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グラディウス・サーガ  作者: 一色十郎太
第一章 ジダーン大陸編
25/50

二十五 竜の背中で

2話目です。

 

「アルカーノ閣下。申し訳ありません。お付き合いいただいて」


「なに。顔見知りがいたほうがよろしいでしょうから……」


 シナト王国はサトラ王子を中心に反魔法協会で結束した。

 それを見極めた後、国内の処理は大臣たちに任せて、シュウ一行はノリヤドとの決着をつけるべく再び旅に出る。


 遠見の術士ジョナンに合図を送り、ドラゴンのちびに宮殿上空まで来てもらうと、大臣たちにはわからぬよう浮遊術でドラゴンに飛び乗った。


 行く先はジャナ王国。

 サラ王女とミーシャの故郷である。


「シナトのように、領主たちが味方になってくれるとよいのですが……」


「サラ様……」


 サラ王女とミーシャは最終局面を向かえて心配になる。


「ご心配なく。昨日のシンシア卿は協力すると言っていたではありませんか」


 昨日、サトラ王子はアルカーノ卿が交流を持つというジャナ王国の地方領主に会っていた。


 勿論ハナとちびに頼んでだが、国境を越えてジャナ王国の北側にあるシンシア卿の館に赴き、手に入った数人分の誓約書を見せ、サラ王女とともに説得に当たったのだ。

 アルカーノ卿が友人というだけあって、話のわかるダンディーな領主であったとサトラは楽観視している。


「……ですが、たった一日では……」


 サラ王女の心配は時間の足りなさであった。

 まさかドラゴンでジャナ王国のすべての領地を回るわけにもいかないと、残るすべての地方領主にはシンシア卿が馬で連絡をとることになったのである。近隣ならともかく、ジャナ王国領の西端までは3日や4日はかかるだろう。


「サラ。サトラがああ言ってんだ。心配はいらねえよ」


「は、はい……」


 いつものことだが、気楽なシュウはそう言ってサラ王女を励ましながら、戦いの準備をしている。今回は相手が大剣を持った歩兵部隊や戦車隊ではなく、攻撃魔法を使う魔術師たちであろうからと装備は必要最小限にする。チェインメイルと肩当て、ガントレットぐらいで、重い鎧やヘルメットは用意していないらしい。

 クガト師とヤザン師も似たような装備であった。


 励まされたはしたが、サラ王女は、剣士たちの装備を見て、戦闘が避けられないものだと実感し、不安を振り払えないようである。

 とにかく、サトラ王子たちはジャナでのたった一人の味方を連れに北に向かった。





 短時間でジャナ王国北方の、シンシア卿の領地に到着する。

 交渉時と違っていきなり館の中庭にちびを着陸させたのはやはり焦りもあるのだろう。


 幸い、シンシア卿は敵対行動は取らなかったようだ。


「これはスゴイ……」


「そうやで! ちびはスゴイんや! な、ちび?」


「ガウー、ガウ!」


 魔獣使いの能力を持った子供、ということでハナを紹介し、シンシア卿にドラゴンに乗ってもらった。

 人数の増えた一行であったが、ちびは何の負担とも思わず飛び立つ。


 ちびの背中で早速シンシア卿に状況を聞くも、サラ王女の予想通り何の進展もなかった。


「姫殿下。ご心配なく。我らも管理組合のやり方には常々閉口させられておりました。姫殿下のお声がかりと税の引き下げという好条件を出されてなお、組合に従おうなどという者はおるはずがございません」


 ドラゴンには恐れ入っていたものの、シンシア卿は太鼓判を押す。


「そう言っていただけると……」


「全員分の誓約書はありませんが、私とカイエン卿の妹君、二人の領主が姫殿下の意見を認めたことと、シナトでの出来事を話せば、陛下もきっとおわかりになられることでしょう」


「ありがとうございます。シンシア閣下……」


「オッサン! 近い!」


 ドラゴンの背中が恐ろしいのか、それともシュウと同じく女性と話すときのクセなのか、シンシア卿は言葉をかけるごとにサラ王女に接近しているようであった。

 それでシュウはイライラして二人の顔の間に、鞘に入ったままの剣を差し入れるようにしたのである。


「……姫殿下。何ですか、この無礼な男は」


「シュウさん! すみません、閣下。少し変わったお方なので……」


「おや? この剣は、確かカイエン卿のものでは……」


「へえ~。よく知ってんな。アンタ」


「し、シンシア閣下。これは兄の遺言で……」


 サラ王女の横でハラハラとしながらシュウを見ていたミーシャが口を挟む。


「ああ、そうでしたか……カイエン卿も組合の犠牲者なのでしたね。しかし、惜しい人物を。姫殿下もお辛いでしょう……」


「……いえ、今は泣いている場合ではありませんので……あの……手を……」


 シンシア卿はさりげなくサラ王女の手を取っていた。

 シュウは、シンシア卿を自分の同類だと見なす傍ら、対抗心も湧き上がってくる。


「これから私が姫殿下を支えて参りますので……」


「オッサンの出番はねえよ! 剣を預かったんだから、じゃじゃ馬もオレんだ!」


 シンシア卿がサラ王女の手に口付けをしようとした瞬間、シュウがサラ王女を抱き寄せた。


「ちょっ、シュウさん!」


「キミ! 姫殿下になんてマネを!」


「シュウさん! サラ様から離れてください!」


「おい! シュウ! いい加減にしろよ! 危ないだろ!」


 ジャナ王国の国内の問題だと、なるべく口を挟まなかったサトラが、さすがにシュウともう一人の男に挟まれたサラ王女のことが気になり、サラ王女の争奪戦に加わる。ハナはちびの頭の上で大人たちのやり取りを不思議そうにみていた。


「あ、ありがとうございます……サトラ様……」


 シュウの魔の手から逃れたサラ王女はサトラ王子の胸の中で顔を赤くし、礼を述べるのであった。


 王女争奪戦は最終的に王子サマの勝利に終わったようであったが、巨大なドラゴンの背中とはいっても、さすがにこの人数には狭い。残りの年長者3人は若者たちの遣り取りをすぐそばで、ニヤニヤしながら見ている。




 ちびの飛行能力は凄まじく、若者たちの口論も収まらぬうちにジャナ王国王城に近づいていた。


「危ない!」


 サトラ王子の言葉と似たようなセリフを、シナト王国で降りるのを拒否したばかりに、ここまでつき合わされていた魔法協会の下っ端、ジョナンが叫んだ。


 一瞬王女争奪戦の続きかと思った一行が、そのセリフが本物の緊急事態であることを知ったのは、ドラゴンのちびが急旋回をしたときである。


1月18日編集。

ちびのセリフ? とハナのセリフを追加。

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