二十 即行動!
あけまして おめでとうございます。
2話あります。
「で? まずはどうすんだ?」
あくまでも作戦はサトラ王子に丸投げのシュウが気楽に聞いた。
「うん……ボクたちだけじゃ、とても魔法協会全員を相手にはできない。なにせ、職員たちは本当の敵というわけじゃないからな。代表者のキクラーが魔族だなんて、言葉だけじゃ誰も信じないだろうし、逆にボクたちが怪しまれて、王宮の兵士まで敵にしてしまうことになるかもだしな……」
「兄ちゃんら! 着いたで!」
シュウたちが会話しているのは、なんとドラゴンの背中の上であった。
ドラゴンを見たいとシュウが言ったのは半分冗談であったのだろうが、ハナは本当にドラゴンをシュウに紹介した。友達だという。何の冗談か、小山のような図体で『ちび』という名前であり、考えようによっては本当に小さかったころからの知り合いなのかもしれない。
それはともかく、魔王が復活し、それは、生き残っていた魔族を人間にするためであったことがわかって、予定とは違った展開になっていたが、魔族の中のいざこざと人間の世界の陰謀とが噛み合ったことも判明する。
シュウたちは、一挙にその問題を片付けるべく人間界に戻ることにした。
そのとき、クガト師の山小屋の地下道は出入り口が塞がっている可能性があると、帰り道の確保に悩むサトラ王子にハナがある提案をする。
ドラゴンに乗って人間界へ行こうと。
これまで蚊帳の外だったせいか、ハナのテンションは高い。子供心に、シュウたちの役に立ちたいと思っているのだろう。
シュウがこともなげに賛成したのは誰も意に介さなかったが、残りの3人は選択に迷う。
ほぼ人跡未踏の北の山岳地帯。来たときはクガト師が使っていた獣道を教えられたとおり辿ったのだから問題なかったが、地下道が使えないとなれば、半分は新しく道を開拓しなければならない。時間がかかる上に、どんな危険があるか分からないのだ。サラ王女やミーシャには辛い道のりになることだろう。
サトラ王子たち3人は諦めた。
「……お、お願いできるかな……」
恐々とドラゴンを見上げながらハナに頼む。
考えてみれば、ハナは今、都にいる謎の魔導師を除けば、最後の魔族なのだ。魔王がハナもいずれ人間にする、と言っているが、それまでは頼もしい存在なのである。
この見るからに恐ろしいドラゴンも、ハナに充分な魔力があるから大人しくしていると考えると、さすがは魔族と思わずにはいられない。
一旦村人たちと集落に戻り、全員と出陣前の挨拶を交わした。
「お若いの。すべては頼んだぞ。人間の世のためにも、ヘタな同情はせんでくれ」
以前とは違い、親しげにしてくる村人たちだったが、やはり長老が代表してサトラ王子に念を押す。ハナの手前、詳しいことは改めて言わなかったものの、サトラ王子とサラ王女にはハッキリと意思が伝わった。
「……はい……それが、皆さんの決めたことなら……」
損な役回りだと思う。だが、とサトラは、自分の立場を顧みて決心したようだ。
これから自分がすることは誰のせいにすることもできない。一生悩み続けることになるかもしれないが、人間世界の崩壊を黙って見過ごしてしまったなら、もっと後悔するだろうと。
シュウとハナには、まだ何のことかわからなかったが、二人は元気にドラゴンの背中に、数人が座れるように板を括り付けていた。
そして出発の時。
ハナは、馬車の御者よろしくドラゴンの頭に座り、角をしっかりと握る。背中には4人の若者がお互い滑り落ちないように固まって座った。
「ちび、行くで!」
「ガウ!」
ハナの合図と共にドラゴンの『ちび』は羽ばたく。
あっという間に、手を振って見送る村人たちの姿が小さくなった。シュウを除く3人はあまりのスピードにそんなことは気にしていられなかったが。
さすがにドラゴンは早い。魔族の隠れ里を飛び立ってまもなく、クガト師の山小屋、今は爆発の後が黒々と残る丘陵が見えてきた。
ドラゴンに乗ったまま人間の街に下りるわけにもいかないと、常識的に考えたサトラ王子の意見に従って、まずはヤザン師たちの安否を確認しに行く。
運がよければ、置きっぱなしの馬車がまだあるかもしれない。
「キャーッ!」
ハナの指示で急降下したドラゴンの背で、ミーシャがシュウにしがみつく。
ミーシャは、サラ王女もだが、衣装を人間界の、もとの服に着替え、なおかつ、村で調達した皮の鞘に『勇者の魔剣』を収め背中に担いでいた。魔王の指示だったのは言うまでもないが、実に違和感を感じる姿である。
「ほら、もう大丈夫だ」
シュウに言われてミーシャが目を開けると、ドラゴンは既に地上に降りていた。
「……降りてみよう……」
ドラゴンの背中から様子を伺っていたサトラは、特にめぼしい発見もなかったので、直に爆発跡を調べようとする。
ハナの指示で『伏せ』をしたドラゴンの背はそれでもなお高く、ミーシャとサラ王女は乗るときと同じ苦労をする。
先に飛び降りたシュウが、ミーシャを下で受け止めようと腕を差し出すポーズをとった。
「シュウさん、ちゃんと受け止めてくださいね……」
「大丈夫だ。早く来い……ん?」
ミーシャはサトラ王子に補助されドラゴンの背中の板に後ろ向きぶら下がり、後は、思い切って手を離すだけであった。
だが、ロマンチックに抱きかかえてくれるハズのシュウが突然後ろを振り向く。
ワケわからないまま、ミーシャは地面に着地し、その勢いのまま尻餅をつくことになった。
「いた~い! もう! シュウさんのイジワル!」
こんな場合は泣かないようだ。
「なあ、浮遊術でも使えばええんやないか?」
「まあ、ハナさん。それを早くおっしゃってくださいな。ミーシャ、今使いますからね」
「……もう遅いです~~」
「シッ! 誰か来る!」
シュウがミーシャに酷いことをしたのは、冗談からでも、好きな女の子にイジワルがしたかったからでもなかった。
シュウたちも通ってきた獣道、あの夜は風がなかったのか、延焼しなかった森の出入り口方面に目を向ける。ドラゴンも首を回した。
「ど、ドラゴンだ! あっ! 王子じゃないか、あれ」
「ま、間違いない! 生きていた! 導師様に連絡しなければ!」
黒ずくめの数人が森から姿を現し、まず巨大なドラゴンに驚いたのは当然としても、その後聞き捨てならない発言をする。
「協会の連中だ! シュウ! 捕まえてくれ!」
未だドラゴンの背の上のサトラが叫ぶ。
そのときシュウは既に風のように駆け出していた。
「ちび! やっつけるんや!」
「ガウ!」
シュウとサトラ王子が慌てた様子を見せたので、緊急事態と思ったのか、ハナもドラゴンに攻撃命令を出す。『ちび』というネーミングにはやはり違和感があったが。
ハナの意思が伝わったドラゴンのちびは、ちょうど顔を向けていたこともあり、そのまま口を大きく開け息を吐き出す。いわゆるドラゴンブレス、大量の火炎が黒ずくめの連中に向かって浴びせられた。
魔法協会のメンバーも火炎術でシュウたちを攻撃していたのだが、そんな小さな火の玉も一緒に飲み込まれてしまう。
計算違いだったのは、シュウもその射線上にいたこと。
当然巻き添えを喰った。
「……ち、ちび……なんてことしやがる……」
「ガウー?」
カッコよく剣士として敵を仕留めようと飛び出したものの、この結末はいささか情けない。まあ、口が聞けただけ大したものだが。
「ハナさん! このままじゃ大火事になる! 氷系の魔法は使えませんか!」
「サトラ様! わたくしが! ハナさん! ちびさんを森の上に!」
「ちび! 行くで!」
「ガウ!」
目的は魔術協会の撲滅であり、森林破壊などするつもりもなかったサトラは慌てる。
ドラゴンは再び舞い上がった。
サラ王女がこの旅でレベルアップした魔法を使う。呪文を唱えると眼下の森、炎に包まれていた部分があっという間に凍りつくのであった。
「す、スゴイ……すごいです! サラ王女!」
「い、いやですわ。そんなに褒められると、わたくし……」
空中で頬を赤らめるサラ王女であったが、地上では黒コゲになった上、氷付けにされたシュウが声すら上げられずに悶絶している。普通なら二度死んでいるところだ。
「いやーっ!」
忘れられていたのはシュウだけではなかった。
尻餅をついたままの状態でミーシャが焼け野原に取り残されていたのである。
そこに、おそらく森の別の箇所から出てきたのだろう、魔法協会のメンバーが二人駆け寄っていたのだ。
巨大ドラゴンを相手にはできないと、ミーシャを人質にでもするつもりのようで、攻撃はせずに両腕を捕まえ立たせようとしている。
「立て!」
「いやっ! シュウさん!」
「カイエン家の小娘だな。何を企んでいる」
『……無礼者。我を誰だと心得る……』
「なに?」
魔法協会のメンバーも驚いただろう。こんなかわいらしい女の子の口から野太い声で、時代錯誤的な発言が聞こえてきたのだから。
彼らの驚きも長いことではなかった。
魔王モードとなったミーシャは両手から衝撃波を二人の身体にぶつける。単純な魔力の放出であったが、充分な攻撃力があり、二人はその場で伸びてしまった。
「ふえ~~ん、魔王さま~~。勝手に人の身体使わないでください~~」
『……非常事態だ……』
「ミーシャ! 大丈夫ですか!」
「サラさま~~、大丈夫みたいです~~」
シュウは放って置かれたが、親友の危機には駆けつけるサラ王女であった。今度こそ浮遊術を使い、ドラゴンの背からサトラ王子と共に飛び降りる。
1月18日改変。
ちびのセリフ? 追加。