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グラディウス・サーガ  作者: 一色十郎太
第一章 ジダーン大陸編
32/50

三十二 荒野の決闘2

2話あります。

遅れました。すみません。

 

「チクショウ……もう一度だっ!」


 魔王の助力を得たシュウが再び飛び出す。


 しかし、結果は同じ。剣が届く前にノリヤドの魔力攻撃、ノリヤドから見れば魔王への魔力献上だが、その波動に弾かれてしまうのだ。

 シュウは諦めなかった。

 何度も何度も攻撃を繰り返す。


 《このままじゃ、ミーシャや師匠たちの魔力まで吸われちまうかも……》


 考え事が苦手なシュウでもわかることがあった。ノリヤドの現在の目的は世界中の人間から魔力を吸収し、魔王に与えようとすることなのだ。


 今はまだ飛び回るドラゴンのスピードについていけないのか、ノリヤドがシュウたちの魔力を吸収する気配がないが、その気になられたら何が起こるか見当もつかない。魔王の剣にだけ魔力が集まっても、使う人間がいなくなったらお仕舞いである。


 いや、それよりも、もう魔王の加護がなくなったミーシャのことが心配なのであった。


「チクショウ!」


『……シュウよ……若き剣士よ……』


 何度目にかシュウが毒づいたとき、声が聞こえてきた。それもシュウにだけ。正確にいうと、聞こえてきた気がしたのだ。

 初めは魔王かと思ったのだが、その声にどこかで聞いた覚えがあった。


「誰だ!」


「シュウさん?」


 シュウは思わず叫んでしまう。

 その場にいた者たちは奇妙に思っただろう。


『……私のバスタードソードを受け継いだ剣士よ。私はジュナル……』


「ジュナル! ミーシャの……」


「えっ! に、ニイサマ?」


 思いがけない人物の名に、声を聞いたシュウも、シュウの反応を聞いたミーシャも呆然とする。


 シュウだけに聞こえていた声の正体は、シュウが魔法協会の策謀により命を奪うことになってしまった、ミーシャの兄、ジュナル・カイエン卿その人であったのだ。

 サトラ王子もいないし、魔王の声も聞こえてこなかったので、シュウには突然起こった現象を解明する術はない。


 だが、それはそれでシュウにとっては構わない。ただ受け入れるだけだった。


『……妹のことも礼を言う……だが、まずは敵を撃つのだ……』


「だ、だって、どうやって……」


『……キミは魔王の魔力を使い切れていない。今のままでは、どんなに魔王が魔力を集めたとしてもただの剣のままだ。それでは敵が放出する魔力の勢いに負けてしまう……』


「じゃあ、どうしろって……」


 独り言のようにカイエン卿と会話するシュウを、ミーシャたちは不思議そうな表情で見ているだけであったが、シュウは大事な作戦会議である。真剣に遣り取りをしていた。


『……どうやら私はペンダントとバスタードソードに憑いている残留思念らしいが、魔王の魔力が影響して意識が蘇ったらしい。これなら魔力をコントロールできる。このバスタードソードにすべての魔力を込めてみよう……』


「そうか。ミーシャの兄ちゃん、頼んだぞ。あ、勢いって言ったな。じゃあ、こんなのはどうだ……」


 シュウは、傍から見ると独り言だというのに、声を潜める。


『……本気か、若き剣士よ……』


「ああ。やってみるさ……ハナ! ちょっと……」


 ミーシャたちには内緒の作戦らしい。

 魔族のハナならと、いや、性格的に気の合う同士として協力を求めた。ちびの首を伝って頭に向かう。


「ええケド……兄ちゃん、大丈夫なんか?」


 シュウのアイディアを聞いたハナは一応受け入れたようだが、躊躇してもいるようだ。心配そうな顔で聞き返している。


「大丈夫だって。ハナをあんなジジイの嫁になんてさせねえからな!」


「そやな。なんやわからんケド、兄ちゃんのヨメになったるからな!」


「言ったな! その言葉、覚えておけよ! じゃあな! 頼んだぞ!」


 タラシのシュウの面目躍如といったところか、見た目には5、6歳の幼女に結婚の約束とも取れる言葉を残し、シュウは最後の攻撃に出た。


「ウリャアアッ!」


「おやおや、魔王様。まだ魔力が足りませぬか。では、この場の人間から召し上げることにしましょうか……」


 ついにシュウが恐れていた事態になりそうだ。


「させるかあーっ!」


 これが最後だというのに、シュウの攻撃パターンはこれまでと同じだった。

 カイエン卿のいう魔力も、バスタードソードに伝わっていないようである。

 シュウは一体どうするつもりなのか?


「今だ! ミーシャの兄ちゃん! 魔王のオッサン! しくじるなよ!」


 シュウが一度弾かれて、浮遊術で停まったところに、これまでどおりちびが旋回してくる。


「行くで! ちび! これで最後や! きばったれ!」


「ガウ!」


 シュウを回収するかのように近づいたドラゴンのちびだったが、シュウとノリヤドが一直線上に並んだ瞬間、口を大きく開いた。


「撃てえっ!」


「ガウーッ!!」


 これまで残していた魔力を使い切るかのようなドラゴンブレス。


「キャーッ! やめて! シュウさんが!」


 ミーシャは見た、特大の炎の塊がシュウ目掛けてぶつかっていくのを。


 バスターソードにカイエン卿が魔王の魔力を極限まで充填し、魔王は最小限の力で障壁を張りドラゴンブレスを推進力に換える。こちらは魔王との直接の意思疎通ができなかったため賭けであったが、シュウの描いた絵図どおりとなる。シュウは、スタードソードを上段に構えたまま、背後からのドラゴンブレスの勢いと共にノリヤドに肉薄した。


「おりゃあああっ!!!!」


 まさに瞬間。瞬きもままならぬタイミングで魔力全開のバスタードソードを振り下ろす。


 すべてのエネルギー、魔力だけでなく超スピードの運動エネルギーまでもが前方に向けて放射されたため、シュウはその場に急停止する形となった。

 ノリヤドもその場に留まっている。見た目には何も変化が無いように見えた。


 だが、ノリヤドの背後に激しい炸裂音が鳴り響く。あまりに強力な一撃であったため、シュウがノリヤドを斬ったときの余剰エネルギーがノリヤドの後方の地上までも切り裂いたのだ。

 ちょうど南の荒野から北に伸びる、シナト王国とジャナ王国の国境上の細い荒地に、どこまでも伸びる深く長い斬撃の跡を残す。






1月18日編集。

ちびのセリフ? とシュウのセリフを追加。

『移動エネルギー』→『運動エネルギー』

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