2-05 上陸とキャンプ
ズズっと船底が海底の砂地に接触する音がした。
「クロ! もういいぞ!」
「キュー!」
これ以上進むと船が横転してしまうので、シュウは水魔法を使っているクロに停止させるよう指示を出す。
後は錨を下ろして船を固定するだけだ。
「さて、まだ浜には距離があるが……どうすっかな。こんなことならボートの一隻でも積んでくるんだった」
シュウはミーシャを見て思案する。
シュウ一人ならすぐに海に飛び込んだだろう。だが、流石にミーシャにそれをさせるのはどうかと、ここに来てフェミニストぶりを発揮させている。
「キュウ~」
「ん? どした?」
ちびにここまで来てもらおうかと考えていると、クロが甲板まで首を伸ばしてきた。
「一緒にハナさんのところに行きたいみたいですよ」
「一緒に行くって、お前には浅すぎるんじゃ……ああ。魔法使えばいいのか」
「キュウ」
「じゃ、よろしくな。ミーシャ、クロに乗れ。あっと、まずは食料用意しないとな」
「はい。お手伝いします」
野営するための道具をはじめ、三人が今日明日食べるのに十分な食料と水を用意し、それを抱えてクロの首に跨った。
クロは、まるで地を這う蛇のように海面を移動し、ハナの待つ浜辺に向かう。
こうして二人はやっと未知の島に上陸した。
「兄ちゃん! おかえり!」
「ガウガウ!」
少々違和感を感じるハナので迎え出迎えに苦笑しながらシュウたちは砂浜に降り立った。クロのおかげで濡れもせずに。
数日ぶりの陸地の感覚に、シュウもミーシャもまだ揺れているような気がして落ち着かなかった。
だが、のんびりはしていられない。
「ただいま。ハナ、早速だが、薪拾いを頼む。森には入るなよ」
「わかった!」
「ミーシャも付いて行ってくれ」
「はい。わかりました」
シュウが見たところ、森と海岸線の距離は20メートルほどで、広いとはいえないものの、流木などが砂に埋れていた。
ハナは40年も山奥の村で暮らしていたのだから薪になりそうな枯れ木を見分けるのはお手のものだろう。その点ミーシャは経験はないかもしれないが、逆にハナが森に入ろうとするのを注意してくれると考えこの二人をコンビにした。
「クロ! スマンが、クロとちびの分、獲物を捕ってきてくれないか」
「キュウ!」
「ガウ、ガウ?」
「ちびは……休んでていいぞ?」
「ガウ? ガウガウ!」
ドラゴンも上位種ともなれば機微というものがわかるようで、みんなが働いていると知り、自分もと主張しているようだ。
「でもなあ……あ、オッサン! あの結界とかって魔獣に効果ないって言ったよな!」
すでに薪拾いに行こうとしていたミーシャを、正確には背負っている剣を呼び止め、確認する。
実はちびに頼みたいことがあるのだ。
この島、遠目で島だとわかるくらい結構な大きさと高さがある。シュウたちが来た方角からは森しか見えなかったし、未だ周囲の四分の一も見ていない。森や山間部の向こう側に何があるのか、本来船で一周して調べようと思っていたが『結界』とやらに阻まれ計画は頓挫した。
すぐに調べられるのは空を飛べて結界に引っかからない魔獣のちびだけなのだ。
『……うむ。我の見たところ、リバイアサンの行動を阻害するものではなかった……』
「そうか。じゃあ、ちびは偵察を頼む。島をぐるっと一回りしてきてくれ。人がいたらすぐに戻ってきていいぞ」
「ガウッ!」
シュウから役目を言い渡されたちびはうれしそうに飛び立った。
「やれやれ……さて、オレはっと……」
シュウは仲間たちの様子を窺いながら森に近づいていく。
奥まで入り込むつもりはないが、野営拠点の周辺の安全は確認しておきたいところだ。
木が密集しているため、バスタードソードを振り回すよりもマシだろう、と考えナイフを構えながら海が見える範囲を探索する。
結果、狭い範囲だが、魔獣の姿は見られなかった。勿論人の姿も。
代わりに、見たことのない果実をいくつか採取する。
「ハナかちびが知ってりゃいいんだが」
山奥の森に長年暮らしてきた二人に期待しているシュウだった。
これ以上の探索は明日になるだろう。それにしても、とシュウは考えた。女子供を引き連れて未開の森を探索するとは、事情を知らない常識人が聞けば目を剥いて非難することだろう。しかし、実際のところ、元魔族の少女は森のエキスパートであるし、片や正真正銘の貴族のお嬢様だが、その背負う剣は勇者の剣、内に魔王を宿してその|古《いにし
え》の知識と膨大な魔力を活用できる。
シュウの方が足手纏いになる可能性もある。
「こりゃ、オレもいいトコ見せないとな」
シュウの目指すところは一体何なのか。おそらくシュウ自身もわからないだろう。『たらしのシュウ』と呼ばれたことに後悔など微塵もないと豪語する性格である。酒と女とスリルさえあれば生きていける、傭兵になるために生まれてきたような男なのだ。
それはともかく、シュウは野営の準備をする。
テントを立て、ハナとミーシャが集めてきた流木で火を熾す。日持ちする根菜と干し肉でスープを作った。ありがたいことに、この旅で仲間になったクロが食べきれないほどの海の幸を提供してくれるので、長旅も気持ちに余裕ができるというものだ。
「キュー!」
夕日をバックに巨大な影が海から現れた。だがそのことに驚く人間はここにはいない。
驚くとすれば、クロが捕ってきた獲物の大きさに、だろう。
「お、ご苦労! 今日も大物だな。少し分けてもらうぞ」
海の魔物の種類など皆目見当の付かないシュウだが、食べられないとは思っていないのですぐに人間用三人前を切り取りにかかる。
「キュー、キュウ」
「ありがとな。ハナーっ! ミーシャ! そろそろ薪はいいぞ! 暗くなる前にメシにするぞ!」
「はーい、わかりましたー」
「兄ちゃーん! ちびはー?」
「もうすぐ戻るだろ。なんなら呼び戻してもいいぞ。どうせ明日には探索するんだし」
「わかった! おーい! ちびーっ! ゴハンやでーっ!」
王都から魔族の村までの距離で声が届くのだから、この島の中でも問題ないとシュウもハナも思っている。
事実、ハナが呼ぶと、まもなく空からちびの声が聞こえてきた。
「ガウーっ!」
「あ! 帰ってきた! おーい! おかえりー!」
「……早いな。サカナはまだ焼けてないんだがな」
「いいじゃありませんか。ちびさんたちには苦労をかけさせたのですから。先に食べていてもらいましょう」
「……そうだな。量も量だからな。クロ! ちび! 先に食っててくれ!」
「ガウ、ガウ」
「キュウ? キュウキュウ」
ミーシャの提案で、クロとちびの食事が始まる。
その豪快な食事風景を眺めながら人間たちはこれからのことを相談し始めるのだった。
ちなみに、ちびからの報告はハナ経由で簡単に聞いてある。島全体が森に覆われていて、人の姿はなし、らしい。
『……おそらく、あの結界の基点はこの土地にある……『直感』だが、魔獣以外の魔力の流れを感じるのだ……』
シュウが不思議な結界について聞いたとき、魔王はこう答えた。
「じゃあ、やっぱり島を探索しないと始まらねえか。オッサン、方向はわかるか?」
『……うむ。魔力の流れを辿るのは難しいことではない……』
「そうか、じゃあ明日は頼むぜ。お、そろそろ焼けたかな……」
明日の方針も決まり、人間たちもやっと食事に取り掛かる。シュウの採ってきた果実は、ハナも見たことがない物があったが、ちびの鼻によると食べられるということで、まずはシュウが一つ食べて体調を確認してから、ということになった。ハナの回復魔法もあるので無謀とは本人は思っていない。ちびは何も気にせず美味そうに食べていたので、逆に慎重すぎたかなと考えたほどである。
日も落ちて夕闇が辺りを包んでいた。
ドラゴンたちも人間たちも夕食が終わるとすぐに就寝する。
今晩は、海岸にリバイアサン、ジャングル側にスカイドラゴンが陣取って、テントはその間に挟まれていた。
シュウは、テントを女性陣に当然のように譲り、ちびに凭れ掛かるように眠る。
この布陣で見張りが要らないのがありがたいとシュウは思った。ちびたちはただ普通に寝ているだけなのだが。
読んでくれてありがとうございます。
新連載『管理神サマ(笑)の愚痴』もよろしくお願いします。
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