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グラディウス・サーガ  作者: 一色十郎太
第一章 ジダーン大陸編
30/50

三十 まだ終わりじゃない!

2話あります。

 

「ざけんじゃねえっ!」


 ノリヤドは魔王の意思を理解しようとはせず、そればかりかもっと多くの人間から魔力を集めると言い出した。

 それを聞いて、シュウが身体のダメージも忘れ立ち上がり、剣を振るう。


 剣の師匠たちの戦い方を見ての、見よう見まねであったが、あまりの怒りで逆に精神集中ができたのだろう、バスタードソードによる見事な飛ぶ斬撃が決まった。

 シュウを下等な人間として見ていた、いや、目もくれなかったノリヤドは不意を突かれた格好になり、身体の側面にシュウの斬撃を受けてしまう。


「……おのれ、下等な人間めが……」


「へっ! やっとこっち見たか! やいやいやい! 降りてきやがれ! このクソヤロウ!」


 聞くに堪えないシュウの悪口雑言に頭に来たのか、ついにノリヤドが地上に降り立った。

 剣の届く位置に来たらこっちのものだといわんばかりに、シュウが斬りかかる。


『……それではダメだ……』


「え? 魔王様、それはどういう……」


 魔王が呟き、ミーシャが剣を構えたのを見てサトラが聞いた。


「グアッ!」


 その意味はすぐに判明する。シュウがノリヤドに斬りかかった瞬間、剣が届く前にシュウの身体が弾き飛ばされたのだ。


「ふん! 虫けらの分際で……」


「あ、ノリヤドが……」


 シュウに挑発されて地上に降り立っただけのようで、ノリヤドは吹き飛んだシュウに一瞥くれるとすぐに飛び立った。


『……アヤツ、まだ人間から魔力を集めるつもりのようじゃ……』


「大変だ……シュウ! 起きろ! こんなことで死なないだろ!」


「シュウさん! お願い! 起きて!」


 サトラ王子とサラ王女はこれから起こる大惨事を予見し、慌てた。シュウの引っくり返っているところに駆け寄る。

 ハナも走った。


「ハナさん! 回復の魔法を! シュウを助けてください!」


「わかっとる! 兄ちゃん! しっかりせえ!」


「……アタタ……」


 シュウは、魔王がまたノリヤドの攻撃を中和してくれたおかげと、着ていたチェインメイルが気休めになったのか、致命傷ではなかったようだ。

 ハナが回復呪文を唱えると力強く跳ね起きる。


「チクショウ! あのヤロウ、ぜってえブッ殺す! おい、オッサン! アイツの魔力、吸い取れねえのかよ!」


 シュウはミーシャの中の魔王に食って掛かった。傍から見ると『タラシのシュウ』の名が泣くような光景である。


『……無理だ……いや、できるのだろうが、アヤツは正気ではないが、魔力を我に捧げるというのは本気らしい。我に魔力を送ると同時に近くの人間から魔力を吸い続けるだろう。我に魔力の選り分けはできぬ。その点では我はアヤツの魔法技術に及ばぬ……』


「処置無しかよ……」


 人間界で長く暮らした魔族だけのことはあると、魔王は素直にノリヤドの能力を認める。それはそれで魔族らしい客観的な物の見方なのだろうが、何の解決にもならないことにシュウは苛立った。


「いや……なら、人間のいないところで戦えばいい……」


「は?」


 サトラ王子が魔王の言葉を聞いて何か思いついたらしい。


「荒野だ! できれば南の! あそこなら誰も住んでない!」


「そうか!」


 打てば響くとはこのことである。

 作戦はすべてサトラ王子に任せているシュウは早速行動に移った。


「ハナ! ちびを借りるぞ!」


「うん! ウチも行くで!」


 ハナの指示無しでは何もしないらしいドラゴンのちびは、まだ瓦礫の中に座ったままである。


 これまでサトラ王子たちに同行していたメンバーの中で、今回これほどの戦いになるとは少しも予想していなかった3人、アルカーノ卿にシンシア卿、それに魔法協会のジョナンは、普段なら恐ろしくて仕方がないはずのドラゴンの身体にピッタリと身を寄せていた。

 その3人を無理矢理引き剥がすようにしてシュウがドラゴンに飛び乗る。


「いけない! ハナさんは残りなさい!」


 シュウの後にくっついてドラゴンに飛び乗ろうとするハナをサトラが制止する。

 両親の仇だということは教えないつもりだったし、人間に生まれ変わるのであれば、これ以上ノリヤドには関わらせたくなかったのだ。


 だが、ハナは単純にノリヤドが『悪いヤツ』と思っているらしく、シュウの悪者退治を真剣に手伝いたがっているようである。


「いやや! ウチも兄ちゃんと行くんや!」


「サトラ! 言ったろ? 奇麗事だけじゃ世界は変えられねえ。オレたちが負けたら、ハナはあのヤロウの嫁さんになっちまうんだ! そんなの許せるか!」


「そうやで! ヨメさんやで! ……ヨメって何や?」


 どうやらハナはシュウの勢いにつられただけだったようだが、それでもサトラ王子を振り切ってちびの頭に飛び乗った。


『……我も行こう……』


 魔王がそう言うと、ミーシャが浮遊術で飛び上がる。


「ミーシャ! わたくしも!」


「心配しないでください、サラ様。私は大丈夫ですから」


 ミーシャの意思でもあるらしい。魔王もそれがわかって同行を申し出たのだろう。


「お前らはお前らの仕事があるだろ? 王子サマに姫さんなんだから。じゃあな。ハナ! ちび! 行くぞ!」


「ハイな! ちび! 行くで!」


「ガウ!」


 サトラ王子も飛び乗ろうとしたのをシュウは拒絶し、ダメージの回復した師匠たち二人を乗せたところでドラゴンは雄叫びと共に舞い上がった。


「……シュウ……任せた……死ぬなよ……」


「サトラ様!」


 あっという間に視界から遠ざかったドラゴンの姿を見送り、サトラは呟く。

 サラ王女はサトラ王子に取りすがって涙を流した。


「……ボクたちも行きましょう! 最後まで見届ける義務を果たさないと!」


「ええ!」


 サトラ王子の言葉に、サラ王女は涙を拭いながら応える。

 呆然と成り行きを見守っていた残る3人を励まし、瓦礫の城を出た。後は馬車を探して決戦の場に向かうのみである。



1月18日編集。

ちびのセリフ? 追加。

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