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グラディウス・サーガ  作者: 一色十郎太
第一章 ジダーン大陸編
22/50

二十二 味方探し

2話あります。

 

 ドラゴンの『ちび』の背中にはシュウ一行に加え、ヤザン師とクガト師、それにジョナンが乗り込んだ。かなりの重量だが、ちびは平気そうである。

 馬車の荷台を軽々と持ち上げ、ドラゴンは飛び上がった。



 馬車で一昼夜の距離も、ドラゴンにかかってはあっという間だ。日が暮れる少し前に、ヤザン師が指南役を務めていた領主の館に到着する。

 なるべく目立たぬようにと、建物と建物の間に着陸することにしたが、中庭にドラゴンが馬車を抱えて降り立つと、館の警備官たちが恐慌を呈した。


「おいおい! 俺だ! 慌てなくていい!」


「や、ヤザン殿……」


 顔を見知っているヤザン師が声をかけて、やっと騒ぎは静まる。

 そして、連絡を受けた領主・アルカーノ卿も駆けつけた。


「ヤザン殿! 急にいなくなったと思ったら、これは一体何の真似ですか!」


 ヤザン師より少し若いが、精悍な顔つきの貴族である。ドラゴンを前にして怯えることもなく事情の説明を求める。


「ボクが説明します!」


「お、王子殿下!」


 ドラゴンの背中から飛び降りた、庶民のような格好をした少年を、初めはヤザン師の弟子か何かだと思ったアルカーノ卿だったが、その顔に見覚えがあった。すぐに膝を折る。


「アルカーノ卿、緊急事態です。挨拶は無しにしましょう。中で話を聞いてくれますか?」


「はっ。何なりと……し、しかし殿下……こ、このドラゴンは……」


「ああ。おとなしいので問題はありません。それより、話を」


「はっ! おい、準備を!」


 アルカーノ卿の指示で館の家臣がバタバタとし始める。


 館にはサトラ王子、サラ王女、ミーシャ、ヤザン師、クガト師が入り、シュウはハナと一緒に庭に残った。

 遠巻きにしている家臣に頼んで大量のフルーツを持ってきてもらう。


「今日はよく働いたからな。どんどん食え!」


「ガウ! ガウー!」


 ハナと二人で、ドラゴンのちびをもてなす。確かに大いに役に立ったものだ。


 ちびは、草食なのか、それとも好みの問題なのかはわからないが、フルーツを美味そうに食べている。シュウも結構つまみ食いをしていた。


 既にあたりは暗くなっている。ちびは、出された食事をきれいに平らげると、その場で横になるのであった。

 シュウもドラゴンの背中に寝そべるとのんきにいびきをかき始めた。

 取り残されたような気がしたハナであったが、もともとこんなシュウが気に入っていたのだ。シュウに抱きつくようにして眠りについてしまった。


 その不思議な光景を、アルカーノ卿の家臣たちはポカンと見ている。


 そのころ、館の中ではアルカーノ卿が難しい顔をしていた。


「……とても信じられん……が、本当なのでしょうな……魔法協会の幹部も殿下暗殺を自供したことでもあるし……」


 馬車から降ろした魔法協会の職員たちを屋敷内の牢に入れ、尋問した後のことである。


 魔法協会の職員、結構な幹部クラスであったが、この期に及んではと、すべてを白状したようだ。建て前上戦争の管理はしているが、すべては魔導師キクラーの意思一つで動かされているという。職員たちにとってはキクラーの本当の存念まではわからなかったが、二ヶ国を裏から支配することに快感を覚える者もいたし、単に私腹を肥やすことができたので黙って従っていたと証言する者もいた。


 それとなく魔族の話を振ってみたときは反応がなかったので、この職員たちは、あくまでも人間界の政治上の汚職事件で逮捕されたと思っているらしい。


 また、サトラ王子たちのように、このシステムを変えようする人間に対しては抹殺命令が出ていて、ジャナ王国の魔術管理組合と協力してカイエン卿を始末したことも白状する。


 サトラ王子の推理どおりだったこともあり、今更驚きはしなかったものの、やはり真実を知ったミーシャとサラ王女は涙するのであった。


 その後、場所を移し、サトラ王子がアルカーノ卿にこれまでの出来事をすべて話して聞かせたのである。無論、魔族に関しても。


 できればハナや長老たちのことはそっとしておきたかったが、魔法協会の責任者が魔族であることを証明するためにはどうしても必要と判断したのだ。

 それに、ヤザン師がアルカーノ卿の人柄を褒めていることもある。仲間になってもらうためにも隠し事は無しにしたかったようだ。


「それが本当なら恐ろしいことです。今まで、確かに多くの税を集めさせられました。しかし、まるでこちらの内情を知っているかのようにギリギリの額だったのです。領民にも不満はありましたが、暴動を起こすほどではありません。それに、不作の年には、その分は免除されたこともありますので、中央に感謝もしていました。それが、それもこれも、活かさず殺さずで、いつでも破綻させられる状態を維持させていたというのですか!」


「そのとおりです……」


 実は、魔法協会の税制に関しての陰謀についてはハッキリとした証拠はなかったが、サトラは断定する。迷っている暇はないのだ。


「どうだい? アルカーノ閣下。王子に就くかい? それとも……」


「決まっているでしょう!」


 ヤザン師の質問にアルカーノ卿は叫ぶように答えた。

 椅子から立ち上がると、王子のそばに行き、改めて膝を折る。


「……このレギオン・アルカーノ、殿下に従います……」


「ありがとう! さ、お立ちください」


 サトラも椅子から立ち上がり、新たに仲間になってくれた人生の先達に敬意を表して抱え起こす。

 それはサトラ王子の持つ外交技術だったのかもしれないが、非常に効果的であったようで、アルカーノ卿はかなり年下の人間に忠誠を誓うのに抵抗はないようであった。


「アルカーノ閣下のご協力が得られたところで、具体的な作戦を考えましょう。協会の幹部たちが行方不明になったことがわかるまで最大で2日間です。その間に反協会側の勢力を固めなければなりません」


「2日……それはまた、なんとも……」


 忠誠は誓ったばかりだが、絶望的というか、無謀というべきの数字にアルカーノ卿は愕然とした表情を見せた。


 それが極一般的な反応のはずであることはわかっている。

 だが、サトラ王子を始め、ジャナ王国の王女や貴族の息女と名乗る若者たちに苦悩の色が見られなかったことにも驚かされた。


 彼らがこの数日間でどれほど濃密な冒険をしてきたかがわかるようである。


「……ここは黙って殿下たちの指示に従いましょう。そういうことでしょう? ヤザン殿」


「そういうこった。大人はガキのすることをハラハラしながら見守ってりゃいい。余計な真似をして、つまらん人間になっても困るしな。まあ、ほっときすぎて、あんなバカになられてもそれはそれでまずいんだが……」


 アルカーノ卿の達観した意見に半ば賛同したヤザン師は、窓の外を眺めた。


 一同はそれに習う。

 中庭が見えるが、巨大ドラゴンが鎮座しているのが異様な感じである。もっと異様なのは、その巨大ドラゴンの背中に人間の少年少女がのんきに寝ている光景であった。


「……まあ、あのバカは特別だな……」


「何を言っとる。おまえとそっくりだ。親子だのう」


「おい! ジジイ! 言っていいことと悪いことがあるだろうが!」


 クガト師の見立ては的を射ていたようで一同の笑いを誘った。それに、誰も口にはしなかったが、クガト師もヤザン師の師匠だけのことはありますよ、と誰もが思ったため、笑いは更に倍増する。


 突然国家の危機を知らされ、絶望感に浸っていたアルカーノ卿であったが、サトラ王子一行の底抜けの明るさ、前向きさに救われる思いがした。心の底からひとときの笑いを楽しむことにしたようだ。


 笑った後は真面目に対策に取り組む。この辺の切り替えの早さも、このパーティーならではのものとアルカーノ卿は感心する。

 王子の指示に従い、準備を買って出た。


 まずは大量の羊皮紙。

 サトラ王子が原稿を作り、字の達者な者がそれを清書していく。サラ王女とミーシャが名乗りを挙げ、アルカーノ家の書記官たちに混じって書類仕事をこなした。

 最後にサトラ王子、サラ王女、アルカーノ卿が署名をして完成となる。


「……しかし、これは、見ようによっては革命の連名書では……」


 アルカーノ卿が不安を表明したのも当然、サトラ王子が作成したのは、シナト王国の各領主宛ての要請書で、反魔法協会に賛成し、サトラ王子に忠誠を誓えば、今後の中央への納税は40年前の水準に戻すと言う内容であったのだ。


 反魔法協会ということは、すなわち反王国ということにもなり、サトラ王子が盟主の新王国建設と取られる向きがある。


「……国王陛下には申し訳ないと思いますが、もし、今のシナト王国が魔法協会に加担するならば倒すしかありません。いっそ王国を解体して、地方領地には独立してもらおうとも思いましたが、領民の負担は減るかもしれませんが、独立した領主同士で戦争になられても困りますので、シナト王国の制度はそのまま残したほうがいいでしょう」


「親子でそのような……」


 理想には賛同するが、情として忍びないとアルカーノ卿は顔を曇らす。


「ボクだけ、いや、ボクの家族だけ安穏に暮らすなんて、許されることではありません」


 サトラは、庭で、ドラゴンの背でのんきに寝ているシュウとハナを見つめてハッキリと言った。


 その心には、既に両親を失っているシュウとハナだけでなく、兄を失ったミーシャ、婚約者を亡くしたサラ王女、そして、これから息子を亡くそうとしている魔族の長老たちの顔が浮かんでいるようだ。


『……それもこれも、すべては人間の内にある魔族の血がなせることだ。すまぬことだ……』


 サトラ王子の心がわかったのか、突然ミーシャの口を通して魔王が語りかけてきた。


 アルカーノ卿は、話には聞いていたが、実際目の当たりにして呆然とするが、サトラは慣れきったように対応する。


「魔王陛下。ハナさんや長老さまのように心穏やかな魔族もいらっしゃいます。魔王陛下も仲間のために戦い、千年も封印されていたのに人間を恨むこともなく、人間になりたいとおっしゃりました。魔族の血は悪いものではありませんよ」


『……かたじけない……』


「ま、魔王さま、わ、私も、もう怖くありませんから……ビックリはしますけど……」


『……すまぬな、娘よ……』


 この旅で一回りも二回りも強くなったミーシャが、サトラ王子の考えに賛同し、魔王を慰める。


 それでほぼ結論に達した。

 戦うのは、魔族も人間も関係ない。よりよい世界を作るためだ。そうのように一同は改めて心に誓う。


 アルカーノ卿も納得したところで、早速行動に移る。


 シナト王国の地方領は二十にも上る。アルカーノ家の信用できる家臣たちに命じ、夜明けを待たずに緊急の書簡を持たせ出発させた。

 魔法による通信も可能なのだが、それには必ず魔法協会の支部を通さなければならない。反協会についての秘密の文書であるからには馬に頼らざるを得ないのだ。


 返答の期限は2日後の朝。地理的にギリギリである。

 大陸東端はどんな馬車でも時間的に不可能であったので、夜明けと共にハナに頼んで、ドラゴンのちびに飛んでもらうことにしようと、一先ずサトラ王子たちの仕事は終わった。


「サトラ様。ジャナの地方領地ですが……」


 一息ついたところで遅い夕食がサトラ王子たちに振舞われ、その久しぶりに優雅な食卓でサラ王女が新たな問題を突きつけてくる。

 ことは、シナト王国内だけで済む話ではないのだ。


「失念していたワケではありませんが……サラ王女は、ミーシャさんでもいいですが、地方領主のどなたかに、信頼できるお方はおられますか? ボクは、ヤザン先生のとりなしでアルカーノ閣下に賛同していただけましたが……」


 サトラは、方法論としての難しさを危惧しているようだ。


「そ、そうですわね……わたくしも、面識だけならともかく、信頼ということになると、個人的なお付き合いはカイエン家ぐらいしか……」


「私も、両親が亡くなって、領地のことは兄が……本当に私は役立たずで……」


 泣き出しそうになったミーシャを見てサトラは慌てる。


「み、ミーシャさん、泣かないでください。シュウを呼んできましょうか?」


「わ、私、泣きません!」


 シュウがミーシャのなだめ役だと皆に思われているとわかり、逆に恥ずかしくて泣き出しそうなミーシャだったが、顔を真っ赤にして抗議の声を上げるのだった。


 それはそれとして、ジャナ王国側の対策も話し合われる。

 現状、同じように魔術管理組合に対する反対勢力を作らなければ、今度こそジャナ王国とシナト王国の本格的な戦争に発展する可能性もあると考えられる。

 一刻も早い対応が求められるが、仲介者も無しでは難しいと一同は頭を悩ませた。


「ジャナのシンシヤ卿なら交流はありますが……」


 ここでアルカーノ卿から耳寄りな発言があった。


「……しかし、ことは一緒に狩りをしようというように気軽に話せることではありませんからね……」


 大人のアルカーノ卿は慎重である。


「……そうですね……せめてこちらの領主の半数が計画に賛同したという事実があれば、説得は可能かと……」


 やはり待つしかないと結論が出る。

 順調に近隣領主から受諾書が手に入ったならば、一日遅れにはなるが、サラ王女の署名入りの書簡を件のジャナ王国地方領主に渡し、協力を求めようということで本日できることがすべて終了する。


 サトラ王子たちは、シュウを除き、久しぶりで天蓋付きのふかふかのベッドで睡眠を取ることができた。


 明日も書類仕事で多忙になるはずだ。特にサトラ王子にはドラゴンでの旅も待っている。この機会にゆっくり休んでおくに如くはない。

 維新前の静かな夜であった。


1月18日編集。

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