが揃った今がね」

 武魔の顔にも動揺を隠し切れない。

「それは知らなかったよ。季蒔」

「誰にでも言いたくない過去の一つや二つはあるでしょ?」

「そうだな」

 セガールは言った。そしてセガールは思い出していた。幼少時代を。そうセガールも捨て子だったのだ。

 そして、武魔も思い出していた。楓も同じく。そう皆捨て子だったのだ。

「「「俺も」」」

 同時に重い口を開く、武魔とセガールと、楓。まるでコントのようだ。

「どうしたのよ」

 季蒔は何なのよ、と皆に聞いた。

 三人が各々捨て子だったと語ると、季蒔の表情がぱっと明るくなった。

「えっ、何? 皆捨て子だったの? 捨て子仲間なの? 何これ。これって運命?」

 季蒔は今まで見たことがないぐらいはしゃいでいた。

「そうだったのか」

 武魔がどこかしみじみとした様子で言った。

「だから、もしかして武魔は私に何か同じようなオーラを感じたのかもね」

「そうだな。魔法計量では分からなかったけど。季蒔をどこか気にしていたら、季蒔がふと道端のタンタンポポの綿毛を掴んで空に放ったんだよな。あっ、タンタンポポって地球でいうタンポポみたいなもんで、セガールの星ではマヨネールみたいな植物さ。それを見て、僕なんか完全にこの子しかいないって思ったんだよね。魔法力は中の上。だけど、心に純さを持っている。何か君に深い他の人にはない才能を感じたんだ。機械では測れないね」

「ふうーん。そうなんだ。ありがと。素直に嬉しいわ」

 季蒔は言った。

 俺はその話も興味深かったけど、マヨネールというセガールのいた星の植物も無性に気になった。語感がマヨネーズに似ているということもあって。

 そして今度は武魔の星、つまり今俺達がいるこの星で育った武魔が自分について語り始めた。

 「僕も捨てられた所を今の両親に拾われ、育てられたんだ。両親は血は繋がっていないけど二人とも名のある冒険家だった。そんな両親の英才教育の元、才能が開花し僕は勇者見習いとなった」

「ご両親はどうしているの?」

 俺が聞くと、武魔が眉根を寄せて険しい顔をした。

「うん。俺の両親は魔王の手下のデブゴンに捕えられ、その肉体に収められた」

「食べられたってこと?」

 季蒔が哀しそうな双眸を武魔に向ける。

「いや生きている」

 武魔が語気を強めて言った。

「どういうこと?」

「僕の両親は生きたままデブゴンの体内に飼われている状態なのだ」

「それってつまり栄養を奪われ続けているっていうことか?」

「ああ、栄養、つまりは魔力だ。デブゴンは捕えた人間の魔力を常に少しずつ奪い、自身の魔力の糧にしている。人間が死なない程度に。そして回復能力とのバランスを考えてな」

「デブゴン恐るべし」

 俺が言うと、武魔は「これは遊びではないんだ」と言った。どうやら俺の少しふざけた言い方が武魔の感に触ったようだ。

「す、すまない」

「いいんだ」

「でも、デブゴンってどんな奴なんだ? 名前からして太っていそうだけど」

「その通り、例えるなら日本の平均的な一般家庭ぐらいの大きさの魔物だ」

「いや、分かりやすいようで分かりにくいな」

「そうか。じゃあ分かりやすくいうと力士30人分ぐらいはあると思うな」

「ああ、それならさっきより分かりやすい。でも力士はあれ体の中の筋肉半端ないぞ。太っているように見えて」

「それは知っている。分かりやすくするために力士を出しただけだ」

「そうか。でもじゃあ、武魔が勇者見習いになっての本当の目的って……」

「ああ、そうだ。僕の両親をデブゴンから救い出すことだ」

「そうだったのか。武魔」

 セガールが同情するような目で武魔を見る。

「だが、あくまで最終目的は魔王の退治だ。魔王を退治すればデブゴンも自然に消えるからな。その過程でデブゴンに出会ったら全力で僕は両親を救い出す」

「俺も協力するぜ」

「私も」

「俺も」

「ありがとう」

 武魔は深々と頭を僕達に下げた。

  そうしてそれぞれの生まれた星の事情を満点の夜空を見ながら話し、俺達はその日、眠りについた。

「コッケコッコー」

 鶏の鳴き声で目が覚めた。とまだ、ぼーっとした頭のままそういえばここは異世界だから鶏なんかいるのだろうか、とか考えていたら、コケコッコーと鳴いていたのは、武魔だった。

「ごめん。君の世界では鶏が朝起こすのが通例なんだろう?」

「いや、通例ではないし。わざと知ってていたずら鳴きしただろ?」

「えへっ、ばれたか」

 おちゃめに言う武魔。でもまあ見た目は子供だから何とか許せるけどね。

「じゃあ、町に行きましょう」

「うんそうだな」

 季蒔とセガールの会話を皮切りに俺達は町へと向かうことにした。って季蒔の魔力は回復したのかな。聞いてみる。

「季蒔。魔力はどのぐらい回復したの?」

「それがねー。昨日相当疲れていたのね。まだあまり回復していないのよ。でもね。大丈夫。なぜなら自転車は皆の分、形成出来るだけの魔力は何とか回復したから。移動魔法はまだ使えないけど」

「そうか。なら良かった」

 季蒔は早速とばかりに、念を込める。そして「ほにゃらら、ぴ~」

 言うと、三台の自転車がみるみる地面から出てきて形成された。

「うわあ。何だか不気味な光景」

「不気味かなあ。どちらかというと感動もんだけど」

 季蒔は心外とばかりに不満そうに口を尖らせる。

「でも、どうやって形成されているのだろうか。この自転車」

「それはね。ここら辺にある、埋まっている材料とかを元に自転車を形成するのよ」

「ええ、じゃあ材料がなければ自転車は作れないの?」

「たぶん。ここは岩とか石とか木とか捨てられたゴミとか色々あるからそれを元に自転車を形成しているのだと思うわ。でも何にもない砂漠でこの呪文を使ったらどうなるかは私には分からない。だってやったことないものね。でも出来ることは出来ると思うわ。でも材料は砂しかないから砂の自転車が出来上がるかもね」

「ふうん。それ面白そうだね。砂上の楼閣ならぬ。砂上の自転車か。なんか儚いね。乗ったら崩れるという。こんど砂漠に行ったら一回やってみてよ」

「そうね。それも面白そうね。砂で作ったお城みたいで。今度やってみようかしら」

 俺達は皆で笑い合って、そして季蒔が作り出した自転車にまたがった。この付近の材料から作り上げた自転車とのことで確かに良く見ると、パイプの材料に空き缶が使われているのが、パイプの模様から分かった。ジュースのラベルの絵と文字がパイプ表面に見えたからだ。これはこれで味があるな。なんて思いながら、俺達は自転車を街へと向けて漕ぎ出した。

 「ギィーコ、ギィーコ」

「ちょっと、楓。何で自転車を漕ぐ音を口に出して言っているのよ」

「だって、ずっと同じ景色が続いているから飽きてさ」

 俺は言った。

「確かに退屈っちゃあ退屈だけどよ。これから先は忙しくなるかもしれないんだから今の内にのんびり景色でも見て心を休めていた方が良いぞ。これからはほんと茨の道だぞ」

「そうね。今しかこんな呑気な雰囲気味わえないかもしれないものね」

 自転車を淡々と漕ぐこと数時間、視界の先に町の入口と何かの建物がぼんやりと見えた。

「もう着いたんだ。意外と早く着いたね」

「そうね。でも出来ることならもっと早くに簡単に着きたかったわ。私の魔法で。まだまだ私の能力の低さには自分でうんざりするわね」

 やれやれと、ため息を盛大に吐き出しながら季蒔が言った。

 街の入口まで来ると、遠くから見えていた建物は酒場だということが分かった。

「町の入口に酒場か……。いい街じゃねえか」

 俺は言うと、セガールも頷いた。

「あんた達、街についていきなり酒? まったく呆れちゃうわね」

 両腕を組み、頬を少し膨らませる季蒔。

 流石にいきなり酒場はまずいと思った俺はまずは宿探しをすることにした。

 宿を探して道を歩いていると、前からガラの悪そうな男達3人がやってきた。全員頭はぼさぼさで、顔にはこれまた手入れされていない髭が伸び放題だ。

 山賊のような彼らは俺達を、いや季蒔を認めると、にやにやしながらこちらへと向かってきた。

「おい、ねえ……」

 彼らが声を発した瞬間、季蒔のエルボーが彼ら一人の顎にクリーンヒットして、一人が倒れた。

「おい、なにしや……」

 残りの二人が言った途端、またしても季蒔が股間に回転ヒールキック&ムーンサルトかかと落としを決めた。

 三人の男はその場で完全に気絶してしまった。

「お、おい季蒔」

 セガールが言うと、季蒔は説明した。

「彼らは人間になりすましたナンパ師モンスターよ。彼らは人間に変身して、女をナンパし、そして子供をはらませ、モンスターの子を産ませるの」

「まじで?」

 俺が言うと、のされていた三人の男が霧のように白いもやを出した後、体が変化した。そして地面に横たわっていたのは、先ほどの三人の男ではなく、顔が既にわいせつと言っても過言ではない、顔面わいせつモンスターだった。いや顔の表情の話だ。いやらしそうなねちっこい顔を顔面に張り付けているのだ。しかし体は人間ではなく、背中に小さな黒い翼が生えていて、それは人間とは違った。

「彼らの先祖は悪魔系のモンスターだったの。その翼はその時の名残ね。今は飛ぶことは出来ないけれど、モンスターというのは昔から変わっていないわ」

「そうなんだ」

 納得した俺達は、その後他にモンスターがいないか注意深く探し、いないことを確認した後、この街の宿屋に泊ることにした。

 「ねえっ、ねえ起きてよ。ねえってば。起きろ!」

 バキッ!

 宿屋に泊り次の日の朝、そんな感じで俺は季蒔に無理やり起こされた。最後のバキは色々と暴行気味だった。

 そう四人皆一緒の部屋に泊まったのである。まだ駆け出しパーティーの俺達は金を節約する為だ。

 起きると、すでに季蒔以外のメンバーは起きていて、テレビを見ていた。どんなテレビをこの世界では放送しているのだろうか。

 見ると、モンスター特集。新たに発見されたモンスター情報やその懸賞金を延々と切り替え切り替えで放送していた。どうやらモンスター懸賞金番組らしい。異世界らしくて俺は少し笑ってしまった。

「どうしたんだよ。まだゆっくり寝させてくれないかな」

 まだ少し夢見心地で、しかも見ていた夢が面白かったのでまだまどろみの中に浸っていたかったから、そう言ったら、「あんたね~」とあきれられてしまった。

「おい、楓。眠い所申し訳ないけど、早くここを出なくては、延滞料金がかかってしまうから早くチェックアウトするぞ。それに季蒔の魔力がどうやら完全に回復したらしいから、早速チータイガーを作り出そうと思っている」

 武魔の言葉にようやく目が覚めた。そうだチータイガを陰毛から作り出すんだった。ベッドから起き上がり、服を着替えると、セガールがテレビを消し大きな声で叫んだ。

「よっしゃー! じゃあ早速五人目の仲間を作り出すとするか!」

「仲間かどうか分からないけどね」

 季蒔はクールにそう言った。

「それにしてもこの街は結構いい結界が張られているっぽいな。体力の回復が早い」

 武魔は少し関心した様子だった。

 話を聞いてみると、どうやら街には各々モンスターの侵入を防ぐために様々な結界を張っているらしい。でも昨日モンスターが入っていたじゃないかと言うと、この街の結界はエネルギーの大きなモンスターの侵入を防ぐ結界を張っており、つまりはあのモンスターはモンスター認定すら結界にされないぐらいの小物だったということらしい。

「この街の結界はエネルギーの大きなモンスター侵入を防ぐ結界や、魔力、体力回復結界を重ねているらしいな。やべえな金足りるかな」

 結界に力を入れているということは街全体の物価も高くなる傾向だとのことだったが、その心配は杞憂に終わり、物価は至って平凡だった。ボランティアで街の住人が結界を手伝っていることもあり、物価が平均的だということが宿屋で宿賃を支払う時に受付に話を聞いて分かった。

 街を散策していると、武器屋らしき建物が目に入った。看板が道に出ていたからだ。

 俺達はチータイガーを作る前に、念のため武器や防具を買っておくことにした。つまりは実験前の保護メガネ、保護マスク的な意味合いの為だ。

 「いらっ……しゃい」

 店に入ると、鼻毛が左右の鼻の穴の中から三本ずつ出ている店主と思われる生物が姿を現した。

 生物と形容したのは、それは俺の知っている人間とは少し違っていたからだ。

 頭の両側にでかい耳が生えており、とても遠くまで聞こえそうな耳をしていた。目はくりくりであいあいのようなまん丸で、鼻は人間よりも二回りぐらいでかく、口はおちょぼ口のように小さい。更に身長は二メートルぐらいあり、手足は長く、でもひょろっとしているわけではなく筋肉質で、足の大きさは、30㎝ぐらいはありそうで、着ている服は、まるでターザンのような服装だった。普段人の服装や体型、顔などに全くと言っていいほど興味がない俺だったが流石にその店主らしき人には異様な雰囲気を感じたので、ボソッと武魔に聞いた。

「ねえ、あの店主。何の人種なの?」

「ああ、あれか。あれはモラスミンカ族だよ。珍しいねこんな街で彼らが商売をしているなんて」

 詳しく話を聞くと、彼らミラスミンカ族というのは、地球で言う、原住民が住むような場所に住んでいるらしい。

「おでの店で、何買うか? 冷やかしならお前の脳天に弓矢をぶち込むぞ」

 とんでもない脅し発言をしてきたので、少しだけ先頭モードに入った俺。

「大丈夫、大丈夫だよ」

 セガールは安心させようと言うが、武魔の表情は険しくなった。

「いや、ようやく思い出したよ。図鑑でしか見たことなかったけど、そう言えば、彼ら民族は喧嘩っ早いんだ。被害妄想も激しくて、ネガティブ感情に一度火が付くと、被害妄想が膨らんでいき……」

「膨らんで……いき?」

 武魔は構えをとった。

「襲ってくるんだよー!!」

 武魔が叫んだと同時に、ミラスミンカ族の店員がカウンターを飛び越え俺達の方へと向かい、攻撃してきた。

 武魔は一旦しゃがみ、力をぐっと入れた後、立ち上がると、叫んだ。

「念剣!!」

 武魔の手には何も見えないが何かを握っているようにも見える。

 そして、武魔はそれを振る。

 ミラスミンカ族の店主は目に見えない何かを喰らい、店の奥の壁へと吹っ飛び、盛大な音を立てた。

「う、うぐぐっ」

 店主はよろよろとした足取りで立ち上がった。

「冷やかしじゃねえよ。ほれっ」

 そう言って武魔がカウンターにお金を置き、いつの間にか品定めをしていたネックレスをカウンターに置く。するとにっぱりとした笑みが店主から帰ってきた。

「お買い上げでございますね。お客様。ありがとうございます~」

 …………俺は開いた口が塞がらなかった。

 物をお店で買ってからの店員はがらりと人が変わったかのように優しくなった。

「彼ら民族は買うお客様は神様で、買わないお客様は悪魔なんだよ」

 武魔が店員に聞こえないぐらいの小さな声で俺にぼそっと言った。

 いや、でも極端すぎますよね。まるで二重人格だ。というか二重人格そのものだよ。なるべくなら今後、こんな民族、あるいはこの民族が経営しているお店には一切関わりあいたくないものだな。と、俺は思った。

 その後、お店で、いくつか装備品を買った俺達は店を出た。

「ありがとうございました~」

 満面の笑みを張り付けて、店員が爽やかな笑顔で言った。しかしその笑顔の裏に隠された悪魔の顔を知っている俺達からするとあの爽やかな笑みはむしろ爽やかどころか心を固まらせる石化の効果をもたらす笑みだった。

「さあ、早速装備してみようか」

 武魔が言ったけど、流石に街中で装備するのは俺達は良いけど、女の季蒔は抵抗あるだろうから、公園に向かった。季蒔は公園のトイレで着替えることになった。

 公園は一面芝のような緑色の尖った、けど柔らかい草が地面を覆い尽くしていて、公園自体はなだらかな丘や、人工的に作られた山や、遊覧船がある大きな澄んだ池や、塔があった。って……「塔?」

 俺は思わず口から驚きの言葉が漏れた。

 「何であんな所に塔なんか……」

 俺が呟くと、武魔が解説してくれた。

「ここは国立公園なんだよ。塔が発見されそこを国が公園にしたんだ」

「国立公園は他にもあるのか?」

「ああ、他にもいくつもある。この公園に来るのは初めてだけどね。塔を保護する目的で塔の周りに公園を作ったんだよ」

「へえっ、じゃああの塔には入ることが出来ないんだね」

「ふっふっふ。所がどっこい、入ることが出来るんだよな」

 武魔は不敵に笑った。

「へえっ、じゃああの塔全て開放されているんだ」

「いや」

 俺と武魔の話にセガールが口をはさんだ。

「どういうことだ? セガール」

「俺は何回か入ったことあるけど、あっ、他の塔の話ね。塔は入口フロアは見学無料だよ。で、二階や地下一階は有料だな。でもそれ以上になるとちゃんとした手続きプラスお金が必要になる」

「えっ、どう違うの? 区別が分からん」

「それはね」

 そこで季蒔が会話にようやく入って来た。

「二階と地下一階は結界が張られていて、安心して見学できるからお金を払うだけで入れるけど、三階以上、あるいは地下二階以下は結界が張られていないから、ちゃんとした手続きが必要なのよ」

「結界が張られていないってどういうことだ?」

「あんたも大概に鈍いわね。つまりモンスターが出るっていうことよ」

「も、モンスター? あの塔に?」

「そう、国立公園内の塔はまだ完全には攻略されていないのよ。だからまだ塔を攻略する人材を国は募集しているのよ。だから弱いグループは入れないようにちゃんと手続きが必要なの」

「うわお。でも、モンスター、塔から出てきたりはしないのかな」

「それは大丈夫、賢者によって入口は完全封鎖されているから。もちろんモンスターにとってだけの話ね」

「いや、賢者がいるなら、そいつが魔王を倒せよ」

「そうね。でも年で引退して今は隠居しているとの話だからそれは無理ね。ご老体に鞭うって働けってあんたそれ、冷酷すぎるでしょ」

「老体って……それを早く言ってくれよ。でもこの国は老人に案外優しいんだね」

「そうなのかしらね。私もこの世界に来てそんなに長くはないから分からないわ。ただ賢者だから優遇されているっていうのもあるのかもしれないわね。だってさっき私達がいた街、けっこう老人が働いていたわよね」

「そういえば……」

 俺はさっきの街を思い出して言った。

「いやいや、あの人達は自分達で率先して仕事をしているんだよ。仕事をすることによって体を動かすことによって、健康が保たれ、若い人と絡むことによって自分も刺激をもらえるんだよ」

 武魔が言うと、季蒔が「ふーん。つまりは若い人のエキスを絞っているっていうことね」

 いや、違うだろ。いや、違くはないけど、ニュアンスに若干悪意が入っているよ。まあでもいいや、塔にモンスターが出ようが出まいが今の俺達には関係ないし。

 そう思っていたら、季蒔が言った。

「じゃあ、気分転換に塔にでも入りましょうか」

 ええ!?

 「でも、チータイガーの形成はどうするんだ?」

 セガールが季蒔に聞いた。

「あっ、そうね。どうしようかしら」

 季蒔は少し考えている。

 武魔はいつものことなのか、季蒔に対して何も言わない。このパーティーは季蒔殿下なのだろうか。

「私、美味しい物を先に食べる主義なのよね。だからこの塔に先に入ってみたいわ。でも安心してちょっとだけ寄り道するだけだから。たぶん半日も塔に入れば、私満足すると思うから」

「しょうがねえな~。付き合ってやるか。それに俺もこの塔内部、若干気になるしな。どんなモンスターが出るのかさ。まあアイテムはかなりの地下や上層部に行かないと、宝箱とりつくされているだろうから残っていないと思うけどね」

「そうね。宝箱はもう期待しない方が良いわよね。でも楽しみだわ~」

 季蒔のテンションが急に上がり、今まで見たこともないように瞳がキラキラと輝いている。

 というわけで俺達はチータイガーを作り出す前に、寄り道して国立公園内にある、そびえ立つ塔に入ることにした。

 近づくにつれ塔が巨大になっていき、入口に付近までくるとあまりの迫力にお腹が少し痛くなった。それは緊張からくる過敏性大腸炎の症状と似ていた。後、もしかしたら朝、うんこをしなかったので、それも原因の一つかもしれない。ここまで宿から歩いてきて、腸が歩いたことによって活発に動き出し、大腸の中にたまっていた、うんこが押し出されてきたのかもしれない。肛門付近まで。

 塔の結界の外にはトイレがあった。さっきいた所にもトイレがあったので、この公園はトイレがたくさんある、とてもいい公園だなと俺は思った。

 俺はメンバーに一言行って、トイレに行き、大便をして身も心もすっきりした後、再び塔の外で今か今かと待ちわびている、季蒔に「わりい、待たせたな」と少しヒーローっぽく言ったら季蒔は「も~、遅い」と両腕を組んで、ふくれっ面をして言った。

 合流した俺は、皆と塔の周りに張られている、柵、兼結界の開いている部分の場所から入口へと歩を進めた。

 すると受付があった。宝くじ売り場のような小さな小屋に塔の入場を管理していると思しき、若い女の人が笑みを浮かべて俺達を見つめていた。

「っしゃいませ~。見学ですか、見学ですよね。はい見学入りました~」

 俺達が何も言っていないのに無料見学と決めつけている破裂しそうな風船爆弾みたいな胸をもった金色の髪の耳が尖ったエルフ系の女がそう言った。っていうか決めつけるなよ。もしかしたら見学客以外ほとんど来ていないのかもしれないけれど、そこは決めつけないでさ。

「いや、見学じゃないんだ」

 セガールポチが言うと、受付の女がうふっと笑った。

「うふっ」

 というかうふっと実際に言った。

「有料見学の方ですか~。うふ、ありがとうございます~」

「いや、俺達はダンジョンを攻略の方をやりたいんだ。って言っても半日ぐらいで戻ると思うけどね」

「えっ?」

 あからさまに困惑した表情を浮かべる受付。もしかして手続きが面倒くさいからなのだろうか。

 そんなことを思っていると、受付が「やめた方がいいですよ」と小さな声で言った。

 いやこっちの都合なのに、何で本人じゃない、受付がやめろと忠告するのか分からない。理解が出来ない。

「おいおい、それを決めるのは僕達の方だろ?」

 しびれを切らした武魔が少し苛立たしそうな声で言うと、受付は一瞬しゅんとなった後、言った。

「その通りでございます。ですが、この塔の難易度はかなり高くて、地下二階以下と二階以上に上がった冒険家は今まで120人ぐらいいますけど、誰一人として帰ってきませんでした。そう全滅です」

「ふぁ!?」

 変な声が喉から出た。

「ちょ、ちょっと何それ全員死んだってこと?」

「それは分かりません。ですが誰一人として戻ってきていないのは事実です。なので塔の内部がどうなっているのか誰にも分からないのです。この塔の難易度はS級です。もちろんドSのエスです」

「もちろんドSのエスって何だよ! 一番難易度が高い意味でのSじゃないのかよ!」

「えっ? 何をおっしゃっているのですか?」

「それはこっちの台詞だよ!」

 あまりにもふざけた感じの受付に俺は怒った。

「まあいい、俺達はこの塔の攻略として入るからな。いずれにせよ。なっ!」

 俺が言うと、メンバーは「う、うん」と急に乗り気ではなくなった。いやお前らが行くって言ったやん。

 抑えきれなくなった怒りの感情と衝動に支配された俺は嫌がるメンバー三人を連れ、受付で登録を済ませ、塔の攻略として入ることになった。ちなみに受け付けは身分証などはない俺だったけど、この星生まれの武魔がいるおかげで、パーティー登録出来たので、無事に入ることが出来た。その時のクエストとして、何かしらのアイテムや武器、防具を拾い持ち帰ったり、モンスターの死骸やその肉を持ち帰った場合、あるいはモンスターを捕まえた場合など、譲れば報酬が出るとのことだった。なので、モンスターを捕まえた時などの為に、袋に入れた品が小さくなる便利な袋と、モンスター捕まえ箱、これまた捕まえたモンスターは小さくなる。などももらった。へえっ、便利な品物もあるもんだ。これもしこの品物だけ持ってトンずらしたらどうなるんだろうか。それを受け付けに聞いたら「その時はあなたは国から追われる指名手配犯になるので注意して下さい」と片方の口を釣り上げ、魔性の笑みを浮かべる受付に言われたので、納得した。なるほどそれなりに高価な品物なんだろう。この袋と箱は。

 というわけで俺達は塔のダンジョンの攻略をすることになった。

 「なあ、地下攻略と高層攻略どっちにする?」

 セガールポチが言った。

 確かにどちらを攻略するのかによって、かなり今後の展開が分かれそうな気もした。なんせ入った人達全員が帰って来ないと言う難易度の高いダンジョンなのだから。

 どちらに行くか、あるいは別れて攻略するかなどを色々話あった結果、塔の上へ皆で向かうことにした。

 二階からは有料見学になっており、もちろんその二階はスルーし、三階へと向かった。ダンジョン攻略の人は二階の金もダンジョン攻略代として含まれているから払う必要はなかった。

 そしていよいよ三階に到着。パーティー四人が入口の、エリアをまたいだ瞬間。後ろの開いている今来た、入口空間が閉じて消えた。扉があるわけではないのに、空間自体が消えて、壁になった。つまりこれはもう引き返すことが出来ないまずい状態だ。

 部屋には、たいまつと同時に、天井に電気が一応通っていて、チカチカと明滅している。手入れされていない、ずいぶんと古い部屋だと思った。

 地面を見ると、早速モンスターらしき生物がいた。それはマツタケのような形をしており、幼児ほどの大きさで、巨大でそれがいくつも群生するように生えていて、季蒔は悲鳴を上げた。

「えっ、何これキモイ!」

 表面はぬめっとして光沢しており、その根元の周りにはなぜか草が生えていた。しかし自分から移動して攻撃してくるタイプのモンスターではないらしく、近寄らなければそんなに問題はなさそうだった。

「私、分析するね」

 季蒔は人差し指と親指で丸を形作ると、それを目へと当て、何かを覗き込む仕草をした。

「丸見え!」

 それが能力の名前なのだろうか。もうちょっとよく考えろよ。

 まあいいやとか思いながら、季蒔の丸見えとかいう分析魔法の行く末を見守った。

「むむむっ」

 季蒔は何やら興味深そうに眺めている。

「分かりました」

 大喜利の時の回答のように言うと、季蒔は分析結果を俺達に言葉で示した。

「まずあの生物は結構やばい、自分の子孫を残す為に、先端から液を飛ばします。それは男に対してです。男がその液体を浴びたら、女が妊娠するように男なのに妊娠して、あの子供を産まなければなりません。子供は歩くモンスターで強くはないけど、陰湿なモンスターであくどいモンスターになります。そして死ぬ間際、自分の子孫を新たに残す為に、自分が旅してここだと思った場所で、強大マツタケ形態に変身して、そこで自分の生涯を終えます。マツタケとして、いやマツタケじゃないけど。でも女にはなぜか無害であるらしく、女の子は安心です」

「安心ですじゃねえよ。あぶねえモンスターじゃん」

「そうです。私は今そう言ったと記憶しています」

「ロボットみたいな言い方で言うな。腹立つな。自分だけ大丈夫だからという安心感からか? ん?」

「そ、そんなことはありません。それより、あのマツタケモンスター、倒しますか? 倒して食べたら、結構肉体的に成長が認められますよ」

「そんな、キノコ形態食いたくもねえ」

 セガールポチが反吐が出るといった感じで言うと、武魔も頷いた。

 そして、武魔は、先ほどの武器防具ショップで披露した念剣という見えない剣技を再び披露した。

「念剣!」

 斧を振り回すような軌道を描いた念剣(俺には見えない)は大きな風音を立て、モンスターの頭、つまりキノコの先端部分を、薙ぎ払い、クビちょんぱした。

 キノコの切り取られた頭からはドバドバと血が大量に流れ出ている。

「おえっ、おえっ」

 思わず、えづくセガールポチ。俺もなぜだか吐きそうになった。

 流石にあれはやっぱりどうあがいても食べられそうになかった。なぜかは知らないが、何となくは心当たりはあるが、それは考えないことにした。

 というわけで、そのモンスターの横を素通りした。

 直後、一体生き残っていた、マツタケモンスターが先端から、粘着液を飛ばしたけど、間一髪躱した俺は、そのキノコを蹴りで吹っ飛ばし、コンクリートの床に根を張っていたそいつを、壁へと叩きつけた。おお、いつの間にこんなに力が。やはり昨日食べた、虫モンスターが成長を大きく促したのだろう。しかし、だからと言ってこいつだけは食いたくない。

 俺達は、その場を後にした。後には巨大キノコの凄惨な残骸が残されていて、キノコの先端はぴくぴくと痙攣するように動いていた。

 三階の出口が見え、四階へと続く階段が目に入った時、出口の前に立っている何かが見えた。

 それは通せん坊するように立っていたので、ボスだろうと推測出来た。

 装備を整えた俺達は、意を決して出口へと向かった。

 やはりボスらしい。でっぷりとした体型の身長三メートルはあろうかという巨人だった。こちらに気付き、ぎろりと睨みつけたあと、にやりと笑った。どうやら俺達を値踏みしていたようで、更にその結果おそるるに足らないと判断したのだろう。

 季蒔が魔法詠唱をする。どんな魔法かは分からないが、俺はその魔法に期待した。

 詠唱が終わると、季蒔の手からは水が発射された。

「水はね、勢いが強いと金属だって切ることが出来るのよ」

 その言葉通り、季蒔の放った水は凄まじい圧力で噴射された、一筋の線へと変わり、その三メートル巨人の右腕をふっとばした。

「やったわ」

 喜んだのも束の間、その巨人が反撃に転じた。

 左手で服の後ろからブーメランのようなもの、いやブーメランを取り出すとこちらへと投げて来たのだ。その剛腕から投げ出された先端にとげがついたブーメランは季蒔に直撃し、直撃した拍子に内部の爆弾が爆発し、近くにいたセガールポチもダメージを負い、季蒔とセガールは二人ほぼ同時に意識を失った。

「うわっ、最悪。強すぎるだろ。いやもう二人が弱すぎるのか? どっちなのか」

 俺は絶望のあまり解説することで現実から逃れようとした。

 しかし、近くにいた武魔の表情も一気に青ざめていて、すぐさまそれが現実だと現実に引き戻された。

 武魔の攻撃はあの見えない剣による攻撃だった。それを放つと見えない何かが巨人をすぐさま襲った。そして巨人は今度は左手を失った。

 だが、巨人は余裕の笑みを浮かべていた。

「このままでは勝てないな。というか僕達は死ぬな」

 武魔が言った。

「ど、どうすれば」

「あの肉だ。今切り落としたあのモンスターの肉を皆で食うんだ。そうすれば一気に僕達は強くなる」

 しかしその肉を拾いこちらへと持ってくるのは容易ではない。更にその肉を食べる隙があるのかどうか、それは考えれば分かることだった。

 だけどこのままでは俺達は死んでしまう。

 しかし次の瞬間モンスターは自分の落ちた右手左手を足で思いっきり蹴飛ばしこちらへと飛ばしてきた。間一髪よけたけど、その威力は絶大で壁に穴が穿った。どうやら何も考えていないモンスターのようだった。これはチャンスだ。俺達はモンスターの右手左手を皆で分けて食べた。気絶している二人には無理矢理食べさせた。直後、筋肉に力がみなぎってきた。そして力が溢れてくるのが分かった。

 俺は足をけりだし、間合いを詰めるとモンスターの懐に入り、腹を思いっきり腹パンした。

 モンスターの腹が破裂するように大きな穴を開け、血しぶきを後ろに飛ばした。

 そして三階を攻略した。

 「ああもう。強すぎるわよ。このダンジョン。だって三階でこの強さよ」

 季蒔が愚痴をこぼした。

 それもそのはず、ダンジョンに入り、モンスターが出てくる階でいきなりこの強さのモンスターが出てくるから無理もない。それは俺も同じだ。しかしそのモンスターの肉を食って俺達が一気に強くなったのも事実だ。だから俺はむしろ感謝していた。それに扉が消滅して、後ろに引き返せないダンジョンだとしても、外から見たこの塔の高さはせいぜい10階程度だと思ったから攻略は不可能ではないだろうと俺はふんでいた。仮に地下に行っていたとしたら地下は外からは深さが分からないので、もっと絶望感が襲っていたかもしれない。そういった点ではこの塔の上を目指すと言う決断は英断だと言っても良かったかもしれなかった。

「あ~、もうやってらんないわよ」

 季蒔が言ってはいけない一言を言った。そりゃあだめだろう、ダンジョン攻略組として。気持ちは分かるけど。

「おいおい、季蒔それはだめだろう。その言葉は言っては」

 セガールが俺の気持ちを(武魔の気持ちは知らんけど)代弁して言った。

「いやこれ、でも三階でこの強さはまずいっしょ」

 季蒔はどこか開き直っている。

「それはそうだが……」

 武魔は一応の理解は示す。

「でも、こうは思わないか? このダンジョンを攻略した時、その時は俺達の力が見違えるほどになっていると」

「いや、ぶっちゃけそんなの関係ないわね。私もう早くここから出たい。だってもともとの予定は半日だったわけでしょ? このままじゃ、下手すりゃ数年かかっても出れないかもしれないわよ」

 それは流石に困る。おまる。

 とか考えていたら、季蒔が笑う。にっと。

「だから、こんな時の為に、トゥルルルットゥトゥー」

 まさかの季蒔が歌いながらポケットから取り出したのは。

「陰毛ー!」

 いや、声を大にして言うことじゃないだろ。しかもその言い方だと自分の陰毛だと思われるぞ。

 考えていたら、季蒔の顔に朱が差した。どうやら勘違いされる言い方だと気づいたらしい。

「ち、違うわよ。こ、これはあれよ。チータイガーの陰毛よ」

 まあ分かっているけどね。

 そして皆、季蒔の意図を理解し、この攻略したダンジョンの三階出口でチータイガーを作り出すことにした。しかしこれ下手したら、チータイガーに襲われて、死んでまうで? どんな性格か分からへんから。

 なぜか関西弁で俺はそう思った。

 季蒔の魔力は今朝まで宿に泊まったことにより、完全に回復していて、先ほどのモンスター戦でも大した魔力は使わなかったからほぼMAX状態だとのことだった。更にモンスターの肉を食べたことにより、最大MPが上がったと、自負しているようで、それはそれは結構なことだった。

「ねえ、それよりも他にモンスターがいないか、見張っててくれない? 私たぶんモンスター形成魔法を使ったら一気に魔力がゼロになって、その場で倒れてしまうかもしれないから」

「そうか。分かったよ」

 セガールがそっけない態度で言った。

「はっ? ま、まさか。私が魔力を失って無抵抗なのをいいことに、あんなことやこんなことをしたりしないわよね」

 季蒔が胸の辺りを服の上から抑え、どこか後ずさるような仕草をして言った。

「そんなことするわけないだろ。ってあんなことやこんなことってどんなことだよ」

 呆れたようにセガールが言った。

「う、うん。例えば、私の顔に落書きをするとか。私を放っておいて、皆でババ抜きをして楽しむとか」

「そっち系!?」

 俺は突っ込むように言った。

「そっち系って、楓が考えていたのはどういうことなのよ」

「だから例えば、眠っているのをいいことにキスをするとか。胸を触るとか。服を脱がすとか」

「さ、最低ー!! あんた最低よ。悪魔、鬼畜、ゴキブリ、ダニ、カス、カスカス、カスカス」

 何で最後歌うようにカスカス言うんだよ。

 セガールはぼろくそ言われている俺の顔を見て、どこか同情的な顔をしていた。どうやらセガールも気絶した後のあんなことやこんなことについて季蒔が考えていそうなことを、俺と同じようなことを考えていたのだろう。季蒔は普段は被害妄想が激しい癖にたまに、純な所があったり、少しずれていたりするから、つかみどころがない。例えるならば鰻だ。ぬるぬるして捕まえようとしてもすぐに逃げてしまう。あるいは風に吹かれてどこかに行く紙切れのようだ。そんな風に思った。

 ある程度、季蒔の俺に対しての暴言が言いつくされて、一段落? ついたらしく、ようやく季蒔が落ち着いた風になった。というかさっきの暴言もよくよく表情を見てみるとそこまで本気ではなかったらしい。

 季蒔はすぐにさっきとは打って変わって切り替えたような表情になった。すぐに切り替えられること自体、さっきの暴言は本気ではなかったという証拠でもあり、少しは安心したが。

「さあっ、じゃあ頑張ろうかしら。ここからが私の魔法使いとしての腕の見せ所ね。頼むわね皆。私のこともし、モンスターが出たら守ってね。えへっ」

 言って、季蒔は地面に置かれたチータイガーの陰毛に向かって呪文を詠唱し始めた。

 地面が光り始める。そして地面に五芒星が浮かび上がり、光は部屋の天井まで伸び、辺りを明るく照らした。

「出でよ。チータイガー。来い、来るんだ。チータイガー。ファイトだチータイガー」

 まだ陰毛から何の変化もないそれに向かって、季蒔はどこか鼓舞するかのようにそれに語りかけ続けた。

 すると、陰毛が発光し……部屋全体を閃光で包み込んだ。

 閃光が収まるとそこには……チータイガーがいなかった。

「えっ、えっ。どうしていないのよ。何で……」

 動揺を隠し切れない季蒔。

「しょうがない。しょうがないよ。失敗することもあるさ。今度また試せばいいさ」

「今度なんてないよ。今度何なんて。今回しかチャンスはなかったのよ。どうして…どうして…。それに何で陰毛もなくなってしまうの?」

 季蒔の瞳からは一筋の涙がつっーと落ちた。

 その落ちて行く、涙を視線で無意識に追っていた時、ふと地面に何かを発見した。

「あっ、何だ? あれは。あの虫みたいなのは……」

 俺の声に、皆、俺の方を一回見た後、俺の視線の先を皆見た。

 すると……。

「チータイガーだ。チータイガーがいるぞ!!」

 武魔が大声で叫んだ。

「「「えっ!!」」」

 声を揃えて俺達は言った。

 そこには小さな小さな、蟻粒ほどのミニチュアサイズの生まれたばかりのチータイガーの赤ちゃんがそこにはよちよち歩きで動いていた。

 「インプリンティング、インプリンティングよ!」

 季蒔が叫んだ。

 インプリンティングとは刷り込みってことだっけ。最初見た生き物を親と思う動物の習性っていうかそんな感じの。確かにそれが可能ならば刷り込みをすることによってあの危険なチータイガーでも生まれた瞬間ならば、なつかせる絶好のチャンスかもしれない。

 よっしゃー! つーかあんな強いモンスターの親になれるチャンスなんて、今後ないかもしれない。だから俺は誰よりも早く親になろうとした。でもそれは皆考えが同じようで、四人の顔が密着して、ぎゅうぎゅうの満員電車みたいな状態になってチーターガーを俺達は見下ろした。

「チータ、チータイガー? バブゥ」

 チータイガーのミニチュア赤ちゃんは困惑した表情を浮かべている。しかし、次の瞬間チータイガーの毛が逆立った。

「チータ、チータタイガー、僕より弱い奴には従わないタイガー」

 へっ? チータイガーが喋れるのはこの間の戦闘で分かっていたけど、生まれた瞬間から言葉を喋れるの? 一体どういう仕組みなの? いやそれよりも、今言ったことって……。

 嫌な予感は的中した。インプリンティングとかそんな簡単な話ではなかった。チータイガーは自分より弱い奴には従わないと、今ここで断言したのだ。つまり俺達はチーターガーよりも力が強いとこいつに示さなくてはいけないということだ。それが示していることはそう……「戦闘だ!!」

 俺が声を上げるとようやく、三人は我に返った様に、戦闘の構えをとった。

「うわあ。マジかよ。だから嫌だったんだよ。こいつを作り出すのは。こいつはただのモンスターではないって言っただろ」

 セガールが愚痴をこぼす。

「仕方がないじゃない。何とかなると思ったんだもん。でも起こったことはしょうがない。こいつを全力でやっつけるよ」

 季蒔が言う。

「ああ、こいつの大きさは俺達が前に戦ったチータイガーとは大きさも、力も断然弱いと思うが油断するな。例え赤ちゃんだとしてもこいつの能力は底知れない」

 武魔が警戒の言葉を言った。

「チータイガー!」

 蟻粒ほどのチータイガーが叫ぶと、チータイガー赤ちゃんは地面を蹴った。

「は、速い!」

 俺の方へと向かってきた、チータイガーの赤ちゃんの攻撃を間一髪俺は躱す。

 チータイガーは勢いあまって、天井に体をぶつけた。天井に穴が穿たれた。

「うわっ、マジかよ。半端ねえ」

 冷や汗がこめかみから流れた。

 と……。

「う~、ばたんきゅ~」

 チータイガーの赤ちゃんはそう言うと、天井から床へと真っ逆さまに落ちて行き、地面に激突した。

 どうやら、体当たりして天井にぶつかった衝撃で、ダメージを負ったらしい。

「ほっ」

 俺は安心のため息を吐き出した。

「た、助かったわ」

 季蒔が言った。そして更に「今よこの階から逃げるのよ。たぶんまたすぐにこのチータイガーは体力を回復させて私達を追ってくるわ」と言った。

 すると「お待ちくだされ」と誰かが言った。

 その誰かとは他でもないチータイガーだった。

「な、何なのよ。もう私達メンバーに絡まないでくれる? もうあなたを仲間にしようなんて思わないから」

 季蒔がチータイガーに言った。

「そんな寂しいことを言わんで下さい」

 チータイガーはどこぞやのおっさんのような言い方で言った。

「な、何でよ。あんたみたいな危険な生物は金輪際関わり合いたくないわ」

 するとチータイガーは寂しそうな瞳をした。小さいので何となく感じただけだけど。

「我がチータイガーの種族は生涯孤独でありんす。あまりの強さの為、誰にも理解されることなく、危険生物と認定される定めでごわす。この情報はチータイガーに伝わる、知識テレパシーによってお腹にいる時から母親から学ぶでごわす。母親は産んだら最後。はいさようならで、姿を消すでごわす。というかチータイガーはメスとオスが半分半分の生物で、子供を産むときだけ、母親になるでごわす。普段は父親でごわす。なので本当にチータイガーの生涯は一匹だけでごわす。寂しい種族でごわす。しかし唯一心を開く時があるでごわす。それは自分より強い生物を発見した時でごわす。その時、我が種族はお腹を見せる犬のように、心を完全に許すでごわす。吾輩は母親から生まれたわけではなく、あなた様の魔法により生まれたのは存じているでごわす。しかし、母親が吾輩を生んだわけではなくても、例え吾輩は陰毛から生まれたとしても、吾輩を生んだ陰毛はそれは紛れもなく吾輩の母親の陰毛だったでごわす。だからそんな些細なことは気にしていないでござる。今吾輩が言いたいことはただ一つ」

「な、何よ」

 季蒔が戸惑ったように言う。

「我が神速のスピードを誇る、チータイガー種族の攻撃を躱したメンバーがいるこのパーティーに吾輩を加えて欲しいでござる」

「えっ?」

「嫌だと言ったら?」

 セガールが言う。

「その時は全力でそなた達を葬るべく追跡し、我が人生最後の時まで狙い続けるでごわす」

「最悪かよ!」

 セガールが言う。俺も同意見だ。

「しかし、吾輩をパーティーに加えていただけるのならば、もし今後吾輩がそなた達の能力を遥かに凌ぐ能力を明日にでも手に入れようとも、そなた達を裏切ることはせず、そなた達を守り抜き、そして忠誠を誓うと約束しよう。神に誓って。裏切ったら、即切腹する覚悟、いや確実に切腹するでござる」

 チータイガーは武士のような言い方で言った。

 というか、このまま逃げるの不可能じゃない? 季蒔がチータイガーを作り出すとかいうから。

 ジト目で季蒔を見ると、季蒔はやっちゃった、みたいな感じでベロを口から少しだし、どこぞやのキャラクターのような可愛さを作った。いや全然可愛くねえよ。むしろ最悪だよ。と思ったけど、忠誠を誓うという言葉が仮に本当ならば、それは俺達にとって願ってもない最高のメンバーということになる。

 というわけで、俺達は井戸端会議を開き、結果、断ってもチータイガーが成長して行くにつれ、確実に逃げられないと思い、(だって現段階でも逃げられるかどうか怪しいし)彼をパーティーに入れることにした。というかメスかオスかまだ分からんけど。あっ、そういえば半々って言っていたっけ。つまり……。分からん。とりあえずその話は置いておいて、俺達は彼をしぶしぶというか半ば強引にパーティーメンバーに入れることにした。

「いいよ。チー、入っちゃいなよ」

「助かるでござる」

 武魔の軽い言い方と、即答したチータイガーによって5人目のメンバーが入ることになった。まあとは言っても動物だから、ペット要員みたいな感じなのかもしれないけれど。

 「よろしくでござる」

 チータイガーが言った。

「言い方はそこそこ可愛いんだけど、威圧感が半端ないわね」

 季蒔が後ろをついてきているチータイガーを見て言った。

「大丈夫でござる。皆を守るでござる」

 しかし蟻ぐらいの大きさなので目を凝らさないと良く見えない。

 だけど、威圧感だけは感じるので、まるで24時間監視されているかのような感覚に陥った。

「な、なあその殺気もっと隠してくれないか?」

 セガールが言うと、チータイは「分かったでござる。気配を消すでござる」と言った。

 チータイが言う通り、その直後気配が一瞬にして消えた。まるで空気のように。

 これには流石に背筋がゾクッとした。悪い意味で。チータイの攻撃はさっきは上手くかわせたけど、どうやら運が良かったのだということが今更ながらに分かった。こいつは感情に任せて突進したからこいつの攻撃を躱せただけで、もし少し冷静になって俺達を攻撃したら、気配を読み取ることが出来ずたちまち瞬殺されていたのかもしれない。だけど今、仲間となった今はそれを疑うことをするべきではないと思った。チータイを信頼しないと、常に緊張状態にさらされてしまうだろう。チータイが気配を絶ってくれたのは、その点本当にありがたかった。だから俺達は暗黙の了解の上で、チータイを存在しないかのようにふるまい、気にしないで歩くことにした。そして四階に上がった。四階の入り口には恐竜がいた。どんな恐竜かと言われると、ティラノっぽい感じの恐竜だけど、大きさはダチョウぐらいで、でも背中に羽根が生えていて、動きをみると、残像しか見えなかった。

「ああ、これ詰んだかも」

 武魔が首を大きく横に振った。

 セガールも、季蒔も同感の感じだった。顔に絶望という文字を張り付けているかのような表情だった。そしてそれは俺も同じだった。

「情けないでござるな」

 後ろの方で声がした。あっ、忘れていた。チータイガーのチータイだ。ちなみに名前は俺が頭の中で勝手につけただけで、誰にも言っていないから、チータイって言っても通用するかどうかは分からない。

「チータイ、あいつやばそうなんだけど」

 俺が言うと、三人は頷く。しかしチータイは「はっ!」と馬鹿にするように、あるいはあざけるように笑った。

「あんな奴が? あいつは雑魚だよ。雑魚。しょうがないでござるな。おらがやっつけてやるでござるよ」

 チータイの一人称がおらだったとは。

 直後、俺の後ろの地面から音が聞こえたと同時に一陣の風が吹いた。否、吹き荒れた。嵐が起きた。竜巻が起きた。とか思っていたら、目の前の翼恐竜がバタンと倒れ、体中に穴を開けられ、全身から血を吹きだしていた。そしてもちろんそれは死んでいるということが一目で分かった。

 チータイ以外の俺達四人が近寄ると、翼恐竜は痙攣しているけど、それはただの筋肉の反応らしく、生命としてはほぼ間違いなく死んでいて、俺達四人は季蒔の炎魔法で翼恐竜を焼いて、焦がして、こんがりさせて、香ばしく頂き、更にステータスを向上させて、チータイ様様だった。

 「ありがとうございます。チータイガー様」

 俺が敬語で言うと、「よすでござる。恥ずかしいでござる」と地面から声が聞こえた。どうやら照れているようだ。

「でも、チータイがいなかったら俺達さっきの恐竜で死んでたと思うよ」

 俺は素直な気持ちを吐露した。

「それは事実かもしれないでござるね。今気づいたけど、拙者の力は皆よりも上でござる。しかし一度攻撃を躱され、死ぬまで忠誠を誓うと決めた以上、拙者は裏切らないでござるから安心するでござる」

 小さな蟻ぐらいの大きさの、ネコ科系動物モンスターから妙な言葉で言われると、現実感に乏しい。まるでゆるキャラに話かけられているようだ。

「それにしても、なぜ拙者の名前がいつの間にかチータイに決まっていたでござるか? 別に嫌ではないから良いのでござるが、良ければ話を聞かせてくれると嬉しいでそうろう」

「ああ、それはただ言いにくかったから……」

 俺が言うと、セガールと武魔が「ば、馬鹿。正直に答える奴があるか」と焦って言った。どうやらチータイの機嫌を損ねかねない質問だと思ったのだろう。そして言って振り返ってみて、俺自身もまずいと思った。

「い、いや。べ、別に言いにくいというわけではなく」

「いいでござるよ」

「へっ?」

「例え拙者の名前が糞太郎であろうと、尿三郎であろうと、玉近であろうと、楓が付けた名前であるならば、喜んで受け入れるでござる」

 何か思った以上に忠誠を誓っているご様子でした。でもそれもある意味怖い気もするけど。裏切ったら何されるか分からないから。でも今はチータイのおかげで更に強くなったから感謝しかないけどね。

 「でも、チータイさー」

「なんでござるか?」

「ずっとそのままの大きさなのかな?」

 俺が聞くと、チーターは声のトーンを落とし、「それは分からないでござる」と呟くように言った。

 続けて、「拙者もこのままではあまり好ましいとは思わないでござる。仮にメリットがあろうともデメリットの方が多い気がするでござる」

「小さいことのメリットって何だ?」

「まずは敵に視認されにくいでござる。とはいえ、レベルが高いモンスターには視認はあまり関係ないでござるがな。パワーで察知できるでござろうから」

「ああ、そうか」

「それに、飯をたらふく食えることもメリットであるな。そしてうんこも少ししかしないから環境にも悪い影響を与えづらくなるでござるな」

「そうだな。あっ、でもうんこはたい肥に出来るぞ。だからひとえに環境に悪いとは言い切れないと思うぞ」

 俺が言うと、「むー」とチータイは黙り込んでしまった。そして……。

「流石、拙者の神速アタックを躱した楓殿でござる。頭も拙者より上でござる」とひどく感心した様子だった。

「これからは楓殿の全てを知るべく24時間監視させて頂きたいでござる」

「それはやめてよね。俺うんこだって小便だってするんだから。風呂にも入るし」

「拙者は気にしないでござるよ」

「俺が気にするんだよ」

「ならばこうしようではないか。拙者は完全に気配を絶つ。そしてもし、楓どのに気配を感づかれ見つかった時点で、拙者は自害する」

「いや、重いよ! というかそうじゃなくても嫌だよ。プライバシーの侵害だよ」

「なんでござるか? それは」

 異世界のモンスターに地球のことは分からないか……。俺はチータイに細かく具体的に説明してあげた。

「なるほど。そうだったでござるか。それならば分かったでござる。納得していないけど、納得するでござる。させるでござるよ」

「なんだか未練たらたらだなあ」

「それはそうでござるよ。楓殿の風呂を覗いて、どこから洗うのかじっくり観察したかったのでござるけど、仕方がないでござるよ」

「いや、ホントやめてよ! 完全にプライバシー侵す気満々じゃん」

「分かったでござる。これも今後のメンバーのチームワークに影響しかねないかもしれないからやめるでござる」

「かもじゃなくて、完全に崩壊するからチームワークが。もし本当にそんなことしたら、俺無視するから。チータイのこと」

「分かったでござるよ」

 こんな感じで、のんびり会話を俺とチータイはした。

 チータイは5階に向かう途中の階段で、体の大きさのことをまた言っていたので、やっぱ普通のチータイの大きさになりたいんだろうなと思った。

「ねえ、季蒔、チータイ大きくなれないの?」

「それは私には分からないわ。チータイほどの異次元モンスターを作り出したのはこれが初めてだから、今後、彼がどうなるのかは私には予測できないの。だって私が今まで作り出したことがあるモンスターは、ハムウサギよ」

「おお、どんな形かは知らないけど、だいたい想像つくよ。ふわふわの毛並みしてそう」

「いや、これが皮膚が尖っていてね」

「違うんかい!」

 俺は突っ込んだ。

 でも、そんな俺達の会話をチータイは「チータ、チータハハ」と笑っていた。……笑っていたよな? 

 チータイはどうやらまだ自分の体が母親と同じぐらいに成長出来る可能性もゼロではないと知り、どこかご機嫌な雰囲気だった。雰囲気というか気配だけど。

「ねえ、季蒔、聞きたいことがあるんだけど」

「何?」

「うんとさ。チータイは陰毛から作り出したじゃん」

「そうよ」

「じゃあ、このミニチータイの陰毛いや、別の毛でもいいけど、それらから更にチータイガーは作れないのかな」

「ああ、それなんだけど無理なのよね」

「えっ、どうして?」

「同じ種族を二回作り出すのは禁止されているのよ」

「禁止? 何それ。法律で?」

「法律っていうか、契約で?」

「契約?」

「うん。魔法を使うっていうのはね。ある種の契約で成り立っているのよ。私の場合は自分の魔力を使っているんだけど、私がよく借りている力は自然界の火とか氷でしょ。それならばいいんだけど、形成魔法はある種の、まあ神系のスピリチュアル的な精神界の能力者とある意味で共同作業なのその精神界の生物の力を借りて、形成魔法を使っているの。そのルールとして同じ種族は一回ってのが決まりなの。だからね。二回は使えないのよ」

「もし使ったらどうなるの? 二回」

「それは分からないわよ。でも私死ぬかもしれないし、呪われるかもしれないし。アイドンノウ」

 なぜに英語なんだろう。異世界人なのに。

「じゃあ使えるかもしれないんだね」

「まあね。使えるかもしれないし、使えないかもしれない。だから私は使わない。だって呪われたらやだもん。禁忌魔法なんて使いたくないもん」

「そうか。分かったよ。十匹の蟻の父親だね」

「何それ」

「ありが父さんってこと」

「さむっ、寒いわ」

 そして五階に辿り着いた。

 でも、チータイの毛を使って更にチータイガーを作ったら更に小さくなるんじゃないだろうか。とぼんやりと思考しながら五階の入り口を潜ろうとしたら。

「危ない楓!」

 武魔の声でふと我に返り、目の前を見るとそこにはうんこがあった。

「あ、あぶねえ。うんこ踏むところだった」

「でもよ。こんな所にうんこがあるって言うことはつまり」

「そうだな。生物がいや、たぶんまた翼恐竜みたいなボスがこの階にもいるんだろう」

 俺は言った。

「ぐっふっふ。その通り」

 声の発する出所は……そううんこだった。

「いや、まさかとは思ったけどうんこモンスターが出てくるとはな」

 セガールが驚きを隠せない。もちろん俺も。季蒔はドン引きしていた。武魔はただ眉間に皺を寄せている。

 しかし、そのうんこモンスターはホカホカで今しがたしたうんこのように湯気を立ててはいるものの、一向に動く気配はなかった。

「さあ、我を攻撃するがよい。我を」

 うんこモンスターが言う。ドMモンスターなのかそれとも他に何か目的があるのかどうかは分からない。

「なぜ攻撃してこないんだ」

 俺が言うと、うんこモンスターは悲痛な心境を俺達に話してくれた。

「俺はこの塔の最悪モンスターから産み落とされた。つまりその最悪モンスターの糞が俺なんだ。なまじ高い魔力を持っているモンスターだけにクソすらも俺みたいに生命を持ち、意識、感情、知識を持つ。しかしこの塔はご存じの通りほとんど誰もこない。ここを通ったのはお前達を除いて数名だけだった。しかしその数名もここを出れたかどうかは分からない。しかしそれも数十年前の話だ。そいつらがここを通った時、俺はそいつらに言った。俺を踏んで殺してくれ、と。しかしそいつらは俺を忌み嫌い、俺を殺してくれなかった。成仏させてくれなかった。俺がうんこだったばっかりに。なぜ俺はうんことして生まれ、誰にも愛されることなく、必要とされることもない人生なのか。俺は生まれてからずっと自問自答してきた。なぜ俺はこんなにも苦しまなくてはならないのか。ただ幸せに生きたいだけなのに。うんことして。うんこの人生を全うしたい、ただそれだけが俺の望みなのに」

「うんことしての幸せって一体なんだい?」

「その問いに対する答えはすでに出ている。俺はたい肥になりたい。そして蛆虫を俺の中で蠢かせたい」

「ウゴォオオエェェ」

 俺は吐きそうになって言った。

「し、失礼。申し訳ない。これも俺達が育ってきた環境にあるんだ。固定観念に縛られてしまい悪いと思う。お前もうんことして幸せに生きたいだけなんだよな」

「ああそうだ。だが、それもそんな夢ももう敵わない。どうせお前達は俺を踏んで殺すことなく、ただ道端に落ちているうんこと同じように俺を素通りするんだろう。だが、もしほんの少しの良心があるのならば、踏まなくてもいい。魔法でもいいから、俺を焼いて、あるいは凍らせて、俺のうんこモンスターとしての生命をどうか絶ってほしい。どうかお願いだ。そして俺は次に生まれる時はモンスターのうんことしてではなく、他の動物のうんことして生まれ、たい肥になりたい、そして蛆虫を体内で飼いたい、それが出来ないならば、下水の中を泳ぎたい」

「ウゴォオオエェェ」

 俺は再び吐きそうになって言った。

「す、すまない。だがお前の気持ちしかと受け止めた」

「えっ、えっ、じゃあ俺の願いを叶えてくれるのか? ありがとう、ありがとう」

「いや、違う」

「そ、そんな。そんなのってひどいよ。人に夢を見させておいてさ」

 うんこモンスターは哀しげな声音で言った。

「おい、季蒔!」

「何よ!」

「その袋貸せ」

「何よ。何をする気なの?」

 俺は季蒔からこの塔に入る前に借りた袋をほぼ強引に取り上げると、その袋を裏返しにして、うんこモンスターを掴んだ。

「な、何をする気だ?」

 セガールが焦る。武魔も動揺を隠し切れない表情だ。

「お前を袋に詰めて、外へ持って行ってやるからな」

 俺が言うと、うんこモンスターから茶色汁が垂れてきた。そううん汁である。

「ありがとう、ありがとう」

 うんこモンスターはしゃくりあげながら言った。どうやらさっきのうん汁はうんこモンスターの涙だったようだ。

 そして俺はそのうんこモンスターを異次元袋の中に放り込んだ。

 袋の中から、うんこモンスターの「ありがとう、ありがとう」という感謝の声が微かに袋の外に漏れ響いて来て、俺はどこか感慨深い気持ちになった。この行為が俺の自己満足だと分かっていても。

 「で、お前はどんな名前なんだ?」

 俺は袋を開け、中に入っているうんこ、もとい、うんこモンスターに聞いた。

「俺のただのうんこだ。名前はまだない」

 何だか昔の文学みたいな言い方だなあと不思議な気持ちになった。

「そうか。じゃあ俺がつけてもいいか?」

「えっ、本当? やばい嬉しい。涙が出る」

「そんなに嬉しいことなのか」

 まあ、とはいえ涙はうん汁だから何とも言えないけれど。

「じゃあ、お前今日から雲母星人な。うんこっぽい響きだから」

「ありがとう。それすごくいい名前だよ」

「まあ、適当にな。聞いたことある宇宙人からとった」

「それでも嬉しいよ」

 そして名前を付けた俺は袋の中から漂う悪臭を遮断し、臭い物に蓋を擦るべく袋を閉めようとした時、うんこモンスターの雲母星人が「ちょっと待って!」と俺を呼び止めた。いや早く締めたいんですけど。

「何だい?」

 俺は極力声に、嫌な響きを出さないようにして聞いた。

「うん、ちょっとだけいいかな。俺のことなんだけど」

「ああいいよ。もし、もしもだけどこの塔の最上階に辿り着けて、俺を生み落としたモンスターと戦うことがあったら俺を……」

 そう言って、何やら言葉を溜めた。

 俺は嫌々ながら声を聞きとる為に、臭い袋の中に耳を近づけ、声を聞き取ろうとした。

「もにょもにょもにょもにょ」

「な、何だってーー!!」

 俺はその話を聞くと、「分かった」と頷いた。

 そして、俺達は五階のフロアを罠に気を付けながら進んで行った。

 五階には宝箱がいくつかあって、その中には鎧や剣があったが、この間店で買った奴よりは弱かったので袋に入れておくだけにした。でもうんこの臭いがつくよなあ。とか考えた。

 そして五階の出口が見える通路に間を置いて、並べられるように宝箱が二つ並べられていた。

「何だか怪しいなあ」

「そうね。でも私、宝箱の中身を探る魔法使えないから何が入っているか分からないわハハッ」

 いやそこ笑うとこじゃないだろ。もっと魔法を覚えてくれよ。とか愚痴を頭の中で零す。

「じゃあ開けるしかないな」

 武魔が言って、セガールも頷いた。お前等ちょっとは疑えよ。

 で、宝箱を開くことになったわけだけれど、まずは左にある宝箱。それを開いたら宝箱は宝箱自体がモンスターだった。まあありがちっちゃあありがちだけれど。

 武魔は拳に魔力を込め「勇者パンチ」とかいう陳腐な名前のパンチを繰り出すと、一撃で宝箱モンスターをやっつけることが出来た。というか武魔は勇者の見習いだから、そのパンチの名前はある意味で詐欺ですぞ。

 するとその宝箱のモンスターは起き上がりこちらを見上げていた。ええ、まさかそのパターン? 

 というわけでその宝箱モンスターは俺達の仲間になりました。名前は宝ちゃんに決まりました。だって女の子らしいから。でもどうやって子を産むんだろうか。とか思い聞いてみたら、宝箱の中に性器が入っていて、宝箱同士交尾するんだって。宝箱の中にそんなのが詰まっていたなんて……。夢を壊さないでくれ。まあある意味、宝箱モンスターにとっては宝になり得るのか? まあそんな下衆な考えはやめておいて。次に右の宝箱を開けることにした。

 右の宝箱を開けると、まがまがしいスプレーが入っていた。

 何だこれ? 説明を見てみると、スプレーには消臭スプレーと書いてあった。

 それを聞いていた袋の中のうんこモンスターの雲母ちゃんが「それ俺に欲しい!」と声を大にして袋の中から言った。

 何だよ。自分の臭い、気にしていたんだなあ。そんな繊細な奴だったとは。俺は繊細な雲母ちゃんに対して好感度が上がった。うんこだからって若干嫌悪感を示していた自分を反省した。でもスプレー振りかけていいのかなあ。俺がそのことを伝えると「是非かけてくれ」と懇願された。スプレーを再び見てみると、そこには『うんこに使用して下さい』と書かれていた。だけどどこか嫌な感じがした。もしかしたら消臭スプレーだけど、逆に臭いが増すスプレーとかじゃないよな。トイレに甘い匂いをスプレーしたら逆に臭くなるみたいな。それにこれ装備品だったんだ。なぜならばうんこにこのスプレーを突き刺すと、突き刺したうんこに消臭効果がありますと書かれていたからだ。じゃあ俺は使用できないんだな。と分かって雲母ちゃんを袋の中から外へ一旦出すと、地面に置いた。そしてその置いた雲母ちゃんの上に消臭スプレーをお望み通り、ぶっ差した。すると消臭スプレーが光り輝き雲母ちゃん全体を包み込んだ。何だこれ? ある意味すごいけど。

 そして雲母ちゃんのうんこ臭が消えた……と思いきや、更に悪臭を放ち始めました。そして雲母ちゃんからは禍禍しいオーラを感じました。そして表情もなくなりまるで何かに憑りつかれているようになりました。

「季蒔一体これはどうしたって言うんだ?」

「たぶんあの消臭スプレー呪われていたのね。それを装備したからこんな風になったのかもしれない」

 消臭スプレーに呪いの品とかあるのかよ……。何だかどうしたらいいのか途方に暮れた。

「俺を……ころ……してくれ……」

 すると呪いにかかった雲母ちゃんが悲痛な面持ちで言った。

「でも、見捨てることは……」

 いや、出来るけど少しだけ可哀そうな気がした。若干とはいえ、同情心が一緒にいたことによって芽生えているのも確かだからだ。

「呪われていても俺達の大事なメンバーだろ」

 俺は言うと、更に臭くなった雲母ちゃんを裏返しにした袋で掴み袋の中に入れた。

 皆の表情を見ると、皆うんうんと頷いていた。だけど何を思っているのかはメンバーとは言え、分からなかった。それがそれを勘ぐる気もなかった。

 俺達は先を進んだ。五階の階段を上がり、六階に行くと、モンスターがまたしても入口をふさいでいた。そのふさいでいたモンスターを見て、さきほど仲間になったばかりの宝箱モンスターが頬を赤く染めた。というか頬はないけど、テンションが上がって、もじもじしていて、瞳を爛々と輝かせていたから、すぐに分かった。

「一目惚れか?」

 俺が聞くと、宝ちゃんは、こくこくと頷いた。乙女だなあ。

 そして、俺はその宝箱モンスターにこう聞いた。

「お前のことを好きな奴がいる。話を聞いてくれるか?」

「何だと? わしのことを好きな奴だと? ふんっ、そんなのはいらんわい。どうせわしに合うモンスターはどこにもいないんだ。わしはこの階を守るモンスターじゃけど、一度も同じ種族をみたことがない。わしには永遠に青春は来ないんじゃい」

 とか愚痴を零していたけど、宝ちゃんをみると「ずっきゅーー!!」と叫んだ。どうやらカップル成立のようだ。

 そうして二人が会話をするのを遠くから優しい目で見守って、待つこと数十分。

「私彼と結婚することになりました」

 宝ちゃんが言った。

「そうじゃ。だからわしもお主達のパーティーにどうか入れてくれんかのう。もしだめならわしと宝ちゃんはこの塔の中で永遠に暮すことにするよ」

 俺達は話合った結果、彼も一緒につれていくことにした。彼の名前は宝王という名前に決めた。なんとなく恰好いいから。一体どんなことになるのだろうか。これから。チータイガーと呪われたうんこモンスターと宝箱モンスター夫婦。どんどん仲間が増えていく。でもそれはそれで楽しいからいいか。と、あまり深くは考えないようにした。

 俺達は六階を抜け、七階へと向かった。

 七階に上がると、入口に屍が落ちていた。返事がないただの屍のようだ。とは思わないで今までの経験から推測してあいつがモンスターであることはほぼ確定していた。

 と、通り過ぎようとしたら、そいつが立ち上がることはなく、どうやら本当にただの屍だったようだ。

「ちょっと、待てい!」

 通り過ぎた直後、そう大声で呼び止められた。言葉はどこか聞いていると寒々しくなってくる声音だった。

「誰だっ!」って言った直後、ようやく俺は気づいた。「ああ、なるほど幽霊か」

「もっと驚け!」

 足のない半透明のどこか青っぽくも感じられる幽霊は骸骨の上に存在していた。じゃあやっぱ入口にはモンスターが待ち受けているのは間違いじゃなかったんだ、とどこか安心する。

「お前はその骸骨の幽霊か?」

「うむ。いかにも。私は元は人間とモンスターのハーフ、半獣人だったのだ。それで無理やりこの塔に連れてこられて、仕事をさせられた。なぜかというと私は借金があったからだ。それで借金を返す為にこんな塔に働きに来させられたのだ」

 ああ、地球で言う、マグロ船に乗せられる話みたいなことね。

「そして、ここで仕事を開始したは言いが、誰もこないし、私は完全なるモンスターではないから、食料がなくなって餓死してしまったのだ。なんと哀しいことよ」

「はいはい」

「何だその、聞き流しは!」

「もういいから、俺達先に行くね。もしよかったら付いてきてもいいよ。仲間にしてあげるから。まあ嫌だったら別にいいけど。それに外に出れたら成仏できるかもしれないよ。とはいえチーム内で悪さしたら追い出すから」

 俺は言った。仲間は皆頷いている。そしてどんどんと先に進んで行った。

「ま、待って~! ついて行くから私も~! 仲間にして~」

 というわけで更に仲間が増えました。幽霊のスケさんね。透けているから。

 その時、季蒔が「あっ」て言った。

「どうしたんだ? 季蒔」

 セガールが聞く。

「いや、さっきの骸骨持って行かない?」

「えっ、どうしてだ?」

 武魔が聞く。

「うんとね。思い出したの。魔法で骸骨に魂を宿す魔法のことを。当時は使えなかったんだけど、今の成長した私ならばもしかしたら……」

「な、何だって? じゃあもしかしたらそれが使えれば私は骸骨とは言え、魂をそこに定着することが出来るというのか?」

「うん。とは言え、それは一時的な物なのよ。借り物を借りるだけ完全に定着することが可能かどうなのかは私は知らないし、聞いたこともない。でも数時間ぐらいならばそれが出来ると聞いたことがある」

「ほ、本当か……。いややめておこう。今更私の体とはいえ、骸骨の身に戻った所で嬉しいことは何もない。良いんだ。あの骸骨は捨てておいてくれ」

「そうっ。分かったわ」

「ちょっと待ったー!!」

 季蒔の納得の言葉に待ったの言葉をお見合い番組よろしくかけたのは、そう誰を隠そう、予想通り、雲母ちゃんだった。

「ねえ、ねえ。その骸骨。俺に使えない? ねえねえ、その骸骨に俺の魂宿せない?」

 ちょっとだけうざかった。

「うーん。それは不可能ではないわよ。ある種のイタコのようなものだけど。でも、あなたの魂を骸骨に移すってことはつまりそのうんこの体はその間ただのうんこになるのよ。数時間だけだけど」

「いいんだ。それに俺は一度地面を歩いてみたかったんだ。うんこだと、うんこの身だとただそこにあるだけで歩くことなんか、夢のまた夢、というか、うんこに機械で足をつけなければ不可能だったから俺はどうしても機械じゃなくて自分の意志で体を動かし地面を歩いてみたいんだ」

「そんなに言うなら、やってみてもいいけど……。でも成功するかどうかは分からないわよ」

「うん。それでもやってみてくれ。もし失敗して俺が死んでもそれはそれで納得だ。その時はうんこの処理を頼む。そして俺は次の人生にたい肥として生まれ変わるんだ。うふっ」

 どんだけ前向きだよ。まあいいや。

 というわけで半獣人の骸骨にうんこモンスターの雲母ちゃんの魂を一時的に移す実験をすることにした。

 「でも、魔力がなくなったりして今後の活動に影響出たりしないか? せっかく宿に泊まって回復したばかりなのに」

 俺が聞くと、季蒔は親指を立てて、大丈夫と合図を出した。

「大丈夫よ。任せて。それに魔力がなくなったらここで寝て回復すればいいじゃない」

「まあそうだけど」

 というわけで早速準備を開始する季蒔。

「うんばーらー、かんたーら」

 というような感じの雰囲気の言葉を詠唱する季蒔。

 季蒔の体が淡い白い光に包まれる。

「はいやー」

 季蒔が言うと、うんこの雲母ちゃんの喋りがいきなり途絶えた。そして数秒後……。

「やったー。やったよ。うわっはっは。俺骸骨に転生出来たよ」

 雲母ちゃんが言った。

「どうやら成功したみたいね。良かったわ」

 ふうっ、と一息つく季蒔。

 そして雲母ちゃんの魂が抜け出したうんこはただのうんこへとなった。

「これの処理をどうしようか」

 セガールが言うと、今は骸骨に魂を移された雲母ちゃんは「処理って言うな!」と憤慨していた。

 だから俺がそのうんこを再び袋へとしまい込んだ。でも、一つ気づいたことがあった。雲母ちゃんのうんこの肉体を拾って移動させればさせるほど、体が崩れて、あるいは床とかに付着して体が少しずつ減って行っているということに。それを皆に伝えると、皆は「確かに」と納得はしてくれたけどさほど心配そうな表情はしていなかった。所詮皆の認識としてはただのうんこということなのだろうか。俺は少し哀しくなった。

 どれぐらい骸骨に魂を移せるのかは分からないけれど、そんなことはどうでもいいとばかりに、うんこから骸骨に魂を移された雲母ちゃんは、初めて自らの足で歩く喜びをかみ締め浸っていた。

「うっほーい! 俺歩ける。歩けるよ。うんこの分際で歩けるよー!!」

 少し自虐を混ぜて言えるぐらいそれぐらい喜びもひとしおなのだろう。俺は少しだけ自分のことのように嬉しくなった。あれ。でもそういえば呪われていたよね。雲母ちゃん。

 それを言うと、皆思い出したように「あっ、そういえば」と言った。

 皆で考えた結果、どうやらその袋には悪を清める成分が多少入っているかもとの推測で、その袋に少しの間だけでも入っていた呪われた消臭雲母ちゃんはそこで多少清められて、一時的に自我を取り戻したのではないかとのことだった。だけど袋にずっと入っていても完全に呪いが消え去るわけではないとのこれまた推測だったので、もしこの塔から抜け出せたら、雲母ちゃんの消臭うんこ体を清めようと、皆で話あった。

 そして八階では巨大な蝉モンスターが仲間になった。どれぐらいかと言うと、横幅が二メートルぐらいあり、身長も四メートルぐらいある蝉だった。しかし歩いている最中で生まれてからちょうど一週間だったらしく、その仲間の蝉モンスターは死んだ。でも仲間にして30分ぐらいで死んだので申し訳ないけど大して悲しくなかった。というか皆、蝉だからしょうがないよねと、どこか冷めた感情でそう納得していた。ちなみに名前は付ける前に死んだ。俺もこのモンスターはすぐに死ぬかもしれないと思い、名前を付けるのをどこかで無意識にためらってしまっていたのかもしれない。しかし俺達は振り返ることはせず、前にどんどん進んで行った。

 次に九階では鎖に繋がれている不死鳥っぽいみための鳥がいた。伝説の鳥っぽい見た目で優しそうだったから助けてあげたら仲間になった。その名前はフェニックスっぽいみためからバンド名っぽくフェミXと名前を付けた。

 仲間がぞろぞろと増えて、後ろに連なって行くのを見て、俺は失礼ながら金魚の糞みたいだなあと考えてしまい、自分の下衆さに気づき自己嫌悪した。

 9階で仲間の装備を更に拾った。その装備品を仲間や仲間モンスターと分けて装備した。

 10階に上がると、今までとは雰囲気がガラッと変わった。奥には嫌な雰囲気を放つフロアが見えた。フロアの手前は廊下とも小部屋とも呼べそうな場所になっていて、その廊下小部屋の床は鏡張りになっており、女の季蒔はスカートの中身が見えないかと少しスカートを抑えて歩いていた。

 床鏡は光沢のある金属のように鈍い色の光が移り変わり鏡の中をまるで虫が這っているかのようなどこかおどろおどろしい雰囲気を感じた。

 俺が先頭に立ち、小部屋を進み、奥のフロアに一歩足を踏み入れた瞬間、足が溶けた。

「うぁああああ!?」

 しかし、足が溶けたと思っていたけど実際は靴の先端だけが溶けていたのでセーフだった。

「や、やばいぜ。この部屋は……今までとは雰囲気が全然違う。絶対この部屋魔王級のモンスターがいるだろ」

 武魔がびびった様子で言った。

 おい! 仮にも勇者見習いだろうが! と俺は思った。

「今度こそお手上げね。このフロアの空間には強力な悪の魔力毒素が満ちているわ。満ち満ちているわ。この空間に入ったら最後、皆死ぬわよ。たぶんチータイも……」

 季蒔が言うと「拙者は大丈夫でござる」とチータイが部屋の中から言った。

「えっ! まじ? 流石チータイガー。じゃあ、あなたに任せてもいいかしら」

 季蒔が言うと、チータイは頷いた。

「じゃあ拙者、先に奥にいると思われるモンスターと戦ってくるでござる」

 言って、チーターの声は消えた。たぶん瞬間高速でモンスターの元へと向かって行ったのだろう。

 しかし、俺はそれでいいのか、と思った。

 彼に任せっきりでこのまま旅を続けていたらそれこそ糞つまんねえ、旅になるのではないだろうか。まるで、行きたくない修学旅行に無理やり行くようなものではないだろうか。そうではなくて、自分の足で俺は旅行もとい旅をしたい、そして経験値を増やしたい、そういつからか思うようになっていた。

 だから、どうにかしてチータイの後を追って、この部屋に入り、そのモンスターと戦いたかった。とはいえ、勝てそうにないならば、そのモンスターとチータイの戦いを見るだけでも良かった。結果だけ知っているスポーツに満足する感じではなく、その過程も見たい俺はチータイとモンスターの試合を観たいし、応援したいし、一緒になって戦いたかった。ただし俺の手におえそうにないモンスターっぽいので応援だけだけど。

 どうしたらいいのだろうかと思っていたら、先ほど仲間にした不死鳥のフェミXが言った。

「私があの空間を不死鳥の力で浄化してあげましょう」と渡りに舟の台詞を言って、やけにご都合主義っぽい気がするけど、もしかしてこいつそのモンスターの手先じゃないだろうなと、9階で都合よく仲間になったフェミXに対して不信感を若干抱いたけど、でもどの道、前に進むしかないし、チータイの試合も見たかったからその不信感をあえて飲み込んだ。でもそれは信頼していたわけではなく、何かあったらフェミXをいつでもやっつけられるほどに、気配を研ぎ澄ませてもいた。でもそれはどうやら杞憂に終わったらしく、フェミXの広げた翼から輝く朝日のような眩しい光がフロアを照らして、毒素は消えた。

 そして俺達は意を決して、そのフロアに入った。

  まるで森林の中にでもいるかのような、澄んだ空気感に、フェミXの能力の凄さに感心と共にトイレの後、こいつに入ってもらえれば消臭剤いらずだなとか、考えた。

「それにしてもフェミXすげえな」

 セガールが関心したように首を振る。

 エッヘンと胸を張るフェミX。でも二本立ちしながらのその仕草はどこか鳥の着ぐるみの中に入ったお笑い芸人っぽい雰囲気を感じてしまい、不死鳥の神聖なイメージがガラガラと音を立てて崩れていくのを頭の中で感じていた。

 先に進んで行くと、奥から戦闘の音と思われる、破裂音やら、打撃音、空気の切り裂く音が響いて来た。

 幽霊のスケさんに様子見に先に行かせる。

 スケさんが戻ってくる。はあはあと鼻息が荒い。

「す、すごい試合ですよ。チータイとこのフロアのモンスターの対決は……チータイの姿は小さくて見えませんけど、様子を見るにほぼ互角です」

 まじか。

 俺はスケさんに誘導されるがままに、その場所へと移動して行った。武魔と季蒔とセガールポチはその場で待機することになった。もし何かあった時に被害を最低限に抑える目的だ。とは言え、チータイが負けた時点で俺達パーティーの全滅はほぼ確実と言っても過言ではなかった。

 チータイが闘っている相手はいかにも強力なモンスターいう風情だった。頭の両側から角が出ていて、お腹にも取り込んだと思われる別のモンスターが顔を覗かせていた……って人間か?

 そのお腹の顔は人間の顔だった。くそっ、人間を食べて取り込んだっていうのか。胸糞悪くなるぜ。と思った所でその顔にどこか既視感を感じた。あの人間、どこか武魔に似ている……?

 とそこで俺は思い出した。武魔と話をした夜のことを。武魔の両親はモンスターに飲み込まれたとかなんとか言っていたような言っていなかったような。そのモンスターの名前はデブゴンだったような。

 俺は試しに名前を呼んでみることにした。

「おい! デブゴン!」

 すると。

「なんだ。ブー。俺の名前を呼んだかブー。おならブー」

 と俺の方をモンスターが振り返った。

 あいつが武魔の両親を食ったモンスター! しかしなぜこんな塔の中に?

 俺はその疑問を後回しにして、すぐさま武魔の元へと戻った。

 「武魔! 武魔ーー!!」

 俺が大声を上げながら武魔の元へと駆け寄ると武魔は寝ころび、まるでどこかの国の仏像のような恰好で芋ケンピをボリボリと食っていた。ちなみに芋ケンピは8階の宝箱に入っていたお宝だ。俺は宝箱に芋ケンピが入っているもんなのかな、とか思ったけどよく考えればこのダンジョンはある種の閉鎖空間だから、食料のない人にとっては芋ケンピでも水でも超貴重なお宝だとその時思った。

「何芋ケンピ食っとんじゃい!」

 俺は貴重な芋ケンピを無断で食べたことと、武魔にモンスターのことを伝えなければという緊迫感が混ざって武魔に怒鳴るように言った。

「す、すまん。楓。貴重な芋ケンピを」

「いや違う。芋ケンピを無断で食べたことに対しての怒鳴りもあるけど、それだけじゃないんだ」

「えっ! ま、まさか。チータイがやられたのか?」

 武魔が芋ケンピの一つを地面にカランと落とし、立ち上がる。

「いやそれは今の所まだ大丈夫だ。しかし武魔にとってはそれに勝るとも劣らない重要な話なんだ」

 俺はこの塔の奥にいるモンスター、デブゴンについて言った。

「な、何だって!? デ、デブゴンがこの先にいるって言うのか?」

「ああ、そしてそのデブゴンの腹にお前の親と思しき人間が一人顔を覗かせていた」

「そ、それは本当か? 俺の親が……」

「ああ、顔が武魔にそっくりでそう言えば額に稲妻の傷痕があった」

「か、母さん……」

 武魔は言葉を漏らすように呟いた。続けて武魔が語り始めた。

「俺が幼い頃台所の上にある棚からお菓子を取ろうとしたら、椅子ががたりと傾いて俺は床に仰向けに倒れた。その時台所のまな板の上に包丁が乗っていて俺の顔目がけて、包丁が落ちて来たんだ。その時母さんが、元バレー部の母さんが俺をかばう様に包丁をダイビングキャッチしようとして、それを取り損ねて、額に包丁が突き刺さって、その時、母さんの額には稲妻の傷がついたんだ」

「そんな過去が……」

「だからそのデブゴンのお腹にいるのは間違いなく母さんだ」

 武魔の二つの瞳から涙が伝う。そして武魔は右手を固く握りしめた。

「デブゴン、デブゴン。ようやくこの時が来たか! 何年も長い間、お前を探し続けて来たぜ」

「行くぞ! 楓、セガール、季蒔、雲母、宝ちゃん、宝王、フェミX!」

「「「おお!」」」

 皆が声を合わせて言うと幽霊のスケさんが「私も連れて行って~~!」と寂しそうに言った。

 デブゴンの元へと辿り着くと、デブゴンは未だチータイと戦っていた。

「どっちが勝っているんだ?」

 武魔が言う。それもそのはず、どちらも次元の違うと言っても過言ではないモンスター。あまりの強さに、目で彼らの死闘を追うことすらほとんど出来ていないのが現状だった。

「チータ、チータタイガー」

「くっ、お前強いぶー。なかなかやるなぶー。おらなぶー」

 二匹のモンスターがお互いに言葉を交わす。

 復讐に来た武魔だが、どうやら彼の出る幕はなさそうだ……と思っていたが、徐々にデブゴンが攻撃する時間が増えているように感じた。

「あ、あれ。もしかしてチータイ押され……てる?」

 俺が呟くと、それを裏付けるかのようなデブゴンの言葉が聞こえた。

「ぐっふっふ。どうやら形勢が俺の方に傾いて来たようだぶー。これも塔の自然回復効果だぶー」

 一人語り始めるデブゴン。

「この塔は、魔王様のご加護を受けているぶー。魔王様がこの塔に魔法をかけたぶー。だから俺にはこの塔のご加護のおかげで常に体力が回復し続けるぶー」

 それ反則だよ。

 このままでは力は互角でも、体力が減り続けるチータイとデブゴン。結果は見えている。だから俺は。

「行くぞみんな! チータイに加勢するんだ」

 俺が言うと、デブゴンは「何だ。男と男、モンスターとモンスターの一対一の決闘に手出しをするなぶー」と俺達をけん制した。しかし、セガールポチが「良く言うぜ、魔王からのご加護を受けてるくせに」というと、デブゴンは「ぐぬぬぶー。おならぶー」と言って、その後、本当におならをぶーした。

「あっ、漏れた」

 でぶごんの顔がほんのり赤く染まる。こいつにも恥の概念があるとは思わなかった。

 と、そこでようやく武魔がデブゴンの腹に視線を向けた。

「か、母さん!」

 武魔が言うと、その腹の顔が喋った。

「あら、武魔。久しぶりね。どう? 元気だった? 私は元気よ。このデブゴンの腹はとても心地よくてね」と腹の顔が喋った。

 それを見た武魔は激怒した。

「お前、俺の母親で遊びやがって」

「あれっ、ばれたぶー」

 どうやらデブゴンは腹の顔の人間を自分の意志で動かし喋らすことが出来るらしい。

 すると、腹の顔、つまり武魔の母親が苦しそうに喋った。

「た……けま。ここへ来るんじゃない。早くに……げな……さい」

 すると、更に声が聞こえた。それはデブゴンの背中からだった。

「そ……うだ。武魔。ここ……へ来るんじゃない」

 何と、背中にも人間の顔があったのだ。

「と、父さん!?」

 まさか武魔の父親もデブゴンに飲み込まれ吸収されていたとは。

「全くまだ俺の支配から逃れやがってぶー。本当にしぶとい奴らぶー。でも最高ぶーね。愛し合っている二人が俺というモンスターを通して背中合わせで生きているぶー。お互い決して顔を合わせて話し合うことも出来ないぶー。こんなに近くにいるのに会いたくても会えない決して結ばれない近距離恋愛ぶーね。距離は近くても、心の距離は遠く離れているぶーね。お互いに向き合うことが出来なくてぶー」

 デブゴンはぶっぶっぶと笑った。

「この野郎!」

 武魔の瞳に憎しみの怒りが宿っているのが見える。そしてそれは俺も、いや俺達メンバーは誰しもが同じだった。

 俺達は皆一斉にデブゴンに向かって行った。

 「くっ、助太刀すまないでござる」

 チータイの苦しそうな言い方にチータイがいかに追い込まれているのかが窺える。

「いいってことよ」

 セガールが言いながら、まず盗賊としての俊足を生かし真っ先にデブゴンに攻撃を仕掛ける。

「遅いぶー」

 デブゴンは言うと、セガールを薙ぎ払った。

「ぐおー!」

 セガールは薙ぎ払いにより、俺達の方へと吹っ飛び、フロアの入口まで吹っ飛ばされた。

「ぶっぶっぶっ。遅いぶー。あまりの遅さにおならだけでなく、身も出たぶー」

 だんだんと下品になっている気がするデブゴンに対して嫌悪感しか沸かない。更に力を持っている悪いモンスターだけに嫌悪感は相乗効果で更に増している気がする。

「いててててっ」

 セガールの声が後ろから聞こえる。

「大丈夫か!」

 俺が声を掛けると、「ああ大丈夫だ」というセガールの声と共に「えっえっ」という女の声が聞こえた。

 俺はデブゴンの攻撃に備え、気をデブゴンの方に向けつつも、女の声がしたのでセガールの方を向いた。

 その時、同じく後ろを見ている武魔の顔が視界に入った。武魔の顔が驚き、そして喜びに満ちている。

 武魔の目から涙がこぼれ出した。

「どうしたんだ? 武魔」

 俺が言うと、武魔が泣きじゃくった声で言った。

「か、母さん……」

「か、母さんだって?」

 俺は驚いて、その女の方を見た。すると確かにさっきまでデブゴンに捕えられていたのと同じ顔の人間がそこにはいた。

 驚きが冷めやらない気持ちのまま、俺はセガールの方を見た。

 するとセガールは、頭をポリポリと右手で掻きながら「へへっ、成功したぜ。俺の盗賊としての特技『強奪』が」

「はあっ?」

 あまりに訳が分からな過ぎて素っ頓狂な声が俺から出た。いやいやデブゴンの体内に取り入れられていた、母親を『盗む』って凄すぎ、いややばすぎだろ。俺はそう思った。

「セガール、あんた凄いわね。まさかデブゴンの体内の母親を盗むなんて」

 季蒔が驚きと、尊敬が混ざったような顔を浮かべながら言った。

「いやあ、でもまさかデブゴン相手に成功するとは思わなかったな。俺の盗みは基本、敵からアイテム盗み、あるいは臓器盗みが主だけどさ」

 ぞ、臓器盗み? モンスターから臓器を盗めるのかよ。ということは盗もうと思えば人間の臓器も盗めるわけだよな。

 俺はセガールを今後あまり怒らせないように、と強く思った。

「いずれにせよ。後はデブゴンの後ろにいる武魔の父親を“盗め”ば終わりね」

「ああそうだな」

 セガールが頷く。

 武魔はいつのまにか母親に駆けより、母親と抱擁を交わしている。

「ゆ、許せないぶー。俺の持ち物、所有物の女をあいつ奪ったぶー。おならぶー」

 後ろを振り向むと、そこにはさっきまでのデブゴンとはまるで別モンスターのように怒りをたぎらせ空間を震わすほどの凄まじいエネルギーを放っている禍禍しいデブゴンの姿がそこにはあった。

 デブゴンがジャンプをした。すると地面に着地した衝撃で、天井の一部が落ちて来た。

「これぞ俺の必殺技、デブゴン隕石ぶー」

 天井は今まで上がってきた階の天井とは素材が違うようで、キラキラと輝いていたが、それはただ輝いているだけではなく、まるで鋭利な刃物のような落下物だった。

「危ない!」

 俺達は皆、若干かすってはいたもののほとんど致命傷を受けることがなく安堵した。武魔は母親をかばって事なきを得ていた。

「ぶっぶっぶっ、かかったぶーね」

 するとデブゴンが不敵な笑みを浮かべて言った。

「何を笑ってやがる」

 セガールが吐き捨てるように言う。

「ぶっぶっぶ。その天井の破片には猛毒が塗られているぶー。かすって30秒経ったら魔王様と俺以外ほとんどの生物はその毒性に耐えられなくて死ぬぶー」

 嘘だろ?

「25……26」

 デブゴンがカウントダウンを開始する。

「ローリングサンダーヒーリング!!」

 フェミXが叫ぶと同時に俺達の体が光で包まれた。

「な、何が起こったんだ?」

「これで、私達の体の中の毒素は消えたわ。不死鳥としての守りパワーで」

 そんなことが可能なのか。っていうかやっぱフェミX不死鳥だったのか。凄すぎ。

「ずるいぶー。おならぶー」

 不満そうに言うデブゴン。

「そうか。まずは不死鳥を殺せばいいぶーね」

 デブゴンがいよいよ本気を出してきた。

 そこに登場したのが他の階で仲間にした宝箱夫婦だった。名前はそう宝ちゃんと、宝王だ。

「ちょっと待て、デブゴン良い物を見せてやるぜ」

 宝箱夫婦が言う。

「何だ? 良い物って」

 多少興味を示すデブゴン。

「ふっふっふ。良いのもとはこれだ!」

 言って宝箱夫婦は交尾を始めた。

 ……良い物ってこれかよ。

 俺は思ったが、俺とは対照的にデブゴンは愉快そうに笑っていた。

「ぶっぶっぶ。まさかこんな時に交尾とは受けるぶー。そうか自分達に死が迫って来ているのを感じて、最後の夫婦としての交尾を始めたぶーか。いいぶー。いいぶーよ。最後の交尾を楽しむぶー」

 ぶーぶーぶーぶー、とデブゴンは言った。

「ではお言葉に甘えて」

 宝王と宝ちゃんはチャンスとばかりに交尾を始めた。それにしても宝箱の交尾とは本当に珍しいというか不思議な感じだ。まあただ重なっているだけにしか見えないからエロさみたいなのは感じないけど。

「はあっはあっ」

 宝王が交尾を終えると、一息ついた。

 すると宝ちゃんは「少し待っててね」と言った。

「何を待つぶーか」

「今から“産む”から」

 宝ちゃんはそう言った。

「産む? 子供を産むぶーか。ぶっぶっぶ。それは面白い。いいぶーよ。とっとと子供を産むぶー。宝箱の子供が一人や二人生まれた所で俺の有利は揺るぎがないぶー。とっとと生んで無駄なあがきをするぶー」

 くそ、舐めやがって。しかしその余裕もあの力を見れば頷ける。

 余裕しゃくしゃくのデブゴンに対して宝箱夫婦は、にやりと笑った。

 「早く子供を産むぶー」

 デブゴンが宝箱夫婦を急かす。

「ちょっと待ってよ」

 宝ちゃんが言う。

「あっ、う、産まれるっ!」

 宝ちゃんがはあはあと言って数十秒後……。

「産まれたわ」

 どうやら無事に子供が生まれたらしい。

「ふんっ。早くその子供を俺に見せるぶー。まあどっち道すぐに俺に殺されるぶーけどね」

「うふっ、私が産んだのは子供ではないわ」

「何だぶー? 何を言っているんだぶー。らんでぶー」

 小首をデブゴンが傾げながら言った。

「さあ、楓。私の宝箱の蓋を開けてごらんなさい」

 俺は名指しで呼ばれて宝ちゃんの元へと行くと、宝箱の蓋を開けた。

 すると宝箱の中に入っていたのは、確かに宝ちゃんの言う通り子供ではなくそこには、透明な布が入っていた。

「透明な布が入っていたんだけど」

「やったわね。楓その透明な布は装備すると速度が飛躍的に上がるS級アイテムの俊足布よ」

 はい? 一体どういうことだろうか。

「説明は後よ。ねえチータイ、私達の元へ急いで来て。そしてその布を装備して」

「分かったでござる」

 どこからか聞こえたチータイの声、そして次の瞬間チータイは俊足、否、神速でここまでやってきた。

「それを装備すればいいでござるな」

「そう、そしてあなたの神速に更なるアイテム効果によって神速がプラスされ、鬼神速になってデブゴンと戦ってちょうだい。私はその間に更なる子作りをして新たなアイテムを生み出すわ。それが宝箱モンスターが夫婦になった時に出来る唯一の特技、『アイテム産み』よ!」

 そういうことか。宝箱夫婦が交尾をすることで初めて使える宝箱モンスターの特技というのがあったとは。でもこれはかなり使える特技だ。だって交尾をすればアイテムを生み出すことが出来るのだから。ある意味無限生産なのかもしれない。

「でもね。この特技には特徴があってね。愛し合っている二人の宝箱じゃなきゃ、良いアイテムは生まれないの。CランクとかDランクのアイテムしか生まれないの。でもSランクのアイテムが生まれたということは、やっぱり私と宝王は本当に愛し合っているという証なのよね。うふっ」

 宝ちゃんは少し恥ずかしそうに言った。

「そういうことかぶー。そんな特技があったとは知らなかったぶー。ちょっと油断してたぶー。おならぶー」

 首をコキコキと鳴らしながらデブゴンは不満そうに言った。

「じゃあ、早く次のアイテムを生み出すでござる」

 チータイが言って、その場から風を残し、デブゴンの元へ向かって行った。

 でも、疑問だけど子供は作ることが出来ないのだろうか。それを宝ちゃんに聞いてみると、特技としての交尾と普通の交尾は分かれていて、普通に交尾をすれば子を宿すことが出来るとのことを宝ちゃんは恥ずかしそうに言った。

 そして次のアイテム産みの為の交尾が宝箱夫婦によって始まった。

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