2-09 見つけた!
「しかし、あそこに何があるってんだろうな」
「ええ。でも、私には魔法のことはよくわかりませんし、魔王様が仰るんですからきっと何かあるんでしょう」
「……そうだな。明日もう一回調べてみるか。今度は船で回って」
「はい。そうすればクロさんもご一緒できますね」
「キュ?」
「ははは。よし、クロも一緒に探してくれよな」
「キュウ! キュウ!」
シュウたちは日暮れの浜辺で食事をしながら今日の探索について話し合っていた。
探索の結果といっても、魔王の指示に従って向かった先には『崖』ぐらいしかなかった。
魔王が感じた『結界の基点』は結界沿いの、シュウたちが越えた地点から北東に進んだところにあり、周りは代わり映えのしないジャングルである。簡単な探索をしてみたが、建物はおろか勇者の剣を奉納していたような洞窟も見つからなかった。
夕暮れまでの短い時間でわかったことは、基点があるとされる場所から少し北西に進んだところで海に出る。そしてそこは高さ二十メートルほどの断崖絶壁であるということだけであった。この島は中央から北側にかけて標高が高くなっているらしく、シュウたちが南西から北西に進んだルートから見ると山を登った覚えはないのに突然崖の上に出た感じだった。
詳しい調査は翌日ということで、この日は撤収してきたのである。
「オッサン、大昔に魔族が海を越えて新大陸に渡った、って伝説はこの島のことなのか?」
シュウはこの旅の前提について考える。
魔王によると、本来消えたはずの魔王の意識が残っているのは、この世界のどこかにまだ魔族が生存していて、彼らを人間に変えるのが魔王の心残りであるかららしい。魔王本人も『予感』や『直感』といった不確実な感覚だと言っているところにシュウが面白がって魔族、ひいては新大陸探索に乗り出したというわけだ。
『……今もここに住んでいるとは明言できぬが、少なくとも魔族が『結界』に関わっていることは魔力の質からみて間違いないだろう。だが、理解できぬこともまた多い……』
魔王が理解できないことというのは、特に『結界』の張り方に関してだそうである。
『結界』とは、種類は様々だが、総じて何かを守るために使うのが当たり前のものである。今回目にした結界は『幻影結界』と呼ばれるものに、物理的遮断効果も兼ね備えているということだ。
しかし、身を守るということなら、危険な魔獣に全く反応しないのは常識から考えておかしい。ただ、その点については、当時の魔族が人間との争いから逃れようとしたことを考えると、人間だけに反応する結界を張ったことはまだ理解の範疇である。
それならば、何故島を取り囲むように結界を張らなかったのかが余計に不思議なのである。現に海にまで結界があるのだからジーダン大陸から見て正面に張ってしまえば島の存在そのものを隠せたはずなのだ。
これで結界の基点が他の場所にあるなら、島を分断するように張られた結界は偶然そうなったと考えることも出来るが、島に基点がありながら何故という疑問が湧いてくる。
「そうか。オッサンにもわからないんじゃ、オレが今考えてもしょうがないな。よし! 明日にしよう! ってことで寝るぞ」
「兄ちゃん、今日は一緒に寝ようなー」
「そ、そうです! シュウさん今日はテントでお休みください! またちびさんに押し潰されたら今度こそ死んでしまいます!」
「ガウ~」
シュウのやる気があるのかないのかわからない発言に素直に食い付いてきたのはハナだった。そしてミーシャが追随するが、ちびは今朝の失態を思い出してしまったようだ。
「ちび、そう落ち込むな。誰が悪いって、反応できなかったオレが修行不足なだけだ。クガトの爺さん辺りなら寝てても反応したんじゃねえか?」
「ガウ?」
クガト師は、シュウの養父であるヤザン師の師匠で、シュウは前回の事件で初めて会ったが、ハナやちびは長い付き合いだ。その実力はよく知っているだろう。
「ま、これも修行のうちだ。心配しなくてもいい。お前らも水浴びして寝ろ。一日歩いて疲れただろう」
「それはそうですが……」
「一緒がええのに……」
ドラゴンの下敷きになるのが修行かといえば異論もあるだろうが、結局二人はシュウに言いくるめられてテントに向かった。ちびも昨日と同じテントと森の間に寝転がる。
「やれやれ、オレも水浴びするか……」
シュウは海のほうに向かった。
水浴びといってもこの島ではまだ川など水源は見つかっていない。幸いハナが色々と魔法を使えるのでテントの中では二人とも濡らした布で身体を拭いているだろう。その光景を見たくないといえばウソになるシュウだが、サトラもいないし気が乗らないという程度だ。
それはともかく、水魔法は便利である。
この場にはもう一人水魔法を使える者がいる。
「クロ、ご苦労だが魔法で水出してくれないか?」
「キュウ?」
海岸で服を脱ぎ捨て波際に立ったシュウがクロに頼んでいる。
「ウォーターボールとかでいい。軽くオレにぶつけてくれ。軽くな」
「キュウ!」
シュウの役に立つことがうれしいようで、クロは張り切り気味だ。
シュウは、魔法について詳しくない。更に魔獣についてもその能力を知っているわけではない。よって、リバイアサンの『軽く』の程度を見誤っているわけだが。
バシャン!
派手な音を立てて巨大な(クロから見て小さな)水の塊がシュウに襲い掛かり、その衝撃でシュウは吹っ飛んでいった。
テントを飛び越えちびの元まで。
「ガウ?」
「よ、よう、ちび……おやすみ……」
それだけ言ってシュウは眠りにつく。気絶ともいうが。
翌朝、シュウの姿を見てミーシャが絶叫したのは言うまでもない。
◇◇◇
ミーシャが赤面したままの朝食が終わり、一向は本格的に結界の調査に向かう。
魔王によって大体の結界の基点の場所がわかり、シュウと身体の一部を接触していれば結界も通り抜けられることも判明しているので今回は船で西回りに島の北西に向かうことになった。
「さて、二人とも俺に掴まれ」
「うん!」
「わ、わかりました……」
砂浜から魔道推進装置を使ってゆっくりと北上していると不意に先導しているクロの姿が消える。
結界を越えたのだ。
シュウはハナとミーシャを抱き寄せるが、ハナはともかくミーシャは朝の一件を思い出してか再び顔を赤くする。シュウは全く気にしなかったが。
船は生物でもましてや人間でもないので結界に影響されない。そして船上のシュウたちの姿が一瞬消えて、無事通過することとなった。後ろを振り向くと、飛びながら後についてきているちびも結界を潜り抜けていた。
「ここが結界の外側の海か。向こうと変わらんな」
『……人間は通れず、魔獣の姿を隠すだけであればそれも当然であろう……』
「そうだな。いきなり新大陸でも見えるかと期待してたんだが、甘かったか……よし、気を取り直して昨日の場所に行くぞ!」
「おー!」
シュウの気勢に付き合ったのはハナだけであったが、船の進行には全く問題なく短時間で目的地に到着した。
「兄ちゃん、ここ登るんか?」
「そうだなあ。ちびに頼むか」
森の中を歩くよりは遥かに早く昨日訪れた崖に到着したものの、シュウたちは未だに船の上。崖の下には岩礁が多く、接岸するのにはかなりの技術が必要なのだが、生憎とメンバーにその技術を持ったものがいない。崖にさえ上ってしまえば目的地はすぐであるのに、という焦燥感が出始めるが、ちびという存在が当てに出来る現状、それほど困難ではないとシュウは考えている。
「キュウ? キュウキュウ!」
「お? どうした? クロが崖の上まで運んでくれるのか?」
「ガウ! ガウ!」
「なんだ? ちびもどうした?」
ここまで船を運んでくれたクロがシュウに何かを伝えようとしている。シュウは話の流れで判断したが、ちびまで何かを告げようとしていた。
ただの人間としてはありえないほど魔獣と仲良くなったシュウだが、実際に魔獣の言葉をわかっているわけではないので、ここはハナの出番であろう。
そう思ってシュウはハナを見た。
「何かある言うてるで」
「何かって、何があるんだ?」
「さあ。うちもわからん」
ドラゴンと心を通わすことの出来る元魔族の少女も、直接的な言葉がわかるわけではないということらしい。
「オッサン、何だと思う?」
わからないからといって魔獣たちの言葉を無視するわけにもいかないと考えたシュウは、魔獣よりも不思議な存在、剣に封じられた魔王に意見を求める。
『……我らに見えず、魔獣たちに見えるとしたら、おそらくこの近くにも結界があるのやもしれぬ……』
「結界? それって、オッサンは感じたりしないのか?」
『……島の結界は大掛かりなものだ。少し離れていても感じ取ることができる。ここにあるとすれば、別口に張られた小規模のものかもしれぬ……』
「あー。そういうことか。よし、じゃあ、その結界を探してみるか。クロ! オレを何かあるところに連れてってくれ」
「キュウ!」
「兄ちゃん、うちも!」
「まあ待て。何があるかわからんからな。それを見つけてからだ」
シュウには夢の中でもらった『鍵』があるため、結界は見えずとも潜り抜けることは出来る。まずは一人で崖を調べることにした。
結果はすぐに出た。
クロはシュウ一人を頭に乗せ、迷いもせずに崖に突っ込んでいく。
「おい! クロ! ぶつかる……なんだこりゃ!」
「ひっ! シュウさん!」
「兄ちゃん! クロ! 痛あないか!」
船から見ていた女性陣は悲鳴を上げた。
何故なら、勢いよく崖に突っ込んだクロの頭がシュウ諸共崖の岩壁に埋まってしまったからである。
確かにそういうように見えた。
『……なるほど。崖の表面に結界が張ってあるのか……』
ミーシャの目を通して見ていた魔王が結論付ける。それを元気そうなシュウの声が裏付けることとなった。
「おーい! ここに洞窟があるぞ!」
傷一つないクロが再び船の方に顔を見せた。シュウも無事のようである。




