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グラディウス・サーガ  作者: 一色十郎太
第一章 ジダーン大陸編
4/50

四 王子サマは変わってる?

本日は3話あります。

「頼むよ、何とかしてくれ」


「……また女性問題か……」


「そ、そうともいえる……かな?」


「キミは一度痛い目を見たほうがいい。じゃあ、これで……」


「まて! 女絡みなのは確かだが、そうじゃねえともいえる」


 あの戦争の日から数日後、シュウが酒場でミーシャという女の子に出会った翌日のことである。

 シュウは朝からある場所に来ていた。


 そこはなんとシナト王国のサラトナ城宮廷内である。

 一介の傭兵であるシュウが出入りできるのも不思議なことであるが、飲み屋の常連同士のような口をきいている相手もとんでもない人物である。


「お前、王子サマだろうが! 困ってる親友を見捨てんのかよ!」


 驚くことに、その相手というのがシナト王国の王子であった。別にそれが彼のニックネームというわけではないらしい。

 二人が今いるのは王子の私室であるが、豪華絢爛というのでもないのに、明らかに繁華街の酒場とは雰囲気が違う。上品な香りが漂っていた。衣装も、シュウとは比べ物にならない、まさに貴族、いや、王族らしい格好である。


 肩にかかる艶やかな黒髪をかきあげ、王子はシュウを見つめる。


「……話だけは聞いてやる……」


「ありがてえ! 恩にきるぜ、サトラ!」


「フ……腐れ縁だしな……」


 半分諦めた表情で王子様はシュウの話を聞くことにした。

 二人はテラスに出て、備え付けのテーブルに向かい合って座る。


「発端はアレだ。オレが戦さで人を殺しちまったことだ……」


「まて。そんな報告は受けていない!」


 のっけから意外な告白を受けて王子様は慌てた。

 どうやら想像していた色恋沙汰とは違うと身構える。


「まあ、あれから4日、5日か。戦勝パーティーでどこのお偉いさんも忙しかったんだろ。ああ、魔法協会にはちゃんと届けてあるぞ」


「そ、そうか……なら、あとで確認しておこう……」


 魔法協会。

 ジャナ王国の魔術管理組合と並んで、このシナト王国で魔法のみならず戦争の管理もしている国家機関である。

 名目上は王子より当然下位組織になるのだろうが、この王子様の態度からすると、かなりの勢力を持っているらしい。


 シュウは、あの戦争が終了した後、自分が手にかけてしまった敵司令官――ジュナル・カイエンという名前の上級貴族と判明したため、魔法協会支部の人間も顔を引き攣らせていた――の遺体を意地でシナト王国まで運んできたのだ。

 さすがにその日は祝勝パーティーに参加する余裕はなかったが、それでも戦場に一番近い魔法協会支部に遺体を引き渡すと共に戦闘状況を報告していた。


 魔法協会は、やはり監視員が既に報告していたらしく、シュウの報告をそのまま受理し、処罰などは何もない。


 シュウは、過去の戦争では明らかに人が死んだのは見たことがなかったらしく、不安を隠せない様子で協会支部の人に、遺族への連絡を頼んだ。

 それが魔法協会の当然の業務かどうかはシュウは知らなかったが、協会はすんなりとシュウの頼みを聞き、遺族へ連絡したようだ。


 シナト王国とジャナ王国は頻繁に戦争はしているが、交流が全くないことはなく、国家としては魔法協会と魔術管理組合が戦争の監視のため絶えず連絡を取っているというし、民間レベルでは商人の往来もあり、駅馬車も出ている。


 その証拠に、シュウの名前を知っている、敵司令官の妹が3日でシナト王国に現れたのだ。

 流石に、上級貴族のお嬢さんが単身で敵国に来れたのか、しかも酒場で飲んでいたシュウをどうやって探し当てたのかは謎だが。


「……それによ、敵さんを倒したとき、妙な感じがしたんだ」


 話は前後したが、シュウは具体的な戦闘状況も王子に説明した。


「妙?」


「ああ。なんか、こう……剣が引っ張られるような……」


「まて……」


 説明の途中、王子はさりげなく手を上げてシュウの話を遮る。


「な、なんだ……」


「その前に、その妹さんに会いたいな。彼女はどこに?」


「あ? ああ、知り合いのところに預かってもらってる。ほら、飯屋の……」


「いい。わかった」


「あ?」


 またしても王子はシュウの話を途中で止めた。


 シュウは腑に落ちなかったが、いずれにしろ頼りになる王子様が話を聞いてくれたことに感謝し、それ以上は何も言わない。


「……では、いつものところで落ち合おう」


「わかった」


 シュウは勢いよく席を立つ。


「それにしても……」


「なんだ?」


「風呂ぐらい入って来い。ここは王宮だぞ」


 親友の習慣はわかりきっていたが、さすがに言わずにはいられない、育ちのいい王子様であった。無礼打ちにしないのが親友の証だろう。


「わかったよ。お前、どうせ支度に時間かかるだろ? その間に風呂屋ででも時間潰しとくよ」


「頼むよ、親友。それに、ボク相手ならともかく、レディーに失礼だろ」


「ハイハイ。じゃあな……」


 上流階級の生活は息が詰まる、とばかりにシュウは、おざなりな返事とともに部屋を出て行くのであった。



「まったく……変らないな……」


 見送る王子の表情は自由奔放なシュウがうらやましいといった感じである。


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