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グラディウス・サーガ  作者: 一色十郎太
第一章 ジダーン大陸編
13/50

十三 解くべきか解かざるべきか、それが問題だ。

2話あります。

2話目は短めですが。

 

 人魔戦争。


 伝説として長きに渡り語り継がれる人間と魔族の大戦さは、その火種は更に昔からくすぶっていたのであった。

 この大陸に住む二種類の種族。人間と魔族は人口が少ないころはそれなりにバランスが取れていたものである。


 だが、短命の人間族がその数を増やすと共に生活圏を広げていく。

 そこに長命で魔力の強い魔族とのいざこざも増え始めた。


 千年ほど前、人間の圧倒的な数の前に同族の将来を憂えた魔族の若者がいた。彼は歴代の魔族指導者の中でも飛び切りの魔力を持つ人物である。

 魔族は彼の下に集い、ついに人類との最終決戦が始まったのだ。


 その戦いは、人間にとっては気の遠くなるような長く辛いものだった。数で勝っていた人間側も、次第に、強大な魔力によって押され気味になる。

 だが、その時間が、短命なだけに成長も早い人類を進歩させる。

 人間側は、微力な魔力を蓄積する方法を編み出し、また、長年の戦争の中で生まれた、生粋の戦士が育ちつつあった。


 人類の期待を一身に集めた一人の人間、後世、勇者と称えられる若者が、これもまた人類のすべての魔力を込めた、人類の叡智を結集した魔法剣を携え魔王に立ち向かう。

 結果、魔王は倒され、大陸は人類のものとなったのだ。




「……魔王様が倒された。そう伝わっておるのじゃろう?」


「は、はい」


 魔族側からの昔話は、人類であるサトラ王子に微妙なわだかまりを残す。これまで一方的に魔族を悪と決め付けてきた常識が揺れはじめた。

 だが、あくまでも昔話である。若者は未来を見なければならないのだ。


 サトラはそう考え、長老の話の続きを待つ。


「では、勇者はその後どうなったかの?」


「そ、それは……」


 人間側の伝説、御伽噺は、そこでメデタシ、メデタシで終わっているのだ。勇者の後日譚など聞いたこともなかった。


「あ、相打ちですか?」


「そうともいえる」


「そうとも、とは?」


 サトラは長老の言い方が引っかかる。


「人間の勇者は、魔王様を倒したわけではない」


「えっ!」


 人間側にとって新たな事実に人間の若者たちは、今度はシュウも含めて、心底驚いた。

 なにしろ、人魔戦争の生き残りから直接話を聞いたというのだ。故意にウソをでっち上げていない限り、信憑性は充分にある。


 長老は驚嘆する若者たちをよそに話を続けた。


「その勇者は、魔王様を倒すのを不可能と判断したのか、残った魔力と己の命を懸けて、自分ごと魔王様を封印したのじゃ」


「ふ、封印……」


 魔術を戦争に利用することが禁じられてだいぶ経っている。サトラは封印がどのような魔法か理解が及ばなかったものの、魔王が死んでいなかったのであれば、復活もありえないことではないと考える。


「ちょ、ちょっと待ってください!」


 サトラはここで事態を整理しようとした。


 ここに来て魔族に出会ったのはクガト師の勧めであったが、そもそもサトラ王子たちが探ろうとしていたことと直接関係があるとは思われない。

 シュウが命を奪ってしまったミーシャの兄、カイエン卿の遺志に基づき、くだらぬ人間同士の戦争を停めようとして行動していたのである。


 やっと魔法協会などが黒幕として顔を出し始めたのだが、未だに彼らの真意がわからない。

 一体何故、両国の国力、戦力を無駄に消耗させるような真似をしているのか。単なる権力亡者が私腹を肥やしているだけなのかすら判断がつかない。

 軍事力の増強自体は正しいことだが、それも適切に行われていればこそだ。シナト王国とジャナ王国が形だけとはいえ争う理由はどこにもない。


 数日サラ王女やミーシャと行動を共にしたサトラは切実にそう感じた。

 では、どうやって両国の、伝統ともいえる戦争を停めたらいいのだろうか。

 振り出しに戻ってしまう。

 やはり、魔術協会の真意がわからなければ始まらないのだ。


「封印か。面白そうだな。解いちまうか」


「は? 何を言ってるんだ!」


 サトラ王子が頭を抱えているときに、シュウがのんきな声で、物騒なことを言い出す。

 サトラは、サラ王女も、ミーシャも弾かれたようにシュウに目を向けた。


「なにって、魔王が生きてんだろ? 会ってみてーじゃねえか」


「バカ! 魔王なんだよ! また人魔戦争が起こるかも知れないんだぞ!」


「そうですわ、シュウさん! まったく、アナタという人は……」


 サラ王女は呆れ顔である。


「だってよう、どうせいつかは復活するんだろ? だったら、さっさと復活させちまえばいいじゃねえか。そしたらグダグダ悩まなくても済むだろうがよ」


「グダグダって……シュウ! ボクはボクなりに考えてるんだ!」


「……サトラ様、お待ちください」


 ハッとしたような顔でサラ王女が声をかける。


「さ、サラ王女?」


「それしかないのかもしれません」


「あ、アナタまで何をおっしゃるのですか!」


「さ、サラ様……」


 たった今シュウを諌めたばかりだというのに、サラ王女は180度意見を変えてきた。

 サトラもミーシャも怪訝な表情になる。


 サラ王女は、シュウの肩を持ったわけではないのだろうが、その思うところを述べるのであった。


「確かに、恐ろしいこととは思いますが、魔族の中で復活が語られているのなら、それが真実なのかもしれません。ここで戦々恐々としているよりは、むしろそれを利用できないでしょうか?」


「り、利用?」


「ええ、そうです。ヤザン殿やクガト殿の話では、もともとは魔族の侵攻に対して両国とも軍事訓練のために戦争を繰り返していたとのこと。人間にとっては長すぎる時間がそれを形骸化させたのだとしたら、もう一度本来の目的を思い出させることができるかもしれません」


「仮想敵国を作る。そうおっしゃるのですか?」


「ええ。その通りです」


「しかし……」


 サラ王女の意見を聞いたサトラは、これまで人間の若者の討論を興味深そうに聞いていた魔族の長老に目を向けた。


「それはこの方たちを敵とすることです。魔王はともかく、サラ王女に長老様や、あのハナという少女と戦う覚悟はお有りですか?」


「そ、それは……」


「ホッホッホッホ」


 人間の若者が一斉に目を向ける。

 長老は、サトラ王子の心配する理由と、若者たちの表情に満足気な笑いで応えた。


「……長老様、アナタ様は人間が憎くはないのですか?」


 サラ王女が長老に、サトラ王子の質問に答える前に、魔族と人間の関係を根本から改める必要が出てきそうな質問を投げかける。

 サラ王女たちには、長老の答えが何となくわかっていた。でなければ今ここにこうして五体満足でいられる理由が見つからない。


「……メシの最中にトカゲの話をしたが、ヤツラはワシらの畑を荒らす困りモンじゃ。ワシらはワシらの生活を守るためにトカゲを捕まえる。特にトカゲが憎いわけではない」


「やはり……」


「おいサトラ。なんのこった?」


 シュウは、納得している表情をした仲間たちの顔を見回しながら、女の子を口説くときと戦いのとき以外は頭の回転が鈍いということを証明するが如き質問をした。


 シュウの性格をよ~く知っているサトラが、シュウのためだけというわけではないのだろう、自分にもハッキリ言い聞かせるように解説する。


「……つまりだな、長老様たちは、人間たちがこの村を襲ったりしなければ、あえて人間側と戦おうなんて思っていない、ということを言いたいんだと思う」


 千年前の人魔戦争のときも同じだったのかもしれないと、この若き王子は考えた。

 人間側の伝説では、魔族という名前のイメージどおり残虐な侵略者として言い伝えられているが、本当は人間側の迫害に抵抗しただけなのかもしれないと。


「そういうことなら、ますます会ってみてえな……」


 シュウはサトラ王子の解説を聞くと、スッと立ち上がった。


「シュウ? 何するつもりだ?」


「おい、じいさん。封印ってのはどこにあるんだ?」


「それを聞いてどうなさる」


「決まってんだろ! 解きに行くんだよ!」


「なにっ! おい、シュウ! 冗談はよせ!」


 サトラも立ち上がり、シュウの腕を捕まえる。


「魔族に戦意はねえ、お前が言ったんだろ。じいさん、教えてくれよ」


 シュウはサトラ王子を振り払い、長老に詰め寄った。


 サトラはなおも食い下がる。


「バカなことを言うな! 長老様たち、ここにいる魔族のヒトたちはそうかもしれないが、相手は魔王なんだぞ。それに、封印されたときと同じ精神状態だったら、人魔戦争がまだ続いてると思っていきなり襲い掛かってくるかもしれないじゃないか!」


「そんなの、会ってみなけりゃわかんねえだろうが!」


 正論だが、サトラ王子の不安は募るばかりであった。


「ホッホッホ。教えるのはよいが、もう夜もふけた。明日にせぬか?」


「たっぷり寝たおかげで眠かねえよ。それより、オレは気になることはサッサと片付けてぇタチなんだよ」


 このシュウの発言には、サトラも思うところがあった。

 ミーシャに出会ってから数日。方針を決めるのはともかく、行動の速さは、すべてシュウが皆を引っ張ってきたからなのだ。

 おかげでこんな短期間に恐ろしいほどの進展があった。


 だが、行動力は認めても、裏返せば無謀ということになりかねない。友人であるサトラ王子はそこが心配なのだ。


「シュウさん……」


 いつの間にか立ち上がっていたサラ王女がシュウの前に歩み寄る。


「あ? なんだ?」


「お眠りなさい」


「だから、眠くなんて―ー」


 サラ王女が手をかざすと、シュウはその場に崩れ落ちる。


「シュウ? サラ王女、これは……催眠魔法ですか?」


「……練習はしたことはありますが、実際に使うのは初めてです。こんなにうまくいくとは……」


「ホッホッホ。この辺りは魔素が、魔力を含んだ空気が濃いからのう。人間でもかなりの魔法が使えるはずじゃ。さて……ワシはそろそろ休ませてもらおうかの」


 引っくり返ったシュウと入れ替わるように長老が立ち上がった。


「あ、遅くまでありがとうざいました」


「いや、なに。ワシこそ久しぶりに若いモンの話を聞けてよかったぞい」


 サトラは、魔族の言う『久しぶり』とは一体どれほどの時間か考えも及ばなかったが、素直に受け取る。


「よかったら、お前さんらにも催眠魔法をかけてやろうか。起きたばかりで眠れやせんじゃろうから」


「いえ。お気持ちだけで。それに、ボクはもう少し考えてみたいこともあるので……」


「そうか、そうじゃろな……明日は、そこのせっかちモンの希望通り魔王様の封印の在り処を教えてやろう。どうするかよく考えておくことじゃな」


 長老はサトラ王子たちに重大な予告をし、部屋の奥にある階段を上っていった。二階、或いは屋根裏が寝室なのであろう。

 残された3人は、催眠魔法で眠りこけているシュウを囲むように座りなおした。


「ど、どうするのですか? 姫様……」


「ミーシャ……」


 ミーシャが心配そうに聞いたが、サラ王女もサトラ王子も答えはない。

 魔族の村での第一夜はこうして更けていった。








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