2-11 これが目的じゃない
シュウたちは一度洞窟の外に出ることにした。
時間にして一時間ほど。呆気なく探索を終わらせたのは魔王を除き専門職ではないからである。
魔法陣の広間から出口を探すのは手間取ってしまったが、それが問題ではない。
今後この魔法陣、ひいては結界をどうすべきか。特にミーシャは悩んでいた。
「王国に戻って陛下に報告すべきです。私では判断がつきません」
そうミーシャは主張する。
「そうだな。どうすっか……あー、やっぱり二人ともいねえな。登れるかな?」
洞窟の出口まで辿り着いたシュウは海の様子を見て適当な返答をする。
「シュウさん!」
「まあ、待て。話はここから出てからだ」
「はい……」
「登れるか?」
「ええ。魔王様がいるので浮遊魔法が使えます」
「あ、そうだったな。ハナは大丈夫だな?」
「大丈夫や!」
シュウたちが予定より大幅に早く戻ったため、クロとちびは船の近くにはいなかった。ハナが呼べば帰ってくるかもしれないが、シュウにとって高が崖を登るくらいどうということはない。ミーシャが問題なければ自力で崖の上に登ればよい。深山育ちのハナは言わずもがな、だ。
ミーシャはフワリ、ハナはピョンピョンと。結局崖の上に到着したのはシュウが最後になった。
そのことは気にせず、シュウは海を見下ろす崖の上に二人を座らせる。
魔王も交えて四人でこれからのことを決めようというのだ。
「シュウさん。戻った方がいいです。これだけの魔石、国が管理しなければ大混乱します」
そう言ってミーシャは崖の後ろ、島中央の小高い山岳地帯を見上げる。
確かに、この山の何割かが魔石鉱脈だとしたら利益は計り知れない。個人や地方領主の手に余る。或いは戦乱の引き金にもなりかねないだろう。
『……結界の解除自体は難しくはない。ただ、我の予想通りジダーン大陸全体を覆っているのなら解除後にどんな影響があるかはわからぬ……』
魔王の意見は魔石に関してではなかったが、慎重派といってよい。
「そうだな、一度帰ってもいいが……ハナはどうしたい?」
「うち? 帰るんか? 帰ったらまたうちを置いて行かん?」
「大丈夫だ。クロたちがいたほうが航海が簡単だからな」
「クロだけか? うちは? うちはいらん子か?」
「そんなことないぞ。ハナもちびもいてくれると助かる」
「ホンマやな? もう置いて行かないんやな?」
「ああ、本当だ。安心しろ」
「うん! あんちゃーん!」
「お、なんだ? 甘えやがって、コイツ」
「えへへへ」
一度は置いていかれてしまったハナは、シュウがハッキリと約束してくれたので感極まって抱きつくのだった。シュウはしがみつくハナの頭を撫でている。いつの間にかほのぼのとした空気になっていた。
ミーシャは微笑ましい気持ちで二人を眺めていたが、ハッとやるべきことを思い出す。
「しゅ、シュウさん。それで、どうしますか?」
「あ? ああ、そうだな……オレも戻ってサトラに報告するのがいいと思う」
「そうですよね。それしかないですよね」
「ああ。だが、すぐにじゃない」
「え?」
ミーシャはシュウの答えに戸惑った。すぐにではない、とはどういうことか?
シュウはミーシャが疑問を口にする前に自分の考えを述べる。
「なあ。オレたちの目的って何だ? 魔石を探すことじゃないだろ?」
「は、はい。それはそうですけど……」
ミーシャも忘れているわけではない。
シュウたちが海に飛び出したのは、あくまでも新大陸を探して魔族の生き残りがいないかを調べることなのだ。
「予定じゃ食いモンがなくなったら一度戻るつもりだったし、だから帰るのは構わねえ。だが予定が狂っちまった。ハナたちのおかげでいい方にな。食料が足りなくなるどころかクロのおかげで余っちまう」
「兄ちゃん、ちびも!」
「ああ、ちびも獲物を獲ってきてくれるから大助かりだ。飲み水も魔法で何とかなる。ここで止める手はねえだろ?」
「た、確かにそうですが……」
『……うむ。その通りだ。勇者の末裔の娘よ、我の最期の望みを叶えてはくれぬか……』
「魔王様まで……」
ミーシャ以外はシュウの意見に賛成のようである。ほぼ結論は出たようなものではあるが、シュウが最終的な理由を口にした。
「それにな、オレが見たのは夢じゃなかったってことだ。魔法も使えないオレが結界を通り抜けられるんだからな」
「そ、そうでしたね。神様が……」
「ああ。カミか何だかはどうでもいいが、そいつの言ったとおり北西に進んでみようと思う」
「……わかりました。私もシュウさんの夢を信じます」
ミーシャも、魔王と神に逆らおうなどとは思っていない。あくまで意見の一つとして述べただけだった。これも成長の一つ。サラが在席していれば目を見張ったことだろう。
それに、もともとシュウと一緒にいたかったため同行していたのだ。
ここで一行の意見は統一された。
「よし! なら、このまま新大陸探索は続行だ。食料に問題はないとして、クロの予定とかあるのか? このまま付き合ってくれるんなら助かるんだが」
「うちがクロに頼んだる! きっと大丈夫や!」
「よし、任せた! とはいっても期限ぐらい決めとくか」
「そうですね。あまり長いとサラ様もご心配なさるでしょうし……シュウさん、もともとの予定通りの二ヶ月にしませんか? その半分の一ヶ月探してみて成果がなかったら一度王都に戻りましょう」
「……それでいいか。オッサンも文句はないな?」
『……うむ。我が友・勇者の末裔や同胞の娘たちに必要以上の苦労をかけるわけにはいかぬからな……』
「オッちゃん、うちはハナや!」
「あの、魔王様。私も名前で呼んでいただきたく……勇者の末裔と呼ばれるのはちょっと……」
『……う、うむ。ハナにミーシャだな。善処する……』
「どうでもいいが、これからどうする? この島で他にすることはあるのか?」
『……うむ。魔族がここを訪れたのは間違いない。それがわかっただけでも十分だ。あとは、望み薄だがこの島を巡り生き残りがいないか調べてみよう」
ちびが調べた限りでは人間などの存在は確認できていないということだ。
魔王の言葉は念のためだということがシュウにもわかった。
「わかった。ついでに島のフルーツでも採ってくるか。ハナ、頼りにしてるぞ」
「任しとき!」
「よし、ちびを呼んでくれ」
「はいな!」
こうしてシュウ一行は航海の準備を進めるのであった。




