三十四 戦後処理
2話あります。
狂気に走った魔族・ノリヤドを倒した後一日経ってやっとシュウたちは合流できた。
「ちび! よくがんばった! オレが勝てたのはお前のおかげだ! さあ! 喰ってくれ!」
シュウとハナは、サトラ王子が持ってきた大量の果物を、一日経っても起き出さないドラゴンの口元に山と積んだ。
「ちび! 喰いモンやで!」
ハナがちびの鼻先に果物を突きつける。
ちびは鼻を微かに動かした。口を少し開く。
「ほら!」
ハナとシュウはその開いた口にどんどん果物を放り込んだ。
しばらくすると、ちびはようやく目を覚ます。そして目の前の好物に飛びつくのだった。
「ガウガウ! ガウガウ!」
「あー、よかった……ウチの声、もう届かんかと思った……」
それは、既に魔族から人間に変貌を遂げてしまった少女の抱えている、ほんの僅かな不安だったのかもしれない。
起き出してからも自分に対する態度が変わらない様子のドラゴンを見てホッとするハナを、シュウはやさしく撫でてやるのであった。
他のメンバーも、既に仲間だと思っているドラゴンのことを心配はしていたが、介抱はシュウとハナに任せて情報の交換を行う。
やはり眼目はノリヤドについてであったが、目の前にいるミーシャたちが言葉どおり生きた証拠であった。
特にミーシャの生還を誰よりも喜んだのはサラ王女である。ミーシャが泣き出す前に涙をこぼして抱きついたことは、その場に好意的な笑いを提供したのであった。
一応男性陣がノリヤドの遺体を確認し直す。
恐れていた傀儡の術による身代わり人形でなくてホッとしたが、完全に一刀両断された無惨な姿は、男といえども正視に堪えないようで、クガト師とヤザン師を除いた者たちは口に手を当て、必死に吐き気と戦っていた。
「……後は国政の建て直しだけですね……」
両国家に巣食っていた巨悪の大元は倒したが、サトラ王子たちの仕事はこれからが本番なのである。
特に、スルナダ城が崩壊してしまったジャナ王国の建て直しは困難を極めるであろう。
ここに来る前に、スルナダ城城外にいた役人を見つけ、何とか住民の避難や負傷者の救助を命じはしたものの、わずかばかりの小役人では焼け石に水。全国的な対策が必要だ。
「……サラ王女……こんなときに非常識だと思われるでしょうが……」
「なんでしょう?」
「……ボクと結婚してください!」
「え?」
確かに前置きはあったが、それでも非常識すぎるサトラ王子の発言に、サラ王女ばかりでなく、ミーシャも、他の面々も唖然とした。
「……はい。よろこんで」
唖然としたサラ王女だったが、少し考えた後、あっさりと承諾する。
「え?」
「さ、サラ様?」
今度はサトラが唖然とする番であった。
ミーシャも二人の顔を交互に見ては目を丸くする。
「待て待て!」
七面倒な話ではなく、色恋沙汰の話であればと、耳聡く聞きつけたシュウがいきなり飛んできて話に、いや、文字通りサトラ王子とサラ王女の間に割り込んだ。
「サトラ! このじゃじゃ馬はオレがヒイヒイ言わせてやるって言ってんだろ!」
「サラ王女――」
冗談とも本気とも判断がつかないシュウを、いつものことと無視し、押しのけるようにしてサトラはサラ王女に詰め寄る。
「ホントにボクでよろしいのですか? シュウのように、歯の浮きそうなセリフも言えないような……しかも婚約者を亡くされたばかりの女性にプロポーズするような男で……これは政略結婚なんですよ」
「……サトラ様」
「は、はい……」
「このジダーン大陸をひとつの国にまとめるおつもりなのですね?」
サラ王女の質問は、本来ロマンティックなはずのプロポーズシーンを鑑賞していた観衆を驚愕させるのに充分であった。
そしてサトラ王子の返答にも改めて驚かされる。
「ええ。その通りです……もう、いえ、もともと両国に争う理由はないのですから。今回の事件で被害が偏ってしまったことも、国が一つになればそれは偏りではなくなります。シュウをあなたと結婚させ、ジャナの国王にとも考えましたが、バカですからね、国政が務まるとも思えません。それに、ボクはサラ王女、あなたを誰にも渡したくない!」
「……十分歯の浮くセリフじゃねえかよ……」
サトラ王子に、先ほど引き合いに出された仕返しのような感想であったが、誰もシュウの言葉など聞いていないようであった。
既に二人の世界に突入しているらしい。
「……そうですわね。世界を救ってくれた英雄を夫とするのでしたら、わたくしも何の不満もありませんが……わたくしがシュウさんを選ぶと大切な友人が悲しみますので」
「さ、サラ様! そんな……」
どうやらタラシのシュウも遠回しにフラれたようである。
ミーシャはサラ王女の言葉に真っ赤になってしまった。
「そ、それでは……」
「ええ。不束者のじゃじゃ馬ですが、末永くお側に……」
改めてサラ王女は結婚を承諾する。
「サラ様! おめでとうございます……ふ、ふえ~~~」
「じょ、冗談じゃねえ! オレは認めねえぞ! イテッ」
相変わらず冗談に聞こえないシュウのセリフだったが、ミーシャが泣きながらシュウの背中を抓ったので、どうやら落ち着くところに収まったようだった。
「あーあ。私も残念です。ですが、王子殿下相手では引き下がるを得ないでしょう。おい、無礼な剣士君。男なら黙って祝福すべきじゃないかね?」
「そうだぞ! シュウ! いつまでもグダグダと。修行が足りねえな」
シュウと同類らしいシンシア卿はダンディーに、ヤザン師は武人としてそれぞれシュウを諌めるのであった。
シュウも渋々と諦める。
いや、サトラには、それが最初からシュウなりの祝福だとわかっていたようだ。微笑を絶やさずシュウの肩を抱く。
「おい! オレはそっちの趣味はねえぞ! 相手間違えんな、バ~カ」
「アリガトな、シュウ……」
観衆の期待とは裏腹に、婚約者同士の誓いの接吻も、抱き合うシーンもないまま、男同士の熱い抱擁で幕引きとなる。
サラ王女も特に不満もなさそうであった。
一行のやらねばならぬことは山済みだ。早速行動に移ることに。
まずは、王子と王女の特使としてアルカーノ卿とシンシア卿が崩壊したスルナダ城に馬車で向かった。
城の崩壊は後宮にも及び、おそらくその場に居た王族はサラを残して全滅であろう。国の政治を任されていた王城勤務の貴族たちも同様である。
混乱を鎮めるために通り道の領主にも協力を願わねばならないだろう。
これにはヤザン師と元魔法協会のジョナンが従う。かなり役に立つことが期待された。
残るメンバーは、少し体力の回復したドラゴンのちびにもう一踏ん張りしてもらって、シナト王国はサラトナ城に向かう予定だ。
サトラ王子とサラ王女には、両国の統一という、とてつもない大事業が待っている。
ミーシャは二人の補佐に残るという。
シュウは、そこで3人と別れ、ハナとクガト師を伴って北の隠れ里に行くことに。
「オレにできることがあったら呼んでくれ」
シュウは、別れ際にそう言った。
ドラゴンはあっという間にシナトの空に消えてゆく。
1月18日編集。
ちびのセリフ? 追加。
『城の崩壊は後宮にも及び、おそらくその場に居た王族はサラを残して全滅であろう。国の政治を任されていた王城勤務の貴族たちも同様である。』の一文追加。




