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グラディウス・サーガ  作者: 一色十郎太
第一章 ジダーン大陸編
31/50

三十一 荒野の決闘1

2話目です。

 

「いやがった! ちび! 前に回りこめ!」


「あい! ちび!」


「ガウッ!」


 幸いと言っていいのか、ドラゴンの飛翔能力のおかげで僅かなタイムラグでノリヤドに追いつくことができた。

 だが、その僅かな時間でも、ノリヤドの魔力吸収能力の範囲内にいた人間たちの生命は間違いなく失われたことだろう。


 シュウたちは焦りに焦った。

 ドラゴンがノリヤドの横をすり抜けると同時に、剣士師弟トリオが飛ぶ斬撃をノリヤドに食らわせたのも、その焦りの証拠だろう。


「ちっ、やっぱり効かねえか……」


『……その攻撃はアヤツに魔力を与えているのと同じこと。直接斬るしかアヤツを葬る術はない……』


 シュウが愚痴をこぼし、魔王が解説を入れたが、少しは効果があったらしい、ノリヤドが空中での前進をやめた。


「今だ! ちび! あのヤロウを南にぶっ飛ばせ!」


「ハイな! ちび! 行けえっ!」


「ガウーッ!」


 サトラ王子の作戦通り、シュウはジャナ王国の南東に広がる荒野を目標にドラゴンを急旋回させた。

 標的が射線上に入ると、ちびは咆哮する。


「ちっ、愚かな人間どもめ。このような若いドラゴンの攻撃如き……」


 ドラゴンブレスをまともに食らったノリヤドは、シュウの狙い通り南東に向かって吹き飛んだものの、全くといっていいほどダメージはなさそうである。


 無論、目的は半ば果たされたのだが、シュウたちはドラゴンブレスですら倒せぬ魔族に驚愕した。

 それでも、ハナたちの期待に応えたかったのか、ちびはドラゴンブレスを吐き続け前進する。


 純粋な魔力攻撃と違って、すべての魔力を吸収することもできず、巨大な炎の奔流に呑み込まれたノリヤドはどんどん後退を続けることを余儀なくされたのであった。


「もう少しだ! ちび! がんばってくれ!」


 人の目でも荒野が見えてくる距離になり、シュウは興奮を抑えられないようである。

 だが、さすがのドラゴンも限界はあるらしい。ドラゴンブレスの連射が途切れてしまった。


「ちび! あっ! しまった!」


 ちびはドラゴンブレスこそ撃てなくなってしまったものの、飛翔のスピードは衰えていない。

 それが仇となってしまったらしい。


 炎の濁流から解放されたノリヤドが更に上昇したのだ。ちびはノリヤドの足元を潜るように追い越してしまう。

 位置関係が入れ替わり、シュウたちは荒野を背にする形となった。


「フハハハハ! 魔王様! ドラゴンの魔力、お届けしましょう!」


 背後から、いや、かなり上方からノリヤドの不気味な声が聞こえてくる。


『……避けろ……』


「ちび! 逃げろ!」


 魔王が言わずとも、これから何が起こるか全員がわかった。ノリヤドはあの激しいドラゴンブレスの攻撃の中でもちびの魔力を吸収していたのだ。

 その魔力による攻撃が襲ってくる。


 ちびは急旋回した。

 その瞬間、下方から轟音が鳴り響き、その衝撃波がさしものドラゴンを吹き飛ばす。


 危ないところであった。いくらドラゴンでも直撃を食らったらお仕舞いである。魔王の魔力吸収も衝撃波までは如何ともしがたいのだ。


 錐揉み状態になったドラゴンの背中にいたシュウたちの目に飛び込んできたのは、地面に開いた巨大な穴。荒野だけに人的被害がなかったのが幸いである。

 もし都市部であったらと、見るものを慄然とさせるのだった。


「こりゃ、打つ手がねえな……」


「ジジイ! ふざけたこと言ってんじゃねえ!」


 剣士として、いや、大人代表として同行してきたヤザン師だったが、爆風の影響からやっと体勢を立て直したちびの背中ですべてを諦めたようなセリフを呟く。


 サトラ王子がこの場にいれば、それこそシュウのセリフだと言いたかっただろうが、逆にシュウの闘志を奮い立たせることになった。

 ヤザン師がそれを狙ったかどうかはわからない。なにしろ似た者師弟なのだから。


「……って言ってみたケド……どうすっか……」


 やっぱり、とサトラ王子なら呆れたことだろう。


『……人の子よ。我を使え……』


「え?」


 作戦は人任せのシュウは、すぐさま魔王の話を聞くことに。


『……その剣もまた我が友、古き勇者が子孫の振るった剣であったな。ならば我も魔力を込めやすいはず……娘よ。首飾りと共に剣を人の子に……』


「はい。魔王様……」


 ミーシャは背中から勇者の剣、グラディウスを外すとシュウに渡した。そして胸元から兄、カイエン卿の形見となったペンダントを取り出す。


「ニイサマ……シュウさんを守って……」


 少しの間ペンダントを握り締めた後、ミーシャは自らシュウの首にペンダントを懸けた。


 シュウはグラディウスを背負うと気合を入れる。


「よし! よくわかんねえケド、行って来る! ハナ! 突っ込むぞ! ちび! 後で思いっきりメシ食わせてやるからな! 頼むぞ!」


「わかった! 兄ちゃん、行くで!」


「ガウガウッ!」


 シュウの言葉がわかったのか、疲れているはずのちびは残った力を振り絞るように羽ばたいた。


「ウリャアアアアッ!」


 病的ではあったが、魔王に魔力を捧げると言い続けているノリヤドは、逃げるという観念はないのだろう、空中に留まったままである。


 シュウは何も考えずにドラゴンから飛び降りた。その勢いに任せて空中で真っ向からノリヤドに斬りかかる。


「魔王様。今度はその人間に取り付きましたか。では、魔力を捧げましょう」


「ツッ!」


 やはりノリヤドの魔力攻撃を受けてシュウは弾き飛ばされてしまう。

 だが、魔王の精神体が宿った剣を背負い、カイエン卿の形見のペンダントをつけているためか、身体へのダメージ自体は無いようであった。


 さすがに、勇者の血を引くというミーシャのように魔王が語りかけてくることはなかったが、魔王の能力は健在であるようで、シュウができるはずもない浮遊術が使われている。

 弾き飛ばされはしたが、落下はせず、旋回してきたちびに上手く拾ってもらった。


 その表情は悔しさに歪んでいた。


1月18日編集。

ちびのセリフ? 追加。

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