表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
グラディウス・サーガ  作者: 一色十郎太
第一章 ジダーン大陸編
29/50

二十九 噛み合わない

2話目です。

 

「シュウ!」


『……大丈夫だ……』


 ハナを抱えたままのサトラ王子が驚愕のあまり叫んだ。思わず駆け寄ろうとする。

 それを、グラディウスを構えたミーシャが、いや、魔王が抑えた。


 見ると、シュウたちは、かなりダメージがあるようだが、身体を起こそうともがいているので、命に別状はないようである。

 どうやら魔王が咄嗟にノリヤドの放出した魔力のエネルギー波を吸収したが、一部間に合わなかったらしい。


「おや、魔王様。またまた魔力を受け取っていただけましたな。いかがですかな? 絞りたての魔力の味は」


 空中に浮かんだまま、ノリヤドはミーシャの中の魔王に語りかける。

 サトラ王子は、聞いているかぎりでは、ノリヤドが魔王に反抗しているようには見えないと感じた。


『……先ほども感じたが、そなた、人間の魔力を取り込んだな……』


「ええ。魔王様のおかげです。下等な人間の世界でしたが、こと魔法研究に関しては我ら魔族より進んでおりますな。それも貧弱な魔力しか持たないためでしょうが、それでも大いにワシの役に立ちました。しかし、魔力を吸収する術は千年も前に失われたので如何ともしがたかったのですが、さすがは大魔王様。実際に見せていただき、目処が立ちました。実験に城の連中の魔力を木偶に吸わせてみましたが、お味は如何でしたかな?」


 ノリヤドは得々と説明する。


 聞いていたサトラ王子たちは先ほどスルナダ城内での怪異な現象を思い出した。

 そういえば城の周りであれだけ派手に攻撃していたジャナ側の人間の魔術士たちもいつの間にか姿を見せなくなっている。おそらく同じように魔力を吸い尽くされたのだろう。


「それでは、父上たちはあなたのせいで!」


「サラ王女!」


 父親の死を目の当たりにして泣き崩れていたサラ王女が立ち上がる。

 しかし、どんなに罵倒してもノリヤドは表情も変えなかった。


「サラ王女。アイツはもう人間のフリは止めたようです。ボクたちのことなど虫けらとしか見ていないのでしょう」


「……なんて傲慢な……ハナさんたちと同じとは思えません!」


 魔族に対するイメージがすっかり変わってしまったサトラ王子たちであったが、元々魔族とはこんなイメージではなかったかという思いが頭をよぎる。


『……オットーが子、ノリヤドよ。何故このようなマネを……』


「何故とは、魔王様もおかしなことを。すべては魔王様復活、そして人間どもを滅ぼし、魔族の世界を打ち立てるためではございませんか!」


 魔王とノリヤドの問答は続く。

 人間たちは、ダメージが残るシュウたちをはじめ、黙って見守るしかなかった。


『……では魔王として命じる。人間たちとの争いは止めるのだ……』


「争い? いいえ。これは魔王様に生贄を捧げているだけにございます。もはや人間などに魔族と戦う力などございません。我らは数を減らしましたが、人間たちには力を失わせてやりました。今では家畜と同じ。簡単に死なぬよう、ここ数十年コントロールに苦心してきた甲斐がありましたぞ。こうして魔王様のためになるのですからな」


 聞いていたサトラは胸が悪くなる思いであった。


 《家畜だって? ゲームのような戦争にそんな意味があったなんて……》


 誰も口にしなかったが、表情を見るかぎり思いは一緒のようである。


 魔王の説得はなおも続いた。


『……我が同胞ノリヤドよ。愚かな考えは捨てるのだ。我は復活したわけではない。魔族は滅びる運命なのだ……』


「ふむ……魔王様はまだ復活なされておられないと……なるほど、道理でご様子がおかしいと思いました。魔力が足りないのですな?」


『……聞くのだ……そなたが見下している人間も、元を辿れば魔族なのだ。殺し合う意味はどこにもない……』


「人間が魔族……そういうこともあるでしょう……ですが、それならそれで、魔族の尊厳を忘れて落ちぶれた連中の成れの果て。我らの糧になるのが救いというものでしょう」


 ノリヤドはあっさりと魔王の説明を理解したようである。だが、一向に魔王の説得には応じる様子がなかった。


 頭の回転が速いのは認めるが、病的なまでに自分の考えに執着している。

 サトラは魔族の長老の話を思い出した。ノリヤドは正常な判断ができなくなっていると。


『……ノリヤドよ。この地上に魔族はもういない……そなたの父も人間として生きることを選んだ。そなたも愚かな考えを捨て、人間として死ぬがよい……』


「……魔王様の復活を信じず、魔族の誇りも捨てた男のことなどどうでもよろしい。魔族ならまだおるではありませぬか。そこに娘が。ご安心ください、魔王様。ワシがその娘に子を生ませ、新たに魔族の世界を作って見せましょう!」


 どこまでも魔族の世界とやらにこだわるノリヤドは、ハナをジッと見つめた。

 サトラは思わずハナを後ろに庇う。


『……その娘も人間にする。そうなればそなたは地上にたった一人の魔族となろう……仮に人間を滅ぼしたところで、魔族の世界などそなた一人の戯言に過ぎぬ。諦めよ……』


「……どうやら魔王様におかれては復活が不十分のご様子。もっと魔力を集めて差し上げますのでお待ちあれ――」


「ざけんじゃねえっ!」


 ついにノリヤドは魔王の意思を理解しなかった。

 もっと多くの人間から魔力を集めると聞いて、シュウが身体のダメージも忘れ立ち上がり、剣を振るう。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ