十七 王城では
3話あります。
この17話は閑話的なもので短いです。
「ユルハンの行方はまだわからんのか!」
「はっ……王家の馬車と馬を買い取った博労は見つかりましたが、その者によりますと、馬車を持ち込んだ人物は馬車を替えて何処かに旅立ったそうです。同行者は女性2名、剣士1名。なお、全員が庶民の服装だったそうですが、風体からもう一人の剣士風の男性が王子殿下ではないかと思われます。どうやら剣術指南役、ヤザン師の子息が絡んでいるものと。であれば、いつものお忍びではないでしょうか」
「……シュウか……それにしても、もう何日になる!」
「はっ……それは……」
ここはシナト王国サラトナ城。
国王執務室では、サトラ王子の父親、シナトの王様が廷臣を相手に当たり散らしている。
サラ王女がミーシャと共にシナト王国に入国したのはシュウの手引きで極秘であったが、その日からサトラ王子は行方不明ということになっていた。
王子が時々シュウと一緒に城を抜け出していることを知っている国王や廷臣たちは、初めのうちは、また悪い病気が出たのだと苦笑いであったが、さすがに2日経過したところで何の連絡もないことに焦り始めたらしい。
調査に当たった部下の報告に有用な情報はなく、発端はいつものお忍びだとしても数日経過している現在、更に焦りを募らせているのであった。
「導師を呼べ!」
「え? 魔法協会でございますか? 一体……」
「魔法ででも何でもよい! ユルハンの無事を確かめるのだ!」
「……は……」
国王より年配の、家老か大臣と思われる廷臣は、どう考えても畑違いの人選に異議がありそうであったが、乱心気味とはいうものの、国王の命には逆らえず、また、王子のことが心配なのは同じ気持ちであったわけなので、藁にもすがる気持ちで魔法協会本部に向かうのであった。
「陛下。お連れしました」
しばらく後家老が目当ての人物と共に国王執務室に戻ってくる。
黒ずくめでフードを被ったままだが、何か暗黙の了解でもあるのか国王も家老も礼儀上の文句はない。ただ、見るからに豪華絢爛な部屋の雰囲気に恐ろしいほどの違和感を与える格好であった。
「話はお聞きいたしました……」
魔法協会の代表は、協会本部での部下との遣り取りとは違って、国王に対する言葉遣いだけはまともなようである。
「……ですが、魔法が万能と思われても困惑いたします。できることと、できぬことがありますから……」
「導師よ! そこを何とか! 導師の力でユルハンを探し出してくれ! 無事さえわかればそれでよい!」
体よく断られた国王だが、大事な跡取り息子のことゆえ、そう簡単には引き下がれない。
頭を下げんばかりに頼み込む。
「……わかりました。他ならぬ王子殿下のため……幸い戦さが終わったばかりですし、腕利きの監視役も手が空いておりましょう。できるだけ捜索をしてみます」
魔法協会代表は、あくまでも国王に従順に振舞った。
一度断る態度といい、人に恩を売る術を、ツボを心得ている。
「おお! やってくれるか! 頼むぞ!」
国王は大喜びである。
家老は何か苦虫を噛んだような表情であった。
「では、私はこれで……さっそく手配を……」
家老の態度など気にも留めぬかのように、ついにフードを取ることもなく魔法協会代表者は国王執務室を出て行った。
「……陛下。あのような思い上がった男、本当に信用できるのでしょうか……」
戦争の管理という大きな仕事を魔法協会に牛耳られているため、身分としては高位なものの、どうにも頭が上がらない相手である。
家老は日頃の鬱憤と共に国王にそれとなく確かめてみた。
「何を申す! お前たちがユルハンを見つけていれば済んだ話ではないか!」
「は……」
もっともな答えに、反論もできない家老である。
「……ふん……思い上がっておるのはどちらじゃ……汚らわしい人間どもめ……ガキが死んだとも知らずに、いい気味じゃ……」
執務室の外に出た魔法協会代表者も、一人毒づいていた。魔法で室内の話を聞いていたかと思われる。
代表者はすぐに協会本部に戻り、部下を招集した。
「その後連絡はあったか?」
「はい。監視チームの生き残りから、今日も王子一行は馬車が置いてあるところには一人も現れていないそうです」
「そうか……やはり死んだか……だが、死体を見るまでは安心できん。お前たち、すぐに発て。その目で王子たちの屍を確かめてくるのだ!」
「は……しかし、報告では、かなりの爆発だったと……」
どうやら、クガト師の山小屋が爆発したとき、巻き込まれなかった監視員がいたらしく、すでに魔法協会の知るところとなっていた。
だが、地下道のことまではわからず、生きていれば馬車に戻ってくるだろうと、未だに山小屋付近を監視しているらしい。
「人数分の死体を確認すればいい! さっさと行かんか!」
「はいっ!」
協会の職員たち、幹部連中だろうが、部屋にいた数人が代表者の怒りを恐れ、バタバタと出て行く。
「……まったく使えんやつらだ。自爆などに巻き込まれおってからに……これだから人間を野放しにはできん……」
部下たちが全員いなくなったところで独りごちる代表者であった。
先ほどといい、今のといい、内容が気になるところであるが、独り言と自覚しているのであろう。今は誰も気にするものはいない。




