二十七 スルナダ城崩壊
2話目です。
スルナダ城の城壁にドラゴンブレスで大穴を開け、突入したシュウ一行はサラ王女とミーシャの先導で王族・貴族が集まっているだろう場所に向かった。
「父上!」
幸い攻撃されることはなく、一行は部屋に入った。
城の奥まったところにある、窓のない大部屋。隅に大勢の男たちが固まっている。
サラ王女はジャナ王国国王である自分の父親の姿を認め呼びかけた。
だが、返事は意外なものである。
「ああ! 本当に瓜二つじゃ。魔族の術はおそろしい……」
「父上! 何をおっしゃっているのですか! わたくしは娘のヤシマです! ヤシマ・サラジェーンです!」
「ああ……おそろしや……」
聞く耳も持たないというように、ジャナの国王は臣下たちの後ろに隠れてしまった。
「ち、父上……」
「国王陛下! 私はシナト王国第一王子、ユルハン・サトラ・シナトーラにございます! この度、シナトの魔法協会とジャナの魔術管理組合の責任者が同一人物であり、両国を影から操らんとしてきたことをお知らせに参りました!」
サトラがサラ王女の言葉を引き取り、要点を告げた。
だが、国王はおろか、臣下一同の反応は悪い。
「導師の言われたとおりだ。やはり魔族か……」
「シナトは魔族に支配されたとは本当のことであった。王女殿下の偽者どころか、王子の振りまで……」
「み、みなさん、何を……」
「陛下! 諸卿! 私は北のピエトロ・シンシアです! どうか話を! 我ら領主一同は王女殿下に忠誠を誓い、魔術管理組合に対抗するつもりです! 皆さんも立ち上がるべきです!」
シンシア卿もサトラ王子に負けずとサラ王女の味方をした。
だが、それでも国王たちはその場から動こうともしない。シンシア卿のことまで偽者ではないかと疑っている。
「これは……まさか、魔術による支配……」
『……いや、魔法ではここまで人の意思を操るのはむすかしい……』
サトラ王子の危惧を、心配そうにサラ王女を支えていたミーシャの口を通して魔王が否定した。
『……だが……人の世に長く住み着いたアヤツなら……何か人の心を操る方法を……』
魔王にもわからない、ということがわかっただけである。
サトラ王子たちが手を拱いていると、部屋の奥にある扉が開いた。
「おお! 導師さま! お助けください! 魔族がここまでやってきました!」
シナトの魔法協会の物とは少し違うが、やはり黒ずくめの格好をした人物が入ってくると、国王以下廷臣たちが口々に助けを求めて群がる。
「フフフフ……よく来た。魔王様もご一緒で……」
本物か傀儡の人形かは判断がつかなかったが、ノリヤドは群がった大臣たちを払いのけるようにして前に進み出てきた。
「結局、テメーを倒しゃいいんだろ! オッサン! 吸い取ってやれ!」
『……心得た……』
何事も短絡・即決のシュウが、自分が活躍するなどと見得も張らずに魔王にすべてを丸投げした。
魔王も、人間に指図されることなど気にしていないかのように、ミーシャの身体で前に進み出て魔剣・グラディウスを構える。
「フフフフ。魔王様、ご復活おめでとうございます。これは私からの祝いです――」
『……違う。これも木偶だ……それに、この魔力は……いかん……』
「どうした? あっ!」
魔王が、ミーシャが不意に剣を下ろしたので、シュウは慌ててミーシャの身体を支えようとした。
そのとき、ノリヤドの身体が崩れたのはよいとして、壁際にいたジャナの国王たちまでバタバタと倒れていったのだ。
「父上!」
「陛下!」
サラ王女はその光景を目にして思わず駆け出した。
シンシア卿がそれに続く。
「……これは……ま、魔力が、生命力が吸い取られて……」
そこにいた人たちがすべて人形であったらどれだけホッとしたことだろうか。
だが、人形だったのは魔導師の身体だけであり、サラ王女の父親たちは生身のままであった。しかも、魔力の流れに対して鋭敏になったサラ王女の見立てによると、人間の生命の根幹ともいえる魔力が枯渇しているという。
このままではまもなく全員が死亡するだろう。
「魔王陛下!」
『……都合よくできるがわからぬが……魔力を戻してみよう……』
サラ王女の叫びに魔王が答えた。
再びミーシャがグラディウスを構える。
そのとき、耳を劈くような轟音が聞こえてきた。
『……いかん……』
シュウたちは爆音だけでなく、激しい衝撃に包まれる。
大量の煙、もはや爆煙か土煙かわからなかったが、シュウたちが目を開けたとき、確認できたのは突入メンバーの8人、お互いの姿だけであった。
スルナダ城そのものが吹き飛び、瓦礫の中に8人が浮いているのだ。
『……すまぬ……お主らに障壁を張るのがやっとだった……』
「ち、父上!」
魔法障壁を張ったまま、瓦礫の上に浮遊術で降り立ったあと、魔王はサラ王女に謝罪した。
父親の遺体すら見当たらない状況でサラ王女は泣き叫ぶ。
「さ、サラ様……」
ミーシャは泣き崩れてしまったサラ王女をしっかりと抱きしめた。
「チクショウ!」
生き残った者たちは、何が起こったかわからず呆然としている。
シュウだけが、まだ土煙の晴れない空に向かって吼えるのであった。
読んでくださってありがどうございます。