閑話 SAIDサラ 02
章分けしてみました。
ついでに前回までの内容にに加筆修正しました。
「正気ですか! ミーシャ!」
「はい。本気です」
私がつい大きな声を出してしまったのは、幼馴染であり、私の婚約者の妹でもあるミーシャがシナト王国から戻ってきた時のことでした。
ミーシャは私の予想とは違い、非常に落ち着いているように見受けられました。
◇◇◇
私はこの国、ジャナ王国の第一王女、ヤシマ・サラジェーン・ジャナーヤ。
私が長子として生まれてから長らく弟妹ができなかったため、国王である父の友人だったカイエン卿の息子・娘が私の遊び相手として召しだされ、それこそ兄弟姉妹のように幼少時代を過ごしたのは自然なことといえましょう。
ジュナルお兄様がカイエン家の家督を継いだときは少し揉めました。
成人の儀式を行っていなかったことに加え、私の王配として迎えるかどうかという問題もあったからです。まだ子供といえる頃の私にはピンと来ませんでした。兄は兄と思っていましたので。今思えば、シナト王国の王子様の申し出をあっさりと受け入れられたのは私のそんな気持ちがあったからなのでしょう。
そんな不安定な状況が変わったのは、王家に初めて男子が誕生したためです。
次代の王はやはり男がいいというのは誰もが考えることのようで、私はカイエン家に降嫁することになったのです。
本来、弟の成人を待つべきでしたが、私を次期女王と担ぐ者が現れないとは限らないという心配もあったようです。
私との結婚が決まったジュナルお兄様は張り切っているように見えました。
私と結婚するのがそんなにうれしいのかと、その時は私も同じように喜んでいました。これでミーシャとも本当の姉妹になれると。
ですが、ジュナルお兄様が張り切っていたのは別の事情があったからなのですね。
今になって考えると、お兄様の苦悩がよくわかります。王女として情けないことです。
そのジュナルお兄様の悲報が届いた時、とても信じられませんでした。
一体何が?
ミーシャは、信じていないということもあったのでしょうが、割と取り乱さずにすぐさまシナト国に向かいました。
私はその間、ジャナ国で情報を集めましたが、調べれば調べるほど真実だと思い知らされました。
悲しかったです。
それ以上にミーシャが心配でした。真実だと認めねばならないとき、彼女の心が壊れてしまわないかと。
そしたらどうですか! 帰ってきたミーシャは、なんとジュナルお兄様を殺した兵士を帯同してきている、それも罪に問うためでなく、こちらからお願いして調査に加えてもらったのだというではありませんか!
一体どうなっているのでしょうか。
あの、お兄様と私がそばに付いていなければすぐに泣き出してしまう、あのミーシャに何が起こったのでしょう。
これはその同行してきた人物に会わなければなりません。ミーシャが騙されている可能性もあります。
その後、ミーシャから、シナト王国の第一王子から預かったという密書を受け取りました。
ミーシャの言う、ジュナルお兄様が密かに成し遂げようとしていたこと、そして、それを良しとしない勢力がお兄様を謀殺した可能性もある。そう書かれていました。
中でも私が驚いたのは、ミーシャが連れて来たという『シュウ』なる人物への評価でした。
ジュナルお兄様を殺害したことはシナト王国としても認めるが、親友の『シュウ』が陰謀に巻き込まれたとするなら、きっと真実を明らかにしなければならない。とのお言葉があったのです。
一介の兵士だと思っていた私は、ますます直接『シュウ』に会わねばなりません。
機会はすぐにやってきます。
悲しいことですが、ジュナルお兄様にお別れをしなければならないのです。
次の日、カイエン家で葬儀が執り行われ、私も婚約者として列席しました。
私もミーシャも涙を堪えることができません。
ですが、お兄様の死に疑問があるというのならば解決して差し上げるのが妹として育ち婚約者となった王女の勤めでしょう。
私はカイエン家の一室で密かに『シュウ』と対面しました。
一国の王女に無礼ともいえる態度でしたが、不思議とそのことに対しては怒りは湧きませんでした。
この方もジュナルお兄様の死に対して思うところがあるのだ。そう感じたからです。
ミーシャの言うとおり、直接お兄様に手をかけたのはこの方なのでしょうが、この方を責めても何もならない。真実を見極めなければ私たちは前に進めないのだと思いました。
「出かけましょう。シナトに」
気付いた時にはそんな言葉が口から出ていました。
『シュウ』も驚いていましたが、ミーシャも気丈にも同行を申し出るとあっさりと認めます。だんだんとこの方の性格がわかってきたような気がします。
その後、この私たちの決断が大きくこの世界を変えることになるとは、この時は思ってもみませんでした。
そして、私の生涯の伴侶との出会い。
ジュナルお兄様もきっと喜んでくれているに違いありません。心よりご冥福を祈っております。




