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グラディウス・サーガ  作者: 一色十郎太
第一章 ジダーン大陸編
3/50

三 泣き濡れて飲み屋横丁

初めて評価をいただきました!

ありがとうございます。

うれしくてもう一本投稿してしまいました。

「お前らのいうとおりだ。パーっとやるか!」


 シュウは、敵司令官の言ったことを忘れようとするかのように明るく振舞う。


「金貨十枚も稼いだんだ。シュウのオゴリ決定だな!」


「バカ言うな! 『タラシのシュウ』様が男にオゴるかっての! ほれ、女ども! こっち座れ!」


 本気かどうかわからない言葉と共に、シュウはテーブルに席を移した。

 残念そうな、それでも期待しているような表情で剣士A、Bも後に続く。


「ミサ。どうだ? よりを戻すか?」


 シュウに呼ばれた店員の女の子も、きわどい服装の踊り子も金貨十枚という声を聞いていそいそとそのテーブルに集まってくる。

 どうやら過去にシュウと関係があった女の子ばかりらしい。


「お断り! って言いたいケド……今日だけなら……ううん、このマントくれるんなら、ヨリ戻してあげてもいいわよ」


「あ、ずるい! 私だって!」


 シュウの座ったテーブルは女の子で一杯になるが、剣士A、Bは寂しそうであった。


 ここは酒場。

 喧騒は収まるところを知らない。



 ◇◇◇



「すみません。こちらに『シュウ』というお方がいると聞いたんですが……」


 シュウが賑やかにやっているところに、夜の酒場に似つかわしくない、ゆるふわの金髪ロングで小柄な女の子がやってきた。

 商売女とも踊り子とも見えない。白いレースの、肌をあまり出さないデザインの衣装がよほどのお嬢様であることを物語っているようだ。


 ちょうど先ほどまでシュウが座っていたカウンターに近づき、中の店主にシュウの所在を尋ねている。


「なんだい。アンタも騙された口かい。悪いコトは言わねえよ。やめときな」


「いえ……わ、悪いお方なんですか?」


「悪いも何も、タラシだよ、タラシ! アンタも遊びだと思って深入りしないほうがいい。見りゃどこぞのお嬢さんだろ? もう帰りな」


「タラシとは何かわかりませんが……どうしても会わなければ……」


「親切のつもりだったんだけどねえ……ほら、あそこで女に囲まれてるのがそうだよ……」


 お得意さんのはずだが、店主のシュウに対する評価は低いようで、本気で初見の女性客に忠告する。


 だが、その女の子の真剣な眼差しに負け、とうとう教えてしまうのであった。

 店主が指を差した先にはご本尊が玄人の女たちに囲まれて鼻の下を伸ばしている。




「シュウちゃん、何それ?」


 戦争が終わったので、当然チェインメイルなどは着ていない。

 はだけたシャツから例の、敵司令官から預かったペンダントが覗いたのを、女の目が逃さなかったのだ。


「ん? ああ、これは……」


「わっ! すんごい宝石!」


「なに? 似合わな~い。ねえ、ちょうだい?」


 シュウはペンダントを首から外し、改めて見つめる。

 金の台座に無数の宝石で家紋か何かを模ったデザインだ。


 ふと、敵司令官の身に着けていた甲冑に有った紋章も思い出すが、妙な違和感を覚える。


 だが、その違和感も周りの女たちが奪い合うようにシュウに詰め寄ったことで霧散する。


「ダメだ! こりゃ、預かりモンだ」


「預かり物? 誰の?」


「……ああ、そうだったな……」


 証人がいるわけでもないが、シュウは死者の懇願を無下にすることができないようで、売り払ったり女に貢いだりなどは考えていない。


 だが、魔法協会に遺体とともに預けておくのも何か違う気がして勝手に所持しているのだが、敵司令官の遺言どおり妹とやらに返す当てがない。


 どうしたものか、と考えていると、事態は急変する。



「ニイサマ!」


 シュウが女たちの手から取り返し、感傷に浸るように目の前にぶら下げて見ていたちょうどそのとき、店主がシュウを指差していたのだ。


 白レースのお嬢様の目に入ったのは女の集団でも、それに囲まれている女タラシの男の姿でもない。

 シュウの持っていたペンダントだった。


 一声叫ぶとシュウに、正確にはシュウが持つペンダントに駆け寄る。

 シュウが顔の前にぶら下げて見ていたのを引っ手繰るように奪った。


「お、おい……アンタ誰よ……」


 手に持ったペンダントを奪われたものの、どう見ても光物ほしさの行動ではないとわかるその女の子にシュウは呆気に取られる。

 いつもなら口説き文句の一つも出るところなのだろうが、ごく当たり前のセリフに留まってしまった。


「兄様! 本当にお亡くなりになったの!」


 シュウの言葉が通じていないかのように、少女はペンダントに語りかける。


 その内容にハッとしたシュウだった。


「ニイサマ、って、じゃあ、アンタがミーシャ……」


 シュウは敵司令官の臨終の言葉をしっかりと覚えている。


 敵司令官には妹がいて、ペンダントを渡してくれと頼まれたのだ。


 そのミーシャ、シュウが名を呼んだのが聞こえたらしい。キッと目を合わせてくる。


「あ、あなたがシュウさん……」


「ああ……」


「あなたが兄を……」


「ああ。そうだ……」


 シュウは覚悟した。人殺しと罵られることや、引っ叩かれることを。

 何しろ事実なのだから。


「うえ~ん! 兄様、どうして死んじゃったの~」


 ペンダントを持ったまま、まるで子供のように泣き出す少女だった。


 意外な行動に、またしても呆気に取られるシュウだったが、周りの人間にはもっと意味不明である。


「な、なんだ? シュウよう、また女泣かしてんのか?」


「ガキにまで手ぇ出すなよな……」


 この街の常識。というものがあるのだろうか。店にいる常連たちはいつものようにシュウの女癖の悪さを非難し始める。

 さっきまでチヤホヤしていた女たちも、過去の修羅場を思い出したのか、シュウの身体をイヤというほど抓りまくるのだった。


「ま、まて! お、おい。お嬢さん……ミーシャ、いい子だから、泣き止んで……なあ、頼むよ。話だけでも聞いてくれないか?」


 これまでも何度も女の涙を見てきたシュウだったが、今回のは意味が違う。周りの人間にはわからなくともだ。


 慌てて席を立つと、今までにないくらい必死で、精一杯の猫撫で声でミーシャをなだめた。


 その甲斐あってか、ようやくすすり泣きくらいまで落ち着いてくるが、ヒック、ヒックと、しゃくり上げるミーシャは、まだ言葉にならないようである。


「ここ、支払い頼む!」


 シュウはミーシャの手を取って店を出ることに。


「おい! そりゃないぞ!」


 奢ってもらうつもりだった剣士A、Bはシュウの突然の行動についていけなかった。




 店を出たシュウは、どこか静かに話ができるところを探す。


 だが、夜の繁華街のこと、よほど町外れにでも行くか、宿屋の一室でも借りなければそうそう見つからないだろうとはわかっていた。


 大人しく、シュウが意外と思うくらい何の抵抗もなく少女はシュウに従っている。


「ミーシャ……あ、いや、お嬢さん。オレが憎くないのか?」


 静かなところに行ってから、と思っていたシュウだったが、少女の態度が気になり、歩きながら思い切って尋ねてみた。


 無理矢理手を取ったのが逆に彼女を落ち着かせたのか、ミーシャは涙を浮かべながらではあるが、はっきりと答えてくる。


「……憎いです……でも……連絡してくれたし……ニイサマの最期のことも聞きたいし……」


「そうか……わかってる。何もかも教える。あ、そのペンダントはキミに渡してくれって頼まれたんだ……渡せてよかった……」


 ミーシャの反対の手に握られていたペンダントを指差し、シュウはホッとため息をついた。


 シュウの言葉に、ミーシャはそのペンダントを見つめなおす。

 再び涙が溢れ出たようであった。


「ふえ~ん……ニイサマ~」


「な、泣くなよ……ミーシャ、いい子だから……な、そんなんじゃ、ニイサマも悲しむんじゃないか……」


「うわ~ん……ニイサマ~」


 この慰め方は逆効果であったらしく、さらに激しく泣き出すミーシャであった。


 《勘弁してくれ……これじゃ敵討ちにあったほうがマシだ……》


 周りは陽気な歓楽街。

 正反対の精神状態の中、シュウはミーシャを抱えるように歩いていくのだった。





 そのころ、歓楽街とはまったく違う雰囲気の場所、シナト王国王城・サラトナ城内のある部署では夜中だというのに会合が開かれていた。

 皆黒ずくめの異様な集まりである。


「……例の貴族の娘がシナトに入ったそうだな」


 フードで顔も見えないが、テーブルの並び方で代表者と思える人物が物々しく口を開く。


「はい。管理組合からの報告どおりです」


「事情を知らぬはずだが、念のため監視は怠るな」


「はい。すでに監視下にあります」


「それでいい。ようやく確立した体制だ。それを破壊しようとするものは悪だ。よいな」


「はい!」


 代表者の極端な考え方に全員一致で賛同し、会合は終わった。


 一体この連中は何者なのだろうか……


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