二十八 見て覚えろ!
2話あります。
予約投稿でこの時間にしてみました。
「兄ちゃん! 大丈夫か!」
「ガウ、ガウ?」
城の大崩壊を空から見ていたハナが、ドラゴンで文字通り飛んできた。ちびを瓦礫の上に降ろし、シュウに飛びつく。
呆然としていたサトラ王子たちだったが、ハナの姿を見て少し落ち着いたようだった。
何が起こったのか同乗者の遠見の術士、ジョナンに聞く。
「ジョナン! 何が起こったのだ!」
「ま、魔導師さまが……」
真っ青な顔でジョナンが答えたのはそれだけであった。震える手で上方を指差す。
一同の予想通り、やってきたのはハナたちだけではなかった。
シュウたちを見下ろすように、黒ずくめの男、ノリヤドが空に浮かんでいる。
「ハハハハ。魔王様、祝いの魔力はどうでしたかな」
「テメエッ! 降りて来い! たたっ斬ってやる!」
不気味に笑うノリヤドに、シュウはミーシャの兄から受け継いだバスタードソードを突きつけ、ありったけの大声で叫ぶのであった。
「……その娘は……ほう、クイナの娘か……」
ノリヤドは、シュウの叫び声など、まるでイヌの遠吠えぐらいにしか感じていないようで、じっとハナのほうを見ている。
「……ちょうどよい。魔王様が復活なされ、魔族も数を増やさねばならぬ。まだ若いようだが、ワシの子を生ませるか……」
「何だと!」
「クイナの娘よ、喜ぶがよい。母親の代わりにお前が役に立つのじゃからな」
「母ちゃん?」
「ハナ! 聞くな!」
魔族の村での惨事をサトラ王子から後になって聞いていたシュウは、剣を捨ててまでしてハナの耳を塞いだ。
「サトラ! ハナを頼む! 師匠! 手ぇ貸してくれ! コイツはぜってえブッ殺す!」
「シュウ! 気をつけろ!」
サトラが駆け寄り、ハナを抱いて後ろに下がった。
同時にヤザン師とクガト師が剣を抜いてシュウの前面に出る。
「やれやれ。年寄りに無理をさせおって……」
「じいさん。俺の息子はバカで世話が焼けるだろ?」
「……ああ。お前にそっくりじゃわい」
さも弟子が可愛いと言わんばかりにベテラン剣士たちは笑っていた。
「くだらねえコト言ってる暇があったら、あのヤロウを叩き落とす算段でもしろ!」
剣を拾い直したシュウが再びノリヤドに剣を向ける。
「やれやれ……孫弟子よ、よく見ておけ。これが本物の斬撃だ!」
クガト師がシュウの体勢が整ったのを確かめて攻撃に移った。
だが、相手は手の届かぬ空の上。
シュウが、クガト師は一体何をするのだと見ていると、クガト師の鋭く振られた剣が空気をも断ち切ったような感じがした。
人間を相手にもしていなかったようなノリヤドであったが、僅かに避ける。
「小賢しい……」
フードの一部が切り裂け、ノリヤドの顔が覗いた。
今更誰も驚かなかったが、さすがは魔族というべきか、若い顔立ちだった。
「じいさん……」
「シュウ! 稽古の続きだ! いいか! 突きはな、こうやるんだ!」
クガト師の攻撃を見て呆然としたシュウにヤザン師が怒鳴りつける。
やや上方に向かって宙を、何もないところを繰り返し突き上げるヤザン師を、普段なら大笑いしているところであったが、シュウは食い入るように見ていた。
離れた空中にいるノリヤドも、煩わしそうに身体を左右に動かす。
次第にノリヤドのローブが切り裂かれていった。
「ま、魔力か……」
魔法の使い方など、これまで縁のなかったシュウだったが、最近肌に感じている。
「そうだ! 魔法じゃねえ! 純粋な魔力を剣に乗せる! 魔法を使えなくても、誰でも持ってる力だ!」
魔族の村でサトラ王子たちが魔王から聞いた話。それを後からシュウも聞いている。
人間は魔族の子孫。
生命の根幹は、誰も気がついていないかもしれないが、魔力そのものなのだ。
「小うるさいハエどもめ」
飛び交う斬撃と突撃の中、ノリヤドは後退することもなく手をシュウたちのほうにかざした。
『……いかん……』
ミーシャの目を通して戦いを見ていた魔王が危険を察知したようだ。
サラ王女を抱きしめていたミーシャを立たせて、戦いの場に近づく。
「貴様らのちっぽけな魔力など要らぬわ。還してくれる!」
「うわーっ!」
ノリヤドが少し手を振っただけでシュウたち3人は吹き飛ばされた。
突風とは違う。
シュウたちの後方にいたサトラ王子たちには何の影響もなかった。シュウたちだけが瓦礫の山に身体を突っ込ませる。
1月18日編集。
ちびのセリフ? 追加。