三十六 二人の旅立ち
第一章終わりです。
ここは統一国家ジダーン王国の仮の首都・旧シナト王国サラトナ城。
シュウらしいといえばらしいのだが、突然現れたかと思えばまた唐突に未知の大陸を探す旅に出ると言い出した。
シュウがサトラを訪ねたのはそれだけの用件ではないようである。
「で、どうする?」
「ど、どうするって、何が……」
「いっしょに行くか?」
「っ……」
国王陛下ではなく、親友、パーティーのメンバーとして扱われていることにサトラは感激した。
だが、実際問題、彼は国王なのである。
「さ、サラは何と?」
「サラ様は、陛下の御意思に従うとおっしゃっています」
「ミーシャさんは……行くんでしょうね、ここにいるってことは……」
これまでサラ国王妃の補佐役として常に傍らにあったミーシャが、国務遂行中の王妃に同行していない姿を見て、サトラは聞くまでもなかったと判断する。
ミーシャもはっきりと口にはぜず、ただ顔を赤らめた。国政よりシュウとの冒険の旅を選んだということなのだろう。
「どうするんだよ」
「そう言われても、仕事が……」
サトラは悩んだ。
行きたいか行きたくないかで言えば当然前者だと答えるだろう。
だが、国王としての立場は決して軽いものではない。
ノリヤドの事件を解決した後、城に戻ったサトラ王子は各地方領主を緊急招集し、大会議を開いた。
魔法協会の一件で事前に根回ししていたのが功を奏し、各領主はサトラ王子に忠誠を誓い直す。
しかし、魔法協会の廃止に関することならともかく、ジャナ王国との統一という前代未聞の議題に驚いた出席者たちだった。それでも、両国の長年の戦争が魔法協会の陰謀だったことがわかり、ジャナと反目し合う理由も、統一に反対する理由もないことから全会一致で可決されたのであった。
ジャナ王国のほうでも、一手遅れて甚大な被害を出してしまったが、事前にシンシア卿が手配していた各領主への通達がその後役に立ち、ほとんどの領主がサラ元王女を支持していたので混乱も少なくて済んだ。
やはり、長年高額の税金に苦しんだだけあって、減税は大きな交渉材料であった。
裏を返せば、ノリヤドの陰謀のおかげで、ほとんどの領主は反乱を起こしたり両王家に取って代わろうとする野望を持つ余裕がなく、有史以来初めての大陸統一国家が極めて短期間の内に成立できたといえるかもしれない。全く感謝はできないが。
統一の構想は歓迎されたものの、実務は予想以上に困難なものであった。
ジャナのスルナダ城が崩壊したため、統一国家ジダーン王国の仮の首都は旧シナト王国サラトナ城となったが、いずれ大陸の中央に首都を移転しなければならない。
それは未来のことでいいとして、困った問題も起きていたのだ。
ノリヤドとシュウの対決の折のことだが、シュウが放った最後の一撃は、まさに大陸を切り裂くものだったといえよう。千年の時を超えて生き延びていた魔族の民すべての魔力が集約されていたため、それも不思議なことではないとは関係者一同の思いである。
斬撃は遠く北の地まで届き、なんと地下水脈にぶつかったのだ。
湧き出した清水は、戦いの爪痕に沿って流れ出し、乾いた大地に染み込んでいく。もっと南の荒野にはノリヤドが開けた大穴もある。いつかは大きな湖になるかもしれない。
長期の目で見れば、数百年前から、いや、伝説によれば、かの人魔大戦のころより荒野だったとされている土地が、時間をかけて緑豊かな土地に生まれ変わるかもしれないのだ。湖畔にジダーン王国の首都を建設できるかもと夢が広がる。
だが、短期的にはシュウのやりすぎで迷惑を蒙っている者もいた。
旧シナトと旧ジャナの国境である荒野地帯に深い溝ができて通行不能となっている。早急に橋を架けてくれとの陳情が殺到していた。
しばらくは北方の、魔族の隠れ里付近を通る街道を使うしか行き来できない状態が続いたのである。
ジャナのスルナダ城復興という名目の犠牲者の埋葬、中央街道の整備、橋の建設と金のかかる新王国設立となったわけだが、税金を安くするからと領主たちに約束してしまった手前、そうそう都合よく資金の調達ができるわけもない。
サラ王妃が各領主に挨拶に出向いているのも、実際は金の無心といっても差し支えないだろう。妻の献身的な行動に、サトラは頭の下がる思いであった。
不幸中の幸いといっていいのか、魔法協会を取り潰して内情を調べたところ、かなりの隠し金があったので、それを流用することができたが、新王国の台所は火の車なのだ。
かなりの時間、サトラは親友への返事に迷った。だが――
「……いや、ボクにはボクにしかできない仕事がある……」
ついに決心がついたようである。
「……そうか……じゃ、頼みがある」
シュウも親友の気持ちがわかったようだ。
「何だ。何でも言ってくれ」
「コイツ、預かってくれ。一緒に行くって言って聞かねえんだ」
「ハナさんか。勿論かまわないが……」
「いやや! ウチも行くんや!」
ハナはシュウにしがみついて駄々をこねていた。
サトラはここまでの道中のことも察しがつく。
「なあ、ハナ。お前はもう人間の女の子だろ。それに、じいさんが言ってたろ? 人間の暮らしを学んで来いって」
「そうだ。長老さまたちはどうした? 人間になったなら、街で暮らせばいいじゃないか」
「ああ。じいさんたちは、あそこがいいんだとよ。何百年も暮らしてりゃ、離れたくなくなるんだろうな……」
「……そうか……で、ハナさんだけ……」
「ああ。コイツの人生はこれからだからな……」
シュウとサトラは、今にも泣き出しそうなハナを、文字通り人間としての人生が始まったばかりの少女を感慨深そうに見つめていた。
「ハナさん。必ず帰ってきますから、約束します」
ミーシャがしゃがんでハナを慰める。
「……いつ……」
「そうだなあ、ハナが大人になって、美人になったらかな……」
シュウが代わって答えた。
「……そしたら、今度は連れてくんやな?」
「ああ。勿論」
「ヨメにもするんやな?」
「あ? ああ、いいぞ」
この、子供らしい質問にはサトラも笑い出す。
シュウは躊躇なく承諾するのだった。
「シュウさん! 何ですか! こんな子供にまで!」
「イテテテ……オレは、来る者は拒まず、なんだよ」
ミーシャはシュウの耳を思いっきり引っ張る。かなり慣れた動作のようだ。
シュウも悪びれることなく、正直すぎる態度に出た。
一同は大笑いする。それでやっとハナの機嫌も直ったようであった。
それを機にシュウたちは辞することに。
「気をつけろ……ああ、言っとくが、ミーシャさんの無事のことだぞ」
「ああ、わかってるよ。お前も女の尻には敷かれんなよ。じゃあな……」
二人はたったそれだけの言葉を交わし、それぞれの道を進む。
そして、そばには愛する女性がいた。
彼女たちも、各々心に決めた男たちにどこまでも着いて行く。
次にこの4人でパーティーを組み、冒険の旅に出ることができるのはいつの日か。それは誰にもわからない……
◇◇◇
「シュウさん」
「ん?」
シュウとミーシャは、船の上にいた。二人を除いて余人はいない。
「これ、このペンダント。ニイサマが渡したのがシュウさんでよかった……」
「ああ。頼まれた以上、責任は果たさねえとな」
「シュウさん」
「何だよ、さっきから……」
「私、シュウさんに会えて幸せです……」
ミーシャはそっとシュウに寄りかかった。
「……そうだな……オレは美人なら誰でも……」
「もう! シュウさん!」
愛する女性をしっかりと抱きしめながら、あからさまに男の夢を語るシュウであった。
船は、何もない海を漂っていく。
読んでくれてありがとうございます。
新連載『管理神サマ(笑)の愚痴』もよろしくお願いします。
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