閑話 SAIDミーシャ 01
2話目です。
ミーシャ視点です。
両親が病で相次いで亡くなったのは八年前。私が十歳のころでした。
幸い兄が成人と認められたため領地は安堵されたそうですが、子供の私にはどうでも良かった話。
元々引っ込み思案だった私は、更にうちに閉じこもるようになってしまいましたが、姫様と兄が懸命に励ましてくれなかったらどうなっていたことでしょうか。
兄も不安でしたでしょうに、成人した今となっては申し訳なさと恥ずかしさでいっぱいです。
ジャナ王国第一王女殿下であらせられるサラジェーン様とは小さい頃からの知り合い。親友、いえ、姉妹とまで言ってくださる、そんな仲なのです。
なんでも、父と現国王陛下は即位前からの親友だとか。
その縁で、王家第一子であるサラ様がお生まれになるまで、兄は陛下に吾が子のように可愛がられたといいます。
私も、姫様と同い年でありますが、妹のように可愛がってもらっております。
兄の悲報を受けたのも、いつものように姫様のお部屋で、いつも領地経営や本来参加する必要のない戦争で不在がちな兄について談笑していた時でした。
「何事です。ここは第一王女・サラジェーン殿下の居室にございますよ」
姫様付きの侍女が突然現れたローブ姿の男に対応していました。
「緊急の報告にございます。こちらにカイエン家のお嬢様がいらっしゃると聞いてきまして……」
「かまいません。ミーシャ、お行きなさい」
この城内でローブ姿のまま徘徊して咎められないのは魔術管理組合の職員だということぐらいは私でも知っています。当然姫様もわかっているのでしょう。魔術管理組合が関わってくるとなれば、今ちょうど行われている戦争だということを。
そして、その戦争には兄が参加しているのです。
カイエン家に用があるというのはそういうことなのでしょう。
「はい、それでは姫様、失礼いたします」
何もできない私でも、兄不在の折は当主代理として振舞わねばならないことぐらいわかっております。
私は姫様にお暇の挨拶をすると使者の待っている部屋の外に出ました。
そこには、姫様の警護役とともにカイエン家から連れてきた私の侍女も待っていたのだが、顔が真っ青になっていました。
気にはなったものの、用件を確かめました。
「カイエン卿、戦死せり。との報が届いております。詳しくは報告書が……」
信じられない内容でした。
「わ、わかりました。ご苦労様です…...」
普段の私なら倒れても不思議ではなかったでしょうが、ありえない、としか考えられなかったためか、表面的には落ち着いていられました。
報告書を呆然と受け取り、既に耳にしていたらしい侍女と連れ立ってお城から退出します。
「お、お嬢様……」
「館に戻ってからよ。そんなことあるはずがない……」
青褪めたままの侍女と急ぎカイエン家へと戻りました。
屋敷では使用人たちが落ち着かない様子であれこれ動き回っています。
長年カイエン家に使えてきた執事長を捉まえて話を聞きました。
やはり魔術管理組合から連絡は来ていたようです。
私にできることは……
そう思った私は、再び館を飛び出していたのです。
その後のことは詳しく覚えておりませんが、執事長が色々手配したらしく、サラ王女にお願いして緊急出国の許可をいただきました。
兄を迎えに行かなければ。
それだけが私の心を支配していたのです。
ジャナの王都から敵国であるシナトの王都までほぼ直線の道のりで馬車で三日。これまでもその事実に対し何の感想も持たなかった私は、よくいっても世間知らずの深層の令嬢だったのでしょう。今となっては何故今まで誰も疑問を持たなかったのか不思議なことです。
いえ、違うのですね。疑問を持った人たちは兄のように……
このときは兄の訃報と相まってそれこそ何も考えられずにシナトへと急ぎました。
夕刻、シナトの王都に着いた私は一刻も早く兄に会いたかったのですが、外国のことゆえ手続きに時間がかかるとのこと。それは執事長に任せるよりほかありません。
ならばと、居ても立ってもいられなかった私は一人宿を抜け出したのです。
「すみません。お尋ねしたいのですが、『シュウ』という傭兵の方をご存知ありませんか?」
「シュウ? ああ、なるほど。聞いてはいたがコイツが修羅場か」
「は? シュラ?」
「いや、気にすんな。シュウだろ? たぶん飲み屋街で女に囲まれてんだろ。こっちは仕事だっていうのにうらやましいこった」
「はあ……ありがとうございます?」
情報を集めてくれた執事長が言っていた『シュウ』という兄の仇。
直接お会いしようと私は街に出ました。
そこで、同じ国の兵士に尋ねたところ、すぐに居場所が知れたのです。
私には意味のわからない話もありましたが、彼のよく行く店の名前と場所を教えてもらい、勿論見知らぬ土地のことゆえ、道々通行人に尋ねながらその店に向かったのです。
幸い、世間知らずの私が騙されることなく目的の店に辿りついたのは夜も遅くなってからでした。後にこのことでいろんな人たちから怒られたりするのですが、このときばかりは早く真相を知りたいという思いだけだったのです。
目的の店に入り、店主らしき人に尋ねると、居ました! 探していた『シュウ』がここに居るのです!
「ニイサマ!」
私が『シュウ』に尋ねたかったこと、それを口にする前に、私の目に飛び込んできたのは、兄がいつも身に着けていたペンダントでした。
もう『シュウ』のことなど考えられなくなり、ペンダントを奪い取ると私は泣き出してしまいました。
これがここにあるということは……
事実として認めねばなりません。ですが、涙は止まりませんでした。
仇である『シュウ』がおろおろしながら私を慰めてくれることも、その時は、気にする余裕もありませんでした。
これが、私が成長しなければと真剣に考えるきっかけとなり、そして『シュウ』との出会いだったのです。




