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グラディウス・サーガ  作者: 一色十郎太
第一章 ジダーン大陸編
33/50

三十三 荒野の決闘 決着

2話目です。

 


 剣を振り下ろしたシュウは、切なそうな表情でノリヤドを見ていた。


「……おい……もう、いいだろ……」


「……まおうさま……いま……まりょくを……」


 口を聞けたのは、あまりに鋭い斬撃だったためであったらしい。

 最後の最後まで魔王に対する忠誠の言葉を口にした後、ノリヤドの身体は中心線からズルリと左右に分かれる。回避することも、いや、何が起こったかすら気づかなかったであろうノリヤドは、シュウの渾身の一撃によって見事に両断された。文字通り、頭から下半身に至るまで切り裂かれていたのである。


 そのままノリヤドの身体は左右とも重力に引かれ落下した。

 すべての力を使い果たしたシュウも、いや、魔王が浮遊術すら使えなくなったようで、後を追うように落下してしまう。


「シュウさん!」


 見守っていたミーシャは慌てた。すぐに追うようにハナに頼む。

 ちびも疲れきった身体を押して急降下した。


 間一髪。

 シュウが地面に叩きつけられる直前、ちびの背中のヤザン師に受け止められて最悪の事態は避けられる。

 ちびは、ついに力尽きたのか、そのまま地上に着陸した。


 動けなくなったドラゴンからシュウたちも地上に降りる。


「シュウさん! どうしてあんな危ないマネを!」


 ちびから飛び降りた後、ミーシャはシュウに向き直り、ノリヤドの生死よりもまずはシュウの無謀ともいえる行動について叱り付けた。


「ま、まあ……いいじゃないか。こうして上手くいったんだから。見ろ! って、女の子には見せらんねえな……師匠ども! 確認してくれ!」


「ああ、わかった、わかった……」


 まさかとは思うが、シュウたちには、このノリヤドも人形ではないかという不安があったのだ。

 ヤザン師とクガト師は弟子の成長の証を確認しに行く。


 シュウは、ミーシャのお叱りをいつものお気楽な調子でかわしつつ、その上で女性に血生臭い場面を見せたくはないと、後ろを振り向かせた。

 そのまま後ろからミーシャの首に兄の形見であるペンダントを掛けてやる。


「グラディウスも背負ってみろ。もしかしたら、兄ちゃんと話せるかも……」


「え? そ、それじゃあ、本当に……」


「ほら、兄ちゃんの剣だ……」


『……ミーシャ……』


「に、ニイサマ!」


 シュウがカイエン卿の形見のバスタードソードをミーシャに持たせた途端、ミーシャには兄の声が聞こえてきた。

 無論、シュウには聞こえなかったが、先ほどの実体験とミーシャの様子でそのことがわかる。


『……強くなったな。これで兄も思い残すことはない……』


「は、はい! シュウさんのおかげです!」


『……そうだな。私も彼に出会って救われた気がする……』


「に、ニイサマ……ううっ……」


 大好きだった兄との奇跡的な再会に、とうとう嗚咽してしまうミーシャであった。


『……兄はもう消える。泣くな、ミーシャ……』


「は、はい……ニイサマ……待って! サラ様が! ニイサマ!」


 ミーシャは、手にしたバスターソードに必死に呼びかける。だが、無常にも何の反応も無かった。


『……娘よ……』


「……魔王さま……」


 今度は魔王にバトンタッチしたらしい。

 ミーシャは涙を拭い、話を聞こうとする。


『……そなたの兄の意識は消えた。勇者の血を引くだけのことはある。潔いことだ。そなたも兄に負けず強く生きるがよい……』


「はい……」


『……我も僅かな力を残すのみとなった。じきに消えるだろう……最後にあの娘を……』


「ハナさん! こちらに来てください! 魔王様が!」


 ミーシャは魔王の指示でハナを呼ぶ。

 働きすぎて地上に降り立った途端眠り込んだドラゴンのちびの頭を撫でていたハナが、言われたとおりに飛んできた。


「なんや? 魔王のオッチャン」


『……我が同胞の子よ。そなたがこの地で最後の魔族となった……確認する。そなたは人間になることに異存は無いか……』


 幼いとはいえ、自由意思を持っていることを認め、魔王はハナに人間になるか、魔族のままでいるかを尋ねた。


「……ようわからんケド……オジイもばあちゃんも人間になったんやろ? それに、兄ちゃんも人間やんか。ウチも人間になるん!」


『……そうか……では、我の最後の務めだ……』


 ハナの極めて明るい返事に、魔王もうれしそうにしていた。

 ミーシャも笑顔で背中のグラディウスを抜いてハナに向ける。


『……我の役目は終わった……人の子よ。ご苦労だった……』


 それだけ言うと、魔王は沈黙してしまう。

 どうやらハナはついに人間に生まれ変わったようだ。


「……魔王さま?」


「おい、オッサン!」


 返事は無かった。

 ミーシャは、兄と同じような去り方をした魔王に対しても涙を流す。


 シュウはそんなミーシャをギュッと抱きしめるのであった。



 ◇◇◇



『くく。面白い。あの小島では決着が付いたか……』


 虚空を見つめながら呟く存在。


『……使えそうだな。鍵を外してやろう。足掻いて見せよ、ニンゲンたちよ!』



 ◇◇◇



 崩壊したジャナ王国スルナダ城を後にしたサトラ王子たちは、一路南東へと進路を取る。

 だが馬の足では、どんなに急いでも国境まで一日かかった。


 結果はわからないが、戦闘に何か変化が起こったことを知ったのは出発してから程なく、シュウの最後の攻撃が決まったときである。

 遠目でも国境付近に南から北に向かって激しい衝撃が与えられたことが確認できた。


 それ以降は何の変化も見られないのである。

 シュウたちが失敗したならば、必ずノリヤドが人類を滅ぼしに現れるはずだと考えていたサトラ王子たちは、作戦の成功を確信していた。


 だが同時に不安もある。

 もし期待通りに作戦が成功したならば、シュウたちがドラゴンに乗って凱旋してきそうなものだが、どんなに目を凝らしても空にドラゴンの影すら発見できない。


 サトラ王子たちは期待半分、心配半分で馬に鞭を当てた。

 スルナダ城から南東に馬車を飛ばし、町があるところでは馬を換え、御者役も交代しながら夜通し走る。おかげで次の日の朝にはジャナ王国の南限の町に到着した。


 ここでようやく遠見の術士、元魔法協会のジョナンがシュウたちの姿を捉えることができたようである。


 サトラはホッとし、サラ王女は泣いて喜んだ。無論、成り行きで同行してきたアルカーノ卿とシンシア卿も同様であろう。

 ジョナンの見立てによると、ドラゴンのちびが眠り込んでいるためにシュウたちは動けないらしいというので、大量の食料、主にちび用の果物を仕入れ、最後の区間を移動した。


 こうして、日は跨いでしまったものの、シュウたちとサトラ王子たちはやっと合流することができたのだ。



謎の人物再登場。

まもなく第一章終了です。章管理とかタイミングが後回しになってしまってすいません。切のいいところまでやってしまいます。

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